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第二話
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俺がライバルとしてアレクシスを特別視してるだけあって兵士たちは上から命令を受けたのか、俺を監獄へ入らせようとはしなかった。しかし賄賂を渡せば命令などないようなものだ。
「アレクシス……!」
牢獄の中の彼は本の通り瞳を濁らせていた。耳に位置する小さな羽が力なく下に落ちている。優しい色をした亜麻色の髪と紫の瞳は色が暗く、美しく穏やかな顔立ちは憎しみと悲しみに染まっていた。
「何しに来た」
変貌したアレクシスに打ちのめされる。
アレクシスは精神的に強い男だ。そんな彼がそこまで追い詰められるとは。
意志が更に固くなる。
「お前を助けに来た」
はっきりと言う。しかしアレクシスは本気にしない。
「助けに? ハッ、嘲笑いにきたの間違いだろ?」
「どういうことだ?」
「お前のことだ。お前に縋る俺が見たくてそんなことを言っているんだろう」
「俺に邪意はない」
「どうだかな」
アレクシスは自分自身を鼻で笑う。
「見ろよ。騎士として陛下に忠誠を誓い、国に貢献してきたのに見返りはこれだ。遠くから俺を罵倒する声がここまで届く。俺は馬鹿だ。こんな奴らのために俺は命を懸けてきたって言うのか」
それには同意する。ここまで来るのに民衆の反応を散々見たが、騙されているにしろ信じる人は皆無。正直彼らを守るに値するとはどうしても思えなかった。
「俺が嘲笑いに来たと思いたいならそう思えばいい。だがこれだけは言っておく。俺はお前を信じてる。俺がお前を助ける。だからまだ諦めるな」
出来る限りの励ましをしたつもりだった。しかしアレクシスは憎悪を深くさせる。
「そうやって俺を信じさせて絶望に叩き落とす気か」
どうやらだいぶ人間不信に陥っているらしい。それも彼がされてきた仕打ちを思えば無理はないだろう。
「俺を騙して嘲笑いたいのなら無駄だ。俺はもう誰の言葉も信じない。だからさっさと行ってくれ」
「…………」
アレクシスは背を向け、俺を拒絶する。きっと俺が何を言ったって今のアレクシスには何も響かないだろう。
見せかけの言葉では誰も救えない。
ならさっさと始めよう。
「すぐに終わる。待ってろ」
アレクシスが訝しむ。
そんな彼を前に俺は素早く動き出した。
俺は剣と戦略には自信があるが、自身の立ち回りを利用するとか、腹の探り合いとか、所謂知略といった面倒臭いものは苦手だ。だから貴族のコネを使ってアレクシスを助けるなんてことは自分に期待していない。
手っ取り早く自信のある剣で解決することにしよう。
「この程度で俺が倒せると思っているのか!? かかってこい! 全員まとめて相手してやる!」
青ざめる兵士たちを全員のしていく。丁度アレクシスの監房を見回っていた兵士を片付けるので最後だった。
「お前……」
「アレクシス、行くぞ」
奪った鍵で鉄の扉を開ける。息を荒くさせた俺を前にアレクシスは本当に驚いた顔をしていた。
中に入り、また鍵を使って足と腕を拘束していた鎖からアレクシスを解放する。その間彼は俺の行動に言葉さえ失っているようだった。
「っこれは……」
鎖を外し終わった後の足を見て俺は衝撃を受ける。大きく腫れていて骨が折れているのは明らかだった。
自白させるための拷問か。
「今すぐ医者に行こう」
アレクシスを横抱きにして持ち上げ、外を目指す。彼が俺を見て呟くように言う。
「お前、本当に俺を助けに……」
「最初からそう言ってるだろ」
「どうして俺なんかを?」
「この俺が認めたライバルなんだ。失うわけにはいかない」
はっきりと言い切る。
俺はアレクシスを尊敬している。
俺を嫌っているのに戦場で怪我を負った俺を決して見捨てない、疲れた俺を気遣って書類事務を引き受けてくれる優しさ、それにその時猫ちゃんの形がした飴玉だってくれたのだ。彼の素晴らしさを上げたらキリがない。
そんな男を俺は上層部共の思惑如きで失いたくはないのだ。
アレクシスの瞳に光が宿る。途端、彼の足が星のようにパッと光りだす。瞬きをすると俺の体が急に傾いた。
「うお!」
「ああ、俺はなんて大馬鹿者なんだ! こんなに素晴らしい人がすぐそばにいたなんて!」
気付くといつの間にか俺はアレクシスに抱かれていた。先程アレクシスを抱いてはいたが、逆の立場になると結構恥ずかしい。所謂お姫様抱っこというやつだからだ。
「おい、アレクシス! 離してくれ!」
聞いていないのか、アレクシスはぎゅうっと俺を抱く力を強める。
「バルタザール、君はなんてかわいいんだ! こんな健気な子は見たことがない! しかも王子様みたいに助けに来てくれるなんて。最高にかっこよくてかわいい!」
駄目だ。完全に我を失っている。というかアレクシスは今立つのも難しいはずだ。
「おい、足は大丈夫なのか!?」
「ああ、魔法の腕は常に磨いているんだ。このくらいの怪我ならなんてことないよ。ああバルタザール!」
ちらりと競争心に火がつく。だがそんなことを感じている暇もなくアレクシスが激しく俺を求める。瞳は飴のように甘く溶けきっていた。
「どうしよう。俺、君に堕ちちゃった」
……なんだかまずい展開になった気がする。
「アレクシス……!」
牢獄の中の彼は本の通り瞳を濁らせていた。耳に位置する小さな羽が力なく下に落ちている。優しい色をした亜麻色の髪と紫の瞳は色が暗く、美しく穏やかな顔立ちは憎しみと悲しみに染まっていた。
「何しに来た」
変貌したアレクシスに打ちのめされる。
アレクシスは精神的に強い男だ。そんな彼がそこまで追い詰められるとは。
意志が更に固くなる。
「お前を助けに来た」
はっきりと言う。しかしアレクシスは本気にしない。
「助けに? ハッ、嘲笑いにきたの間違いだろ?」
「どういうことだ?」
「お前のことだ。お前に縋る俺が見たくてそんなことを言っているんだろう」
「俺に邪意はない」
「どうだかな」
アレクシスは自分自身を鼻で笑う。
「見ろよ。騎士として陛下に忠誠を誓い、国に貢献してきたのに見返りはこれだ。遠くから俺を罵倒する声がここまで届く。俺は馬鹿だ。こんな奴らのために俺は命を懸けてきたって言うのか」
それには同意する。ここまで来るのに民衆の反応を散々見たが、騙されているにしろ信じる人は皆無。正直彼らを守るに値するとはどうしても思えなかった。
「俺が嘲笑いに来たと思いたいならそう思えばいい。だがこれだけは言っておく。俺はお前を信じてる。俺がお前を助ける。だからまだ諦めるな」
出来る限りの励ましをしたつもりだった。しかしアレクシスは憎悪を深くさせる。
「そうやって俺を信じさせて絶望に叩き落とす気か」
どうやらだいぶ人間不信に陥っているらしい。それも彼がされてきた仕打ちを思えば無理はないだろう。
「俺を騙して嘲笑いたいのなら無駄だ。俺はもう誰の言葉も信じない。だからさっさと行ってくれ」
「…………」
アレクシスは背を向け、俺を拒絶する。きっと俺が何を言ったって今のアレクシスには何も響かないだろう。
見せかけの言葉では誰も救えない。
ならさっさと始めよう。
「すぐに終わる。待ってろ」
アレクシスが訝しむ。
そんな彼を前に俺は素早く動き出した。
俺は剣と戦略には自信があるが、自身の立ち回りを利用するとか、腹の探り合いとか、所謂知略といった面倒臭いものは苦手だ。だから貴族のコネを使ってアレクシスを助けるなんてことは自分に期待していない。
手っ取り早く自信のある剣で解決することにしよう。
「この程度で俺が倒せると思っているのか!? かかってこい! 全員まとめて相手してやる!」
青ざめる兵士たちを全員のしていく。丁度アレクシスの監房を見回っていた兵士を片付けるので最後だった。
「お前……」
「アレクシス、行くぞ」
奪った鍵で鉄の扉を開ける。息を荒くさせた俺を前にアレクシスは本当に驚いた顔をしていた。
中に入り、また鍵を使って足と腕を拘束していた鎖からアレクシスを解放する。その間彼は俺の行動に言葉さえ失っているようだった。
「っこれは……」
鎖を外し終わった後の足を見て俺は衝撃を受ける。大きく腫れていて骨が折れているのは明らかだった。
自白させるための拷問か。
「今すぐ医者に行こう」
アレクシスを横抱きにして持ち上げ、外を目指す。彼が俺を見て呟くように言う。
「お前、本当に俺を助けに……」
「最初からそう言ってるだろ」
「どうして俺なんかを?」
「この俺が認めたライバルなんだ。失うわけにはいかない」
はっきりと言い切る。
俺はアレクシスを尊敬している。
俺を嫌っているのに戦場で怪我を負った俺を決して見捨てない、疲れた俺を気遣って書類事務を引き受けてくれる優しさ、それにその時猫ちゃんの形がした飴玉だってくれたのだ。彼の素晴らしさを上げたらキリがない。
そんな男を俺は上層部共の思惑如きで失いたくはないのだ。
アレクシスの瞳に光が宿る。途端、彼の足が星のようにパッと光りだす。瞬きをすると俺の体が急に傾いた。
「うお!」
「ああ、俺はなんて大馬鹿者なんだ! こんなに素晴らしい人がすぐそばにいたなんて!」
気付くといつの間にか俺はアレクシスに抱かれていた。先程アレクシスを抱いてはいたが、逆の立場になると結構恥ずかしい。所謂お姫様抱っこというやつだからだ。
「おい、アレクシス! 離してくれ!」
聞いていないのか、アレクシスはぎゅうっと俺を抱く力を強める。
「バルタザール、君はなんてかわいいんだ! こんな健気な子は見たことがない! しかも王子様みたいに助けに来てくれるなんて。最高にかっこよくてかわいい!」
駄目だ。完全に我を失っている。というかアレクシスは今立つのも難しいはずだ。
「おい、足は大丈夫なのか!?」
「ああ、魔法の腕は常に磨いているんだ。このくらいの怪我ならなんてことないよ。ああバルタザール!」
ちらりと競争心に火がつく。だがそんなことを感じている暇もなくアレクシスが激しく俺を求める。瞳は飴のように甘く溶けきっていた。
「どうしよう。俺、君に堕ちちゃった」
……なんだかまずい展開になった気がする。
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