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第十四話
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一同きょとんと彼を見つめていたものの、女子たちの視線が勇士に移る。訴えかけるような彼女たちの熱烈な瞳に思わずたじろぐ。
「えっと……い、いいんじゃないかな。これからよろしく」
途端「やった」と女子たちが湧き立ち、その背後で樋宮を狙ってた女子たちが言葉に出さないものの明らかにテンションを下げる。
「鐵君、楽しみだね!」
「……うん、ソウダネ」
ニコニコと微笑みを浮かべられても、上手く笑えない。文句ありげな視線を向けられなかったのは幸いだったが、逆に男子たちから妬みの視線に晒され、居心地が悪かった。
班が決まり、時間が余ったからとみんなでバスケでもしようと体育館に移動することになった。
(……バスケか。動くと中が苦しくなるだけだし俺は見るだけでいいか)
そう考えながら、樋宮も後から参加出来るように黒板に『体育館でみんな一緒にバスケしてる。はよ来い』と書いているとそばに飯田が寄って来て、案の定嫌味たっぷりに言ってくる。
「いいよな、二人セットなら女子も選び放題で」
「言う相手間違ってるぞ。言うなら樋宮に言え」
「いやお前にも充分責任はある! 女子からまるでハズレみたいな扱いを受けたこの思い、お前に分かるか!」
大体言い寄られるのは樋宮だが、勇士も半年に三回は告白されるなど地味にモテていた。けれど勇士にしてみればモテようとそうでなかろうとどうでも良かった。
勇士にとって一番振り向いて欲しいのは龍一郎だった。父親を好きになることは異常だときちんと理解もしている。だから父親としての愛だけでも真っ当に受けたいと願っていた。
故に龍一郎からの愛以外ははっきり言ってどうでも良かった。
「飯田、現実って辛いよな」
そう言ったのは自虐だったかもしれない。からかいを含めて笑うと、飯田がわーんと泣きそうになる勢いで声を荒げる。
「お前が俺たちの班になってれば女子も分散してたのによ~! くろがね~何でそうしなかったんだよ~!」
「だって飯田と俺、そこまで仲良くないし」
そう突き放すと、飯田が誇張してるんじゃないかと思うくらいショックを受けていて面白かった。追い討ちに「ジョーダンだよ、飯田クン」と言っておいた。
「それ、冗談じゃない言い方だろ~!」
「ははは」
「おい、お前らもう行くぞー」
ふと兄貴肌の新城にそう促され、飯田が「おけー!」と先程の落ち込みなんて最初からなかったようにけろっとした様子で返事をする。飯田と一緒に教室を出るが、階段に差し掛かるところで勇士は立ち止まる。
「…………」
手をへそ辺りに持っていって摩る。腹が張った感覚。もう少し我慢は出来る。けれど以前我慢のしすぎで調子を崩した勇士は、龍一郎から「決して我慢はするな。必要な時は遠慮せず、すぐに俺を呼べ」と説教気味に言われたばかりだった。
動かない勇士に飯田が振り返る。
「どうした?」
「俺、トイレ行ってからそっち向かうわ」
「あー了解。……じゃあ時間残ってたら体育館に来いよ」
「おー」
そう軽く手を上げると、勇士は飯田と別れて三階の理科室手前のトイレに向かった。そこは教室からだいぶ離れていて、好んで遠いトイレに行く人もいないからほぼ使う人はいない。
勇士はトイレをするだけでも龍一郎をいちいち呼ばないとならず、理由も理由だから人目を気にしていた。だから勇士はいつも人のいないこのトイレを使っていた。
スマホをポケットから取り出す。
「もしもし父さん? あの……学校に来てもらえないかな?」
『分かった。今そちらに向かう』
「うん、じゃあいつものところで……」
龍一郎を呼ぶ度に仕事を中断させてしまうからいつも気が引けるのだが、龍一郎は決して面倒臭がることなく速やかに駆けつけてくれる。
ちなみに龍一郎は勇士が呼ぶ度に学校に入ることは先生たちも承知であり、体質の問題で親の補助が必要であるからと説明し、特別に許可されていた。
防犯対策のためだからとなぜ学校に本当のことを言わないのか訊いたことがある。けれどこれはある種の隠語だから教師にはきちんと伝わっているとのことだった。
勇士も龍一郎からは事情を説明する際はこの隠語を使うように言われていたため、友達には「体質の問題でトイレを済ますのが人より比べだいぶ時間がかかる」と話していた。最初は龍一郎と一緒にトイレに行くところをクラスメートに見られて、「お前、親にオムツでも替えてもらってんのかよ」と揶揄われることもあったが、その時は樋宮が激怒して土下座させるまで殴ったものだからそれ以来笑われることもなく、逆に理解を示してくれた。
けれどクラスメートはどうにも隠語を理解していないように勇士は感じていた。なんだかあくまで体質の問題だからと気遣っているような印象を受けていた。
「待たせて悪かったな」
廊下で待ってると、ネクタイもシャツもスーツも黒で固められた仕事姿の龍一郎がやって来る。
「えっと……い、いいんじゃないかな。これからよろしく」
途端「やった」と女子たちが湧き立ち、その背後で樋宮を狙ってた女子たちが言葉に出さないものの明らかにテンションを下げる。
「鐵君、楽しみだね!」
「……うん、ソウダネ」
ニコニコと微笑みを浮かべられても、上手く笑えない。文句ありげな視線を向けられなかったのは幸いだったが、逆に男子たちから妬みの視線に晒され、居心地が悪かった。
班が決まり、時間が余ったからとみんなでバスケでもしようと体育館に移動することになった。
(……バスケか。動くと中が苦しくなるだけだし俺は見るだけでいいか)
そう考えながら、樋宮も後から参加出来るように黒板に『体育館でみんな一緒にバスケしてる。はよ来い』と書いているとそばに飯田が寄って来て、案の定嫌味たっぷりに言ってくる。
「いいよな、二人セットなら女子も選び放題で」
「言う相手間違ってるぞ。言うなら樋宮に言え」
「いやお前にも充分責任はある! 女子からまるでハズレみたいな扱いを受けたこの思い、お前に分かるか!」
大体言い寄られるのは樋宮だが、勇士も半年に三回は告白されるなど地味にモテていた。けれど勇士にしてみればモテようとそうでなかろうとどうでも良かった。
勇士にとって一番振り向いて欲しいのは龍一郎だった。父親を好きになることは異常だときちんと理解もしている。だから父親としての愛だけでも真っ当に受けたいと願っていた。
故に龍一郎からの愛以外ははっきり言ってどうでも良かった。
「飯田、現実って辛いよな」
そう言ったのは自虐だったかもしれない。からかいを含めて笑うと、飯田がわーんと泣きそうになる勢いで声を荒げる。
「お前が俺たちの班になってれば女子も分散してたのによ~! くろがね~何でそうしなかったんだよ~!」
「だって飯田と俺、そこまで仲良くないし」
そう突き放すと、飯田が誇張してるんじゃないかと思うくらいショックを受けていて面白かった。追い討ちに「ジョーダンだよ、飯田クン」と言っておいた。
「それ、冗談じゃない言い方だろ~!」
「ははは」
「おい、お前らもう行くぞー」
ふと兄貴肌の新城にそう促され、飯田が「おけー!」と先程の落ち込みなんて最初からなかったようにけろっとした様子で返事をする。飯田と一緒に教室を出るが、階段に差し掛かるところで勇士は立ち止まる。
「…………」
手をへそ辺りに持っていって摩る。腹が張った感覚。もう少し我慢は出来る。けれど以前我慢のしすぎで調子を崩した勇士は、龍一郎から「決して我慢はするな。必要な時は遠慮せず、すぐに俺を呼べ」と説教気味に言われたばかりだった。
動かない勇士に飯田が振り返る。
「どうした?」
「俺、トイレ行ってからそっち向かうわ」
「あー了解。……じゃあ時間残ってたら体育館に来いよ」
「おー」
そう軽く手を上げると、勇士は飯田と別れて三階の理科室手前のトイレに向かった。そこは教室からだいぶ離れていて、好んで遠いトイレに行く人もいないからほぼ使う人はいない。
勇士はトイレをするだけでも龍一郎をいちいち呼ばないとならず、理由も理由だから人目を気にしていた。だから勇士はいつも人のいないこのトイレを使っていた。
スマホをポケットから取り出す。
「もしもし父さん? あの……学校に来てもらえないかな?」
『分かった。今そちらに向かう』
「うん、じゃあいつものところで……」
龍一郎を呼ぶ度に仕事を中断させてしまうからいつも気が引けるのだが、龍一郎は決して面倒臭がることなく速やかに駆けつけてくれる。
ちなみに龍一郎は勇士が呼ぶ度に学校に入ることは先生たちも承知であり、体質の問題で親の補助が必要であるからと説明し、特別に許可されていた。
防犯対策のためだからとなぜ学校に本当のことを言わないのか訊いたことがある。けれどこれはある種の隠語だから教師にはきちんと伝わっているとのことだった。
勇士も龍一郎からは事情を説明する際はこの隠語を使うように言われていたため、友達には「体質の問題でトイレを済ますのが人より比べだいぶ時間がかかる」と話していた。最初は龍一郎と一緒にトイレに行くところをクラスメートに見られて、「お前、親にオムツでも替えてもらってんのかよ」と揶揄われることもあったが、その時は樋宮が激怒して土下座させるまで殴ったものだからそれ以来笑われることもなく、逆に理解を示してくれた。
けれどクラスメートはどうにも隠語を理解していないように勇士は感じていた。なんだかあくまで体質の問題だからと気遣っているような印象を受けていた。
「待たせて悪かったな」
廊下で待ってると、ネクタイもシャツもスーツも黒で固められた仕事姿の龍一郎がやって来る。
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