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第四話
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アレクシスがおかしくなったのは一時的なもの。時間が経てば治ると思っていた。しかし隣国ナザルに着いても鉤爪で俺の足を掴んで求愛行動を示したり、大きな嘴で俺の頭の毛づくろいをする始末だ。
医者に診せるべきなのは明らかだった。
「医者、本当になんともないのか!?」
「ええ。なんともありません。彼は貴方に恋しているのです」
呑気そうな爺さんがまた呑気そうに言う。向かい合うように座っていた俺はというと隣からべっとりとした視線を感じていた。
アレクシスが頬を赤く染めて俺を見ている。決して焦点からは外さず、俺の瞬きすら追っていた。
抱きつくことはないが、元々離れていた椅子がいつの間にか二ミリまでの距離まで縮まっている。自分でもこの表現はどうかと思うが、横を向いたらキスできるような距離だ。
「誤診じゃないのか!? 頭を打ったとか、精神魔法にでもかかったとか」
「いいえ。間違いなくこれは恋ですね」
そんな。
アレクシスが俺に恋だと。
恐る恐る横を見る。するとアレクシスが嬉しそうにニコニコと微笑む。余程目線が合ったのが嬉しいらしい。
「っ……!」
というか顔が近い。
「は、離れろ!」
羞恥が顔を真っ赤に染め、勢いよくアレクシスの胸を押す。椅子をズラして距離を取ると、アレクシスが心底悲しそうな表情を浮かべる。
な、なんか胸が痛い。
だが恋とはこんなに盲目になるものなのか。
「なにか薬はないのか? 恋愛感情を抑えるものとか」
「ないですね」
「何かあるだろ。今コイツをフッたら……いやなんでもない」
隣にいることを思い出して言いかけてやめる。
男に好かれても俺はこれっぽっちも嬉しくない。
頭がおかしいだけならぶん殴って距離を取るだけで済んだ。だが恋をしているのなら別だ。
アレクシスは酷い目に遭ったばかりなのだ。そのすぐ後にフラれたとなればどうなるか。
「しかし幻獣族なんて初めて見ました。獣人自体も数が少ないというのに」
「隔世遺伝というやつだ」
「ピイィーーーー!」
隣から鳥特有の威嚇が放たれる。アレクシスの鋭い眼光を向けられ、医者がビクリと怯える。
どうやら俺は医者と話しすぎたらしい。アレクシスは今にも八つ裂きにしそうな勢いだ。
「医者、また何かあったら診せに行く。その時は頼むぞ」
アレクシスを連れて早々と外へ出る。
街はどこもかしこも人だらけ。
アレクシスは常に歩く俺の背後をピッタリと陣取って目を光らせる。どうやら故意でなくとも俺が誰かに触れられるのが嫌らしい。誰かが俺にぶつかろうものなら八つ裂きにするつもりだ。しかも人間への憎悪も上乗せでだ。
おかげでみんな怖がって自然と道が空いてる。向けられる恐怖と奇異の視線が居心地悪い。
「おい、俺だけを見てろ。これじゃあ道が空いてたって歩きづらい」
途端、アレクシスの瞳に熱が籠る。また嫌な予感がする。
「ああ分かったよ。バルタザール、君だけを見てるよ!」
蕩ける甘い瞳が俺を捉える。瞬きさえ追って。
うう、これはこれで居心地が悪いんだよなぁ。
けれど自分で言った手前、ここは我慢だ。
アレクシスがそっと囁く。
「バルタザール、好きだよ。心から愛してる」
そうかよ、俺は女性が好きだ。だからお前を好きになることは一生ない。
そう言ってやりたいのにアレクシスを心配する心がやめさせる。
「そうか」
「バルタザール、手繋いでいい?」
そう言って指先が手に触れてくる。俺はその手を振り払った。
「調子に乗るな」
「あ、ごめん。そうだよね。恋人でもないのに手を繋ぐのは駄目だったよね」
そう言うアレクシスはどこか残念そうだ。
可哀想ではあるが俺は同情で彼を受け入れることは出来ない。
きっとアレクシスは窮地から助けられたことで、急激に好意が湧き上がってしまったのだ。だが俺の性格をアレクシスは嫌っていた。
きっと時間が経てば俺に嫌気がさして段々と気持ちも冷めていくだろう。そしたらまた別に好きな人が出来るはずだ。
それまで我慢するか……。
宿に戻ったその夜のことだった。
「はぁはぁ、バルタザール……」
眠っているとそばから人の声がうるさくて「ぅう……」と目を覚ます。
寝ぼけ眼で見たのは熱い吐息を吐き、頬を赤らめたアレクシスの姿だった。
「……こんな時間に何やってんだよ」
そう徐にベッドから上体を起こす。俺は言葉を失った。
アレクシスは下から自身のを取り出し、一心不乱に扱いていた。もう間近なのだろう。俺が気付いてもやめないで包む手を速める。
「っ……!」
眉間に皺を寄せ、白濁を手に吐き出す。俺はその様子を茫然と眺めることしか出来ない。
アレクシスが掴んでいた手を離す。緩んだ手からべっとりとした精液が見えた。
うっとりした表情でアレクシスが言う。
「ごめん。出しちゃった」
医者に診せるべきなのは明らかだった。
「医者、本当になんともないのか!?」
「ええ。なんともありません。彼は貴方に恋しているのです」
呑気そうな爺さんがまた呑気そうに言う。向かい合うように座っていた俺はというと隣からべっとりとした視線を感じていた。
アレクシスが頬を赤く染めて俺を見ている。決して焦点からは外さず、俺の瞬きすら追っていた。
抱きつくことはないが、元々離れていた椅子がいつの間にか二ミリまでの距離まで縮まっている。自分でもこの表現はどうかと思うが、横を向いたらキスできるような距離だ。
「誤診じゃないのか!? 頭を打ったとか、精神魔法にでもかかったとか」
「いいえ。間違いなくこれは恋ですね」
そんな。
アレクシスが俺に恋だと。
恐る恐る横を見る。するとアレクシスが嬉しそうにニコニコと微笑む。余程目線が合ったのが嬉しいらしい。
「っ……!」
というか顔が近い。
「は、離れろ!」
羞恥が顔を真っ赤に染め、勢いよくアレクシスの胸を押す。椅子をズラして距離を取ると、アレクシスが心底悲しそうな表情を浮かべる。
な、なんか胸が痛い。
だが恋とはこんなに盲目になるものなのか。
「なにか薬はないのか? 恋愛感情を抑えるものとか」
「ないですね」
「何かあるだろ。今コイツをフッたら……いやなんでもない」
隣にいることを思い出して言いかけてやめる。
男に好かれても俺はこれっぽっちも嬉しくない。
頭がおかしいだけならぶん殴って距離を取るだけで済んだ。だが恋をしているのなら別だ。
アレクシスは酷い目に遭ったばかりなのだ。そのすぐ後にフラれたとなればどうなるか。
「しかし幻獣族なんて初めて見ました。獣人自体も数が少ないというのに」
「隔世遺伝というやつだ」
「ピイィーーーー!」
隣から鳥特有の威嚇が放たれる。アレクシスの鋭い眼光を向けられ、医者がビクリと怯える。
どうやら俺は医者と話しすぎたらしい。アレクシスは今にも八つ裂きにしそうな勢いだ。
「医者、また何かあったら診せに行く。その時は頼むぞ」
アレクシスを連れて早々と外へ出る。
街はどこもかしこも人だらけ。
アレクシスは常に歩く俺の背後をピッタリと陣取って目を光らせる。どうやら故意でなくとも俺が誰かに触れられるのが嫌らしい。誰かが俺にぶつかろうものなら八つ裂きにするつもりだ。しかも人間への憎悪も上乗せでだ。
おかげでみんな怖がって自然と道が空いてる。向けられる恐怖と奇異の視線が居心地悪い。
「おい、俺だけを見てろ。これじゃあ道が空いてたって歩きづらい」
途端、アレクシスの瞳に熱が籠る。また嫌な予感がする。
「ああ分かったよ。バルタザール、君だけを見てるよ!」
蕩ける甘い瞳が俺を捉える。瞬きさえ追って。
うう、これはこれで居心地が悪いんだよなぁ。
けれど自分で言った手前、ここは我慢だ。
アレクシスがそっと囁く。
「バルタザール、好きだよ。心から愛してる」
そうかよ、俺は女性が好きだ。だからお前を好きになることは一生ない。
そう言ってやりたいのにアレクシスを心配する心がやめさせる。
「そうか」
「バルタザール、手繋いでいい?」
そう言って指先が手に触れてくる。俺はその手を振り払った。
「調子に乗るな」
「あ、ごめん。そうだよね。恋人でもないのに手を繋ぐのは駄目だったよね」
そう言うアレクシスはどこか残念そうだ。
可哀想ではあるが俺は同情で彼を受け入れることは出来ない。
きっとアレクシスは窮地から助けられたことで、急激に好意が湧き上がってしまったのだ。だが俺の性格をアレクシスは嫌っていた。
きっと時間が経てば俺に嫌気がさして段々と気持ちも冷めていくだろう。そしたらまた別に好きな人が出来るはずだ。
それまで我慢するか……。
宿に戻ったその夜のことだった。
「はぁはぁ、バルタザール……」
眠っているとそばから人の声がうるさくて「ぅう……」と目を覚ます。
寝ぼけ眼で見たのは熱い吐息を吐き、頬を赤らめたアレクシスの姿だった。
「……こんな時間に何やってんだよ」
そう徐にベッドから上体を起こす。俺は言葉を失った。
アレクシスは下から自身のを取り出し、一心不乱に扱いていた。もう間近なのだろう。俺が気付いてもやめないで包む手を速める。
「っ……!」
眉間に皺を寄せ、白濁を手に吐き出す。俺はその様子を茫然と眺めることしか出来ない。
アレクシスが掴んでいた手を離す。緩んだ手からべっとりとした精液が見えた。
うっとりした表情でアレクシスが言う。
「ごめん。出しちゃった」
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