【完結】誓いの鳥籠

文字の大きさ
上 下
26 / 38

第二十五話

しおりを挟む
※龍一郎視点

 病院の一室にて。
「かわい~な~」
 ふっくらとした頬でぽやぽやとコットで眠る赤ん坊。なんて愛らしいんだと屈んで覗き込んでいた龍一郎は頬をだらんと緩めきる。
 龍一郎はベッドで休んでいた舞に訊ねる。
「舞さん抱っこしてもいいか?」
「うん、抱っこしてあげて。やり方は……教えなくても大丈夫だね。龍一郎さん、いっぱいお人形で抱っこする練習してたものね」
 龍一郎はそう言われたものの恐る恐る赤ん坊を抱く。命の重さを腕に感じた。
「うん上手、上手。ふふ、龍一郎さん様になってる。私より熱心に育児本読んでたものね」
 龍一郎は赤ん坊が生まれるのをとても楽しみに待っていた。もしかすると勇気と舞以上かもしれない。
 おもちゃ、ベビー服、ベビーカー、赤ちゃんに必要なあらゆるものからまだ買うには早すぎるだろう自転車まで龍一郎はこの子のために用意していた。
 ふにゃふにゃと赤ちゃんが口で遊ぶ。
「本当にかわいいなぁ……。っあ、目が開いた」
 赤ん坊がうっすらと目を開く。その愛らしい目は龍一郎をぼんやりと見ているようだった。
「初めまして。龍一郎おじちゃんでちゅよ~」
 舞がふふと笑う。
「ん? なんだ?」
「なんかこうして見ると組長さんに全く見えないなって思って」
「ははっ、元々なるつもりはなかったからな。そりゃそうだ」
 龍一郎はこの年、大志万組の組長になった。
 本当は正妻の息子が組長になることになっていたのだが、父が亡くなり、残していた遺言を読んでみれば龍一郎を組長にすると書かれていたのだ。
 全く面倒なことだ。
 龍一郎は二人を助けようと組の力を使ってる手前、組の手伝いをしていたのだが、二人が結婚する頃には幹部として務めをしっかり果たせるまでになっていた。しかも面倒見もいいものだから慕う者も多いときた。
 対して正妻の息子は性格に難ありで、乱暴なため反感を抱く幹部も多かった。
 組をまとめる者として龍一郎が選ばれたのは必然だったかもしれない。
 龍一郎は組長になるつもりはなかった。それでも組長となったのは二人を助けたいからだった。
 赤ん坊をコットにそっと戻し、舞に言う。
「なぁ舞さん、勇気ともう一度考え直してくれないか? 二人が住む屋敷も使用人も用意してるんだ。そしたらゆっくり二人で子育てが出来る。迷惑を掛けてるなんて思わなくていい。これは俺がしたくてやってることなんだ」
 現在二人は龍一郎の囲いから出て、自分たちの力だけで生きている。勇気は建設業で汗を流して働いている。
 組長になればもっと組の力を使えて二人を支えることが出来る。そう思ったのに。
「龍一郎さんありがとう。でもいいの。これは私たちが選んだ道。だから私たち自身で生きていきたいの」
「……それはつまりもう俺に関わって欲しくないってことか?」
「違う違う! 龍一郎さんが私たちのためにずっと頑張ってくれていたのはとっても感謝してるの。でもね、これからは自分のために生きて欲しいの。私たちじゃない、自分のために」
 とは言ったって二人が最も大切なのだ。二人の幸せが自分の幸せなのだ。
 自分のために生きるということがいまいちよく分からず考え込んでいると舞が「そういえば」と話を変える。
「この子の名前決めた?」
「決めたけど……やっぱり二人で決めた方がいい。俺がこの子の名付け親だなんて」
「龍一郎さんに名前をつけて欲しいって二人で決めたの。だからほら早く教えて」
 急かされて龍一郎は遠慮気味に命名書を鞄から取り出す。見えやすいように掲げたそれに舞はぱぁっと笑みを浮かべる。
「舞さんは勇気の名前が好きだって言ってただろ? 俺も勇気の名前は好きだから『勇』って文字を一つもらって、それから心も体も健康で強く生きて欲しいって意味を込めて『勇士』って名前にしました」
 龍一郎は命名を頼まれ一週間ほぼ徹夜で悩んでいた。それでやっと決まったが、それでもこれでいいのかと自信がなくて「どうだろうか?」と舞の様子を窺う。
 舞は花が咲いたように笑っていた。
「うん、ぴったり! 勇士、勇士……。響きもこの子にとっても似合ってるし、名前の意味もとても素敵」
「そ、そうか……?」
「うん。龍一郎さん、この子のためにいっぱい悩んで考えてくれたんだよね。素敵なお名前をこの子に贈ってくれてありがとう」
 龍一郎は安堵と嬉しさで顔を綻ばせる。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...