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第三十話
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久しぶりの龍一郎の料理は本格的な和食で美味しかった。けれど勇士には気になっていたことがあった。箸を置いて勇士は訊ねる。
「父さんは俺のことを親友に重ねてたんだろ?」
「……ああそうだ」
「じゃあ俺の……下を管理する時、いつも申し訳なさそうな顔して優しくしてくれていたのは俺を親友に重ねて縛っていることへの罪悪感からだったのか?」
「あれは……いやその通りだ」
龍一郎は何か別に言いかけたようだが結局は肯定した。
勇士は少し嬉しかった。親友の代わりとして扱っていても自分に罪悪感を持つくらいの情はあったのだ。
「俺は寝る。しばらくここにいたいならいればいい。俺は明日から忙しい。帰宅も何週間は出来ないだろう」
食後、ソファでくつろいでいる勇士に龍一郎がそれだけ言って行ってしまう。
明らかに避けている。
この家に一緒にいるだけも嫌なのか。
勇士は龍一郎の真意が知りたくてここに居座ることにした。ついでに元気にさせたいなと思ってなくもなかったのに。
「ならここにいる意味ないじゃん」
居間でなんとかして龍一郎をこの家に留まらせようと考えていると、耳に苦しそうな声が聞こえてきた。その声を辿る。それは龍一郎の寝室からだった。
こっそりと寝室を覗く。
中は片付けが済んでいないままで、アルバムとDVDが散乱していた。
龍一郎は眠っていた。苦しそうに唸っている。
勇士は何を言っているのだろうとベッドに近付いた。
「……すまない」
龍一郎が辛そうに言葉を紡ぐ。
「すまない。……すまない、勇気」
ループのように龍一郎は勇気に謝り続ける。起きていたらきっと土下座までしていただろう勢いだ。
「父さん……」
(父さんはきっと苦しみ続けてきたんだ。こうやってずっと、親友を亡くしたのは自分のせいだって)
龍一郎からは親友の代わりという酷い扱いを受けた。だが勇士にも情はある。こんな龍一郎を見ているのはあまりにも辛かった。
自分は自分だ。けれど今だけは皮を被ろうと思う。
「龍一郎……」
頬に手を添え、優しく名前を呼ぶ。すると眠ったまま龍一郎が反応する。
「勇気……?」
「ああそうだ。お前が元気なさそうで心配して来たんだ」
「……勇気、すまない。俺はお前の人生を奪った。俺のせいでお前はっ……」
龍一郎の頬に涙が伝う。
勇士は慰めるように頭を撫でた。
ビデオに残された過去の勇気の姿を思い出す。そして彼を甦らせる。
「もういいんだ。もう自分を責めなくていい」
「っ……」
「俺たちの間に憎悪はない」
きつく寄せられた龍一郎の眉間の皺が和らぐ。これでいいのだ。そしてこれからも。
「俺たちは何も変わっていない。……一つを除いて」
布団を剥いで龍一郎に跨り、彼の服に手を伸ばす。ボタンを外せば、見えるのは逞しい体だった。
ずっと勇気を想い続けてきたのだからご褒美があってもいいんじゃないか。
勇士は龍一郎に関わりたくもなかった。けれどまだ勇士に愛情ありげなあんな中途半端な姿を見てしまえば消えていた願望が湧いてくる。
勇気として求められてもいい。それでも龍一郎と繋がりたい。
「龍一郎、愛してるよ」
顔を近付ける。熱い吐息が龍一郎の顔に降りかかる。
初めて感じる龍一郎の唇は思ったより優しかった。もう少し味わいたくて再び口付ける。
「勇気……?」
龍一郎は戸惑っているようだった。
「大丈夫、全部俺に任せて」
下を脱がせる。勇士は思わず息を呑んだ。
「っ…………」
自分のとは全く違う。大きくて雄雄しい。
雄というのはこういうものだと理解する。勇士は瞳を蕩けさせる。
龍一郎を起こしても構わない。自分が望んで勇気となっているのだから彼は罪悪感を感じず夢に溺れる。
やり方は分からない。勇士は恐る恐る舌を這わせる。
「父さんは俺のことを親友に重ねてたんだろ?」
「……ああそうだ」
「じゃあ俺の……下を管理する時、いつも申し訳なさそうな顔して優しくしてくれていたのは俺を親友に重ねて縛っていることへの罪悪感からだったのか?」
「あれは……いやその通りだ」
龍一郎は何か別に言いかけたようだが結局は肯定した。
勇士は少し嬉しかった。親友の代わりとして扱っていても自分に罪悪感を持つくらいの情はあったのだ。
「俺は寝る。しばらくここにいたいならいればいい。俺は明日から忙しい。帰宅も何週間は出来ないだろう」
食後、ソファでくつろいでいる勇士に龍一郎がそれだけ言って行ってしまう。
明らかに避けている。
この家に一緒にいるだけも嫌なのか。
勇士は龍一郎の真意が知りたくてここに居座ることにした。ついでに元気にさせたいなと思ってなくもなかったのに。
「ならここにいる意味ないじゃん」
居間でなんとかして龍一郎をこの家に留まらせようと考えていると、耳に苦しそうな声が聞こえてきた。その声を辿る。それは龍一郎の寝室からだった。
こっそりと寝室を覗く。
中は片付けが済んでいないままで、アルバムとDVDが散乱していた。
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勇士は何を言っているのだろうとベッドに近付いた。
「……すまない」
龍一郎が辛そうに言葉を紡ぐ。
「すまない。……すまない、勇気」
ループのように龍一郎は勇気に謝り続ける。起きていたらきっと土下座までしていただろう勢いだ。
「父さん……」
(父さんはきっと苦しみ続けてきたんだ。こうやってずっと、親友を亡くしたのは自分のせいだって)
龍一郎からは親友の代わりという酷い扱いを受けた。だが勇士にも情はある。こんな龍一郎を見ているのはあまりにも辛かった。
自分は自分だ。けれど今だけは皮を被ろうと思う。
「龍一郎……」
頬に手を添え、優しく名前を呼ぶ。すると眠ったまま龍一郎が反応する。
「勇気……?」
「ああそうだ。お前が元気なさそうで心配して来たんだ」
「……勇気、すまない。俺はお前の人生を奪った。俺のせいでお前はっ……」
龍一郎の頬に涙が伝う。
勇士は慰めるように頭を撫でた。
ビデオに残された過去の勇気の姿を思い出す。そして彼を甦らせる。
「もういいんだ。もう自分を責めなくていい」
「っ……」
「俺たちの間に憎悪はない」
きつく寄せられた龍一郎の眉間の皺が和らぐ。これでいいのだ。そしてこれからも。
「俺たちは何も変わっていない。……一つを除いて」
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ずっと勇気を想い続けてきたのだからご褒美があってもいいんじゃないか。
勇士は龍一郎に関わりたくもなかった。けれどまだ勇士に愛情ありげなあんな中途半端な姿を見てしまえば消えていた願望が湧いてくる。
勇気として求められてもいい。それでも龍一郎と繋がりたい。
「龍一郎、愛してるよ」
顔を近付ける。熱い吐息が龍一郎の顔に降りかかる。
初めて感じる龍一郎の唇は思ったより優しかった。もう少し味わいたくて再び口付ける。
「勇気……?」
龍一郎は戸惑っているようだった。
「大丈夫、全部俺に任せて」
下を脱がせる。勇士は思わず息を呑んだ。
「っ…………」
自分のとは全く違う。大きくて雄雄しい。
雄というのはこういうものだと理解する。勇士は瞳を蕩けさせる。
龍一郎を起こしても構わない。自分が望んで勇気となっているのだから彼は罪悪感を感じず夢に溺れる。
やり方は分からない。勇士は恐る恐る舌を這わせる。
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