燃えるような愛を

皐月もも

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1巻

1-3

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「素晴らしいわね。フローラ、ぜひ貴女あなたをこの城のピアニストとして迎えたいわ」
「あぁ。フローラ、宮廷ピアニストのオファー、受けてくれるね?」

 レーネとバルトルトは手を叩き、とても嬉しそうに笑っている。フローラは、自分の演奏が気に入ってもらえたことに喜びを覚えた。ピアニストとして、聴く人の笑顔は更なる原動力になる。
 だが、田舎いなかから出てきた小娘よりも経験が豊富で、もっと華麗なパフォーマンスができる演奏者はたくさんいるはずだ。フローラには荷が重い。

「あの、そのことについては――」

 フローラが辞退するよりも早く、ヴォルフが口を挟む。

「もうすべての手配は済んでいる。父上、フローラには二階の特別室を使わせます。よろしいですね?」

 フローラには特別室がどんなものなのかはわからないが、とにかくその名の通り、自分にはもったいない部屋なのだという予想はついた。第一、フローラはまだ宮廷ピアニストを引き受けるとは言っていない。

「待っ――」
「それから」

 フローラが慌てて立ち上がりヴォルフを止めようとすると、彼はそれをさえぎって彼女の肩を引き寄せた。

「俺は、フローラ・ハルツェンを婚約者にすると決めました」

 言いたいことを言い終えたヴォルフは、またフローラの手を引いて、謁見えっけんの間の出口へ歩き始めた。
 よろけたフローラは、おたおたとヴォルフを追いかける。自分の話を聞いてくれない王子に何と声を掛けたらいいのか、どう説得したら聞き入れてもらえるのか、全くわからない。
 それに、いくらピアノの腕を認めてくれたからといって、庶民の娘を婚約者にするなど、国王も王妃も許すはずがないではないか。
 そう考えたフローラは、一生懸命足を動かしながらレーネとバルトルトの方を振り返った。ヴォルフの両親である国王と王妃ならば、彼を説得できるだろう。

「ヴォルフ、待ちなさい」

 嘆息してヴォルフを呼び止めたバルトルトに、フローラはホッと胸をで下ろした。ヴォルフは足を止め、気だるそうに両親の方へ向き直る。

「私はまだ、フローラが宮廷ピアニストとしてこの城に残ってくれるかどうかの返事も聞いていない」

 しかし、ヴォルフは父の言葉を気にした様子もなく口を開く。

「フローラの勤め先には退職の話を通してある。アパートメントも引き払った。城に残らざるを得ない。イェニーがすぐに荷物を持ってくる」

 先ほどまで、ヴォルフは国王に丁寧な言葉遣いをしていたが、今は完全にカジュアルな話し方だ。フローラは王族のしきたりなど知らないものの、もう少し態度を改めたほうがいいのではないかと感じてしまう。

「お前はまたイェニーを困らせたな。しかも、フローラの職を勝手にうばったなど……」

 バルトルトは首を横に振って目頭を押さえる。レーネは「まったく」となげくように言い、フローラへ視線を向けた。

「ごめんなさい、フローラ。けれど、貴女あなたの待遇は保障するわ。ぜひ、引き受けてくれないかしら? 貴女の演奏をとても気に入ったの」

 王妃に謝罪され、更に宮廷ピアニストの職を引き受けて欲しいと言われ、フローラは言葉に詰まる。
 宮廷ピアニストという職は、非常に名誉めいよなことだ。それは理解しているし、ここまで自分を気に入ってくれているらしい国王と王妃の申し出を断り続けるなんて、フローラにはできない。

「わかりました……ですが――」
「これで問題ないだろ」

 もう何度目だろう。フローラの言葉を最後まで聞かないまま、ヴォルフは彼女の手を引く。

「ヴォルフ! 婚約の件も、フローラの返事を――」
「わかっている!」
「全然わかっていないわよ」

 ヴォルフが再びフローラの手を取って歩き出すのと同時に、謁見えっけんの間の扉が開く。
 入ってきたのは、三人の女性だ。先頭を歩く女性は、ヴォルフの前で立ち止まり、人差し指で彼の胸をつついた。

「女性の扱いがなっていないわね? ヴォルフ」

 厳しい声色で言い、その女性はフローラの手を掴んでいるヴォルフの手に視線を落とした。すると、彼は大きくため息をついて手を放す。

「まったく……ごめんなさいね。フローラ」
「あ……いえ」

 すんなりと言うことを聞いたヴォルフに驚き、フローラはまじまじと女性の顔を見つめた。それに気づいた彼女は上品に微笑み、ドレスのスカートの裾をつまんで一礼する。

「ソフィー・ブレネン。フラメ王国第一王女、ヴォルフの姉よ」
「フ、フローラ・ハルツェンと申します」

 王女に先に名乗らせてしまい、フローラは慌てて頭を下げた。

「そんなに緊張しないで。頭を上げて」

 優しく促され、フローラは顔を上げる。
 ソフィーは、ヴォルフに似た輪郭りんかくと目元をしている。だが、彼よりも茶色に近い色合いの髪と瞳は柔らかい印象を与えた。先ほどのヴォルフとのやりとりからすると、彼女の方が少々強い立場にあるようだ。

「右から第二王女マリー、第三王女ハンナよ」

 ソフィーは上品な動きで、後ろにいたもう二人を紹介してくれた。

「女ばっかりでしょ? ブレネン家の血筋は女子が産まれやすいみたいなの。私にも娘がいるわ。一応、代々の王妃は男子が産まれるまで出産しているのだけど……あぁ、私たちの代の場合、ハンナはパパとママが仲良しの証拠ね」

 そうおどけて言うのは第二王女のマリーだ。長い赤髪を結い上げた、すらりと背の高い女性である。

「マリー」

 バルトルトが咳払いをすると、マリーは舌を出してみせた。こういった仕草のためか、もしくは快活かいかつな雰囲気のためか、娘がいるとは思えないくらい若く見える。

「とにかく……ヴォルフ、お前がフローラを気に入ったことはわかった」
「説得は俺がする」

 バルトルトは話を戻し、ヴォルフに視線を向ける。息子の返答に、レーネが大きなため息を響かせた。

貴方あなたの説得は説得じゃないわ。さっきも無理やりフローラを引っ張って行こうとして。怖かったでしょう?」
「い、いえ……」

 レーネの申し訳なさそうな視線を受けて、フローラはぎこちなく微笑んだ。

「説得ってことは、まだフローラが納得してないってことでしょ? フローラは、ヴォルフ兄様と結婚したいの?」

 ハンナが軽い口調で言いながら、フローラに向かって首を傾げた。こげ茶色の髪に赤でメッシュを入れた彼女は、一番親しみやすそうに見える。

「わ、私、そんな……結婚なんてできません。私は庶民です。本来なら、ここにいることもおかし――」
「身分は関係ない!」

 ヴォルフはフローラの言葉をさえぎり、彼女の肩を掴んで向き直らせる。フローラはビクッと目をつむり、顔をかばうように両手をかざした。
 ――こんなのは悪い冗談だ。
 王子がピアノ講師を見初みそめるなんて、からかわれているだけに違いない。暇潰しで振り回されたくないし、フローラは王子様との恋を夢見る年頃でもない。
 彼女は現実を知っている。フローラの気持ちは……もう、恋や愛では燃えない。

「ヴォルフ、フローラが怖がっているわ。放しなさい」

 ソフィーにさとされ、ヴォルフは舌打ちをしてフローラの肩から手を放した。フローラは震えつつ自分の足元に視線を落とす。

「フローラ」
「は、い……」

 バルトルトに呼ばれて、フローラはゆっくりと顔を上げて玉座へ身体を向けた。

「もちろん君の意思は尊重する。だが、身分について、私たちはあまり気にしていない。君のご家庭は純粋な炎属性だとイェニーから聞いているから、尚更だ」

 炎属性はフラメ王国特有の性質である。フラメ王国がある大陸には、他に三つの国が存在し、それぞれの国民は水属性、風属性、光属性を持つ。
 王家の義務として、正統な炎属性の血を伝えるということがある。そのため、嫡子の結婚相手には炎属性が求められるのだ。

「シュトルツ教は炎属性に関して選民思想を持っているわ。けれど、身分についての規律はないでしょう? 穏健派がヴォルフと貴女あなたの結婚に反対するとしたら、それは政治的な理由からなの」

 シュトルツ教において炎属性は皆平等だ。レーネの言うように、身分自体を問題にするのは教えに反する。つまり、シュトルツ信仰者の集まりである穏健派が、もしフローラとヴォルフの婚約に反対するのなら、その理由は強硬派との対立――王家とのつながりを作り、議会で有利な立場を手に入れたいからということになる。

「もっとも、穏健派から婚約者を出したとしても……我々は議会で贔屓ひいきをするつもりはないが」

 バルトルトは肩をすくめて言った。
 フローラには国の政治の詳細などわからないけれど、フラメ王家はあくまで中立の立場であり、二大勢力のバランスを取る役割を果たしているようだ。

「身分が問題になるのは、強硬派の方だな。ヴォルフ」

 強硬派は軍部の人間を中心とする武力派。そして、特にプライドが高い者たちの集まりであり、炎属性に加えて血筋にもこだわる。

「説得は俺がすると言った」

 ヴォルフはよどみなく答え、フローラへ近づいて彼女の手を取る。

「っ、でも……!」

 バルトルトたちが反対してくれると思っていたフローラは、困惑の声を上げた。けれど、続く言葉が出てこない。
 すると、レーネが彼女を安心させるように微笑んで、口を開く。

「音楽は人の心を映すわ。私は貴女あなたの演奏を……フローラ自身を気に入ったのよ。貴女の故郷である西地区の音楽学校は、城下町の学校の次にレベルが高い学び場。そこを優秀な成績で卒業し、城下町に出てきてからも両親への仕送りを欠かさずにしていると、イェニーからも報告を受けているわ。三十三歳のヴォルフとは歳が離れているけれど、二十二歳なら結婚に問題はないでしょう? 私たちに異論はないの。あとは、貴女の気持ちだけ……」

 レーネの気遣いが、フローラの心にチクリと刺さる。自分の気持ちだけ……だからこそ、フローラはヴォルフの求婚を受け入れられない。

「宮廷ピアニストとしてはお城に残ります。でも、ヴォルフ様とは結婚できません。どうしたって、身分が――」

 握られた手を振りほどこうとするのに、ヴォルフはそれを許してくれない。

「関係ないと、たった今言われただろ。お前が気にする必要などない」

 そう言うヴォルフに、フローラは思い切り首を横に振った。
 身分差はいずれ大きな障害になる。王子と庶民、その差はどうやってもめられないだろう。産まれた瞬間に決まったラベルは努力でどうにかなるものではないからだ。

「私が言っているのは――」
「話にならない。行くぞ」
「っ! お、降ろしてください!」

 かたくななフローラにしびれを切らし、ヴォルフは彼女を抱き上げた。

「「ヴォルフ!」」
「ヴォルフ兄様!」

 制止する姉妹の声を無視して歩き続ける彼は、フローラを軽々と運び、謁見えっけんの間を出る。
 ようやくヴォルフがフローラを降ろしてくれたのは、階段を上がり、とても広い部屋に入ってからだった。

「今日からここがお前の部屋だ」

 部屋のレイアウトや家具は、白を基調としている。ベッドもソファもどれも大きく、テーブルや椅子は猫脚が可愛らしい。棚やサイドテーブルも揃っていて、フローラの荷物は棚の前に積んであった。窓にかかるカーテンはレースと小花柄の二枚で、今はレースカーテンのみが引かれている。バルコニーに花の鉢植えなどがあるのがうっすら見えた。

「さっきまでの勢いはどうした? ここでなら話を聞いてやる」

 ヴォルフは部屋の豪華さに呆けているフローラの顔を見ると、口元を緩めてフッと笑う。

「ソフィー姉やマリーがいると面倒だからな」

 彼は先ほどの状況を思い出したらしく、眉根を寄せた。やはり、姉には逆らえない様子だ。

「宮廷ピアニストとしては働きます。でも、こ、こんな素敵なお部屋を使わせていただくのは、その、申し訳ないので、もっとシンプルなお部屋はないですか……?」

 フローラの言葉を最後まで聞いたものの、ヴォルフは顔をしかめて「ない」と言い切る。だが、フローラが着替えを行った部屋は、少なくともこの部屋よりは彼女の前の住居に近かった。

「でも、着替えたときのお部屋は――」
「あれは客室だ。お前は客じゃない。俺の婚約者だ」

 フローラは額に手を当てて、キュッと眉間にしわを寄せた。クラクラする。ヴォルフは全く意見を聞く気がない。
 彼はフローラに近づいてその手を取ると、背を屈めて顔を覗き込んできた。赤みかがった瞳が近くて、ドキッとする。

「不満か?」

 低く響く声と共に、フローラの唇に熱い吐息がかかった。思わず首をすくめてしまう。心臓が高鳴るのは、不安と焦燥しょうそうのせいか、それとも……ヴォルフの熱のためなのか。

「わ、たしは……ただのピアノ講師です」
「関係ない」

 フローラが一歩下がる度に、ヴォルフが一歩追う。彼女の背が壁についたとき、二人の距離は限りなくゼロに近づいていた。
 ヴォルフの体温がじわじわと手から腕、身体中に伝わる。二日前の夜に触れられた感覚が戻ってきてしまう。

「か、関係あります。私は、本来ならあの仮面舞踏会にはいなかった存在で――」

 口角をかすかに上げたヴォルフを見て、フローラは自分の失言に気づく。慌てて口元を手で押さえたけれど、一度口にした言葉はもう戻せない。

「二度目の失言だな? 仮面舞踏会……確かに、あそこが俺たちの始まりだった」

 ヴォルフはフローラの口元の手を退け、人差し指と中指で彼女の唇をなぞった。

「キスも、したよな?」

 濃厚な口付けを思い出し、カッと頬が火照ほてる。ヴォルフはそんなフローラの様子に満足したのかフッと笑った。彼は指先であごから首を伝って鎖骨をなぞり、心臓の辺りに手のひらをそっと置く。
 速くなる鼓動を確かめるようなヴォルフの手。彼はフローラの手を、ゆっくりとヴォルフの左胸へ導く。すると、お互いの心臓に手を当てる格好になる。
 ドクン、ドクン、とフローラの手に伝わる力強く熱いビート――自分の鼓動と合わさるテンポ。それを、ヴォルフの低い声が彩る。

「お前が、俺に火をつけた」

 ヴォルフは手を放したが、フローラはそのまま動けずにいた。彼女の胸に当てられていた彼の手が、ゆっくりとドレスと肌の境界線をなぞっていく。

「ぁ……」

 ゾワリとした感覚に声がれる。それがまたフローラの羞恥しゅうちあおり、鼓動を加速させた。

「お前は体温が低いな」

 違う。ヴォルフが高いだけだ。そう思うものの、言葉にならない。

「俺が火をつけてやる」
「っ、待って、くださ――」

 近づくヴォルフの瞳の奥には、フローラを燃やさんばかりの情熱が宿っていた。
 フローラの言葉でヴォルフが止まるはずもなく、彼は彼女の唇に自分のそれで軽く触れる。フローラは足を引いたけれど、後ろは壁で、逃げることはできない。ヴォルフはグッと身体を寄せて彼女を囲い込む。

「んっ、ふ……ぁ、ん……っ」

 ゆっくりと、しかし、強引に入り込んでくるヴォルフの熱い舌が、フローラの口内をい回る。上顎うわあごや歯列をなぞるそれはフローラから呼吸をうばい、思考をぼんやりとさせた。

「もっと、舌を出せ」
「ん、んんっ……ふぅ」

 ヴォルフの舌から逃げるフローラを、彼がとがめる。頬を両手で強く包み込まれ、彼女は一層激しいキスに追い込まれていく。
 フローラの唇の端からは、どちらのものともわからない唾液がこぼれ落ち、顎を伝っていく。その感覚が行為の生々しさを知らしめるようで、彼女は身体を震わせた。
 無理やり奪われているのに、浮かされていく。フローラの身体はとろけて、手足から力が抜けてしまった。
 そんな彼女の細い腰を、ヴォルフのたくましく太い腕がしっかりと引き寄せて支える。

「っ、はっ……はぁ――」

 荒い呼吸を繰り返し、フローラはうるんだ瞳でヴォルフを見上げる。ヴォルフは彼女をじっと見つめ返した。
 それから、彼の唇がフローラの顎から首筋に下りる。ちゅっと吸って道筋を残しながら、ヴォルフは彼女の白くてなめらかな肌を赤く染めていく。
 同時に、胸元に触れた手が、柔らかなふくらみに指を沈めた。

「や――あっ、やめ、てくださ――ッ」

 やわやわと触れていたヴォルフの手は、やがてはっきりとした意思を持って、フローラの胸をいじり始める。彼は、ドレスの布の上から胸のいただきの辺りを親指の腹で何度もこすった。

「はっ、あ……ぁっ、いやっ」

 身体の奥よりじわりと熱が放たれるような感覚――フローラの頬は上気し、白い肌が桃色に染まっていく。すると、ヴォルフは嬉しそうに口角を上げて、彼女に軽くキスをする。

「そのまま……お前の温度を感じたい」
「あ――」

 ベアトップの胸元にヴォルフの大きな手がもぐり込み、直接ふくらみに触れた。フローラの身体がビクンと大きく跳ねる。

「や、だ――やめ、んっ、く……ぁ、あっ」

 フローラは慌ててヴォルフの手首を掴むが、ささやかな抵抗では彼を止めることはできなかった。大きな手がフローラの豊かな膨らみを包み込み、その弾力を味わうようにいやらしく動く。
 ドレスの布は波打ち、だんだんとずり下がる。やがて、ヴォルフの目の前にフローラの膨らみがさらされてしまった。

「や――」
「……綺麗だ」
「ん、やめ――ふ、んぁっ……あっ、ん、ンッ」

 吐息まじりにささやいたヴォルフは、フローラの赤く色付く胸のいただきにゆっくり唇を寄せた。ちゅっと触れた後、舌を出してめたりくわえたりする。彼の口の中で真っ赤にれた果実を転がされたフローラは、身体をよじりつつ鼻に掛かった声をらした。

「ん、あっ……いや……」

 ヴォルフの肩に手をつき、押しけようとするけれど、火照ほてった身体にはほとんど力が入らない。フローラがうるんだ瞳で彼を見ると、ヴォルフの妖艶ようえんな視線とぶつかる。その途端、もどかしいぞくぞくとした感覚が、彼女の背を伝う。
 恥ずかしいのに目が逸らせず、フローラは唇を震わせた。
 ヴォルフはそんな彼女に見せ付けるみたいに舌を伸ばし、ゆっくり赤い果実の周りをなぞる。そして、ぷっくりとち上がった中心に、ねっとりと唾液をこすり付けた。

「ぁ……も、やめて……んっ、お願い、ですっ」
「なぜだ? こんなによろこんでいるのに……?」

 次の瞬間、強く頂を吸われ、フローラの目から涙がこぼれ落ちた。
 ちゅくちゅくと音を立てて胸の膨らみに唇をわせるヴォルフ。硬くなった頂が舌先で弾かれる。時折軽く歯を立てられる度に、フローラの身体は大げさなほどった。

「あぁ――ッ」

 唾液でれた頂を人差し指が弾き、唇がもう片方の膨らみへと移動する。

「あ、あっ……やぁっ」

 赤く主張する胸の飾りに、唾液を塗り込むように動くヴォルフの指。同時に生まれる二つの刺激に、フローラは壁に頭を擦り付けて嬌声きょうせいを上げた。

「は……あぁ、ンっ……ッ、あ、はぁっ」

 やがて、真っ赤な果実を味わっていたヴォルフの唇が離れ、濡れた舌が胸から首筋へ上がってくる。彼の吐息と唾液は、じわじわとフローラの肌を焼いた。
 耳元まで辿り着くと、ヴォルフはフローラの耳たぶを唇で挟み、はぁっと熱い吐息を吹き込む。

「こんなに硬くなって、いやらしいな……」
「あぁっ、いや……んっ」

 両胸のつぼみを親指と人差し指で挟まれ、ぐりぐりと強くつままれる。
 耳元に寄せられていた唇は再びフローラの唇をむさぼり始め、彼女はくぐもった声をらした。

「ん、ぅ……ふ、ぁ、ぅん……ッ」

 口内を掻き回され、胸のいただきを指で弾かれて……身体の奥がキュンとうずく。下腹部に火がともったように、じわじわと快感が熱く広がっていく。

「熱いか……?」

 唇を離したヴォルフにかすれた声で聞かれると、またフローラの身体が熱を持つ。しかし、彼の問いに頷いたらいけないと、彼女は唇をんだ。

「フローラ。答えろ」
「あっ」

 ヴォルフの大きな手が豊満な胸を包み込む。今度は人差し指と中指の間に頂を挟み、器用に胸全体を愛撫あいぶする。
 感じたことのない熱、知らない感覚。恐怖とは違う感情を持て余し、フローラは首を横に振った。その拒絶を示す仕草が気に入らなかったのか、ヴォルフはチッと舌打ちをすると、彼女を抱き上げて歩き出した。
 不安定な格好に、フローラは思わずヴォルフにしがみつく。彼が進む先にあるものが視界に入り、心臓がドクンと音を立てた。

「ヴォルフ様っ、いやっ」
「嫌だと言うのは、建て前か? なぜ嘘をつく?」

 柔らかなベッドに下ろされてすぐ、大きな影がフローラを閉じ込める。彼女はずり下がってしまっていたドレスを懸命に引っ張り、両手を交差させて胸元を隠す。

「嘘なんて――」 
「俺はお前が欲しい」

 ドクンと、先ほどとは違う胸の高鳴りがフローラの身体を揺らした。ヴォルフの視線も言葉も、何もかもが真っ直ぐそそがれている。

「今すぐ……俺のものにしたい」
「――あッ」

 スカートの裾の中へ、ヴォルフの手がするりと滑り込み、フローラの太腿ふとももを撫でる。彼の指先は熱く、なぞられた部分から肌が焼かれるようだった。
 ヴォルフの手がヒップのふくらみを撫でる。彼はそのまま身体を近づけてきた。

「や、ヴォルフ様、ダメ……っ」

 フローラは慌ててヴォルフの手首を掴むが、そのせいであらわになった胸に、再びヴォルフの唇が落ちる。彼はドレスの布をくわえてそれをずり下げると、柔らかな膨らみに舌をわせた。

「あっ……」

 胸の形をなぞるように舌を滑らせながら、手で太腿ふとももでる。柔らかさを確かめるが如く、やんわりと肌をむ動きがじれったい。膝から足の付け根までを何度も往復し、やがてヴォルフはフローラの足の付け根でピタリと手を止めた。そして、下着の上からゆっくりと秘所を撫でる。
 ゆるゆると動く大きな手……それがぬるりとぬめるのを自分でも感じ、フローラは羞恥しゅうちのあまり首を横に振った。

「や、やめて……っ」

 キスや胸への愛撫あいぶにも戸惑いを隠せなかったのに、誰にも触れられたことのない場所でヴォルフの手がうごめくと、更に狼狽ろうばいしてしまう。
 だが、彼の手は止まることなく、そのうち指先に少しずつ力を込め、下着が食い込むほど激しい動きに変わっていく。

「や――ッ! いやっ……お願いっ、やめて……」

 本能的にこの先を悟ったフローラは、身をよじって足を閉じようとした。また、胸に顔を埋めているヴォルフの肩を力いっぱい押して抵抗する。
 今までとは違うフローラの様子に、ヴォルフは顔を上げた。けれど、手の動きは止めないまま、指先に触れる快感の芽を引っ掻く。

「初めてか? 怯えるな。力を抜け……ほら、ここが……」
「ひ、あっ! いや!」

 強い刺激に、フローラは背をらせて悲鳴を上げる。

「やぁっ、やめ――ッ、あぁっ」

 下着の下に隠れたそれを何度も引っ掻きながら、ヴォルフはフローラの首筋に顔を埋めた。生温かい舌がい、肌に強く唇が押し付けられる。
 下腹部がどんどん熱くなり、彼の触れている場所が更に湿り気を帯びていくのがわかる。

「これだけれていれば……」

 ヴォルフはフローラの下腹部を撫でてから、下着の中へ手を滑り込ませた。迷いない指先が辿り着いたのは、下着の上から触れられていた場所。

「あぁぁっ――は、あ、んぁっ」

 あふれた蜜はヴォルフの指の動きをスムーズにし、大きな悦楽を生み出した。

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