徒花の先に

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第二十四話 小望月①

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 粘膜が混じり合い、お互いの熱を感じ合い、求め合う。息を奪い合うようなキスに苦しくなって思わず眉根を寄せると兄が敏感に気付いてすぐに唇が離される。
 嫌だ。もっと欲しい。
 今度は離さないように首に手を回し、引き寄せ舌先を絡ませる。
 そんな俺に兄のためらいも流れていき、蹂躙するように唇を奪う。
 苛烈な水音が静かな部屋に響き渡る。
 ちゅうと一層甘やかな口づけを交わし、情欲に染まる瞳でお互いに見つめ合う。プツリと俺と兄を繋いでいた銀糸が途切れる。
「……俺も兄上が好きです。永遠とわに兄上を愛しています」
 兄がぐっと何かを堪える。けれど浮かべる微笑みは幸せに満ちていた。
 俺の告白に返事をするように兄の手が頬に差し伸ばされる。
 その手はひどく慎重でまるで壊れやすいガラス細工にでも触れているようだった。
 兄の愛情が痛いくらい伝わってくる。
 再び唇を重ねる。今度は愛を確かめ合うような優しげなキス。抱きしめ合い、二人の心臓の鼓動が一つに重なる。
 ありえないはずの未来が今ここにある。
 言葉では言い表せない感情に涙が溢れた。兄の指先がそっと雫を掬う。
「どうして泣いてるんだ?」
「……分からない。でもずっとこうしていたい。温もりを、鼓動を、兄上をずっと感じていたい」
 シャツがしわくちゃになるまで強く掴んで胸に強く抱きつき兄の心臓の音に耳を傾ける。
 確かに聴こえる兄の鼓動。暖かさ。兄の生の脈動が自分に流れ、融合していく。
 不確かな未来に対する恐怖。
 けれどこうしていればどんな未来が待ち受けてようともずっと一つのまま、誰にも俺たちを離すことは出来ないと思った。
 兄が俺の手を掴み、服からそっと引き剥がし、そのまま俺に覆いかぶさったまま指と指を絡ませベッドに押し付ける。
 ……どうして?
 兄は俺といたくないのだろうか。不安に表情を曇らせると大丈夫だとでも言うように泣いて赤くなった目元に口づける。
「触れ合う以上にもっと感じる方法はたくさんある」
 ボタンを外され、しばらく体を動かさなかったせいで筋肉が落ち、柔くなった肌が服の間からちらりと覗く。
 兄の手がその服の中へと這っていく。指が肌に吸い付き、体を滑らかになぞっていく。さわさわと触れる感覚がくすぐったいような、でも変な感じがした。
 服を脱がされ体中に残る戦場の傷跡が露わになる。それを見て兄が固まる。萎えさせてしまったんじゃないか、そう不安になる。けれどすぐに兄は顔を近づけ、傷痕その一つ一つに懺悔するよう深く口づける。
「ごめんな。お前を守ってやれなくて」
 そんな兄の様子に俺の心も苦しくなる。
 悔恨の表情を浮かべる兄の頭に手を伸ばし、俺と同じ漆黒の色をした髪を慰めるように優しく撫でる。
「ほとんどは自分で蒔いた種だけど、誇らしい傷も勿論あるよ。だって兄上を、国を守った傷なんだ」
 胸の辺りに残る傷に手を添える。
「俺はこの傷が愛おしいよ」
 その言葉に兄は微笑みを浮かべるが、瞳は涙を堪えているようだった。大切にまるで宝石が相手のようにその胸の傷に一層深く口づける。
 そのまま柔らかな唇は肌という肌に余すことなく吸い付き、赤い花を咲かせていく。段々となぞる手は上へと這っていき、膨らみのない胸に到達する。つうっと指先が乳首に触れ、ぎゅっと摘まれる。
「っ……!」
 痛い、けれどそれ以外に湧く何か。
 くるくると弄られ、時たまぐっと押し込まれる。なんだかじんじんする。湧いてくるそれに逃げようと体を逸らす。
「それ、な、んか変……!」
「それでいいんだよ。その感覚を追うんだ」
 なんだか頭の悪い俺に勉強を教える昔の兄の姿を思い出す。兄は俺が理解するまで根気強く教えてくれた。今度もそんな兄と姿が重なる。
 つんと勃ち上がった乳首を兄が口に含む。コロコロと飴玉のように転がされ、手は空いた乳首にカリカリと爪を立てる。
 甘い刺激。強まるそれに体が勝手に震える。
「っや、それ、おかしくなる……!」
「嫌じゃないだろう。こんなに胸を押しつけて」
 その通りだった。
 慣れない刺激に逃げたいのに、もっとと強請るように兄に胸を主張する。
 びくびくと体が震えて止まらない。
 指先と唇が胸から離れる。その先端は赤く充血し、まるで性器のように勃ち上がっていた。
 兄が下を脱がせようと手を伸ばす。咄嗟に思い出し、その手を掴んだ。
「そ、そこは駄目。無理なんだ」
 その下には淫紋のような邪神を封印した証がある。見られるわけにはいかなかった。
 しかしそんな説得するには不完全な物言いに兄が納得するはずがなかった。
 拒む俺の手を無視して躊躇することもなく下を脱がせる。
 下腹に舞う紫の蝶。全てが兄に見られてしまった。
「兄上、そのこれはっ……」
 邪神のことはあくまで伏せて丁度いい理由を作ろうとするが、動揺した頭では無理な話だった。あたふたとして言葉に詰まる俺に兄は問答無用で蝶に吸い付く。
 蝶をかき消すように赤い痕を残す兄は深い嫉妬と執着に囚われているようだった。
 兄が口付けたそこ、きゅんきゅんと臍の下が疼く。
 男として感じるのはおかしい部位に戸惑うも、僅かに残ったまともな意識にどうして兄は何も訊かないのだろうと疑問に思う。
「兄上これは……」
 もうバレてしまったのだ。ここは恥を呑み込んで快感を得たくて淫紋を自分で施してしまったとそう言ってしまおうかと思ったが、兄の様子がどこかおかしい。
「……どうした?」
 そう首を傾げる兄はまるで何も知らないようだった。
 もしかして兄には見えていないのだろうか?
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