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第十一話
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なぜこうも当たり前に俺が抱かれる側なのか理解出来ない。男らしさで言えば断然俺の方がアレクシスより上じゃないか。
憤慨するが、こうなる未来がすぐ近いことを思い出して冷静になる。アレクシスが部屋を出てから時間はしばらく経ってる。いつ戻って来てもおかしくはないだろう。
預言書を見せて誰とも致していないことを証明することで誤解を解くという方法はあるが、あれは無理矢理両想いというエンドになっているためアレクシスにとっては好都合な未来だ。だから預言書は救いにならないだろう。
とりあえず枷の作成は阻止しておきたい。あれが出来上がるとあいつ自身歯止めが効かなくなりそうだ。廊下で待ち伏せしてよう。そう扉を開けると、丁度アレクシスが床に置いた鉄の調理器具や武器に呪文を唱えているところだった。
「……バルタザール」
まさか見られると思っていなかったのか、アレクシスは心臓が止まったように驚いていた。俺も丁度遭遇するとは想定していなくて戸惑ったが、状況としては幸運だろう。
「アレクシス、こんなとこで何やってんだ?」
あくまでも訝しむ感じで訊ねる。アレクシスは事がバレると思ったのだろう。額につうっと焦りの冷や汗が伝う。
「え、えっと、……そう、旅道具を揃えようと思って。それで廃屋に丁度いいのがあったから拾ってきたんだ」
「確かに手入れは必要だがいいものだな。よし、部屋に置くのを手伝おう」
金はあるのだから旅道具は買えばいいじゃないかと問い詰めるのはあえてしなかった。床のそれらを全て両腕に抱えて、俺のベッドの下に「ここだと場所は取らないから」という理由で押し込む。その間、アレクシスは「あ、え」とやめて欲しそうな顔をしていた。
それからまるで日常の一場面のように自然と手首をクンクンと嗅いで会話を繋げる。
「まだいい匂いがする。試供品でいい匂いだったからつけてみたんだが、結構長持ちするんだな。今度店に寄ったら買っていくか」
香水の匂いは誤解なのだと伝える。するとアレクシスは気付いたようだった。なんだか申し訳なさそうな態度に変わる。
「……そうだったんだ。だから今日はいつもよりいい匂いがしたんだね」
それから最重要ポイント。アレクシスは当然のように俺が抱かれる側だと思っているようだったが、それだけは正しておきたかった。
「おい、男の器だと俺とお前どっちが大きいと思う?」
「え、どうしたの? 急に」
「どっちが大きい?」
「……勿論、バルタザールだよ」
「だよな。ならもしも男同士でだ、そういうことするなら勿論俺が男役だよな?」
腕組みをして自信たっぷりに誤解をなくす。しかし返ってきた言葉は想像していないものだった。アレクシスはぽうっと仄かに灯る炎のように頬を赤らめる。
「バルタザール、もしかして俺を誘ってるの?」
「はあ!?」
「だって急にそんな話題出すから」
「男同士ならたまに下世話な話くらいするだろ! 勘違いするな!」
「でもバルタザール、男には興味なかったよね? こんなこと話すって俺のこと意識してくれてるの?」
「そ、そんなつもりじゃあ……」
誤解を早く解きたいと焦ったせいで新たな誤解を与えてしまう。起爆間近の爆弾を抱えているような気持ちだった。にじり寄ってくるアレクシスとは反対に距離を取るが、背中が壁に当たる。
思い出したのはいかがわしい本に綴られたアレクシスの下で喘ぐ俺の惨めな姿だ。
アレクシスは着々と距離を縮め、伸ばした手が頬に触れるところでもう耐えられなかった。
「来るな!」
自分の鼓膜が振動するくらい大声を部屋に響かせる。アレクシスの手がビクッと止まった。
「気色悪い! 俺はな、男になんか興味ないんだよ! なのに毎日、毎日……お前から劣情をぶつけられるのは正直言って迷惑なんだよ! いつも些細なことで発情しやがって気持ち悪い! 俺の気持ちも少しは考えろよ!」
アレクシスの伸びた手が下がる。彼に対する疲労もあったし、尊敬していたライバルと今の姿の酷い落差が心底嫌だったのもある。言いたいことは止まらない。
「お前はピンチに俺が駆けつけたことで少し舞い上がってるだけなんだよ! 確かに俺が追い風吹かすようなお前を勘違いさせる言動を取っていたかもしれない。だがいつかは気持ちも冷めるし、そもそも俺はお前をライバルだとしか思っていない。それ以上は無理な話だ!」
遂に言い切って体がいつの間にか熱くなっているのを感じる。やはりアレクシスはひどく落ち込んでいるようだった。俯いた顔に落ちた影は暗く、弱々しく「ごめん」と謝る。
「君の気持ちを考えず自分の気持ちを優先していた。君にとっては本当に気持ち悪かったと思う。本当にすまない」
アレクシスが心から反省していることが伝わってくる。そこでやっと俺も冷静さを取り戻した。
「俺は別にお前の全部を嫌いになったわけじゃない。俺は今でもお前をライバルとして尊敬している」
アレクシスは救いを見出したかのように顔を上げる。
「俺もお前に中途半端な態度を取っていたのは反省しているんだ。だからこれからはちゃんと距離を取ろう。仲間として適度な距離に戻すんだ」
「……そうだね」
ちょっと寂しそうにしているがアレクシスは了解してくれた。
「あともう一つ。二度とかわいいって言うな」
矜持が削がれるその言葉は前から腹立たしかった。アレクシスはそれにも謝り、わかったと受け入れてくれた。
正直、気持ち悪い云々を口走った時はやってしまったと思った。あいつにとっては俺しかいないのに、俺が突き放してどうするんだと。だが実際はあまり悪い方向の結果にはならなかった。
心配のしすぎだったのかもしれない。もう少し早くフッてやればよかったと少し後悔した。
憤慨するが、こうなる未来がすぐ近いことを思い出して冷静になる。アレクシスが部屋を出てから時間はしばらく経ってる。いつ戻って来てもおかしくはないだろう。
預言書を見せて誰とも致していないことを証明することで誤解を解くという方法はあるが、あれは無理矢理両想いというエンドになっているためアレクシスにとっては好都合な未来だ。だから預言書は救いにならないだろう。
とりあえず枷の作成は阻止しておきたい。あれが出来上がるとあいつ自身歯止めが効かなくなりそうだ。廊下で待ち伏せしてよう。そう扉を開けると、丁度アレクシスが床に置いた鉄の調理器具や武器に呪文を唱えているところだった。
「……バルタザール」
まさか見られると思っていなかったのか、アレクシスは心臓が止まったように驚いていた。俺も丁度遭遇するとは想定していなくて戸惑ったが、状況としては幸運だろう。
「アレクシス、こんなとこで何やってんだ?」
あくまでも訝しむ感じで訊ねる。アレクシスは事がバレると思ったのだろう。額につうっと焦りの冷や汗が伝う。
「え、えっと、……そう、旅道具を揃えようと思って。それで廃屋に丁度いいのがあったから拾ってきたんだ」
「確かに手入れは必要だがいいものだな。よし、部屋に置くのを手伝おう」
金はあるのだから旅道具は買えばいいじゃないかと問い詰めるのはあえてしなかった。床のそれらを全て両腕に抱えて、俺のベッドの下に「ここだと場所は取らないから」という理由で押し込む。その間、アレクシスは「あ、え」とやめて欲しそうな顔をしていた。
それからまるで日常の一場面のように自然と手首をクンクンと嗅いで会話を繋げる。
「まだいい匂いがする。試供品でいい匂いだったからつけてみたんだが、結構長持ちするんだな。今度店に寄ったら買っていくか」
香水の匂いは誤解なのだと伝える。するとアレクシスは気付いたようだった。なんだか申し訳なさそうな態度に変わる。
「……そうだったんだ。だから今日はいつもよりいい匂いがしたんだね」
それから最重要ポイント。アレクシスは当然のように俺が抱かれる側だと思っているようだったが、それだけは正しておきたかった。
「おい、男の器だと俺とお前どっちが大きいと思う?」
「え、どうしたの? 急に」
「どっちが大きい?」
「……勿論、バルタザールだよ」
「だよな。ならもしも男同士でだ、そういうことするなら勿論俺が男役だよな?」
腕組みをして自信たっぷりに誤解をなくす。しかし返ってきた言葉は想像していないものだった。アレクシスはぽうっと仄かに灯る炎のように頬を赤らめる。
「バルタザール、もしかして俺を誘ってるの?」
「はあ!?」
「だって急にそんな話題出すから」
「男同士ならたまに下世話な話くらいするだろ! 勘違いするな!」
「でもバルタザール、男には興味なかったよね? こんなこと話すって俺のこと意識してくれてるの?」
「そ、そんなつもりじゃあ……」
誤解を早く解きたいと焦ったせいで新たな誤解を与えてしまう。起爆間近の爆弾を抱えているような気持ちだった。にじり寄ってくるアレクシスとは反対に距離を取るが、背中が壁に当たる。
思い出したのはいかがわしい本に綴られたアレクシスの下で喘ぐ俺の惨めな姿だ。
アレクシスは着々と距離を縮め、伸ばした手が頬に触れるところでもう耐えられなかった。
「来るな!」
自分の鼓膜が振動するくらい大声を部屋に響かせる。アレクシスの手がビクッと止まった。
「気色悪い! 俺はな、男になんか興味ないんだよ! なのに毎日、毎日……お前から劣情をぶつけられるのは正直言って迷惑なんだよ! いつも些細なことで発情しやがって気持ち悪い! 俺の気持ちも少しは考えろよ!」
アレクシスの伸びた手が下がる。彼に対する疲労もあったし、尊敬していたライバルと今の姿の酷い落差が心底嫌だったのもある。言いたいことは止まらない。
「お前はピンチに俺が駆けつけたことで少し舞い上がってるだけなんだよ! 確かに俺が追い風吹かすようなお前を勘違いさせる言動を取っていたかもしれない。だがいつかは気持ちも冷めるし、そもそも俺はお前をライバルだとしか思っていない。それ以上は無理な話だ!」
遂に言い切って体がいつの間にか熱くなっているのを感じる。やはりアレクシスはひどく落ち込んでいるようだった。俯いた顔に落ちた影は暗く、弱々しく「ごめん」と謝る。
「君の気持ちを考えず自分の気持ちを優先していた。君にとっては本当に気持ち悪かったと思う。本当にすまない」
アレクシスが心から反省していることが伝わってくる。そこでやっと俺も冷静さを取り戻した。
「俺は別にお前の全部を嫌いになったわけじゃない。俺は今でもお前をライバルとして尊敬している」
アレクシスは救いを見出したかのように顔を上げる。
「俺もお前に中途半端な態度を取っていたのは反省しているんだ。だからこれからはちゃんと距離を取ろう。仲間として適度な距離に戻すんだ」
「……そうだね」
ちょっと寂しそうにしているがアレクシスは了解してくれた。
「あともう一つ。二度とかわいいって言うな」
矜持が削がれるその言葉は前から腹立たしかった。アレクシスはそれにも謝り、わかったと受け入れてくれた。
正直、気持ち悪い云々を口走った時はやってしまったと思った。あいつにとっては俺しかいないのに、俺が突き放してどうするんだと。だが実際はあまり悪い方向の結果にはならなかった。
心配のしすぎだったのかもしれない。もう少し早くフッてやればよかったと少し後悔した。
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