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ダンテの屋敷に着くと、大勢の使用人が列になって新しき二人目の主人を厳粛に迎えた。
侯爵なだけあって、ダンテの屋敷は俺の家よりかなり大きく美しい。応接間に通される。調度品も一目で良いものだと判断出来るくらい品があるものばかりだ。
だが俺にとっては窮屈な鳥籠に見えた。使用人は皆堅物そうで、品のある屋敷は小さな粗野さえ許さない。
ここに来てからまだ10分も経っていないが、もう外に出たい気分だった。執事が俺にそっと近付いてくる。
「ダンテ様は、翌朝お戻りになる予定です」
騎士団長としての業務が忙しいのだろう。
帰りは明日らしいが、そう言わず一週間後でも1ヶ月先でもいいのにと心の中で呟いた。しかし執事が俺にそう知らせた直後、扉が勢いよく開いた。
「はぁはぁはぁ……」
息を切らし、汗を流すダンテがそこにいた。彼は目を大きく開き、瞳に俺を映す。
「う……」
吐き気が急激に襲ってくる。手で口を覆えそうになるが、咄嗟に我慢する。
いつも通りグロい。
騎士なだけあって体は鍛えられており、首から下なら惚れ惚れする。ギリ片方の顔を隠せばアルファらしく男前だなとも思う。漆黒の髪、美しい海の瞳、端正な顔立ちで元々備わっている外見はかっこいいのだ。しかしもう片方の顔がその男前さに気付かせない程、グロで外見を上書きしてしまっている。
片方の頬が無残にも削られ、筋肉と歯が丸見え。光のない義眼が不気味さを更に増長させている。
そして更に彼は笑ってみせた。
まるでこれから人を殺して愉しむ気満々といった笑顔だ。
「……っ~!」
キュッと身が縮こまる。寒気さえした。
弟の言葉を思い出す。
『あの雰囲気、あれは絶対家庭で殴ってくる男だよ』
弟の予想は正しいかもしれない。あの笑顔でそう直感した。
彼が距離を近付ける。より鮮明になるグロに思わず仰け反る体を必死に抑える。
「貴方がここに来るのをずっと心待ちにしていました」
そ、それは自分の好きなように手を上げることが出来る相手がやっと手に入ったという意味だろうか。
「俺も……私も貴方に会えるのをとても楽しみにしておりました」
両親の顔を思い出し、言葉を正す。
ダンテは普段のだらしない俺を知っているからか少し驚いているようだった。
でもなんだか寂しそうに眉が下がっている。
しかしすぐダンテは気持ちを切り替えるように再びあの凶器的な笑みを浮かべる。
しかも先程の笑みより強烈だ。口角が鋭利に吊り上がっている。
ゾゾッと鳥肌が立つ。なんて恐ろしい。
「お手をどうぞ。屋敷を案内いたしましょう」
差し伸ばされた手はなんだかプルプルと小刻みに震えていた。
「は、はい」
手を取る。だが彼は動き始める様子はなく、体は石のように固まったまま。そしてただ添えるように握った俺の手をかっぴらいた瞳で凝視していた。
……目が、目が怖い。
俺は何かマナー違反をやらかしたのだろうか。
俺、殴られる!?
αとβの実力差は歴然。抵抗したって力じゃあダンテに敵わない。
「も、申し訳ございません。もしかして旦那様に何か失礼なことをしてしまったでしょうか?」
「だ、旦那様……」
ポツリとダンテが呟く。
手から今度は俺を凝視する。
「うっ……」
間近に瞳に映る、半分皮膚のない顔に精神的ダメージを食らう。
気が遠くなりそうだ。湧き上がる疲労をゴクリと飲み込む。
「あ、あの旦那様?」
本当に本当に嫌だったが、俺より少し背の高い彼を下から覗き込む。
「っ……」
ダンテは言葉を失っているようだった。それに皮膚を失っていない片方の頬が、熱を持ったように赤くなっていた。
「い、行きましょう」
急に俺の手を引き、早足で歩き出す。その様子はまるで俺から逃げているようだった。
侯爵なだけあって、ダンテの屋敷は俺の家よりかなり大きく美しい。応接間に通される。調度品も一目で良いものだと判断出来るくらい品があるものばかりだ。
だが俺にとっては窮屈な鳥籠に見えた。使用人は皆堅物そうで、品のある屋敷は小さな粗野さえ許さない。
ここに来てからまだ10分も経っていないが、もう外に出たい気分だった。執事が俺にそっと近付いてくる。
「ダンテ様は、翌朝お戻りになる予定です」
騎士団長としての業務が忙しいのだろう。
帰りは明日らしいが、そう言わず一週間後でも1ヶ月先でもいいのにと心の中で呟いた。しかし執事が俺にそう知らせた直後、扉が勢いよく開いた。
「はぁはぁはぁ……」
息を切らし、汗を流すダンテがそこにいた。彼は目を大きく開き、瞳に俺を映す。
「う……」
吐き気が急激に襲ってくる。手で口を覆えそうになるが、咄嗟に我慢する。
いつも通りグロい。
騎士なだけあって体は鍛えられており、首から下なら惚れ惚れする。ギリ片方の顔を隠せばアルファらしく男前だなとも思う。漆黒の髪、美しい海の瞳、端正な顔立ちで元々備わっている外見はかっこいいのだ。しかしもう片方の顔がその男前さに気付かせない程、グロで外見を上書きしてしまっている。
片方の頬が無残にも削られ、筋肉と歯が丸見え。光のない義眼が不気味さを更に増長させている。
そして更に彼は笑ってみせた。
まるでこれから人を殺して愉しむ気満々といった笑顔だ。
「……っ~!」
キュッと身が縮こまる。寒気さえした。
弟の言葉を思い出す。
『あの雰囲気、あれは絶対家庭で殴ってくる男だよ』
弟の予想は正しいかもしれない。あの笑顔でそう直感した。
彼が距離を近付ける。より鮮明になるグロに思わず仰け反る体を必死に抑える。
「貴方がここに来るのをずっと心待ちにしていました」
そ、それは自分の好きなように手を上げることが出来る相手がやっと手に入ったという意味だろうか。
「俺も……私も貴方に会えるのをとても楽しみにしておりました」
両親の顔を思い出し、言葉を正す。
ダンテは普段のだらしない俺を知っているからか少し驚いているようだった。
でもなんだか寂しそうに眉が下がっている。
しかしすぐダンテは気持ちを切り替えるように再びあの凶器的な笑みを浮かべる。
しかも先程の笑みより強烈だ。口角が鋭利に吊り上がっている。
ゾゾッと鳥肌が立つ。なんて恐ろしい。
「お手をどうぞ。屋敷を案内いたしましょう」
差し伸ばされた手はなんだかプルプルと小刻みに震えていた。
「は、はい」
手を取る。だが彼は動き始める様子はなく、体は石のように固まったまま。そしてただ添えるように握った俺の手をかっぴらいた瞳で凝視していた。
……目が、目が怖い。
俺は何かマナー違反をやらかしたのだろうか。
俺、殴られる!?
αとβの実力差は歴然。抵抗したって力じゃあダンテに敵わない。
「も、申し訳ございません。もしかして旦那様に何か失礼なことをしてしまったでしょうか?」
「だ、旦那様……」
ポツリとダンテが呟く。
手から今度は俺を凝視する。
「うっ……」
間近に瞳に映る、半分皮膚のない顔に精神的ダメージを食らう。
気が遠くなりそうだ。湧き上がる疲労をゴクリと飲み込む。
「あ、あの旦那様?」
本当に本当に嫌だったが、俺より少し背の高い彼を下から覗き込む。
「っ……」
ダンテは言葉を失っているようだった。それに皮膚を失っていない片方の頬が、熱を持ったように赤くなっていた。
「い、行きましょう」
急に俺の手を引き、早足で歩き出す。その様子はまるで俺から逃げているようだった。
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