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 多大なる戦果の褒美として王様はダンテに侯爵の位を与え、「一つなんでも望みを叶えよう」と言葉を待った。そしてアイツの口から出た望みが俺との結婚だった。
 自室に閉じ籠り、頭を抱える。王命は絶対。結婚しろと言われたら結婚するしかない。けど……。
 結婚したくない、結婚したくない、結婚したくない……!
 結婚はまだ先だし、それに俺は自由恋愛を経て結婚するはず!
 もし結婚出来なくてもシュルルの子どもを甘やかすおじさんポジを狙って、家族の暖かいひと時をお裾分けしてもらうつもりだった。
「そもそもなんでベータの俺が!? 男同士じゃあ跡取り残せねぇぞ。てかなんでよりによってダンテ・グレインなんだよ!」
 ダンテ・グレイン。元々は平民で騎士爵、そして侯爵へと成り上がった騎士だ。実力は前々から素晴らしく、新米の頃に村を襲った魔物を一人で倒した。しかしその際、魔物に顔を喰われたことで、顔面の半分が崩れてしまった。
 戦争で負傷する者は数多く見てきたが、ダンテ・グレインの傷は他と比べようもないくらい酷い。頬は無くて歯が丸見えだし、皮膚は痛々しい傷跡で、目だって義眼だ。
 その見た目から皆に恐れられ恐怖の騎士と呼ばれている。
 俺には苦手なものがある。それはグロテスク。騎士として戦ってきたが、これだけは慣れなかった。
 だから戦う時はいつも心臓狙いの一撃で剣を振るってなるべくグロい光景にさせないように心がけてきた。
 アイツの顔が魔物から村人を守った名誉の傷だってわかっててもグロいもんはグロい。そんなグロホラーにまともに顔を見れなくて、訓練場なんかにアイツが現れたら自然な感じでそっと立ち去っていた。
 それにグロいだけじゃない。アイツの性格が苦手なんだ。
 アイツは自分にも他人にも厳しいことで有名だ。部下に対し、厳しく叱責する姿を何度も見ている。その姿はまさに魔王。
 自由奔放な俺に対し厳しく叱る奴はこれまで何人もいたが、大体はもう何も言うまいと呆れる。だが奴は会う度、俺を咎めるような視線で睨みつけてくる。なんて無礼で怠慢な男なんだってな。
 それがダルいってなんの。しつこく無理矢理矯正しようとしてくる感じが駄目だ。
 何のつもりで俺と結婚するだなんて言い出したか分からんが、あんな奴と結婚だなんてまっぴらごめんだ。
「可哀想な兄ちゃん」
「うおっ!?」
 驚いた。いつの間にかシュルルが部屋にいやがる。しかも同情の言葉に似合わず、ニンマリ笑っている。
「シュルル、勝手に人の部屋に入ってくんじゃねぇよ」
「だって可哀想で無様な兄ちゃんなんて見なきゃ損じゃん」
「てめぇ……」
 俺の不幸が面白くて仕方がないのだろう。笑顔がムカつく。
「出てけよ!」
「でも本当に可哀想。武勲で王様から褒美を許されて、それで強請ったのがまさか兄ちゃんとの結婚だったとはね。兄ちゃん、身の振る舞い方には気をつけておいた方がいいよ。下手したらあの怪物に食べられるからね」
「人の話を聞けっての」
「骨になった兄ちゃんが棺で帰ってきたら流石に……笑い死ぬ!」
 ひどい弟だ。俺への日々の鬱憤を晴らすように腹を抱ええて笑ってやがる。
「アイツは騎士だぞ? 怪物でも人喰いでもない」
「そうかなあ。騎士の面被ってるだけかもよ。でもこれは確実。あの雰囲気、あれは絶対家庭で殴ってくる男だよ」
 想像に容易いのが最悪だ。
 兄が俺を想って結婚はなしにしてくれるように頑張ってくれたらしいがやっぱり王命は絶対。唯一叶ったのは結婚式の中止だ。大勢の前であのグロホラーのダンテとキスなんて出来るわけないと俺は暴れるように兄に感情をぶちまけた。兄はそのことを角が立たないようにダンテに伝えてくれたおかげで結婚式はなしに。結婚式を中止にするだなんて前代未聞、家に泥を塗る気かとダンテに猛反対されるかと思ったが、案外要望はすんなり通った。
 嫁ぐ日、馬車の前で家族揃って俺を見送る。
 頬に優しく手を添えて、兄が止められなかった結婚に嘆く。
「頼りない兄ですまない」
「兄様、大丈夫。これまでたくさんの戦を乗り越えてきたんだ。今回だってきっと乗り換えられる」
 安心させようとしたのだが、兄は、俺が無理をしてそう言っているのだと、見透かしているように逆に辛そうな表情を浮かべる。
「何かあったらすぐに知らせるんだ。俺が必ずお前を守る。戦場で今までそうしてきたように」
 兄の想いに胸を打たれる。
 対して両親はどうだろうか。
「キクル、頼むから家名を汚すなんてことは絶対にしないでくれ」
うちでのような振る舞いは決してしないで。きちんとお行儀よくするのよ」
 両親は家の面目を守ろうと、頭を下げる勢いだ。
「キクル、本当に頼むぞ」
 父に腕を掴まれ、言葉の重みがそのまま腕に伝わる。母は心配なのか、歳を一回りとったような形相だ。これまで見たことのない2人の必死さに俺も流石に首を横に振ることは出来なかった。
 弟はそんな状況を祭でも見ているかのように楽しそうに傍観していた。コイツ絶対許さない。
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