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連載
Trick, Trick, Trick (Halloween番外編)
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大人のハロウィンは、イタズラばかりの夜――…
子供たちを寝かしつけたフローラは、そっと子供部屋の扉を閉めて廊下へ出た。
ハロウィンだからと城内でスイーツハントをしていたユリアとカイは、はしゃいでいたためか、すぐに夢の世界へと旅立ってくれた。これならば、ヴォルフが寝室へと引き上げてくる前に着替えられるだろう。
ヴォルフは、ハロウィンにかこつけて広間で酒盛りをしようという義姉夫婦たち――主に張り切っていたのはマリーとエルマーだけれど――に捕まっているのだ。
フローラは身に付けているマントの合わせを内側から握り、こっそりと……しかし、早足で寝室へと向かう。
すぐに辿りついた寝室の扉を開け、中に入ってホッと息を吐くと暗闇の中から低く声が響いた。
「トリック・オア・トリート」
「え……?」
同時にフローラの目の前に大きな影が現れ、トン……と大きな手がフローラの顔の横の壁へと置かれる。
「ヴォルフ様……どうして、こちらに?」
もちろん、影の主はヴォルフだ。見上げると、暗闇の中でもわかる赤髪がふわりと揺れて端正な顔が近づいてきた。
「お菓子はないのか?」
フローラは呆然としてヴォルフの楽しそうな表情を見つめていた。
ハロウィンはユリアが生まれてから城でもやるようになったささやかなイベントで、子供たちのためという目的が大きい。仮装は皆でする――マリーやエルマーが張り切って用意してくる――が、ヴォルフの口から“トリック・オア・トリート”なんて言葉が出てくるとは思っていなかった。ヴォルフがハロウィンに興味を示すなんて微塵も思っていなかったのだ。
そもそもヴォルフが寝室に戻っているということ自体に、フローラは驚いている。だが、ヴォルフはフローラの問いには答えてくれず、一層身体を寄せてきて、囁いた。
「……それなら、イタズラさせろ」
「ん――っ」
フッと笑ったヴォルフの唇が重なり、性急にフローラを溶かしていく。すぐに唇を割ってきた舌は熱く、フローラの口内を自由に動き回った。
最初こそ驚いていたフローラだが、ヴォルフのキスにどう応えたらいいのかはもう身体が覚えている。両腕をヴォルフの首に回し、少し背伸びをして……腰を折ってフローラに近づいてくれるヴォルフとの距離をより縮めた。
ちゅ……と、甘美な音が暗闇に響いてぞくぞくと肌が粟立つ。
「ん……はっ、ぁ……」
ふわりと足元に触れた柔らかいものがマントだと気づく頃には、ヴォルフの手がフローラの身体を撫で始めていた。
「ヴォルフ様、や……待って」
「それは聞けない願いだ。お菓子をもらっていないからな」
軽々と抱き上げられて、ベッドへ誘われる。ヴォルフが指をパチンと鳴らせば、部屋に灯りが灯って、フローラは慌てて胸元で腕を交差させた。
「往生際が悪いな? ヴァンパイアの妃は」
「あっ」
簡単に外された手は両手とも頭上でシーツに縫い付けられ、真っ赤な布に強調された胸元がヴォルフの目の前に晒される。
今年の衣装はヴァンパイアで統一していたのだが、マリーがフローラにと用意した衣装は、マントなしでは恥ずかしくてとても着られないものだった。
赤いドレスはスカート丈が短く、胸元を強調するデザインでフローラの豊満な胸は窮屈そうに収まっている。スカートの裾には黒いレースがついているが、肌を隠すのにはあまり役立っていないし、網タイツもフローラが普段履かないものだ。
「……カチューシャはユリアと揃いか」
左右にリボンをつけたコウモリのモチーフがついているカチューシャは可愛らしく、ユリアもフローラとお揃いだと言ってとても喜んでいた。ユリアはフローラのドレスを可愛いと羨ましがっていたけれど、この赤色が危険な色だとフローラは知っている。
「こ、これは、マリー様が――っ、あ!」
ツゥッと首筋を指でなぞられて、ビクッと反応する身体は……ヴォルフに慣らされたもの。そのまま唇が同じように肌をなぞり、軽く歯を立てられると、まるで本当に血を吸われたかのように力が抜けた。
「俺も、今日はヴァンパイアだからな」
クッと笑うヴォルフの声色は、楽しそうで……サディスティックな音だ。
ヴォルフのヴァンパイア衣装は白いシャツに白のアスコットタイ、赤いベストと黒のズボンというクラシックなものだ。広間で羽織っていたはずのマントはどこで脱いだのか、なくなっている。
「ヴォル――んっ」
フローラの言葉は、ヴォルフに呑み込まれる。あっという間に息が上がっていく激しいキス……フローラはついていくのが精一杯だ。
その間もヴォルフの大きな手はフローラの太ももを撫で上げて、柔らかいヒップの丸みを堪能したり、胸の膨らみを揉んだり、その先端を擦ったり……フローラの身体に淡く火を灯していく。
しかし、それ以上進まない愛撫に、フローラは無意識にヴォルフに身体を寄せた。すると、ヴォルフが少し笑って唇を離す。
酸素が足りなくてぼんやりしているフローラと身体を入れ替え、自分の上に跨がせてベッドに寝転んだヴォルフは、フローラの頬をゆっくりと撫でて笑った。
「俺のイタズラはここまでだ」
「え……?」
中途半端に火照った身体を持て余し、フローラはヴォルフを見つめる。
「お前は……しないのか?」
「トリック・オア・トリート……です、か?」
「生憎、ユリアとカイに渡したクッキーが最後だ」
ヴォルフはフッと笑ってフローラの頬を撫でた。
「お前のイタズラなら……いくらでも受けてやるが?」
「そんな――っ」
「どうした? ヴァンパイアは人間を誘惑して血を吸うんだぞ? お前も……俺を誘惑してみろ」
手を軽く引かれ、フローラはヴォルフに覆いかぶさる体勢になる。ヴォルフは楽しそうに目を細めてフローラを見ている。
「や……そ、そんなこと、できません」
「嘘をつけ」
ふるふると首を横に振ると、ヴォルフはフローラの腰をグッと引き寄せ、フローラの内腿に自身を擦り付けてくる。
「その姿だけでも十分なくらいだ……だが、お前はもっと……俺を知っているだろう?」
「――っ」
ヴォルフはフローラを見つめたまま彼女の腕や頬を撫でるだけで折れてくれそうにない。フローラが何もしなければ、羞恥に上がっていく体温と先ほどの愛撫に籠った快感を燻らせるだけだ。
「フローラ」
掠れた低い声で誘惑されたのはフローラの方だった。
震える手でヴォルフのアスコットタイの留め具を外し、ベッドサイドへ置く。ベストのボタンを外してから、シャツの一番上のボタンへと手を掛けた。ひとつずつボタンが外される度に、ヴォルフの鍛えた胸板が露になっていく。すべてのボタンを外し終えると、フローラは震える息を吐き出してヴォルフの様子を窺って目線を上げた。
「どうした? もう終わりか?」
どうしてもフローラにイタズラさせたいらしいヴォルフは不敵な笑みを浮かべるだけで、フローラに触れてくれない。
フローラはゴクリと唾を飲み込んで、ヴォルフの首筋に吸い付いた。チロチロと遠慮がちに舌で肌を辿り、ヴォルフがしたように歯を立てて……逞しい胸板、腹筋、そしてズボンとの境目で顔を離し、ベルトに手を掛けた。
ジッパーを下げて取り出したヴォルフの昂りに唇を寄せると、ヴォルフが微かに息を詰める。
ヴォルフの表情を窺いつつ、根元から先端まで唾液を絡めていく。ヴォルフに教わった通りにしかできないが、それは同時に彼が一番喜ぶ行為でもあって……呼吸を乱していくヴォルフに、フローラの身体も疼いた。
丁寧に先端からくぼみに舌を這わせ、何度も裏筋を往復して……大きく口を開けて口に含む。苦味を少し我慢しながら上下に頭を動かすと、ヴォルフのものがビクビクと反応した。
「はっ……く、っ」
「ん……」
ヴォルフは意識を散らそうと、上半身を起こしてフローラの頭を撫でながら、もう片方の手を伸ばし、フローラの胸を揉み始めた。
少しの刺激に硬くなった蕾をドレス越しに摘まれて、フローラの背が仰け反る。
フローラは思わず口を離してしまったが、ヴォルフは咎めることなくそのままフローラの腕を引いてフローラと向き合って座る体勢をとった。
「は……フローラ」
「んっ、あ、ぁっ」
するりとドレスの肩紐を下げられ、布から零れ落ちた膨らみにヴォルフが吸い付いた。赤く色付いた蕾を熱い口の中で舌と唾液で刺激される。
時折強く吸われると一際強い快感が全身を巡る。
短いスカートから入れられた手は、ショーツの腰紐を迷わず解き、濡れそぼった蜜壺にヴォルフの指がゆっくりと侵入した。
「あぁっ、んっ、あ……あっ」
ヴォルフの首に縋り付いて快感を追うことしかできなくなったフローラの腰は、ゆらりと揺れて艶かしい。
「あ、あっ、ん――ふ、ぁ」
しかし、膨らんだ快感が弾ける寸前で、ヴォルフは指を抜いてしまった。
はしたなくもヴォルフの指を追いかけて身体を密着させると、ヴォルフはまた笑って寝転がった。
「や……ヴォルフ様」
自分の口から出た甘ったるい声と、ヴォルフの求める“この先”にフローラは首を振った。
「もっと……誘惑(いたずら)してみろ、フローラ」
ヴォルフはフローラを見つめたまま動いてくれない。中途半端に浮いた腰とヴォルフの胸についた腕が震えている。
「……ずっとこのままだぞ?」
しばらく続いた沈黙の攻防は、ヴォルフの一言で軍配が上がる。フローラはヴォルフの昂りに手を添え、ギュッと目を瞑って自身の泉へと宛がった。
微かな水音の後、増していく圧迫感――ヴォルフが微かに呻き、フローラも震える息を吐き出す。2人が奥深くまで繋がり、フローラはゆっくりと目を開いた。
ヴォルフは欲情に燃えた瞳でフローラを見つめ、フローラを促すみたいに腰の括れを撫でる。
「ん……んぅ、ぁっ」
恥ずかしさとヴォルフを求める気持ちの狭間で揺れるフローラの腰の動きは緩やかだが、それが2人に与える快感は大きい。
フローラの瞳には、眉根を寄せて刺激に耐えるヴォルフの色っぽい表情と、逞しい身体が映っている。
そして、ヴォルフの瞳には、両腕に挟まれたフローラの豊満な膨らみ。少し視線を上げれば、涙目で頬を上気させた彼女の表情もよく見える。懸命にヴォルフに応えようとする姿がいじらしく艶やかだ。
「上出来、だっ……」
「ひぁっ、あぁっ、や、そんな、つよ……っ、ぁ、あっ」
我慢できなくなったヴォルフは、フローラの腰を掴んで突き上げる。
頭の中がパチパチと白く弾けて、フローラは大きく仰け反った。何度も何度も奥まで突かれ、フローラは身体を支えられなくなり、ヴォルフの上に倒れ込む。
すると、ヴォルフは器用に身体を入れ替えて腰を打ちつけた。
肌のぶつかる音と2人を繋ぐ場所から溢れる蜜の音……そして2人の荒い呼吸が混ざって妖艶な空気が広がっていく。
「あっ、あ、も、ヴォルフっ」
「……っ、俺も……イ、く――」
「あ――」
フローラの中が蠢き、ヴォルフもそのまま白濁を注ぎこんだ。
呼吸が整わないまま何度もキスを交わし、ヴォルフがフローラの頭を撫でる。しばらく抱き合った後、フローラはお腹に寄ってしまったドレスや履いたままの網タイツに気づき、カッと頬を染めた。ヴォルフもズボンが中途半端に下がったままだ。
「脱いだらヴァンパイアの意味がないだろう」
「な――あっ」
フローラの困惑にクッと笑い、白い首筋に強く噛み付いたヴォルフは弱い魔法を使って自分の歯形を焼き付ける。
チリッと微かな痛みではあるが、思わぬ刺激に滲んだフローラの涙をヴォルフが舐めとった。
「お前の噛み痕も、つけろ」
「そんなこと――っ」
「できるまで……寝かせない」
フローラの抗議が聞いてもらえるわけもなく、ヴォルフは宣言通りフローラを抱き潰した。
翌日、首に歯形を付けてぐったりとするフローラを見て、ユリアが泣き喚いて大変だった。ヴァンパイアが本当に存在するのだと信じてしまったらしいユリアの誤解を解くのに苦労したのは、ヴォルフ自身――
***
おまけ ~子供たちのハロウィン~
「とりっく・おあ・とりーと!」
「うー・お・と!」
小さなヴァンパイアが2人、城を駆け回る日――今日はハロウィンだ。フラメ城では、この日を楽しみにしていたユリアが、1歳になったばかりの弟カイの手を引いて使用人1人ひとりに声を掛けて回っていた。
「はい、私からはチョコレートですよ」
「ありがとう!」
ジャック・オ・ランタンの形をしたカゴに入れられたキャンディを見て、ユリアは満面の笑みでお礼を言う。すると、仮装のためにつけた八重歯がキラリと光った。
「まぁまぁ、本格的なんですねぇ」
年配の侍女は興味深そうにユリアの前にしゃがみ、衣装を眺めている。ユリアたちの牙はマリーが魔法で作ってくれたものだ。
ユリアたちがスイーツハントに行く間だけのもの――数時間で元に戻ってしまう簡単な魔法である。
「マリーおばさまが、おかあさまと、おとうさまと、ユリアとカイのぶん、ぜーんぶしたの!」
ユリアはそう言って、くるりと回ってみせる。
白いレースのついたブラウスに裾がレースの黒のジャンパースカート、その上から黒のジャケットを羽織っている。ジャケットの裾にもレースがひらりと揺れ、襟は長く立ててあり、内側が赤い。その色と合わせてスカートのお腹の部分の生地も赤くなっていて、黒いリボンは胸下で蝶々結びになっている。黒いタイツと黒い靴にはコウモリのモチーフも使われていて細かいところまで凝ったデザインだ。
「ユリアはね、こうもりのかちゅーしゃがいいの。おかあさまとおそろいだもんっ」
ユリアは自分の頭に付けられたカチューシャを指差した。
両側にコウモリがついた黒いカチューシャは、コウモリに赤いリボンがついていて可愛らしい。何よりもフローラと同じものを身に付けられることがユリアにとっては一番嬉しかった。
「カイもね、おとうさまみたいでしょ? あっ、カイはもうちょこれーとはだめなの」
床にペタンと座り込んでもらったばかりのチョコレートの包み紙をはずそうと夢中になっていたカイ。ユリアは彼からチョコレートを取り上げて、カイのお菓子カゴへと戻した。
「め?」
カイはキョトンとしてユリアを見上げる。彼の歯も同じように八重歯が長くなっているが、先ほど食べたというチョコレートの色が少し移ってしまっている。
カイの衣装も黒と赤を基調にしたヴァンパイアで、白のシャツと赤いベストを合わせ、襟元には白いアスコットタイがルビーでとめられている。カイは窮屈そうに先ほどから首元を触っているせいで、少しよれてしまっている。ズボンとマントは黒で、ユリアと同じように内側が赤くなっている襟を立て、牙もあるが、まだ小さな彼には迫力を出すのは難しいようだ。
「さっきたべたから、め! いちにちひとつって、おとうさまにいわれたでしょ! ありがとう、もいうの!」
ユリアは両手を腰に当ててカイにずいっと顔を近づけた。人差し指を立てて言う姿は少し背伸びをして“お姉さん”をしているようにも見える。
カイはカゴの中に入ったチョコレートを見て「ん」と頷くと侍女に向き直って「あーとー」とお礼を言った。
侍女はそんな2人を見てふふっと笑い、「どういたしまして」と言って次の部屋へと向かう小さなヴァンパイアたちを見送るのだった――…
子供たちを寝かしつけたフローラは、そっと子供部屋の扉を閉めて廊下へ出た。
ハロウィンだからと城内でスイーツハントをしていたユリアとカイは、はしゃいでいたためか、すぐに夢の世界へと旅立ってくれた。これならば、ヴォルフが寝室へと引き上げてくる前に着替えられるだろう。
ヴォルフは、ハロウィンにかこつけて広間で酒盛りをしようという義姉夫婦たち――主に張り切っていたのはマリーとエルマーだけれど――に捕まっているのだ。
フローラは身に付けているマントの合わせを内側から握り、こっそりと……しかし、早足で寝室へと向かう。
すぐに辿りついた寝室の扉を開け、中に入ってホッと息を吐くと暗闇の中から低く声が響いた。
「トリック・オア・トリート」
「え……?」
同時にフローラの目の前に大きな影が現れ、トン……と大きな手がフローラの顔の横の壁へと置かれる。
「ヴォルフ様……どうして、こちらに?」
もちろん、影の主はヴォルフだ。見上げると、暗闇の中でもわかる赤髪がふわりと揺れて端正な顔が近づいてきた。
「お菓子はないのか?」
フローラは呆然としてヴォルフの楽しそうな表情を見つめていた。
ハロウィンはユリアが生まれてから城でもやるようになったささやかなイベントで、子供たちのためという目的が大きい。仮装は皆でする――マリーやエルマーが張り切って用意してくる――が、ヴォルフの口から“トリック・オア・トリート”なんて言葉が出てくるとは思っていなかった。ヴォルフがハロウィンに興味を示すなんて微塵も思っていなかったのだ。
そもそもヴォルフが寝室に戻っているということ自体に、フローラは驚いている。だが、ヴォルフはフローラの問いには答えてくれず、一層身体を寄せてきて、囁いた。
「……それなら、イタズラさせろ」
「ん――っ」
フッと笑ったヴォルフの唇が重なり、性急にフローラを溶かしていく。すぐに唇を割ってきた舌は熱く、フローラの口内を自由に動き回った。
最初こそ驚いていたフローラだが、ヴォルフのキスにどう応えたらいいのかはもう身体が覚えている。両腕をヴォルフの首に回し、少し背伸びをして……腰を折ってフローラに近づいてくれるヴォルフとの距離をより縮めた。
ちゅ……と、甘美な音が暗闇に響いてぞくぞくと肌が粟立つ。
「ん……はっ、ぁ……」
ふわりと足元に触れた柔らかいものがマントだと気づく頃には、ヴォルフの手がフローラの身体を撫で始めていた。
「ヴォルフ様、や……待って」
「それは聞けない願いだ。お菓子をもらっていないからな」
軽々と抱き上げられて、ベッドへ誘われる。ヴォルフが指をパチンと鳴らせば、部屋に灯りが灯って、フローラは慌てて胸元で腕を交差させた。
「往生際が悪いな? ヴァンパイアの妃は」
「あっ」
簡単に外された手は両手とも頭上でシーツに縫い付けられ、真っ赤な布に強調された胸元がヴォルフの目の前に晒される。
今年の衣装はヴァンパイアで統一していたのだが、マリーがフローラにと用意した衣装は、マントなしでは恥ずかしくてとても着られないものだった。
赤いドレスはスカート丈が短く、胸元を強調するデザインでフローラの豊満な胸は窮屈そうに収まっている。スカートの裾には黒いレースがついているが、肌を隠すのにはあまり役立っていないし、網タイツもフローラが普段履かないものだ。
「……カチューシャはユリアと揃いか」
左右にリボンをつけたコウモリのモチーフがついているカチューシャは可愛らしく、ユリアもフローラとお揃いだと言ってとても喜んでいた。ユリアはフローラのドレスを可愛いと羨ましがっていたけれど、この赤色が危険な色だとフローラは知っている。
「こ、これは、マリー様が――っ、あ!」
ツゥッと首筋を指でなぞられて、ビクッと反応する身体は……ヴォルフに慣らされたもの。そのまま唇が同じように肌をなぞり、軽く歯を立てられると、まるで本当に血を吸われたかのように力が抜けた。
「俺も、今日はヴァンパイアだからな」
クッと笑うヴォルフの声色は、楽しそうで……サディスティックな音だ。
ヴォルフのヴァンパイア衣装は白いシャツに白のアスコットタイ、赤いベストと黒のズボンというクラシックなものだ。広間で羽織っていたはずのマントはどこで脱いだのか、なくなっている。
「ヴォル――んっ」
フローラの言葉は、ヴォルフに呑み込まれる。あっという間に息が上がっていく激しいキス……フローラはついていくのが精一杯だ。
その間もヴォルフの大きな手はフローラの太ももを撫で上げて、柔らかいヒップの丸みを堪能したり、胸の膨らみを揉んだり、その先端を擦ったり……フローラの身体に淡く火を灯していく。
しかし、それ以上進まない愛撫に、フローラは無意識にヴォルフに身体を寄せた。すると、ヴォルフが少し笑って唇を離す。
酸素が足りなくてぼんやりしているフローラと身体を入れ替え、自分の上に跨がせてベッドに寝転んだヴォルフは、フローラの頬をゆっくりと撫でて笑った。
「俺のイタズラはここまでだ」
「え……?」
中途半端に火照った身体を持て余し、フローラはヴォルフを見つめる。
「お前は……しないのか?」
「トリック・オア・トリート……です、か?」
「生憎、ユリアとカイに渡したクッキーが最後だ」
ヴォルフはフッと笑ってフローラの頬を撫でた。
「お前のイタズラなら……いくらでも受けてやるが?」
「そんな――っ」
「どうした? ヴァンパイアは人間を誘惑して血を吸うんだぞ? お前も……俺を誘惑してみろ」
手を軽く引かれ、フローラはヴォルフに覆いかぶさる体勢になる。ヴォルフは楽しそうに目を細めてフローラを見ている。
「や……そ、そんなこと、できません」
「嘘をつけ」
ふるふると首を横に振ると、ヴォルフはフローラの腰をグッと引き寄せ、フローラの内腿に自身を擦り付けてくる。
「その姿だけでも十分なくらいだ……だが、お前はもっと……俺を知っているだろう?」
「――っ」
ヴォルフはフローラを見つめたまま彼女の腕や頬を撫でるだけで折れてくれそうにない。フローラが何もしなければ、羞恥に上がっていく体温と先ほどの愛撫に籠った快感を燻らせるだけだ。
「フローラ」
掠れた低い声で誘惑されたのはフローラの方だった。
震える手でヴォルフのアスコットタイの留め具を外し、ベッドサイドへ置く。ベストのボタンを外してから、シャツの一番上のボタンへと手を掛けた。ひとつずつボタンが外される度に、ヴォルフの鍛えた胸板が露になっていく。すべてのボタンを外し終えると、フローラは震える息を吐き出してヴォルフの様子を窺って目線を上げた。
「どうした? もう終わりか?」
どうしてもフローラにイタズラさせたいらしいヴォルフは不敵な笑みを浮かべるだけで、フローラに触れてくれない。
フローラはゴクリと唾を飲み込んで、ヴォルフの首筋に吸い付いた。チロチロと遠慮がちに舌で肌を辿り、ヴォルフがしたように歯を立てて……逞しい胸板、腹筋、そしてズボンとの境目で顔を離し、ベルトに手を掛けた。
ジッパーを下げて取り出したヴォルフの昂りに唇を寄せると、ヴォルフが微かに息を詰める。
ヴォルフの表情を窺いつつ、根元から先端まで唾液を絡めていく。ヴォルフに教わった通りにしかできないが、それは同時に彼が一番喜ぶ行為でもあって……呼吸を乱していくヴォルフに、フローラの身体も疼いた。
丁寧に先端からくぼみに舌を這わせ、何度も裏筋を往復して……大きく口を開けて口に含む。苦味を少し我慢しながら上下に頭を動かすと、ヴォルフのものがビクビクと反応した。
「はっ……く、っ」
「ん……」
ヴォルフは意識を散らそうと、上半身を起こしてフローラの頭を撫でながら、もう片方の手を伸ばし、フローラの胸を揉み始めた。
少しの刺激に硬くなった蕾をドレス越しに摘まれて、フローラの背が仰け反る。
フローラは思わず口を離してしまったが、ヴォルフは咎めることなくそのままフローラの腕を引いてフローラと向き合って座る体勢をとった。
「は……フローラ」
「んっ、あ、ぁっ」
するりとドレスの肩紐を下げられ、布から零れ落ちた膨らみにヴォルフが吸い付いた。赤く色付いた蕾を熱い口の中で舌と唾液で刺激される。
時折強く吸われると一際強い快感が全身を巡る。
短いスカートから入れられた手は、ショーツの腰紐を迷わず解き、濡れそぼった蜜壺にヴォルフの指がゆっくりと侵入した。
「あぁっ、んっ、あ……あっ」
ヴォルフの首に縋り付いて快感を追うことしかできなくなったフローラの腰は、ゆらりと揺れて艶かしい。
「あ、あっ、ん――ふ、ぁ」
しかし、膨らんだ快感が弾ける寸前で、ヴォルフは指を抜いてしまった。
はしたなくもヴォルフの指を追いかけて身体を密着させると、ヴォルフはまた笑って寝転がった。
「や……ヴォルフ様」
自分の口から出た甘ったるい声と、ヴォルフの求める“この先”にフローラは首を振った。
「もっと……誘惑(いたずら)してみろ、フローラ」
ヴォルフはフローラを見つめたまま動いてくれない。中途半端に浮いた腰とヴォルフの胸についた腕が震えている。
「……ずっとこのままだぞ?」
しばらく続いた沈黙の攻防は、ヴォルフの一言で軍配が上がる。フローラはヴォルフの昂りに手を添え、ギュッと目を瞑って自身の泉へと宛がった。
微かな水音の後、増していく圧迫感――ヴォルフが微かに呻き、フローラも震える息を吐き出す。2人が奥深くまで繋がり、フローラはゆっくりと目を開いた。
ヴォルフは欲情に燃えた瞳でフローラを見つめ、フローラを促すみたいに腰の括れを撫でる。
「ん……んぅ、ぁっ」
恥ずかしさとヴォルフを求める気持ちの狭間で揺れるフローラの腰の動きは緩やかだが、それが2人に与える快感は大きい。
フローラの瞳には、眉根を寄せて刺激に耐えるヴォルフの色っぽい表情と、逞しい身体が映っている。
そして、ヴォルフの瞳には、両腕に挟まれたフローラの豊満な膨らみ。少し視線を上げれば、涙目で頬を上気させた彼女の表情もよく見える。懸命にヴォルフに応えようとする姿がいじらしく艶やかだ。
「上出来、だっ……」
「ひぁっ、あぁっ、や、そんな、つよ……っ、ぁ、あっ」
我慢できなくなったヴォルフは、フローラの腰を掴んで突き上げる。
頭の中がパチパチと白く弾けて、フローラは大きく仰け反った。何度も何度も奥まで突かれ、フローラは身体を支えられなくなり、ヴォルフの上に倒れ込む。
すると、ヴォルフは器用に身体を入れ替えて腰を打ちつけた。
肌のぶつかる音と2人を繋ぐ場所から溢れる蜜の音……そして2人の荒い呼吸が混ざって妖艶な空気が広がっていく。
「あっ、あ、も、ヴォルフっ」
「……っ、俺も……イ、く――」
「あ――」
フローラの中が蠢き、ヴォルフもそのまま白濁を注ぎこんだ。
呼吸が整わないまま何度もキスを交わし、ヴォルフがフローラの頭を撫でる。しばらく抱き合った後、フローラはお腹に寄ってしまったドレスや履いたままの網タイツに気づき、カッと頬を染めた。ヴォルフもズボンが中途半端に下がったままだ。
「脱いだらヴァンパイアの意味がないだろう」
「な――あっ」
フローラの困惑にクッと笑い、白い首筋に強く噛み付いたヴォルフは弱い魔法を使って自分の歯形を焼き付ける。
チリッと微かな痛みではあるが、思わぬ刺激に滲んだフローラの涙をヴォルフが舐めとった。
「お前の噛み痕も、つけろ」
「そんなこと――っ」
「できるまで……寝かせない」
フローラの抗議が聞いてもらえるわけもなく、ヴォルフは宣言通りフローラを抱き潰した。
翌日、首に歯形を付けてぐったりとするフローラを見て、ユリアが泣き喚いて大変だった。ヴァンパイアが本当に存在するのだと信じてしまったらしいユリアの誤解を解くのに苦労したのは、ヴォルフ自身――
***
おまけ ~子供たちのハロウィン~
「とりっく・おあ・とりーと!」
「うー・お・と!」
小さなヴァンパイアが2人、城を駆け回る日――今日はハロウィンだ。フラメ城では、この日を楽しみにしていたユリアが、1歳になったばかりの弟カイの手を引いて使用人1人ひとりに声を掛けて回っていた。
「はい、私からはチョコレートですよ」
「ありがとう!」
ジャック・オ・ランタンの形をしたカゴに入れられたキャンディを見て、ユリアは満面の笑みでお礼を言う。すると、仮装のためにつけた八重歯がキラリと光った。
「まぁまぁ、本格的なんですねぇ」
年配の侍女は興味深そうにユリアの前にしゃがみ、衣装を眺めている。ユリアたちの牙はマリーが魔法で作ってくれたものだ。
ユリアたちがスイーツハントに行く間だけのもの――数時間で元に戻ってしまう簡単な魔法である。
「マリーおばさまが、おかあさまと、おとうさまと、ユリアとカイのぶん、ぜーんぶしたの!」
ユリアはそう言って、くるりと回ってみせる。
白いレースのついたブラウスに裾がレースの黒のジャンパースカート、その上から黒のジャケットを羽織っている。ジャケットの裾にもレースがひらりと揺れ、襟は長く立ててあり、内側が赤い。その色と合わせてスカートのお腹の部分の生地も赤くなっていて、黒いリボンは胸下で蝶々結びになっている。黒いタイツと黒い靴にはコウモリのモチーフも使われていて細かいところまで凝ったデザインだ。
「ユリアはね、こうもりのかちゅーしゃがいいの。おかあさまとおそろいだもんっ」
ユリアは自分の頭に付けられたカチューシャを指差した。
両側にコウモリがついた黒いカチューシャは、コウモリに赤いリボンがついていて可愛らしい。何よりもフローラと同じものを身に付けられることがユリアにとっては一番嬉しかった。
「カイもね、おとうさまみたいでしょ? あっ、カイはもうちょこれーとはだめなの」
床にペタンと座り込んでもらったばかりのチョコレートの包み紙をはずそうと夢中になっていたカイ。ユリアは彼からチョコレートを取り上げて、カイのお菓子カゴへと戻した。
「め?」
カイはキョトンとしてユリアを見上げる。彼の歯も同じように八重歯が長くなっているが、先ほど食べたというチョコレートの色が少し移ってしまっている。
カイの衣装も黒と赤を基調にしたヴァンパイアで、白のシャツと赤いベストを合わせ、襟元には白いアスコットタイがルビーでとめられている。カイは窮屈そうに先ほどから首元を触っているせいで、少しよれてしまっている。ズボンとマントは黒で、ユリアと同じように内側が赤くなっている襟を立て、牙もあるが、まだ小さな彼には迫力を出すのは難しいようだ。
「さっきたべたから、め! いちにちひとつって、おとうさまにいわれたでしょ! ありがとう、もいうの!」
ユリアは両手を腰に当ててカイにずいっと顔を近づけた。人差し指を立てて言う姿は少し背伸びをして“お姉さん”をしているようにも見える。
カイはカゴの中に入ったチョコレートを見て「ん」と頷くと侍女に向き直って「あーとー」とお礼を言った。
侍女はそんな2人を見てふふっと笑い、「どういたしまして」と言って次の部屋へと向かう小さなヴァンパイアたちを見送るのだった――…
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