どうか諦めてくれ

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 大学の頃、俺とタツキは些細なことでよく喧嘩していた。
 例えばこんなだ。
 寮の共用スペースのリビングルームでテレビゲームをしてると「いつまでやってんだ」とタツキが文句を言ってきて、勝手にチャンネルを変えようとしやがる。勿論俺はキレた。
「おい、タツキ何やってんだよ!」
「もう2時間はやってんだろ。いい加減に譲れ!」
「嫌だ! リモコン返せよ! 今、ボス戦なんだよ!」
「駄目だ。その言葉30分前にも聞いたぞ!」
「言ってない!」
「言った!」
「言ってない!」
「嘘吐くな!」
「記憶にない!」
 こうしてリモコンの奪い合いが勃発。結局、対戦ゲームで勝った方がテレビの主導権を握ることに。
 こんな喧嘩は日常茶飯事だった。
 だが喧嘩ばっかりでも俺たちは楽しかった。いや、喧嘩で俺たちは楽しんでいたんだ。
 一緒にいてここまで楽しいと思える相手は、アイツが初めてだった。
 だが突如ゾンビが現れた。噛まれて感染してしまえば奴らの仲間入り。その連鎖は瞬く間に広がり、日本は一気に壊滅状態になった。
 俺とタツキは、錦のように同じ寮だった奴らと協力してゾンビの襲撃から生き延びてきた。大学の奴らで村のようなコミュニティも築いて上手くやってきた。
 しかしある出来事がきっかけで俺は村から追放された。
 当時、村に流行病が広がった。そうして皆を救うため、薬を探しに俺とタツキ、それと仲間合わせた4人でドラッグストアに向かった。薬は手に入れたはいいものの帰りにゾンビの大群が押し寄せたのだ。
 俺とタツキはゾンビを倒しながらある事務所に逃げ込んだ。しかし後の二人は逃げ遅れていた。必死に走るそのすぐ背後には大量のゾンビ。タツキは扉を開いた状態で、「早く来い! 急げ!」と二人に向かって叫んでいた。
 扉を閉めるタイミングが少しでも遅ければ、最悪の未来が待ってる。そんな切羽詰まった状況だ。
 タツキは二人を信じて待ってる。だが俺の体は勝手に動いていた。
「おい何やってるんだ!?」
 俺は扉を閉めて、横にあった棚を倒して咄嗟に塞いだ。更に急いで机を移動させて扉という壁を強固にする。
「やめろミナト!」
 そんな俺をタツキがもの凄い形相で妨害する。扉の向こう側から弾丸のように拳で叩く音と仲間の悲痛な叫びが貫く。
「何やってる!? おい開けろ! 開けてくれ!」
「早く開けろ! ミナト! 早く開けろぉぉ!」
 タツキが急いで棚をどかそうとする。だがもう次の瞬間には二人の声は酷いものに変わっていた。
「そんな……」
 タツキはその場に立ち尽くす。俺も自分がしでかしたことを受け止め切れず立ち尽くしていた。
 俺はタツキを失いたくなかった。それで決断に迫られた時、俺は仲間ではなくタツキを取った。
 タツキは仲間想いだ。仲間を見捨てた俺を許すはずがない。だからそれからというもの俺とタツキの関係は最悪なものになった。
 でもそれが正しい罰だと思った。仲間を殺したのは俺だ。好きな人に嫌われるのは正しいことだろう。もっと罰が必要とさえ思う。だから俺はタツキから、そして村人の皆から罰が下されるようにわざと逆撫でするような振る舞いを取った。
「だって仕方ねぇじゃん。あのまま開けてたら俺らごとやられてたかもしんねぇんだぜ? てかそもそもアイツらが悪いんじゃん。戦闘も苦手な癖に薬を探すなら人手は多い方がいいって出しゃばりやがって。お荷物増えて、おかげであんな酷い目に遭っちまった」
 仲間を軽んじる発言に村の皆は白い目で俺を見る。
 俺は、仲間を見殺しにした最低な男として村八分のようにされ、実質追放された。
 自分から嫌な奴になろうと振る舞っているのだからタツキに嫌われるのは当たり前だ。けれどやっぱり辛い。でもどんなに嫌われたって俺はタツキのことが好きだった。
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