闇堕ちから救ったら俺堕ちしたんだが

文字の大きさ
上 下
5 / 11

第五話

しおりを挟む
 俺は怒っていた。眠っているという無防備な状態を利用して勝手に俺を性欲の発散に使っていたとは。気色悪ささえある。
「バルタザール、本当にごめん! 二度とやらないから! だからどうか俺に顔を見せてくれないか!」
 扉の向こうからアレクシスの懇願が響いてくる。締め出してからずっとこの調子だ。もう陽は昇り、三時間は経とうとしている。
 そもそもだ。部屋は別で鍵もかけていたのだ。だがアレクシスがどうにかして合鍵を作り、夜中に俺の部屋に侵入した。
 それで終わった後は「ごめん。出しちゃった」だと?
 俺に気付かれても快楽に走ったことへの謝罪か。
 あくまでも好きな人への心配りはなく、自分を優先させたアレクシスの性根に更に苛立つ。
「このクソッタレ。お前はこんな奴じゃなかっただろうが」
「バルタザール、すまない。……でも君を見てるとコントロールが効かなくなってくるんだ。まるで俺自身じゃなくなるみたいで」
「知るかそんなこと! だからってあんな真似していいと思ってんのか!」
「もう二度としない。約束する! だから顔を見せてくれないか。君を瞳に入れていないと俺は寂しくてどうにかなっちゃいそうなんだ」
「約束だなんて口ではなんとでも言える」
「……分かった。なら誠意を見せるよ」
 すると扉の向こうからブチッブチッと不穏な音が聞こえてくる。俺は嫌な予感がして慌てて扉を開けた。
 一部だけ変身した、背中から翼を生やしたアレクシスがその翼の羽をむしっていた。床には羽の山が出来上がっている。
「バルタザール……」
 俺の顔を見れて嬉しそうにアレクシスが目を細める。俺は更に激怒した。
「馬鹿野郎! 何やってんだ!」
 俺はアレクシスの背後に回って、翼がどんな状態か診る。幸いにも羽は少なくなっていても本物の鳥肌にはなっていなかった。俺がいち早く駆けつけなかったらどうなっていたことか。
 安堵のため息を吐く。そんな俺をアレクシスは目を丸くして見つめていた。
「俺を心配してくれているの?」
「あったり前だろうが。鳥にとって翼は大事なものだろ。それを無下に扱ったりするな」
「……うん」
 そう答えるアレクシスは感動しているようだった。
「本当にバルタザールは優しいね」
「ったく。なんでこんなことしたんだ」
「俺にとって大切なものを捧げたら誠意が届くと思ったんだ」
 またため息を吐く。今度のは呆れだった。腕を引いて
「入れよ」と部屋の中に連れていく。
「バルタザールが俺に触れてる……」と変態じみた声が聞こえた気がしたが知らんぷりだ。
 ベッドに座らせ、注意深く翼を見る。
「あとはどこもむしっていないんだろうな」
「うん。大丈夫」
「今日からツインにしてもらおう。そしたら合鍵を作って無理矢理中に入ることもないだろ」
「……いいの?」
「約束は守れよ」
 アレクシスが縦にブンブンと頭を振る。
「なぁお前俺のこと好きか?」
 にこぉっと頬を染めてアレクシスが笑みを浮かべる。
「大好きだよ」
 言わずもがなか。
「じゃあ俺以外の人間は?」
 緩んでいた顔が一気に冷たいものへと変わる。
「嫌い。アイツらは生きてることさえおかしいんだ。塵に帰るべき汚物のような存在だ」
「国の奴らには俺も怒ってる。だがここの人間はまた別だと思うが」
「君を除いて人間なんてほぼ一緒だ。愚かで薄情で欲深くて穢らわしい」
「……なら駄目だな」
 「へ?」とアレクシスが間の抜けた顔をする。
「俺は街に出かけるからお前は留守番しとけ」
「えっ出かけるの!? だったら俺も──」
「人間に危害を加えるような奴を連れて行くわけにはいかない。ここでまたお尋ね者になるのは色々と面倒だからな」
 そこでアレクシスは質問された意図を悟ったようだった。ガックリと肩を落として床に膝をつく。頭を抱えて唸り出す。
「ぁあああ、俺はなんてことを……。デートに誘われるはずだったのに。デートなら人混みでも唇噛んで我慢出来るのにぃ……。っう、う」
「はぁ!? お前泣いてんのか!?」
 気付けばアレクシスは床に手をついてポロポロと小さな雨を降らせていた。
「俺の馬鹿さ加減が悔しくて。あと本当に一緒に行きだい゛……」
 なんだか痛々しくてアレクシスの瞳を見れない。
「そんなに俺とデート……いやそもそもデートじゃねぇし!」
 恥ずかしくなって「じゃあ大人しく待ってろよ。そしたら御褒美やらないこともないから」と早々と部屋を出た。
 なんだかアレクシスに呑まれている気がする。
 まったくなんでこんなことになったのか。ライバルとして認められるなら嬉しい限りなのに好きになられるなんて。正直面倒だ。
 アレクシスは一人で生きる力がある。だから後は放っても大丈夫だし、そうしたい。
 だが見捨てられないのはアレクシスの心の支えが俺しかいないと分かってるからだ。
 俺がいなくなったらアレクシスはどうなる。人間も信用出来ないのだ。きっと孤独で心は傷ついたままだ。
 俺は甘いのだと思う。俺の唯一のライバルだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

処理中です...