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辺り一面雑草だらけの田んぼ。少し広めの農道で、金属の鈍い音が響き渡る。
カラメルの多いプリン型の金髪。金属バットを掴む日焼けしない体質の色素の薄い手に、玉のような汗が伝う。Tシャツは汗だくで肌が透けて見えるくらいだ。
気持ち悪い。けれど今はそんなこと気にならないくらい興奮していた。
「ラッキ~!」
じりじりとした夏の日差しの元、ボコボコに凹んだ自動販売機が力なく横たわる。その自動販売機が真っ赤な缶を血反吐のように吐き出していた。
その缶を目にして心が躍る。
なんたってそれはコーラなのだ。
自販機を倒した衝撃でコーラ缶も隕石が落ちた跡のように凹んでる。そもそも自販機の電気は切れてるから生温かいが、なによりも甘味だ。
このゾンビだらけの世界。ここじゃあ常に食糧危機だ。そんな世界でコーラは滅多にお目にかかれない。
価値でいえばコーラ24缶で熊一頭分と交換できるだろう。
カチッと缶を開けて匂いを嗅ぐ。賞味期限は過ぎているが、匂いは問題なし。
口から涎を出す前に、コーラをゴクゴクと一気に飲み干す。シュワシュワな刺激が俺を生き返らせる。
「っぷはー、やっぱ最高だな」
もう1本無意識に手を出しかけたが、我慢我慢。
残りはせっかくだから川の水に浸して冷やしておこう。大量のコーラとパラパラと散らばったお茶なんかをリュックにぎしぎしと詰めていく。
ふと足音を耳が拾う。
……ゾンビか!?
地面に置いていたバットをすぐさま持ち、臨戦態勢に入る。
しかし現れたのは俺をこの世で一番嫌っているだろうアイツだった。
「ッチ……」
よく鍛え上げられた体。日焼けした褐色の肌、黒の短髪。俺を目にした途端、精悍な顔つきが険しくなる。
てか初っ端から舌打ちかよ。
心がズキッと痛む。
けれどニヤッと笑みを浮かべて、効いていない素振りをしてやる。
「おうタツキ、久しぶりじゃねぇか」
「なんでお前がここにいんだよ」
「いつもの食糧難。食い物探しに来たんだ。お前もか?」
「……よりによってお前と会うなんて」
「ほんと俺たちツいてるな」
あんま話が噛み合わない。俺とまともに話す気がないようだ。けれど過剰なくらい明るく笑ってやる。
すると、タツキは顔も見たくないのか嫌そうに目線を逸らす。
反応は分かっていたが、それにしても表情が暗い。何かあったのか。
でも素直に訊くなんてできなかった。代わりに煽るように上がった口角から白い歯を見せてしまう。
「てかひでぇ面。かわいい女の子達の追っかけにでも遭ったのか? 全く罪な奴だぜ──」
「錦がやられた」
タツキがキッパリと言い切る。
……やっぱりか。
こんな顔、今まで散々見てきた。
分かっていたが、外れてて欲しかった。
「食料探しにスーパーに行ったんだ。予想通り中は空っぽだったが、望みをかけてバックヤードの冷蔵室に行ったんだ。そしたら大量のゾンビが……」
「そうか……」
タツキも錦も俺と同じ大学に通っていて寮も一緒だった。悲しみが襲う。でも仲間を見殺しにするという罪を犯した俺はきっと涙を流すことも許されないだろう。
ぐっと唇を結び、そして心底嫌に笑ってみせた。
「っはは、でもまあアイツすっげー運動音痴だったからな。あんま驚かねぇわ。でも惜しいなあ。だってアイツ、めちゃくちゃビビリだったじゃんか。ゾンビから逃げる時なんかよ、いつも涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔して『うえぇ~』って叫んでよ。それが面白いのなんの。最期もきっとそうだったんだろ? あ~あ、俺もその場にいればよかった」
「お前……」
そんな俺にタツキは殺意ありありの瞳で俺を睨む。
「しかも走る時アイツ……っぷははは、エリマキトカゲみたいでさ」
突如、頬に鈍い痛みが走り、その勢いで熱いアスファルトに倒れる。
蔑むような目でタツキが俺を見下ろす。
「てめぇはいつまで経っても変わんねぇな」
タツキは、そう捨て台詞を吐いて行ってしまった。
ズキズキと頬が痛む。
そうだ、俺は変わっちゃいない。
だからこれでいいんだ。
カラメルの多いプリン型の金髪。金属バットを掴む日焼けしない体質の色素の薄い手に、玉のような汗が伝う。Tシャツは汗だくで肌が透けて見えるくらいだ。
気持ち悪い。けれど今はそんなこと気にならないくらい興奮していた。
「ラッキ~!」
じりじりとした夏の日差しの元、ボコボコに凹んだ自動販売機が力なく横たわる。その自動販売機が真っ赤な缶を血反吐のように吐き出していた。
その缶を目にして心が躍る。
なんたってそれはコーラなのだ。
自販機を倒した衝撃でコーラ缶も隕石が落ちた跡のように凹んでる。そもそも自販機の電気は切れてるから生温かいが、なによりも甘味だ。
このゾンビだらけの世界。ここじゃあ常に食糧危機だ。そんな世界でコーラは滅多にお目にかかれない。
価値でいえばコーラ24缶で熊一頭分と交換できるだろう。
カチッと缶を開けて匂いを嗅ぐ。賞味期限は過ぎているが、匂いは問題なし。
口から涎を出す前に、コーラをゴクゴクと一気に飲み干す。シュワシュワな刺激が俺を生き返らせる。
「っぷはー、やっぱ最高だな」
もう1本無意識に手を出しかけたが、我慢我慢。
残りはせっかくだから川の水に浸して冷やしておこう。大量のコーラとパラパラと散らばったお茶なんかをリュックにぎしぎしと詰めていく。
ふと足音を耳が拾う。
……ゾンビか!?
地面に置いていたバットをすぐさま持ち、臨戦態勢に入る。
しかし現れたのは俺をこの世で一番嫌っているだろうアイツだった。
「ッチ……」
よく鍛え上げられた体。日焼けした褐色の肌、黒の短髪。俺を目にした途端、精悍な顔つきが険しくなる。
てか初っ端から舌打ちかよ。
心がズキッと痛む。
けれどニヤッと笑みを浮かべて、効いていない素振りをしてやる。
「おうタツキ、久しぶりじゃねぇか」
「なんでお前がここにいんだよ」
「いつもの食糧難。食い物探しに来たんだ。お前もか?」
「……よりによってお前と会うなんて」
「ほんと俺たちツいてるな」
あんま話が噛み合わない。俺とまともに話す気がないようだ。けれど過剰なくらい明るく笑ってやる。
すると、タツキは顔も見たくないのか嫌そうに目線を逸らす。
反応は分かっていたが、それにしても表情が暗い。何かあったのか。
でも素直に訊くなんてできなかった。代わりに煽るように上がった口角から白い歯を見せてしまう。
「てかひでぇ面。かわいい女の子達の追っかけにでも遭ったのか? 全く罪な奴だぜ──」
「錦がやられた」
タツキがキッパリと言い切る。
……やっぱりか。
こんな顔、今まで散々見てきた。
分かっていたが、外れてて欲しかった。
「食料探しにスーパーに行ったんだ。予想通り中は空っぽだったが、望みをかけてバックヤードの冷蔵室に行ったんだ。そしたら大量のゾンビが……」
「そうか……」
タツキも錦も俺と同じ大学に通っていて寮も一緒だった。悲しみが襲う。でも仲間を見殺しにするという罪を犯した俺はきっと涙を流すことも許されないだろう。
ぐっと唇を結び、そして心底嫌に笑ってみせた。
「っはは、でもまあアイツすっげー運動音痴だったからな。あんま驚かねぇわ。でも惜しいなあ。だってアイツ、めちゃくちゃビビリだったじゃんか。ゾンビから逃げる時なんかよ、いつも涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔して『うえぇ~』って叫んでよ。それが面白いのなんの。最期もきっとそうだったんだろ? あ~あ、俺もその場にいればよかった」
「お前……」
そんな俺にタツキは殺意ありありの瞳で俺を睨む。
「しかも走る時アイツ……っぷははは、エリマキトカゲみたいでさ」
突如、頬に鈍い痛みが走り、その勢いで熱いアスファルトに倒れる。
蔑むような目でタツキが俺を見下ろす。
「てめぇはいつまで経っても変わんねぇな」
タツキは、そう捨て台詞を吐いて行ってしまった。
ズキズキと頬が痛む。
そうだ、俺は変わっちゃいない。
だからこれでいいんだ。
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