闇堕ちから救ったら俺堕ちしたんだが

文字の大きさ
上 下
4 / 11

第四話

しおりを挟む
 アレクシスがおかしくなったのは一時的なもの。時間が経てば治ると思っていた。しかし隣国ナザルに着いても鉤爪で俺の足を掴んで求愛行動を示したり、大きな嘴で俺の頭の毛づくろいをする始末だ。
 医者に診せるべきなのは明らかだった。
「医者、本当になんともないのか!?」
「ええ。なんともありません。彼は貴方に恋しているのです」
 呑気そうな爺さんがまた呑気そうに言う。向かい合うように座っていた俺はというと隣からべっとりとした視線を感じていた。
 アレクシスが頬を赤く染めて俺を見ている。決して焦点からは外さず、俺の瞬きすら追っていた。
 抱きつくことはないが、元々離れていた椅子がいつの間にか二ミリまでの距離まで縮まっている。自分でもこの表現はどうかと思うが、横を向いたらキスできるような距離だ。
「誤診じゃないのか!? 頭を打ったとか、精神魔法にでもかかったとか」
「いいえ。間違いなくこれは恋ですね」
 そんな。
 アレクシスが俺に恋だと。
 恐る恐る横を見る。するとアレクシスが嬉しそうにニコニコと微笑む。余程目線が合ったのが嬉しいらしい。
「っ……!」
 というか顔が近い。
「は、離れろ!」
 羞恥が顔を真っ赤に染め、勢いよくアレクシスの胸を押す。椅子をズラして距離を取ると、アレクシスが心底悲しそうな表情を浮かべる。
 な、なんか胸が痛い。
 だが恋とはこんなに盲目になるものなのか。
「なにか薬はないのか? 恋愛感情を抑えるものとか」
「ないですね」
「何かあるだろ。今コイツをフッたら……いやなんでもない」
 隣にいることを思い出して言いかけてやめる。
 男に好かれても俺はこれっぽっちも嬉しくない。
 頭がおかしいだけならぶん殴って距離を取るだけで済んだ。だが恋をしているのなら別だ。
 アレクシスは酷い目に遭ったばかりなのだ。そのすぐ後にフラれたとなればどうなるか。
「しかし幻獣族なんて初めて見ました。獣人自体も数が少ないというのに」
「隔世遺伝というやつだ」
「ピイィーーーー!」
 隣から鳥特有の威嚇が放たれる。アレクシスの鋭い眼光を向けられ、医者がビクリと怯える。
 どうやら俺は医者と話しすぎたらしい。アレクシスは今にも八つ裂きにしそうな勢いだ。
「医者、また何かあったら診せに行く。その時は頼むぞ」
 アレクシスを連れて早々と外へ出る。
 街はどこもかしこも人だらけ。
 アレクシスは常に歩く俺の背後をピッタリと陣取って目を光らせる。どうやら故意でなくとも俺が誰かに触れられるのが嫌らしい。誰かが俺にぶつかろうものなら八つ裂きにするつもりだ。しかも人間への憎悪も上乗せでだ。
 おかげでみんな怖がって自然と道が空いてる。向けられる恐怖と奇異の視線が居心地悪い。
「おい、俺だけを見てろ。これじゃあ道が空いてたって歩きづらい」
 途端、アレクシスの瞳に熱が籠る。また嫌な予感がする。
「ああ分かったよ。バルタザール、君だけを見てるよ!」
 蕩ける甘い瞳が俺を捉える。瞬きさえ追って。
 うう、これはこれで居心地が悪いんだよなぁ。
 けれど自分で言った手前、ここは我慢だ。
 アレクシスがそっと囁く。
「バルタザール、好きだよ。心から愛してる」
 そうかよ、俺は女性が好きだ。だからお前を好きになることは一生ない。
 そう言ってやりたいのにアレクシスを心配する心がやめさせる。
「そうか」
「バルタザール、手繋いでいい?」
 そう言って指先が手に触れてくる。俺はその手を振り払った。
「調子に乗るな」
「あ、ごめん。そうだよね。恋人でもないのに手を繋ぐのは駄目だったよね」
 そう言うアレクシスはどこか残念そうだ。
 可哀想ではあるが俺は同情で彼を受け入れることは出来ない。
 きっとアレクシスは窮地から助けられたことで、急激に好意が湧き上がってしまったのだ。だが俺の性格をアレクシスは嫌っていた。
 きっと時間が経てば俺に嫌気がさして段々と気持ちも冷めていくだろう。そしたらまた別に好きな人が出来るはずだ。
 それまで我慢するか……。
 宿に戻ったその夜のことだった。
「はぁはぁ、バルタザール……」
 眠っているとそばから人の声がうるさくて「ぅう……」と目を覚ます。
 寝ぼけ眼で見たのは熱い吐息を吐き、頬を赤らめたアレクシスの姿だった。
「……こんな時間に何やってんだよ」
 そう徐にベッドから上体を起こす。俺は言葉を失った。
 アレクシスは下から自身のを取り出し、一心不乱に扱いていた。もう間近なのだろう。俺が気付いてもやめないで包む手を速める。
「っ……!」
 眉間に皺を寄せ、白濁を手に吐き出す。俺はその様子を茫然と眺めることしか出来ない。
 アレクシスが掴んでいた手を離す。緩んだ手からべっとりとした精液が見えた。
 うっとりした表情でアレクシスが言う。
「ごめん。出しちゃった」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

処理中です...