【完結】誓いの鳥籠

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第三話

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 立ち上がり、父の手によりプラグが抜けないようにきっちりとベルトに紐を繋ぎ、鍵を掛けられる。その様子を眺めながら勇士は慎重に言葉を選ぶ。
「あのさ、父さんお願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
「来週の土曜日、学校で練習試合があって……それで、その試合の間だけでいいから、中の、取っておきたいんだけど……」
「何か問題があるのか?」
「そんな大事の話じゃないけど……やっぱりない方が試合に集中出来るし、それにその方が父さんも手間がなくて楽だと思うんだ」
 日常生活を送る上ならまだしもスポーツだとやはり中にあると気になってしまう。しかも終始走りっぱなしのサッカーとなると尚更だった。
 それから排泄の度に忙しい父に連絡して下を外してもらうのも父に悪いと思った。せめて少しの間くらい父を煩わせたくなかった。
「駄目だ」
 一刀両断。威圧的な一言に思わず身がすくむ。
「その日は試合を見に行ってやれない。俺がいる時ならまだしも、お前一人だけの時に外すことは出来ない」
 そこまでどうして厳しく下を管理するのか。それは過去に何度も父に説明されてきたのでよく理解している。
「信用していないわけじゃない。これは親としての役目だ」
「……うん、わかってる」
 誤解はしていない。貞操帯を着けさせているのは単に父の親心だ。勇士が性に奔放になることを危惧しているのではなく、性犯罪に巻き込まれることを父は心配しているのだ。そう、つまり防犯のためだ。
 だから成長に応じてわざわざオーダーメイドで貞操帯を作り、二重の防止策として陰茎と後孔とで鍵が違うのだ。
「俺のことは気にしなくていい。多忙だとはいえ俺はお前の保護者だ。お前の全ての面倒は俺が責任を持ってみる」
 親としての責任だから面倒を見る。考えすぎかもしれないが息子への愛があるとは言い切れない文言に心の柔いところを突かれたようで、勇士は途端に途轍もなく寂しくなる。
「うん……」
 そう曇った表情で返事する勇士に父が訝しげな表情を浮かべる。口を開きかけたところで勇士も気付いて慌てて顔を作る。
「んじゃあ俺、学校行ってくるから。父さん、俺が口出しすることじゃないかもだけど、仕事は程々に、少しはゆっくり休んでな」
 父に余計な心配をかけるつもりはない。早々と下を履いていつもの調子でそう言い、扉を開けて逃げるようにそこを後にした。
 背中にリュック、肩にバッグを背負い、最後にリビングの棚に大事に置かれた写真立てに「お父さん、お母さん行ってきます」と声を掛ける。
 写真に映るのはこちらに笑いかける二人の男女。確かこれは新婚旅行先での一枚。どちらも幸せそうに微笑んでいて、見てるこっちまで心が幸福で包まれる。
 女性の笑ったところは勇士が笑みを浮かべる顔そっくりで、男性の顔立ちは生き写しのようにとてもでは言い表せない程勇士とよく似ていた。
 靴を履いて玄関の扉を開ける。外に一歩出ようとすると「行ってらっしゃい」と背後から声を掛けられる。
 その一言は事務的であまり温かみは感じない。けれど自分のためにわざわざ玄関に来て送ってくれることが嬉しくて勇士は元気よく「行ってきます」と返事をして外へ出た。
 そう父、鐵龍一郎は本当の父親ではない。本当の父と母は勇士がまだ赤ん坊の頃に旅行中の交通事故で亡くなった。龍一郎は父の親友であり、勇士の名付け親である。
 父は孤児で身寄りはいない。対して母は名家出身であったが、駆け落ちを経ての結婚だったため絶縁状態であった。そのため一人残された勇士を親友である龍一郎が引き取ったのである。
 龍一郎と勇士に血の繋がりはない。だからだろうか勇士は龍一郎とどこか距離を感じていた。
 親友の子だからと責任を持って育ててくれるだけありがたく愛情まで求めてしまうのは我儘かもしれない。
 けれど勇士は昔に経験した龍一郎との優しい日々が忘れられないでいた。
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