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第五話
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大きな音を立てて走る車。
それに混乱して逃げ込んだ先は不幸にも歓楽街。夜なのにビカビカととても明るくて目がおかしくなりそうだった。それと人が多くて騒がしい。
僕も人間だから踏み潰される心配はいらないけれど、急に大声をあげたり、「今、お店探してますか?」なんて話しかけてくる人なんかがいて怖かった。
そしてなるべく暗く、人のいない裏道に逃げて僕はそこで蹲り、一歩も動けないでいた。
「うぅ……、人間怖い。帰りたい」
僕の精神状態を分かりやすく説明するならホラーゲームを現実で体験して硬直しているような感じだった。
けれど二階堂くんに会いたい。
とは言っても二階堂くんの居場所さえ分からない。
感情だけが突っ走り、動いてしまった自分の無計画さに頭を悩ませる。
これからどうしよう。一旦静かな動物園に戻って二階堂くんに会う方法を考えた方がいいのだろうけど、帰り道も分からない。
心細くてポロポロと瞳から涙が溢れる。
「大丈夫ですか?」
ふと声を掛けられビクッと肩が大きく跳ねる。
顔を上げると体格の大きい男の人が心配そうに僕を窺っていた。
「…………」
体格差に恐怖で声も出ない。
体は壁のようで簡単に僕を握り潰せそうだ。
恐怖が加速し、ウォンバット特有の習性が働く。
ウォンバットは敵に襲われると巣穴に入り、頭隠して尻隠さずの状態になる。これは固い尻を生かした身を守る術で、たとえお尻を咬まれても痛みは感じない。
今の僕もそんな状態で、四つん這いになって相手に尻を突き出していた。
「……!」
巣穴がないのが心許ないけれど生き残りたい一心で姿勢を崩さないように頑張る。
「えっ!? ……あ、あの──」
「なんでもしますからどうか命だけは取らないでください!」
命乞いをすれば流石に同種を襲うような真似はしないだろうと縋る。
「店長、グラスなんですけど……」
突如、居酒屋の裏口から前掛けをしたもう一人男が現れ、絶望する。けれどその顔を見て僕は心から救われた。
「旭!」
ドタドタと駆けつけて勢いのまま抱きつく。「うわ!」と旭が僕に驚き、よろめく。
「旭~、怖かったよぉ~!」
旭に対する嫉妬も忘れて、頬を濡らして安堵する。旭は当然顔も名前も知らない僕に抱きつかれて困惑していた。
「だ、だれ!?」
「うわぁん! あさひ~、っひぐ、うぇ~ん」
「ちょ、えっとその……と、とりあえず落ち着こう。な?」
取り乱す僕に旭が安心させようと背中をポンポンと軽く叩く。おかげで次第に涙も収まり、嗚咽交じりながらも普通に話せるところまで回復する。
「あの、一旦離れてもらえないかな?」
泣き止んでも抱きついたままの僕に旭はお願いするけれど、場所も人も何もかも未知数な空間でやっと見つけた顔見知りを手放す気は更々ない。
「やだ!」
そう言って更にぎゅっと抱きしめる力を強めると旭は諦めたようだった。無理矢理引き剥がそうとはしないでなすがままの状態になる。
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