強面黒騎士は犬を溺愛する

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第七話

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「お腹が減っただろう。滋養がつくように栄養価の高いものを作ったから腹一杯食え」
 そう言って彼女が持ってきたそれを俺に差し出すが、これまた見たこともない食べ物だった。焼かれた丸いお肉に色とりどりの野菜。食べるとやっぱり美味しくてむしゃぶりつく。エプロンの女がなんとも言えない顔で俺を見下ろしていたが、あまりの美味しさに気にもしなかった。
 彼の名前はヴィンセント。彼女が彼のことを何度もそう呼んでいたから確かだろう。
 ヴィンセントは俺を大層可愛がった。走れない俺を想って紐状のおもちゃで一緒に引っ張りあって遊んだり、わしゃわしゃと撫で回したりとずっと俺のそばにいた。
 嫌な薬品の匂いを漂わせるあの男が毎日俺の体を診にくること以外は最高の日々だった。
 しかし彼はなにぶん家を空けることが多かった。もっと可愛がって欲しいのにどんなに強請っても「すまない。すぐ帰ってくるから。それまでいい子でな」と宥めるように頭を撫でられ必ず出て行ってしまう。
 エプロンの彼女といえば俺のトイレの掃除をしたり、食事の用意をしてくれたりと身の回りの世話をしてくれていたが、彼がいない間遊ぼうとおもちゃを咥えても「私はやることがありますので」と誘いには乗らず、最低限の触れ合いしかしないつもりらしかった。
 寂しかった。あまりにも彼がいない時間が多すぎた。
 だから家を抜け出した。
 ヴィンセントに会いたい!
 その思いで残る彼の匂いを辿る。街には人がいっぱいで脚も怪我しているから探すのは大変だったが、俺はやり遂げた。
 ……ヴィンセント!
 彼は男がいっぱいいるなんとも汗臭いところにいた。男どもは一対一で棒状の何かを手にして戦っていた。湖でヴィンセントが振り回していたものと同じだ。鋭利な刃が冷たく銀に輝く。包丁は妖精の家で見たことがあるが、それを長くしたような感じだ。一瞬ヴィンセントが争いに巻き込まれているのかと焦ったが、そういうわけでもないらしい。鋭い眼差しで戦う彼らを監視するように見つめながら声を張り上げる。
「守りに徹するのはまだいい、だが相手の動きを見極めるのを忘れるな! 常に次の一手を考えろ! そこ! 構えを乱されたといって心まで乱されるな! その乱れが大きな隙になるぞ! 戦場において一瞬の隙が死を意味するものと思え!」
 その迫力の凄まじさ。普通にしていても怖い顔つきなのに今の彼は絶対に近付きたくないほどの威圧感と恐怖を放っていた。
 本当の彼を知らなかったら俺もちびって逃げていただろう。嬉しさが込み上げてきて一目散に彼のもとへ向かう。
「キャンキャン!」
 一斉に俺へと視線が集まる。同様にヴィンセントも気付いて驚いたように目を見張る。思い通りに脚が動かず早く駆けつけられなくて焦ったい。
 やっとのこと彼に辿り着いて撫でてと足に体を擦り寄せる。けれど一向に期待が叶うことはない。
「…………」
 不審に思って様子を窺うと、彼は身も凍るほどの冷たい瞳で俺を見下ろしていた。
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