【完結】誓いの鳥籠

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第二十話

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 到着のアナウンスが車内に広がる。樋宮の話では降りるのはこの駅だ。
「降りるか?」
 なぜそんなことを訊くのか。最後の最後は勇士に決めて欲しいのか。
 龍一郎を捨てきれない。けれど戻ったって龍一郎と今まで通り生活出来るとは思えない。きっと苦しくて耐えられない。
「……降りよう」
 樋宮が「そうか」と呟き、荷物を持って駅へ降りる勇士の後に続く。
 一つの傘の下、二人が外を眺める。外は雨降る平日ながらも人が結構いた。行動制限が厳しかったため地元以外の土地、風景が新鮮で思わず心が踊る。
「すげー、なんか祭みてーだな。なぁあれってにゃんにゃんボックス? うおマジか。俺、カラオケ行くの夢だったんだよ!」
 辛い気持ちを忘れて瞳をきらきらと輝かせる。いや、忘れたかったのかもしれない。
「なあ樋宮、少し寄っていかないか?」
「いや今は逃げることを優先した方が……」
 期待を前面に出すと樋宮が途中で仕方がないと言うように顔色を変える。
「よし、少し寄って行くか」
「よっしゃ! んじゃ早速行こう!」
 冒険に行くような勢いで肩を組む。すると樋宮が困ったように「お、おい!」と頬を染める。
(ああ、そうだった。樋宮は俺のことあれだったんだよな)
「あ、悪い……」
「いや別にいいんだけどよ……」
 自分は相手の気持ちとは違うのにその気にさせるのは相手を弄ぶようでいけない。距離を取ると微妙な空気が二人に流れる。
 樋宮が顔を赤くしたまま頭を掻いて、仕切り直すように言う。
「ほら、早く行こうぜ。行きたいんだろ?」
「あ、うん……」
 しかし横断歩道を渡ろうとした時、樋宮が緊迫とした様子で一点を見つめ、呟く。
「なんでバレてるんだ」
 視線を追うと、いかにもな厳つい風貌をした黒のスーツを着た男が横断歩道の向こう側で辺りを見回していた。
 突如樋宮の顔が強張る。
「騒ぐな」
 低い男の声に振り返る。樋宮の背後にぴったりと男が立っていた。コートが上手いこと隠しているが、腰に突きつける銃口がちらりと見えた。
 男が携帯を取り出し、連絡する。一度じろりと足のつま先から頭のてっぺんまで見られて、勇士は思わず怯む。
「……対象を発見した。御子息は無事だ。ああ、分かった──っぐあ!」
 隙を狙って、樋宮が男に体当たりをかます。勇士らを雨から守っていた傘が宙を舞う。倒れる男を前に茫然としていると樋宮が勇士の腕を掴んで走り出す。
「逃げるぞ!」
 しかしいつの間にか前方に男の仲間だろう奴らが待ち構えていた。背後からは追いかける足音が聞こえる。
 樋宮は路地裏に入り、クネクネと道を曲がって追っ手を撒こうとする。しかしどうしてか全く逃げ切ることが出来ない。
 遂には男らに挟まれてしまった。樋宮が勢いよく前に殴りかかる。奴らの壁に穴が空いた。
「勇士、逃げろ!」
「樋宮!」
「後から行く! だから早く!」
 大勢を相手に樋宮が必死に突破口を守る。勇士は戸惑ったが、彼の言葉を信じて駆け出した。
「はぁはぁはぁ」
 雨が服に染み込んで、動いているのに体がとても冷たい。それに最近ずっと家に篭りっきりだったから体力が落ちて息が辛い。だが勇士は走り続けた。
 前方に光と人々の気配が差し込む。勇士はそのまま路地裏で格闘するのを辞めて、光の方へと進む。
 人混みに紛れて奴らを撒く作戦だ。
 しかし光一歩手前、曲がり角から手が伸びるのを勇士は気付けなかった。
「うわ!」
 後ろから抱きつかれる形で腕を体に回されて自由を奪われる。逃げ出そうと暴れても背後の奴はびくともしない。
「このっ、離せよ!」
 ボコボコと拳を作って縛る腕を殴る。
「離せってんだろ──」
 殴る途中、後ろの奴が視界に入る。勇士は目を見開いた。
 後ろへ撫で付けられた艶やかな黒髪、惚れ惚れする美しい顔立ち。
「……父さん」
 頬から黒いスーツにはべったりと血がついてる。表情は眉間に皺を寄せて深刻そうなのは確かだが何を思っているのか想像がつかない。
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