【完結】誓いの鳥籠

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第十三話

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「二日目は班ごとで完全自由行動になっており──」
 黒板を背に、教壇でプリント片手に委員の女子二人が手際よく修学旅行の日程を説明する。
「大体の日程はこんな感じで。じゃあ今から班決めしたいと思います。先生からは班内の割合は女子男子で半々にってことの指示だけしか受けてないんで、それだけ守っていい感じに班作ってくださーい」
 その声を皮切りに教室はざわざわと賑やかになり始め、各々席を立ち班が自然と出来上がっていく。
 勇士も同じく席から立ち上がり、腐れ縁の友の元へ向かう。丁度、樋宮の前の席の生徒は立って談笑に耽っていたから勇士はそこに座った。
「樋宮、VSJ行こうぜ。俺小さい頃にウィズニー行ったきりでそういうの全然ないんだ。あっそうだ、女子のことだけどさっさと決めろよ。ほら見ろよ、お前目当てで女子たちがずっとこっち見てるぞ。いざこざが起こると面倒だから、その前にお前から誘ってやれよ」
 樋宮は愛想が悪くても顔がいいから、それがまたクールだなんて言われて、いつも黄色い声を浴びていた。
 お互い牽制し、機会を窺う女子を肩肘ついて眺めながら「テキトーでもいいから早く誘ってやれ」と促すが、樋宮に反応がない。ふと彼に顔を向ければ、樋宮は驚いたように目を大きく開いてこちらを見つめていた。
「な、なんだよ」
 あまりの表情に狼狽える。同時に不安が芽生えた。
「おいまさか班一緒になると思ってなかったのか? 俺ら大体一緒なんだからわざわざ断りなんて入れる必要ないだろ」
 そう不安をかき消すように言うが、まだ驚いたままの樋宮に一気に心細くなる。
「……もしかしてもう班の奴ら決めてた?」
 『俺と一緒は嫌なのかよ』と直接訊くのは反応が怖かったから半笑いで遠回しに訊くと樋宮は瞬時に「いやそれはねーよ」と何故かやや激昂気味に返事をした。
「んじゃさっきの顔はなんだったんだよ」
「だってお前修学旅行には行かないはず……いや、いつも林間学校とかお前パスしてたから今回もパスだろうって思って」
「そりゃあそうなんだけどよ。今回は普通に行けるぞ」
「もしかして親父さん許してくれたのか?」
「遠足だって無理なのに父さんが三泊四日の旅行を許すはずがないだろ」
「じゃあ無理じゃねぇか」
「それが出来たんだよ。父さん家を空けることも多いから必要なものは自分で買えるようにって通帳預けてくれてんだよ。旅行の金はそこから調達できたし、同意書なんかも父さんの字を真似て書いたら何の問題もなく通ったんだ。これで晴れて俺は初めて修学旅行に行けるってわけだ」
 嬉しさ満載で語るが、樋宮は表情を険しくさせる。
「だとしてもだ。親父さんに修学旅行行くこと伝えてないんなら当然騒ぎになるだろ」
「当日はメモでも残しておいたら流石の父さんも叱るだけで、騒ぎになるってことはないだろ。俺ももう高校生だし、修学旅行で学校の奴らと四六時中一緒にいることになるし安全なんだから父さんが心配することなんて一つもないさ」
 そう言ったのは楽観的な思い込みだったかもしれない。こんなことしたら龍一郎に嫌われるかもしれない。そんな不安が沸騰寸前の鍋の中のようにふつふつと湧き起こるが、もう生活の全てを縛られる窮屈さに耐えられるわけもなくて不安を胸の奥に押しやる。
 学校行事でも学校外に出るイベントは行くことを許されず、宿泊なんて以ての外。勇士に許された行動範囲は学校と家だけ。食材なんかも配達のみときつく言われている程だ。
 「みんなと一緒に遠足に行きたい」と強請っても龍一郎は「駄目だ」の一点張り。部活のサッカーだって学校外の試合なんかは参加させてもらえない。
 とにかく龍一郎は親の責務からか勇士を犯罪、事故などから徹底的に守るようにしている。勇士にとってはまるでゲージの中で注意深く管理されているようで窮屈だった。
 きっと樋宮は一緒に喜んでくれるものだと思っていた。しかし樋宮は眉間に深く皺を刻ませて、渋った顔のまま。
「お前まで父さんみたいなこと言うなよ」
 そう独り言のように言う。けれど樋宮はなんだか迷っている様子で黙っていた。
「樋宮君! 私たちと一緒の班にならない?」
 突如、派手目の女子三人がこちらにやって来る。しかし考え込んでいるのか聞こえていないのか樋宮に反応はない。
「樋宮君?」
「おい、樋宮」
 見かねて声を掛けてやっと樋宮が顔を上げる。
「俺、用事あるから鐵返事しといてくれ」
 首を傾げる暇もなく、突如樋宮が席から立ち上がり、教室を出て行く。
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