闇堕ちから救ったら俺堕ちしたんだが

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第六話

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 獣人自体数は少なく、そのため野蛮だと差別されることも多い。その差別から逃れようと彼らは獣人の国を作った。国の名はフラフィン。そこでは王や皇帝という者は存在せず、みんな平等でお互い助け合って生きているのだとか。
 フラフィンは世界の果てに確かに存在するという。だがどこにあるのかは誰も知らない、誰もその国を見たことがない。
 本をペラペラを捲る。やはりフラフィンの詳細はあやふやで西にあるのか東にあるのかさえ分からない。本をまた積み上げる。テーブルにはもう既に三つの本の塔が出来上がっていた。
「はぁ……」
 広い図書館にため息が消えていく。
 アレクシスにとって憎い人間と暮らしていくことは難しいだろう。であれば人間のいない森の奥深くか、人間のいない国に住むのが一番だ。
 森では孤独になってしまう。だから人間のいない、つまり獣人の国フラフィンを探すことにしたのだが。
 図書館に赴き、片っ端からフラフィンについて調べたがふわふわとしたおとぎ話のような情報ばかりで確かな手がかりはない。
 窓を見ればもう夕方で閉館の時間も近い。また明日、見落としがないか調べるとしよう。もしそれでも何も情報が得られなかったら次は地道に人に訊くしかないだろう。
 一日中調べていたせいで肩が凝っていた。外に出てグッと腕を空に突き出して背を伸ばす。疲れた。酒でも呑もう。
 酒場ではそれなりに人がいてカウンター席で酒を頼む。ちなみに帝国での俺の身分は伯爵だったから急な逃亡で持ち出した所持金でもアレクシスと二人で一生庶民の暮らしが出来るくらいの額はある。
 酒を嗜んでいるとちらちらと視線を背後から感じる。見ると線の細い青年が色情をのせた眼差しを向けていた。こういった状況は少なくない。帝国にいた頃も男から夜の誘いを受けることは度々あった。
 別に男色に興味はない。気付いていないフリをして喉に酒を通す。ついでに店主にフラフィンについて訊いてみる。
「フラフィン? てっきりおとぎ話の国だと思っていましたが本当に存在するんですね」
 やはりそう簡単に情報を掴めはしない。酒を呑みながらアレクシスの留守番のご褒美を何にしようかと考える。
 ここでごちそうを包んでもらおうか。アレクシスは何の料理が好きだったか。
「フラフィンのことなら知ってますよ」
 声に振り返ると先程俺をじっとりと見ていた青年が寄って来ていた。酒が回って欲が抑えられないのか顔が発情していますと言っている。こういうのはあまり相手にしない方がいい。本気にしないで話す。
「そうか。どんなことを知ってるんだ?」
「それは秘密です」
「そうか、残念だ。教える気になったら教えてくれ」
 そう適当に流して前に向き直ると焦った様子で彼が喋る。
「地下にあると聞いたことがありますよ! じめっとしたところに虫のように獣人が蠢いているとか」
 差別的な表現に眉間に皺を寄せる。
「嘘を言うのはやめろ」
「本当ですよ! 僕の知り合いが冒険家で出会った獣人から直接教えてもらったそうなんです」
 思ったより具体的な経緯に真偽を判断出来なくなる。もう少し真剣に話を聞いてみてもいいかもしれない。
「それで? 地下だと言うが、大体どの辺りにあるんだ?」
「……知りたいですか?」
「ああ」
 青年がうっとりと笑みを浮かべ、顔を寄せる。色気漂う香水の匂いが鼻腔をくすぐった。青年が耳元で囁く。
「じゃあこの後僕と遊んでください」
「…………」
 俺は男に興味はない。だが青年の顔はまあまあいい方だし、部屋を暗くすれば多分抱けないこともないだろう。
 一夜相手をすれば易々と情報が手に入る。短い逡巡の後俺は「わかった」と答えてしまった。青年が乙女のように喜ぶ。
 アレクシスが好きだと言っていた鹿の肉料理を店主に包んでもらい、青年とそういった類の宿に入る。
 部屋に入って早々、青年は俺をベッドへ押し倒した。青年が馬乗りになって胸から腹へと鍛えられた肉体に沿って手で弄る。
「体凄いね。もしかして騎士だったりする?」
「……以前はな」
 青年の細い指先が俺の太腿に向かい、性を呼び覚まそうとさわさわと触れてくる。股を這って布越しに中心を確かめる。だが当然、俺は何の熱も昇っていなかった。
「緊張してる? 男が初めてだとか?」
「勝手に決めつけるな。俺としたいのならその気にさせろ」
 青年は唆られるといった感じで顔を赤くさせる。すると彼は「じゃあ手だけ貸して」と手を重ねて俺の指を操作する。青年は俺の手で自身の下を脱がせ、既に屹立したそれを握らせようとする。俺はパッと手を引っ込めて青年の肩を押してベッドから降りさせる。
「俺は手伝う気はない。自分で慰めろ」
 ベッドから冷たく見下ろすと床にこてんと座る青年は目を細めて「はい」と従順に自身のに手を伸ばす。
 見られているのが興奮するらしい。青年はすぐに果てた。吐き出した白濁がたらりと掌を伝う。
「はぁはぁ……ほら見ていっぱい出たよ」
「そうか」
 青年が俺の足の間に入り、下を脱がせ始め、「舐めてもいいよね?」と上目遣いで訊いてくる。だが俺は至極冷静だった。
「その前にフラフィンについて教えろ」
「終わった後で教えるよ」
「今教えろ。じゃなきゃ俺がここにいる意味はない」
「……そんなこと今はいいじゃん。ほら僕に身を任せて」
 青年が首筋に顔を埋めて、シャツを脱がし始める。肌に当たる柔らかな唇の感触は性急で、なんとか丸め込もうとしているのがありありと伝わった。
 そこで俺は青年の話が嘘であることを悟った。ベッドから腰を上げて、身なりを整えながら宿代を余裕で払える額をテーブルに置く。突然の行動に青年が慌てる。
「えっ、どうしたの?」
「帰る」
 そう一言だけ残して、宿を出た。やはり楽な道などないのだと思った。
 酒場のお土産片手にアレクシスの待つ宿に戻る。扉を開けた途端、アレクシスが飛びついてくる。
「うわっ──!」
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