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第十七話
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「……分かった。きちんと説明するからそしたら俺について来てくれるか?」
「そりゃあ内容によるだろ。俺、家から出るなって父さんに言われてるし、簡単に言いつけを破るわけにはいかない。それなりの内容なら考えないこともない」
樋宮は何か言いかけたが、そんなに時間に追われているのか早速説明を始める。
「鐵も多分気付いていると思うが、お前の親父さんはいわゆるヤクザの組長だ」
「ああ、それは知ってた」
「そうか。だが親父さんだけじゃないんだ。俺も組の一員なんだ」
「……お前が?」
一瞬頭が回らなくなる。樋宮がヤクザ。確かに顔は多少厳つくてヤクザと言われても何の疑いも持たないが、かと言って本物だなんて。
「冗談だろ?」
「事実だ。樋宮家は代々組長の右腕となって支えてきた。俺は家の一員として組長の子息の御目付役という任を承った。だからお前のそばには常に俺がいた。もしそうじゃなきゃ今まで何年も変わらずクラスメートであり続けられるわけがない」
確かに何年もクラスが一緒になるのは偶然にしては出来すぎている話だ。龍一郎が樋宮を勇士のそばへ置くよう学校へ掛け合っていたとしたら筋が通る。
「……そうか。そうだったんだな……」
純粋な友人ではなかった。ショックはそれなりに大きい。
「じゃあお前は御目付役として正しいことをしたんだな。勝手に修学旅行なんて決行されちゃあ困るもんな」
「楽しみにしてたのに台無しにしてしまってすまない」
罪悪感に苛まれているのだろう。言葉だけでない心からの謝罪がひしひしと伝わってくる。
「俺にとってお前はただの坊ちゃんじゃねぇ。俺は信頼に傷をつけた。……あれがはっきり正しかったなんて俺は思えないし、思いたくない。けれど今度は胸を張って正しいことをしたい。俺は友人のためにすべきことをしたい」
それは勇士に対してではなく、まるで一人決意を固めるような言い草だった。樋宮は警戒するように周囲を見渡し、再び勇士の腕を掴み引っ張り出す。
「お前の家には四六時中見張りがついてるんだ。だが今は交替時で見張りが手薄だ。だからここから逃げるには今しかないんだ」
「おいおい待てよ! なんでお前がそんなに連れ出そうと必死なのか話がまだ見えないし、自分勝手に父さんの言いつけを破るわけにはいかないんだ!」
「お前の親父はイカれてんだよ!」
鈍器で強く殴られたような衝撃が頭に響く。言葉をそのまま受け入れることが出来ない。
「は? ……何言ってんだよ」
「組長のことは尊敬しているし俺もこんな風に言いたくはない。だが実際そうなんだ」
「意味分かんねぇよ」
「本当はお前も薄々気付いてたんだろ。今まで組長の命令でお前を騙してたが、息子に貞操帯なんか着ける親なんてどこにもいねぇんだよ。お前の親父さんは、お前が思っているような人間じゃないんだ」
確かに樋宮の言う通り貞操帯のことはうっすらと気付いてはいた。だがあの龍一郎がイカれているなんて意味不明だ。
「イカれてるって……つまり頭のおかしい変態だってことかよ」
「そうじゃない。そういう欲だけの意味を言ってるんじゃない。もっと重たくて根深い狂気だ。……親父さんは狂うほどお前を誰よりも深く愛していたんだ」
「……俺を?」
現実感がない。しかも狂うほどとは。なんだか嘘を囁かれているような気分だった。
「けどあの愛情はお前を幸せにするもんじゃない。だから俺はお前をこの鳥籠から逃すためにここに来た」
樋宮の言っていることがいまいち理解出来ない。
「っ……!」
途端樋宮が腕を引き、二人一緒になって庭の茂みに身を隠す。門の前を通り過ぎたのはただの一般人だ。
しかし彼は警戒を強くする。
「早いな。まだ裏口からなら見張りも手薄なはずだ。鐵、行くぞ」
樋宮が腕を掴んだまま先頭になって走り出す。
「おいっ、樋宮……!」
「悪いがもう話してる時間はないんだ」
龍一郎の言いつけを破りたくはない。なんとか踏み止まろうと必死になるが、樋宮の力が強くて敵わない。
「そりゃあ内容によるだろ。俺、家から出るなって父さんに言われてるし、簡単に言いつけを破るわけにはいかない。それなりの内容なら考えないこともない」
樋宮は何か言いかけたが、そんなに時間に追われているのか早速説明を始める。
「鐵も多分気付いていると思うが、お前の親父さんはいわゆるヤクザの組長だ」
「ああ、それは知ってた」
「そうか。だが親父さんだけじゃないんだ。俺も組の一員なんだ」
「……お前が?」
一瞬頭が回らなくなる。樋宮がヤクザ。確かに顔は多少厳つくてヤクザと言われても何の疑いも持たないが、かと言って本物だなんて。
「冗談だろ?」
「事実だ。樋宮家は代々組長の右腕となって支えてきた。俺は家の一員として組長の子息の御目付役という任を承った。だからお前のそばには常に俺がいた。もしそうじゃなきゃ今まで何年も変わらずクラスメートであり続けられるわけがない」
確かに何年もクラスが一緒になるのは偶然にしては出来すぎている話だ。龍一郎が樋宮を勇士のそばへ置くよう学校へ掛け合っていたとしたら筋が通る。
「……そうか。そうだったんだな……」
純粋な友人ではなかった。ショックはそれなりに大きい。
「じゃあお前は御目付役として正しいことをしたんだな。勝手に修学旅行なんて決行されちゃあ困るもんな」
「楽しみにしてたのに台無しにしてしまってすまない」
罪悪感に苛まれているのだろう。言葉だけでない心からの謝罪がひしひしと伝わってくる。
「俺にとってお前はただの坊ちゃんじゃねぇ。俺は信頼に傷をつけた。……あれがはっきり正しかったなんて俺は思えないし、思いたくない。けれど今度は胸を張って正しいことをしたい。俺は友人のためにすべきことをしたい」
それは勇士に対してではなく、まるで一人決意を固めるような言い草だった。樋宮は警戒するように周囲を見渡し、再び勇士の腕を掴み引っ張り出す。
「お前の家には四六時中見張りがついてるんだ。だが今は交替時で見張りが手薄だ。だからここから逃げるには今しかないんだ」
「おいおい待てよ! なんでお前がそんなに連れ出そうと必死なのか話がまだ見えないし、自分勝手に父さんの言いつけを破るわけにはいかないんだ!」
「お前の親父はイカれてんだよ!」
鈍器で強く殴られたような衝撃が頭に響く。言葉をそのまま受け入れることが出来ない。
「は? ……何言ってんだよ」
「組長のことは尊敬しているし俺もこんな風に言いたくはない。だが実際そうなんだ」
「意味分かんねぇよ」
「本当はお前も薄々気付いてたんだろ。今まで組長の命令でお前を騙してたが、息子に貞操帯なんか着ける親なんてどこにもいねぇんだよ。お前の親父さんは、お前が思っているような人間じゃないんだ」
確かに樋宮の言う通り貞操帯のことはうっすらと気付いてはいた。だがあの龍一郎がイカれているなんて意味不明だ。
「イカれてるって……つまり頭のおかしい変態だってことかよ」
「そうじゃない。そういう欲だけの意味を言ってるんじゃない。もっと重たくて根深い狂気だ。……親父さんは狂うほどお前を誰よりも深く愛していたんだ」
「……俺を?」
現実感がない。しかも狂うほどとは。なんだか嘘を囁かれているような気分だった。
「けどあの愛情はお前を幸せにするもんじゃない。だから俺はお前をこの鳥籠から逃すためにここに来た」
樋宮の言っていることがいまいち理解出来ない。
「っ……!」
途端樋宮が腕を引き、二人一緒になって庭の茂みに身を隠す。門の前を通り過ぎたのはただの一般人だ。
しかし彼は警戒を強くする。
「早いな。まだ裏口からなら見張りも手薄なはずだ。鐵、行くぞ」
樋宮が腕を掴んだまま先頭になって走り出す。
「おいっ、樋宮……!」
「悪いがもう話してる時間はないんだ」
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