強面黒騎士は犬を溺愛する

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第十五話

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「キャウキャン? キャンキャン? キャンキャンキャンキャン! (俺がアンタの恋人? 寝ぼけてるのか? だって俺はまだ一歳にもなってないんだぞ!)」
「あー違う違う。そうじゃない。ルイは憶えてないだろうけど、前世でルイと俺は恋人同士だったんだよ」
「キャウア? キャウ? (はぁ? 前世?)」
「そう。妖精は樹木や花に宿るが、その宿った植物が死んでしまえば妖精も死んでしまう。しかし植物には種がある。種が成長すれば再び妖精も復活出来る。勿論犬の妖精クー・シーも同じ。俺はルイならきっと憶えているはずだって思ってたけど、まぁ実際ルイみたいに前世を憶えていない妖精なんて結構いるんだよ」
 種と妖精の復活については本当のことか判断しかねるが、確かにその話でいけば俺の名前も俺が犬の妖精クー・シーだってことも知っているのは俺と前世で会ったことがあるからということで納得がいく。けれど。
「(だからって俺がお前の恋人? 恋人だということも憶えていないのは当然だって? はっアンタ、忘れていることを良いことに出鱈目なこと言ってんじゃないのか?)」
 そう吠えて伝える。
「俺が出鱈目なんか言うと思う? どうされるとルイが悦ぶかバッチリ俺憶えてるんだから」
「(はぁ? 悦ぶ? そんなことお前と恋人だってことの何の証明になるんだよ)」
「あっそっか。ルイは子どもだからまだ知らないんだっけ」
 っな、子ども扱いしやがってぇ~~。
 ムカつくが、ここで怒るとまた子ども扱いされそうでぐっと堪える。
 早く家に帰らなければ。
 俺のせいで彼女には迷惑をかけてしまった。それについて俺はきちんと謝らなければいけない。それに彼女とは色々あったが、俺は彼女と仲直りがしたかった。
 ガブリと手に咬みつく。
「いたっ」
 男が手を離した隙に逃げだし、扉に向かう。男が手を摩りながらもそんなこと少しも気にしていない様子で俺を呼ぶ。
「あ、どこ行くんだよルイ~」
 この体の大きさならドアノブにも手が届きそうだ。そこでふと思い出す。
「(なぁ俺を助けてくれたのはお前か?)」
「ああそうだよ。俺がルイをゴミ溜めの中から救った白馬の王子様さ」
「(…………)」
 キラキラと輝いているつもりだろうが、自分で王子様と言うほど輝きを失っていることを彼は気付いているのだろうか。
「(傷は魔法で治してくれたのか?)」
「それはルイ自身の回復力だよ。犬の妖精クー・シーは森の加護を受けているから植物の精気ですぐに体を治すことが出来るんだ」
 窓からは生い茂った木々が見えた。部屋にこんなに植物があるのもそのためか。千年を生きているだけあって俺の知らないことまで知っているんだな。
 なら俺の体が急激に大きくなった理由も知っているかもしれない。
「(どうして俺の体が急に大きくなったんだ? 何か森の加護と関係があるのか?)」
「その通り。本来の犬の妖精クー・シーなら森の精気によって一年で成犬になるんだ。けれどルイは森から離れていたから成長が遅かった。それで森に戻って精気をうんと受け取ったから急に体が成長したわけ」
 なるほど。まぁ何にせよあのゴミ溜めから助けてくれたのだ。彼は命の恩人だ。
「(ありがとう、おかげで助かった。君がいなければ今頃俺は死んでいただろう。お礼は今度必ずするよ)」
「いいやお礼だなんて……ってかっこよく言いたいところだけどめちゃくちゃ嬉しいです。できればお礼は永遠を共にする魂の誓いを──」
「(お菓子とかお花とか色々今度持って来るよ)」
「ムゥ、命の恩人としてはやや対価が……あっそうか! お菓子ってことは一緒にお茶会をするってことか! ルイと二人で甘やかなティータイム。まるでデートみたいだ。ハッ、そうかこれはルイからのデートのお誘い……」
 随分大きな独り言が終わったと思ったらなんだかとても幸せそうな微笑みを今度は浮かべる。
「分かったよルイ。せっかくのルイのお誘いだ。俺もルイのために色々準備しておくよ」
「(あ、うん分かった。んじゃまた今度ね)」
 面倒な予感を察知。今度ここに来る時はお礼を早く済ませてさっさと帰ろう。
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