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第十二話
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ヴィンセントがお守りにと置いて行った梟の置物。テーブルに置かれたそれに鼻先を近付ける。目が赤い宝石で出来ていていくらでも見ていたいくらい美しい。けれどずっとそうしているわけにはいかない。
ヴィンセントが演習に行ってから四日。あれから努力はしているが、今のところ進展はなし。けれど好感度などすぐに上がるものではないだろう。ここは諦めずに作戦を続けるのが肝心だ。
彼女がキッチンで朝食の準備に取り掛かる。何か手伝えることはないかとあちこちに視線を回すが、特に何もない。けれど玄関から聞こえてきた音を俺は見逃さなかった。
新聞だ。
急いで駆けて行って彼女が換気にと開け放たれた扉を抜け、放り投げられた新聞を咥えて戻る。
急いでキッチンへ向かい、彼女に新聞を渡そうとするが反応がない。
気付いてないのだろうか。
そう思って周りをウロウロしていると彼女の足が体にぶつかる。
「邪魔よもう!」
肋にクリティカルヒット。これはいたぁい……。
けれど俺は彼女の邪魔をするつもりはない。受け取られなかったのは寂しいが大人しくリビングのテーブルにでも置いておく。
彼女がお玉をぐるぐると回し、グツグツと昨日の残り物を煮込む。ヴィンセントがいる時は毎朝新しいものを作るけど主人がいない今、朝は昨晩の残り物を食べる。
俺も似たような感じだ。ヴィンセントの目がないから俺の食事に彼女が気遣うことはない。いつもは手間暇かけたものだが、今は毎食肉塊だ。肉は大好きだから俺的には何の不満もない。悔しいからそう言っているのではなく本当に美味いんだこれが。
彼女が鍋の取っ手を持ってダイニングテーブルに運ぶ。再びチャンス到来だ。
壁にかけてあった鍋敷きをジャンプして咥え、彼女の後をついていく。
「邪魔よ邪魔。もう次はなんだって言うの!?」
引っ付く俺に苛立ちを隠せない彼女に鍋敷きを見せようと上へ掲げる。
「そんなもの台拭きでも代用できるからいらないのよ! 分かったなら早くどっか行ってちょうだい!」
でも鍋敷きがあるならそっちを使った方がいいじゃないか。ほら鍋敷きも使われがってるしさ。そう付き纏って主張していると一層彼女が声を荒らす。
「だからどきなさいって言ってるのよ! っこのバカ犬キャア──!」
俺の長い尻尾を踏まれるのと彼女の悲鳴は同時だった。躓いて鍋ごと彼女が倒れる。そして不運だった。鍋の中でグツグツと煮込まれていたスープが俺めがけて降ってくる。
「キャウ──!」
バシャリと沸騰していたそれが全身を濡らす。
頭が回らなくなるほどの熱さと転げ回りたいほどの痛み。感覚が麻痺するほどの苦痛が襲いかかる。呼吸をしているのも辛い。
慌てて彼女が俺を抱えてキッチンへと向かい、栓を開けて大量の水を俺の体に浴びせる。
止めどなく流れる水に冷やされ、体を蝕む熱さからは逃れられる。けれど全身が痛くて仕方なかった。
「わ、わ、私ど、どうしたら、こ、こんなの……」
顔面蒼白になって冷や汗を流す彼女の体は怯えたように震えていた。
気が動転した危なげな瞳が俺を捉える。
彼女は未だふるふると手を震えさせながら再び俺を抱えて急いで家を飛び出した。
直前あの梟と目が合う。梟は命を持ったようにじっと俺たちを見つめているような気がした。
ヴィンセントが演習に行ってから四日。あれから努力はしているが、今のところ進展はなし。けれど好感度などすぐに上がるものではないだろう。ここは諦めずに作戦を続けるのが肝心だ。
彼女がキッチンで朝食の準備に取り掛かる。何か手伝えることはないかとあちこちに視線を回すが、特に何もない。けれど玄関から聞こえてきた音を俺は見逃さなかった。
新聞だ。
急いで駆けて行って彼女が換気にと開け放たれた扉を抜け、放り投げられた新聞を咥えて戻る。
急いでキッチンへ向かい、彼女に新聞を渡そうとするが反応がない。
気付いてないのだろうか。
そう思って周りをウロウロしていると彼女の足が体にぶつかる。
「邪魔よもう!」
肋にクリティカルヒット。これはいたぁい……。
けれど俺は彼女の邪魔をするつもりはない。受け取られなかったのは寂しいが大人しくリビングのテーブルにでも置いておく。
彼女がお玉をぐるぐると回し、グツグツと昨日の残り物を煮込む。ヴィンセントがいる時は毎朝新しいものを作るけど主人がいない今、朝は昨晩の残り物を食べる。
俺も似たような感じだ。ヴィンセントの目がないから俺の食事に彼女が気遣うことはない。いつもは手間暇かけたものだが、今は毎食肉塊だ。肉は大好きだから俺的には何の不満もない。悔しいからそう言っているのではなく本当に美味いんだこれが。
彼女が鍋の取っ手を持ってダイニングテーブルに運ぶ。再びチャンス到来だ。
壁にかけてあった鍋敷きをジャンプして咥え、彼女の後をついていく。
「邪魔よ邪魔。もう次はなんだって言うの!?」
引っ付く俺に苛立ちを隠せない彼女に鍋敷きを見せようと上へ掲げる。
「そんなもの台拭きでも代用できるからいらないのよ! 分かったなら早くどっか行ってちょうだい!」
でも鍋敷きがあるならそっちを使った方がいいじゃないか。ほら鍋敷きも使われがってるしさ。そう付き纏って主張していると一層彼女が声を荒らす。
「だからどきなさいって言ってるのよ! っこのバカ犬キャア──!」
俺の長い尻尾を踏まれるのと彼女の悲鳴は同時だった。躓いて鍋ごと彼女が倒れる。そして不運だった。鍋の中でグツグツと煮込まれていたスープが俺めがけて降ってくる。
「キャウ──!」
バシャリと沸騰していたそれが全身を濡らす。
頭が回らなくなるほどの熱さと転げ回りたいほどの痛み。感覚が麻痺するほどの苦痛が襲いかかる。呼吸をしているのも辛い。
慌てて彼女が俺を抱えてキッチンへと向かい、栓を開けて大量の水を俺の体に浴びせる。
止めどなく流れる水に冷やされ、体を蝕む熱さからは逃れられる。けれど全身が痛くて仕方なかった。
「わ、わ、私ど、どうしたら、こ、こんなの……」
顔面蒼白になって冷や汗を流す彼女の体は怯えたように震えていた。
気が動転した危なげな瞳が俺を捉える。
彼女は未だふるふると手を震えさせながら再び俺を抱えて急いで家を飛び出した。
直前あの梟と目が合う。梟は命を持ったようにじっと俺たちを見つめているような気がした。
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