闇堕ちから救ったら俺堕ちしたんだが

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第八話

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『明星のアラウザル 色欲の監禁』より


 アレクシスは抱きしめていたバルタザールの胸に顔を埋めた瞬間、誰かの影を感じた。バルタザールは普段香水はつけずそれでも色っぽい匂いを放っているが、その匂いに甘い欲情を誘う人工の香りが混じっていた。
 夜遅かったのはこれが原因かと悟り、誰かがバルタザールに触れたという事実に発狂しそうになる。
 今回は様子から察するに、無理矢理ではないからいいものの、バルタザールに言い寄って来る者は虫の数程いるだろう。彼がいやらしい目つきで見られていると思うと殺意が湧いてくる。それに自覚がないようだがいつ襲われてもおかしくないのだ。
(やはり俺がバルタザールを守らなければ)
 そうアレクシスは使命感を抱く。
 バルタザールが一緒にお土産を食べようと言い出し、食器と酒を主人に頼むようにと任された段階でアレクシスは既に彼を監禁する気でいた。外に出て、近くの廃屋に捨ててあった鍋や錆びた剣を拾い、宿に戻って主人に食器と酒を頼む。
 ふと獣人の主人を前にしてバルタザールの優しさに浸る。バルタザールは人間を憎む自分のために、人間と鉢合わせしないよう宿を貸切にし、更に宿の主人も獣人のところを選んだのだ。
 片腕に抱えた鉄のそれらに獣人の主人が怪訝な表情を浮かべるが、「旅道具で、中古屋で買ってきたんです。あまり物はよくないですけど手入れをすればまた使えますから」と言えばすぐに納得してくれた。
 バルタザールが待つ部屋の扉の前に立つ。そばには花瓶が佇む小さなテーブルがあり、その隣に一旦食器と酒を置く。片腕に連れていた鍋や剣は床に置いて、アレクシスはバルタザールに気付かれないように小さな声で呪文を唱えた。
 調理器具や武器だったそれらは瞬く間に光を放ち、そして首輪と鎖のついた手枷、足枷に変化する。アレクシスはその二つを持って部屋に戻った。
「随分と遅かったじゃないか」
 待ち侘びたといった様子でバルタザールが出迎える。しかしアレクシスの手元を見た途端、表情に戸惑いが生まれる。
「……どうしたんだそれ?」
「君を守るために必要なんだ」
「お前、何言って……」
「俺の行動は理解出来ないと思う。だけど君にとってはこうすることが一番なんだ」
 何かを察したらしいバルタザールが警戒心を強く構え、隙を狙って扉へ逃げようとする。
 彼に向かってアレクシスは力を封じる術を掛けた。バルタザールの体からはみるみる内に力が抜けていき、床にへたり込んでしまった。
 彼にとっては訳もわからない状況だろう。体を動かそうとするが指先がプルプルと震えるだけで「何故動かない!?」とかなり焦っていた。アレクシスはそんな彼を安心させようとそばに屈んで腕で背を支えるようにして寄り添い、優しく声を掛ける。
「暴れてしまうと傷がついちゃうから体の自由を一時的に封じたんだ。大丈夫、後できちんと魔法は解くから」
 よいしょと姫抱きにしてベッドへそっと横たわらせる。まずは腕と足に枷をつけてベッドの脚に鎖で固定する。首輪をしようとするとバルタザールは抵抗しようと暴れるが魔法により体は力んで震えるだけだった。
 首輪の鎖は余裕をもたせてベッドの脚に固定して大の字の状態に拘束する。バルタザールは恐怖を感じているだろうにも関わらず反抗心は崩れない。
「何故こんなこと」
「心配で判断が鈍ってたけど、確かに君は攫われるような弱い人間じゃない。でも襲われてしまったらたとえ君であっても無事ではいられない」
「何故そう言い切れる。何人相手でも身一つで勝てるくらいの実力はある」
「本当にそうかな? もし中を犯されたら君は立っていることも出来ない。それで抵抗することも出来ずに尊厳と純潔を踏み躙られるんだ。そんなこと俺は許さない」
 バルタザールの上を脱がすと彼は流石に恐怖で顔を歪めた。ぬるま湯で濡らしてきたタオルを手に安心させるように言う。
「大丈夫、穢れたところを拭うだけだから。だからどこを触られたか教えて」
 何をしてきたか筒抜けだとバルタザールは気付いたようだが、誰かに触られてもアレクシスに触らせるつもりはないらしい。「今すぐ枷を外せ。こんなことやめろ!」と訴える。
「そんなに信用出来ないの? 俺は別に性的なことはしないよ。ただ君を綺麗にしたい」
 だがバルタザールは協力する気はないらしく、再び逃げようと動かない体で精一杯もがく。
「わかった。じゃあ一旦全身を拭いていくね」
 バルタザールの体に染みついたあの臭い香水が消えるまで丹念に拭いていく。この行為は彼のためだと言ったが、嫉妬が存在していることは否定出来ない。
 バルタザールが触れた人間を教えてくれるのならその人間を消してやりたい。だが彼は優しいからその人を思って教えるなんてことはしないだろう。
「っん……」
 穢れが酷いだろう胸の尖りをゴシゴシと拭っているとバルタザールが甘い息を漏らす。案外感じやすい体のようだ。だがそれが恥ずかしいのか、認めたくないのか唇を噛んでまで声を抑えていた。
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