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「新年、あけましておめでとうございます」牧田家のダイニングはいつにも増して賑やかだ。テーブルの上には3段のお重が置かれている。ひとまず新年の挨拶を終えたので舞華は自慢げに重箱を開けた。
中には、この時期にしか食べることができない豪華な料理が所狭しと入っている。「すごい!」「なんか例年よりも豪華じゃないか?」美奈と京介は簡単の声を上げた。武琉はあまりにも豪華なおせち料理に言葉が出ない様子だ。
「じゃあ、食べましょうか。」舞華はそういうと自分の大好物の昆布巻きをとって食べた。それに続くように3人も食べ始めた。
5分くらい経った頃、「明日と明後日の分もあるから今日はこれくらいで終わり。」と舞華が重箱の蓋を閉めた。
その後、初詣のために近くの神社に行った。ある程度は予測していたが、神社には日常生活ではありえないほどの行列ができていた。4人が訪れた神社には本坪鈴(お参りする時のガラガラと鳴る大きめの鈴)が3つあるので、スムーズに進むだろうと勝手に予測していた。
しかし、現実というものはそれほど甘くない。10分、15分、と時間は経つが、一向に自分たちの番が来る気配はない。
四人は辛抱強く待ち続けた。ただひたすら待ち続けた。そして30分後、ようやく前の人の番が来た。
参拝客から見て右側の人が終わったので舞華が行った。そのあと真ん中の人が終わったので武琉が行った。しかし、左側の人はなかなか終わらない。なぜか後から参拝した舞華と武琉の方が早く終わってしまった。特に場所にこだわりはなかったので、美奈が真ん中、京介は右側でそれぞれ参拝をした。舞華が左側にいた人物を睨んでいるとその人物がぐるりと向きを変えて帰ろうとしていた。逃すまいと舞華はその人物の顔をじっと観察した。すると舞華はえっ?と声を漏らした。
その人物とは武中だった。舞華はすかさず武中の元に駆け寄って武中くん。と話しかけた。武中は「あぁ~牧田さん。あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。じゃなくて。なんでいるんですか?」と驚きのあまり声が裏返ってしまった。「なんでってわたしたちは毎年この神社で初詣をしてるから。武中くんは?」「僕は、いろんな神社でお参りをすることが好きで、今年はたまたまこの神社にしたんです。」するとそこへ「あれ?武中?なんで?」と武琉がやってきた。後ろには美奈と京介もついてきている。「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。」武中は武琉にも新年の挨拶をした。
「なんでお前がここにいるんだ?」武琉の問いにまたかと思いながら答えようとしたが、舞華が2人の間に割って入って武中の代わりに説明をした。
「えっと、武中くんは毎年神社を変えて初詣をすることが好きで今年はここにした。」舞華は武中の方を見て「合ってるよね?」と確認した。武中は「まぁ合ってます。ちょっと言い方が語弊を生むかもしれませんが。」と愛想笑いをしながら答えた。「それって縁起が悪いような気がするんだけど。」「いや、大丈夫ですよ。僕はもう何年もやってますけど、特にバチとかないので。今のところ。」とケロッと答えた。
武琉が苦笑いで反応をしたところで、
京介が「あの~。お話のところ申し上げありません。えっと~どちら様でしょうか?」と水を差した。
「ごめん。すっかり君たちの存在を忘れていた。こちらは俺とお母さんの会社の同僚の武中さん。」武琉からの紹介にどうもと軽く頭を下げた。
武琉は続けて「こっちは俺たちの息子の京介と娘の美奈。」京介と美奈も軽く頭を下げた。「じゃあ、俺たちは帰るよ。
また三ヶ日が明けたらよろしく。」そう言って武琉は舞華たちを伴って帰ろうとした。しかしすぐに「ちょっとトイレに行ってから帰ろうかな。先に帰っていていいよ。」と京介はもと来た道を引き返して行った。「行こう。」と舞華が言うと武琉と美奈も頷き再び歩き出した。
武中はやることがなくなり、本殿の周りを歩き回っていた。すると背後から
「武中さん。」と自分の名前が呼ばれた。振り返ってみると帰ったはずの京介がいた。「あ、君は牧田さんの息子さんのなんだっけ?」懸命に思い出そうと武中はこめかみのあたりを指で叩いた。
「京介です。」「あぁ~そうだ!京介くんだ。それで、どうかした?」
「先日。『妹に勉強を教えましょうか。』という提案をしていただいたと
父と母から聞きまして。最終的にお断りさせていただくという決断に至ったわけですけれども。」武中は黙って相槌を打ちながら京介の話に耳を傾けている。
「僕からお願いがございます。」
「聞きましょう。」武中は京介の目を見て京介の頼みを聞き始めた。「実は、・・・。」
「そういうことでしたら、力になれるかと思います。」
「ありがとうございます。あ、この件に関しては家族には内緒でお願いします。」「わかった。」武中に頼み事を頼んだ京介は失礼しますと一礼してから
帰路に帰った。「さて。帰ろうかな。」
武中もしばらくして帰路に着いた。
京介が家に帰ってくるとリビングのソファに横になって美奈がスマホをイジっていた。「なに呑気にスマホをいじってんだよ。ここからは勉強だぞ。昨日の夜は一切勉強してないだろ?昨日の夜は紅白歌合戦を観てそのまま寝たよな?正月を利用しなくてどうする?」京介は急にスイッチが入って言った。
突然の厳しい一言にたまらず美奈は「正月くらいゆっくりさせてよ。」と文句を言う。
「受験生には盆も正月もないんだよ!それに、冬休みが明けたらすぐに模試だろ。」と京介は美奈を諭すと、自分の部屋に入った。美奈は渋々机に向かうと
京介がノックをして入ってきた。
手には3冊ほどの分厚い冊子を持っている。
美奈はその冊子を見た瞬間、嫌な予感がした。「今から問題を解かされるのだ。」と。
予想通りの答えが返ってくると分かっていながら美奈は聞いた。「それは何?」
京介は飄々と「新年だからな。お年玉だ。」と言った。
美奈は表情にこそ出さなかったが、頭の中ではこの嫌な予感が当たらないでくれ。とひたすら願った。
しかし、その願いは届かず。
京介は冊子を美奈の机に乗せると冊子の説明をした。「これは、僕が高ニの時に解いた模試の問題用紙。美奈も同じテストを受けるから、いわば過去問だ。」
「なんで、持ってるの?」
「美奈が同じ模試を受けることを見越して念の為とっておいたんだ。まぁ、たとえ使わなかったとしたらそのまま捨てるだけだったし。」京介はなぜかカッコつけたような口調で話した。
「まぁとにかく解いてみよう。」美奈は京介の言動は自分を思い遣ってくれてるからこそなのだ。とわかっていたが、なぜ新年早々に模試の過去問を解かせるのかがわからなかった。
美奈は、「1教科だけでいい?」と聞いた。ここで全教科解けと言われようものなら全面的に反抗しようとしていた。
しかし、京介もそこまで鬼ではない。
あっさり、いいよ。と許可した。
美奈は俄然やる気が出たので、すぐさま取り掛かった。
美奈が選んだ教科は最も点数が取れる自信のある国語だ。
美奈は、山根に教えてもらった通りのやり方で解いた。おかげで、評論文は思ったよりすぐに解くことができた。
しかし、問題はその後だ。美奈は小説の問題と古文の解き方を教えてもらってない。とにかく、いままで自分がやってきた方法で挑んでみる。小説の方はなんとか読み取り、解答できたのだが、自信はない。古典に関しては、もはや日本語と認識できない。学校の授業で教えてもらった文法事項を一生懸命思い出しながら解いているので、助動詞や係り結びなど基本的な文法はわかる。しかし、何を言っているのかわからない。美奈はとにかく勘で空欄を埋めた。全ての問題を解き終わったのは、試験時間終了の2分前だった。それ故に見直しをする時間がなかった。
試験時間が終了した後、京介が採点をした。大問1の評論文は7割ほど採れていたので、ひとまず安堵した。
その安堵もここまでだったようだ。続く小説読解4割、古文2割と大問が変わるごとに正答率が下がっていく。
この結果に京介は「このままではかなりやばいかもしれない。」という大きな危機感を感じた。
そんな京介の表情を見て、結果がいかに芳しくなかったのかを察した美奈も焦りを感じた。そのうえでぽつりと悩みを打ち明けた。「わたし、古文の単語を覚えるのが苦手で全然覚えられないの。」
さらに京介が危機感を抱いた理由。それは、国語が美奈の中で最も得意としている教科である。ということだ。
自信のある教科は2年の3学期の模試では6.7割ほど採って欲しいと思っていた。しかし、全体的な点数が半分を切っている。そこで、京介は教育方針を変えることにした。当初の予定では、次の週の土曜日に山根に小説読解のコツを教えてもらおうと思っていた。しかし、それよりも古典の方が圧倒的に採りやすい。
京介はそう考え、美奈に古典を徹底的に演習させることにした。
しかし、1つ問題がある。その問題とは、美奈は古典の問題集を持っていなかったのだ。京介は自分の部屋に戻り、古典の問題集を探したが、全て捨ててしまったらしい。今日は1月1日の年始。
どこの書店もやっていない。
京介は悩みに悩んだ末、とある1つの方法を思いついた。それしかないと判断したので、即座に実行しようと動き出した。「美奈、古典の単語帳はある?」
美奈は単語帳を取り出し、京介に渡そうとしたが「それは渡さなくていい。」と拒んだ。いつもと違うスタイルを美奈は疑問に思った。
すると京介が主な概要を説明し始めた。「明日から、しばらくの間その日学習した単語を使った簡単な文章を作ってもらう。」美奈はまた面倒なことを思いついたなと思ったがもちろん声には出さない。
つまり、ただ単語を覚えるだけでは身につかない。インプットだけではなくアウトプットが大切。そのアウトプットの作業を文章を作るという形にすることで、
意味を理解しているのかすぐに判断することができる。ということだ。
美奈は古典の単語を覚えられていないことが悩みだったので、それが解決できるのならと思い、次の日から毎日自ら進んでやり始めた。
そして、冬休みが明けて3学期が始まった。
「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。」松田はいつもに似合わない丁寧な口調で新年の挨拶をした。その様子にクラス中がざわついた。するとすぐに松田はいつもの調子に戻って「じゃあ、始業式が体育館で行われるから各自で移動して。」と指示した。生徒達は普段の様子に戻った松田に少しガッカリしたが同時に安心もした。新年初日は始業式と冬休み課題のテストだけで終わった。
「あぁ~。ほんとにテストって疲れるよね。てか、なんで休みが明けてすぐにテストを受けなきゃいけないのよ!」テストが終わったあと奈津美は文句を言っていた。「まぁ、冬休みに勉強をしろってことでしょ?」優佳はそう言って奈津美を宥めた。奈津美ははぁーと大きく息をつくとまぁいいや。とすぐに頭を切り替え、「美奈。一緒に帰ろうー。」と誘ったが、「ごめん。テストでわからなかったところがあるからそこを早めに克服したいんだ。」
「そっか。それじゃあしょうがないね。頑張ってね。」美奈は誘いを断ってしまったことに申し訳なさを感じながら、帰って行った。優佳は美奈を見送る奈津美の表情に少し寂しさを感じたが、そのことには触れずに「奈津美。わたしたちも帰ろう。」と誘った。
美奈は家に帰ると京介の「おかえり」という挨拶を無視してすぐに机に向かって行った。京介はそんな美奈の姿を見て「『親しき中にも礼儀あり』だろ。」と思いつつも感心した一方でこれが長く続けば最高だな。とも思った。
次の日、美奈は学校へ武琉と舞華は仕事場へ向かい1人になった京介は今後の予定を立てていた。するとピンポーンとインターホンが鳴ったので京介は椅子から立ち上がり、リビングに設置されているモニターを覗いた。そこには京介と美奈の祖母で舞華の母である明美だった。京介はそのまま玄関の方に向かった。するとその時京介はひどい耳鳴りがしてフラッとよろめいくと、そのままバタンと床に突っ伏すように倒れた。大きな音がしたので何事かと明美が中の様子を窺おうと舞華から渡されていた合鍵を使って玄関のドアを開けた時時京介が倒れているのが見えた。明美はパニックになっている自分を落ち着かせながら、救急車を要請した。
中には、この時期にしか食べることができない豪華な料理が所狭しと入っている。「すごい!」「なんか例年よりも豪華じゃないか?」美奈と京介は簡単の声を上げた。武琉はあまりにも豪華なおせち料理に言葉が出ない様子だ。
「じゃあ、食べましょうか。」舞華はそういうと自分の大好物の昆布巻きをとって食べた。それに続くように3人も食べ始めた。
5分くらい経った頃、「明日と明後日の分もあるから今日はこれくらいで終わり。」と舞華が重箱の蓋を閉めた。
その後、初詣のために近くの神社に行った。ある程度は予測していたが、神社には日常生活ではありえないほどの行列ができていた。4人が訪れた神社には本坪鈴(お参りする時のガラガラと鳴る大きめの鈴)が3つあるので、スムーズに進むだろうと勝手に予測していた。
しかし、現実というものはそれほど甘くない。10分、15分、と時間は経つが、一向に自分たちの番が来る気配はない。
四人は辛抱強く待ち続けた。ただひたすら待ち続けた。そして30分後、ようやく前の人の番が来た。
参拝客から見て右側の人が終わったので舞華が行った。そのあと真ん中の人が終わったので武琉が行った。しかし、左側の人はなかなか終わらない。なぜか後から参拝した舞華と武琉の方が早く終わってしまった。特に場所にこだわりはなかったので、美奈が真ん中、京介は右側でそれぞれ参拝をした。舞華が左側にいた人物を睨んでいるとその人物がぐるりと向きを変えて帰ろうとしていた。逃すまいと舞華はその人物の顔をじっと観察した。すると舞華はえっ?と声を漏らした。
その人物とは武中だった。舞華はすかさず武中の元に駆け寄って武中くん。と話しかけた。武中は「あぁ~牧田さん。あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。じゃなくて。なんでいるんですか?」と驚きのあまり声が裏返ってしまった。「なんでってわたしたちは毎年この神社で初詣をしてるから。武中くんは?」「僕は、いろんな神社でお参りをすることが好きで、今年はたまたまこの神社にしたんです。」するとそこへ「あれ?武中?なんで?」と武琉がやってきた。後ろには美奈と京介もついてきている。「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。」武中は武琉にも新年の挨拶をした。
「なんでお前がここにいるんだ?」武琉の問いにまたかと思いながら答えようとしたが、舞華が2人の間に割って入って武中の代わりに説明をした。
「えっと、武中くんは毎年神社を変えて初詣をすることが好きで今年はここにした。」舞華は武中の方を見て「合ってるよね?」と確認した。武中は「まぁ合ってます。ちょっと言い方が語弊を生むかもしれませんが。」と愛想笑いをしながら答えた。「それって縁起が悪いような気がするんだけど。」「いや、大丈夫ですよ。僕はもう何年もやってますけど、特にバチとかないので。今のところ。」とケロッと答えた。
武琉が苦笑いで反応をしたところで、
京介が「あの~。お話のところ申し上げありません。えっと~どちら様でしょうか?」と水を差した。
「ごめん。すっかり君たちの存在を忘れていた。こちらは俺とお母さんの会社の同僚の武中さん。」武琉からの紹介にどうもと軽く頭を下げた。
武琉は続けて「こっちは俺たちの息子の京介と娘の美奈。」京介と美奈も軽く頭を下げた。「じゃあ、俺たちは帰るよ。
また三ヶ日が明けたらよろしく。」そう言って武琉は舞華たちを伴って帰ろうとした。しかしすぐに「ちょっとトイレに行ってから帰ろうかな。先に帰っていていいよ。」と京介はもと来た道を引き返して行った。「行こう。」と舞華が言うと武琉と美奈も頷き再び歩き出した。
武中はやることがなくなり、本殿の周りを歩き回っていた。すると背後から
「武中さん。」と自分の名前が呼ばれた。振り返ってみると帰ったはずの京介がいた。「あ、君は牧田さんの息子さんのなんだっけ?」懸命に思い出そうと武中はこめかみのあたりを指で叩いた。
「京介です。」「あぁ~そうだ!京介くんだ。それで、どうかした?」
「先日。『妹に勉強を教えましょうか。』という提案をしていただいたと
父と母から聞きまして。最終的にお断りさせていただくという決断に至ったわけですけれども。」武中は黙って相槌を打ちながら京介の話に耳を傾けている。
「僕からお願いがございます。」
「聞きましょう。」武中は京介の目を見て京介の頼みを聞き始めた。「実は、・・・。」
「そういうことでしたら、力になれるかと思います。」
「ありがとうございます。あ、この件に関しては家族には内緒でお願いします。」「わかった。」武中に頼み事を頼んだ京介は失礼しますと一礼してから
帰路に帰った。「さて。帰ろうかな。」
武中もしばらくして帰路に着いた。
京介が家に帰ってくるとリビングのソファに横になって美奈がスマホをイジっていた。「なに呑気にスマホをいじってんだよ。ここからは勉強だぞ。昨日の夜は一切勉強してないだろ?昨日の夜は紅白歌合戦を観てそのまま寝たよな?正月を利用しなくてどうする?」京介は急にスイッチが入って言った。
突然の厳しい一言にたまらず美奈は「正月くらいゆっくりさせてよ。」と文句を言う。
「受験生には盆も正月もないんだよ!それに、冬休みが明けたらすぐに模試だろ。」と京介は美奈を諭すと、自分の部屋に入った。美奈は渋々机に向かうと
京介がノックをして入ってきた。
手には3冊ほどの分厚い冊子を持っている。
美奈はその冊子を見た瞬間、嫌な予感がした。「今から問題を解かされるのだ。」と。
予想通りの答えが返ってくると分かっていながら美奈は聞いた。「それは何?」
京介は飄々と「新年だからな。お年玉だ。」と言った。
美奈は表情にこそ出さなかったが、頭の中ではこの嫌な予感が当たらないでくれ。とひたすら願った。
しかし、その願いは届かず。
京介は冊子を美奈の机に乗せると冊子の説明をした。「これは、僕が高ニの時に解いた模試の問題用紙。美奈も同じテストを受けるから、いわば過去問だ。」
「なんで、持ってるの?」
「美奈が同じ模試を受けることを見越して念の為とっておいたんだ。まぁ、たとえ使わなかったとしたらそのまま捨てるだけだったし。」京介はなぜかカッコつけたような口調で話した。
「まぁとにかく解いてみよう。」美奈は京介の言動は自分を思い遣ってくれてるからこそなのだ。とわかっていたが、なぜ新年早々に模試の過去問を解かせるのかがわからなかった。
美奈は、「1教科だけでいい?」と聞いた。ここで全教科解けと言われようものなら全面的に反抗しようとしていた。
しかし、京介もそこまで鬼ではない。
あっさり、いいよ。と許可した。
美奈は俄然やる気が出たので、すぐさま取り掛かった。
美奈が選んだ教科は最も点数が取れる自信のある国語だ。
美奈は、山根に教えてもらった通りのやり方で解いた。おかげで、評論文は思ったよりすぐに解くことができた。
しかし、問題はその後だ。美奈は小説の問題と古文の解き方を教えてもらってない。とにかく、いままで自分がやってきた方法で挑んでみる。小説の方はなんとか読み取り、解答できたのだが、自信はない。古典に関しては、もはや日本語と認識できない。学校の授業で教えてもらった文法事項を一生懸命思い出しながら解いているので、助動詞や係り結びなど基本的な文法はわかる。しかし、何を言っているのかわからない。美奈はとにかく勘で空欄を埋めた。全ての問題を解き終わったのは、試験時間終了の2分前だった。それ故に見直しをする時間がなかった。
試験時間が終了した後、京介が採点をした。大問1の評論文は7割ほど採れていたので、ひとまず安堵した。
その安堵もここまでだったようだ。続く小説読解4割、古文2割と大問が変わるごとに正答率が下がっていく。
この結果に京介は「このままではかなりやばいかもしれない。」という大きな危機感を感じた。
そんな京介の表情を見て、結果がいかに芳しくなかったのかを察した美奈も焦りを感じた。そのうえでぽつりと悩みを打ち明けた。「わたし、古文の単語を覚えるのが苦手で全然覚えられないの。」
さらに京介が危機感を抱いた理由。それは、国語が美奈の中で最も得意としている教科である。ということだ。
自信のある教科は2年の3学期の模試では6.7割ほど採って欲しいと思っていた。しかし、全体的な点数が半分を切っている。そこで、京介は教育方針を変えることにした。当初の予定では、次の週の土曜日に山根に小説読解のコツを教えてもらおうと思っていた。しかし、それよりも古典の方が圧倒的に採りやすい。
京介はそう考え、美奈に古典を徹底的に演習させることにした。
しかし、1つ問題がある。その問題とは、美奈は古典の問題集を持っていなかったのだ。京介は自分の部屋に戻り、古典の問題集を探したが、全て捨ててしまったらしい。今日は1月1日の年始。
どこの書店もやっていない。
京介は悩みに悩んだ末、とある1つの方法を思いついた。それしかないと判断したので、即座に実行しようと動き出した。「美奈、古典の単語帳はある?」
美奈は単語帳を取り出し、京介に渡そうとしたが「それは渡さなくていい。」と拒んだ。いつもと違うスタイルを美奈は疑問に思った。
すると京介が主な概要を説明し始めた。「明日から、しばらくの間その日学習した単語を使った簡単な文章を作ってもらう。」美奈はまた面倒なことを思いついたなと思ったがもちろん声には出さない。
つまり、ただ単語を覚えるだけでは身につかない。インプットだけではなくアウトプットが大切。そのアウトプットの作業を文章を作るという形にすることで、
意味を理解しているのかすぐに判断することができる。ということだ。
美奈は古典の単語を覚えられていないことが悩みだったので、それが解決できるのならと思い、次の日から毎日自ら進んでやり始めた。
そして、冬休みが明けて3学期が始まった。
「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。」松田はいつもに似合わない丁寧な口調で新年の挨拶をした。その様子にクラス中がざわついた。するとすぐに松田はいつもの調子に戻って「じゃあ、始業式が体育館で行われるから各自で移動して。」と指示した。生徒達は普段の様子に戻った松田に少しガッカリしたが同時に安心もした。新年初日は始業式と冬休み課題のテストだけで終わった。
「あぁ~。ほんとにテストって疲れるよね。てか、なんで休みが明けてすぐにテストを受けなきゃいけないのよ!」テストが終わったあと奈津美は文句を言っていた。「まぁ、冬休みに勉強をしろってことでしょ?」優佳はそう言って奈津美を宥めた。奈津美ははぁーと大きく息をつくとまぁいいや。とすぐに頭を切り替え、「美奈。一緒に帰ろうー。」と誘ったが、「ごめん。テストでわからなかったところがあるからそこを早めに克服したいんだ。」
「そっか。それじゃあしょうがないね。頑張ってね。」美奈は誘いを断ってしまったことに申し訳なさを感じながら、帰って行った。優佳は美奈を見送る奈津美の表情に少し寂しさを感じたが、そのことには触れずに「奈津美。わたしたちも帰ろう。」と誘った。
美奈は家に帰ると京介の「おかえり」という挨拶を無視してすぐに机に向かって行った。京介はそんな美奈の姿を見て「『親しき中にも礼儀あり』だろ。」と思いつつも感心した一方でこれが長く続けば最高だな。とも思った。
次の日、美奈は学校へ武琉と舞華は仕事場へ向かい1人になった京介は今後の予定を立てていた。するとピンポーンとインターホンが鳴ったので京介は椅子から立ち上がり、リビングに設置されているモニターを覗いた。そこには京介と美奈の祖母で舞華の母である明美だった。京介はそのまま玄関の方に向かった。するとその時京介はひどい耳鳴りがしてフラッとよろめいくと、そのままバタンと床に突っ伏すように倒れた。大きな音がしたので何事かと明美が中の様子を窺おうと舞華から渡されていた合鍵を使って玄関のドアを開けた時時京介が倒れているのが見えた。明美はパニックになっている自分を落ち着かせながら、救急車を要請した。
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