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第三話
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監獄を出ようとアレクシスは俺を姫抱きにしたまま歩き出す。
「お、おい離せ! 俺は自分で歩ける!」
「そんなに暴れないで。心配しなくても君を落とすなんてことはしないから」
「そんなことを心配してんじゃねぇよ!」
「怒る君もかわいいね」
アレクシスは好意を隠さず頬を赤くする。俺は憤りを感じていた。
「さっきからかわいい、かわいいって。俺は一ミリもかわいくなんかねぇ! 暑っ苦しい! 今すぐ降ろせ!」
本気で怒鳴る。するとアレクシスは案外聞き分けよく俺を降ろしてくれた。
「ごめん暑かったよね。あ、でも疲れたらいつでも俺に言ってね。すぐに抱っこしてあげるから」
「それはお前がしたいだけだろ!」
男に抱っこされて何が嬉しいんだか。言い合っているうちに監獄へ出る。
俺が全員もれなく倒したから襲撃の情報が漏れて兵士に囲まれるといった状況はなかった。ただ監獄を囲む塀の向こう側からいつもの街の賑やかな人々の声が聴こえてくる。
アレクシスが完璧な俺の手腕に褒めてくる。
「流石だよ。やはり俺のライバルだ」
「お前は少しもそう思ってなかっただろ。ったくお前ばかり危険視されやがって。俺だってお前と同等な英雄だと持て囃されてたのに。……さてと、おい俺を乗せろ」
「えっ、の、乗せろってま、まさか騎乗位!? バルタザール、君は結構積極的なんだね。……はぁ、はぁ、はぁ、いいよ。どこでヤろうか。ここだと流石に人目につくし、やっぱり初夜は中で──」
「馬鹿! 誰がヤるって言ってんだよ!? 逃げるためにお前がルフ鳥になって俺を背に乗せろって言ってんだ」
やけに生々しい物言いが恥ずかしい。
やっぱりアレクシスの様子がおかしい。普段なら俺を嫌悪して、
「用事は終わったか? ならもう話しかけないでくれ。すまないがまだ業務が終わっていないんだ」
と距離を取るのに今はその逆だ。
ありえない。アレクシスは永遠に俺が嫌いのはずだ。
監獄にいた間、精神魔法にでもかかって頭がおかしくなったのか。
"乗る"が行為の意味じゃないことを知ってアレクシスは「ああ、そうだよね。早とちりしちゃった」と笑ってみせるが、落胆しているのが見え見えだった。
だがどう慰めろと?
仕方ない、ヤらせてやるよと言えるわけがない。
「早くルフ鳥になって俺を乗せろ」
知らんぷりをして言う。するとアレクシスは「わかった。ちょっと待っててね」と変身する。
いつ見ても迫力がある。
キラキラと輝く亜麻色の羽根、悠々と街全体を眺めることが出来るくらいの巨体。鷲に似た鋭い目つき。
かっこいい。やはりルフ鳥は何度見ても惚れ惚れする。
「王子様、どうぞ俺の背中に」
乗りやすいようにとアレクシスが屈む。俺はなんだか夢を台無しにされたような気分になって軽くアレクシスの頭を叩いた。
「いて」
「きっしょいわ! なんだそのキザな物言いは。お前はもっと優雅に女性をエスコートするだろうが。惚れさせるならもっとマシな言葉遣いをしろ」
アレクシスの頭がおかしくなっているからということは理解していてもあまりに寒気がした。
だがアレクシスは何故か嬉しそうだ。
「うん。君に好きになってもらえるように頑張って勉強するね」
その希望に輝いているような笑顔にやや気色悪さを感じながらも背に乗る。
羽毛はモフモフで俺は思わず我を忘れて堪能する。
い、癒される……。
「あ、バルタザールが俺の背に……はぁはぁはぁ」
発情期そのままに息を荒げる様子に俺は「げっ」と我を取り戻す。
流石に街に居座る巨体に気付いたのだろう。遠くから兵士の騒がしく駆け寄る音が聴こえてくる。
「おいアレクシス早く翔ばないか!」
「はぁはぁ……バルタザールが俺に触れてる。これってもはや性行為では」
「アレクシス!」
何度名前を叫んでもアレクシスは自分の世界に行っているようだった。
兵士が囲み、矢を構える。
このままではアレクシスが怪我をしてしまう。
咄嗟に俺は彼の顔に手を伸ばし、頬にキスをした。
「…………」
アレクシスが突然のことに目を丸くさせる。俺は染みついた騎士の上に対する従順さに賭けた。
「命令だ。翔べ」
アレクシスはたまらないと言うように瞳を甘く溶かし、頬を染めて綻ぶ。
「承知しました」
大きな翼が空を覆う。湧き起こる突風に兵士は飛ばされないようにするのがやっとで空を駆ける俺たちに何の手出しも出来なかった。
「お、おい離せ! 俺は自分で歩ける!」
「そんなに暴れないで。心配しなくても君を落とすなんてことはしないから」
「そんなことを心配してんじゃねぇよ!」
「怒る君もかわいいね」
アレクシスは好意を隠さず頬を赤くする。俺は憤りを感じていた。
「さっきからかわいい、かわいいって。俺は一ミリもかわいくなんかねぇ! 暑っ苦しい! 今すぐ降ろせ!」
本気で怒鳴る。するとアレクシスは案外聞き分けよく俺を降ろしてくれた。
「ごめん暑かったよね。あ、でも疲れたらいつでも俺に言ってね。すぐに抱っこしてあげるから」
「それはお前がしたいだけだろ!」
男に抱っこされて何が嬉しいんだか。言い合っているうちに監獄へ出る。
俺が全員もれなく倒したから襲撃の情報が漏れて兵士に囲まれるといった状況はなかった。ただ監獄を囲む塀の向こう側からいつもの街の賑やかな人々の声が聴こえてくる。
アレクシスが完璧な俺の手腕に褒めてくる。
「流石だよ。やはり俺のライバルだ」
「お前は少しもそう思ってなかっただろ。ったくお前ばかり危険視されやがって。俺だってお前と同等な英雄だと持て囃されてたのに。……さてと、おい俺を乗せろ」
「えっ、の、乗せろってま、まさか騎乗位!? バルタザール、君は結構積極的なんだね。……はぁ、はぁ、はぁ、いいよ。どこでヤろうか。ここだと流石に人目につくし、やっぱり初夜は中で──」
「馬鹿! 誰がヤるって言ってんだよ!? 逃げるためにお前がルフ鳥になって俺を背に乗せろって言ってんだ」
やけに生々しい物言いが恥ずかしい。
やっぱりアレクシスの様子がおかしい。普段なら俺を嫌悪して、
「用事は終わったか? ならもう話しかけないでくれ。すまないがまだ業務が終わっていないんだ」
と距離を取るのに今はその逆だ。
ありえない。アレクシスは永遠に俺が嫌いのはずだ。
監獄にいた間、精神魔法にでもかかって頭がおかしくなったのか。
"乗る"が行為の意味じゃないことを知ってアレクシスは「ああ、そうだよね。早とちりしちゃった」と笑ってみせるが、落胆しているのが見え見えだった。
だがどう慰めろと?
仕方ない、ヤらせてやるよと言えるわけがない。
「早くルフ鳥になって俺を乗せろ」
知らんぷりをして言う。するとアレクシスは「わかった。ちょっと待っててね」と変身する。
いつ見ても迫力がある。
キラキラと輝く亜麻色の羽根、悠々と街全体を眺めることが出来るくらいの巨体。鷲に似た鋭い目つき。
かっこいい。やはりルフ鳥は何度見ても惚れ惚れする。
「王子様、どうぞ俺の背中に」
乗りやすいようにとアレクシスが屈む。俺はなんだか夢を台無しにされたような気分になって軽くアレクシスの頭を叩いた。
「いて」
「きっしょいわ! なんだそのキザな物言いは。お前はもっと優雅に女性をエスコートするだろうが。惚れさせるならもっとマシな言葉遣いをしろ」
アレクシスの頭がおかしくなっているからということは理解していてもあまりに寒気がした。
だがアレクシスは何故か嬉しそうだ。
「うん。君に好きになってもらえるように頑張って勉強するね」
その希望に輝いているような笑顔にやや気色悪さを感じながらも背に乗る。
羽毛はモフモフで俺は思わず我を忘れて堪能する。
い、癒される……。
「あ、バルタザールが俺の背に……はぁはぁはぁ」
発情期そのままに息を荒げる様子に俺は「げっ」と我を取り戻す。
流石に街に居座る巨体に気付いたのだろう。遠くから兵士の騒がしく駆け寄る音が聴こえてくる。
「おいアレクシス早く翔ばないか!」
「はぁはぁ……バルタザールが俺に触れてる。これってもはや性行為では」
「アレクシス!」
何度名前を叫んでもアレクシスは自分の世界に行っているようだった。
兵士が囲み、矢を構える。
このままではアレクシスが怪我をしてしまう。
咄嗟に俺は彼の顔に手を伸ばし、頬にキスをした。
「…………」
アレクシスが突然のことに目を丸くさせる。俺は染みついた騎士の上に対する従順さに賭けた。
「命令だ。翔べ」
アレクシスはたまらないと言うように瞳を甘く溶かし、頬を染めて綻ぶ。
「承知しました」
大きな翼が空を覆う。湧き起こる突風に兵士は飛ばされないようにするのがやっとで空を駆ける俺たちに何の手出しも出来なかった。
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