『呪いのベンチ~新~』

U・B

文字の大きさ
上 下
7 / 10

第七話

しおりを挟む

水曜日。
隆二は取材のため【呪いのベンチ】がある「〇✕駅」を訪れている。
現在午後二時過ぎ。
来客室に通され、相手が来るのを待っている状態だ。

少しして、ドアがノックされた。
返事をすると中年のぽっちゃり男性が入ってきた。

隆二は立ち上がり会釈をする。
名刺交換を済ませ、お互いソファーに腰掛けた。

正面のソファーにどっしりと座っている男性は広報担当の鹿島幸太郎。
鹿島はすぐに本題に入るタイプのようで、記憶をたどるようにしながら口を開いた。

『もう三十年前になりますか。その女子高生が飛び込んだ時、私この駅で係員として働いていたんですよ。
大学卒業したての入社一年目でした』
「では。事故は本当にあったんですね」
『えぇありました』
「間違いないですね?」
『間違いありません。あれは私が初めて対応した人身事故でしたから。間違えようがありませんよ』
当時の光景が今でも脳にこびりついているのだろうか。
鹿島の表情が険しくなる。

「見つかったのは頭部だけだったというのも本当ですか?」
『えぇ本当です。もちろん必死になって駅周辺を手当たり次第に探しましたよ。
でも見つけられたのは頭部だけ。先輩の駅員や警察、消防の方も首を傾げていましたよ』
「そんな話聞いたことありませんもんね…」
『えぇ。本当に不思議でした』
首を傾げる鹿島の視線は宙に浮いていた。

「ちなみに彼女が通っていた高校はどこかわかりますか?」
『さすがに三十年も前ですから当時の記録は破棄されています。
まぁ記録が残っていたとしても個人情報なので教えるわけにはいきませんが』
「そうですよね…困ったな…」

二人の間に沈黙が訪れる。
冷房の丁度いい風が隆二の身体を撫でる。
まるでどんまいと励ますようだった。


『これは一個人としての立場からの提案です』
隆二の表情を窺っていた鹿島が沈黙を破った。
「なんでしょう?」
『実は、私の妹が亡くなった女子高生と同級生だったんです。取材できるか聞いてみましょうか?』
「ぜひお願いします!」




取材を終えた隆二は電車に乗るため「〇✕駅」のホームに出た。
ホームの中間付近。乗客の乗り降りが一番激しい所。
ポツンと設置された一人掛けのベンチが目に入る。

(あれが【呪いのベンチ】か…)
亡くなった女子高生が座っている姿が浮かぶ。

その時「甘いシャンプーの香り」がした。
香りはどんどん強くなっていき、隆二は心の中に激しい怒りが湧いてくるのを感じた。


いじめた加害者は今何をしているのか。
奴らはなんの罪悪感もなく、今もどこかで悠々と暮らしているのだろうか。
家族を持って親になっているのかもしれない。

自分の親は卑怯な行為を平然と行える人間のクズ。
そんな穢れた血が自分の中にも流れている。

奴らの子供はこの事を知ったらどう思うだろう。

恐怖。絶望。嫌悪。
まず、どす黒い感情を抱く事は間違いない。
もしかしたら、罪悪感のあまり自ら死を選ぶかもしれない。

いじめが憎い。
俺の最愛の人を奪った、憎き敵。

(もし俺に穢れた血が流れていたら…)
想像しただけで隆二は視界が灰色になるのを感じた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せの島

土偶の友
ホラー
夏休み、母に連れられて訪れたのは母の故郷であるとある島。 初めて会ったといってもいい祖父母や現代とは思えないような遊びをする子供たち。 そんな中に今年10歳になる大地は入っていく。 彼はそこでどんな結末を迎えるのか。 完結しましたが、不明な点があれば感想などで聞いてください。 エブリスタ様、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも投稿しています。

春と冬

Tempp
ホラー
桜が散る春、成(なり)と紫帆(しほ)は出会ってしまった。 会った以上は離れがたい。その瞬間、運命が転がり始める。 これは二人が皮を剥ぐまでの1年の愛の物語(頭弱。 (注意) 二部構成の狂愛の話です。変態注意です。 全部で4万5000字くらいで書き終わってますが改稿しながら投下しています。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

進撃のデスピサロ

Lotus碧い空☆碧い宇宙の旅人☆
ホラー
進撃の巨人と日本のゴジラの恐怖を、ドラゴンクエスト4のデスピサロの異世界ファンタジーで描く文学モノのサバイバルストーリー。

赤い車の少女

きーぼー
ホラー
ある夏の日、少年は幽霊と出会った。 舞台となる地方都市では何ヶ月か前から自分を轢き逃げした赤い色の自動車を探す少女の幽霊が出没していた。 とある出来事がきっかけで3人の中学生の男女がこの奇妙な幽霊騒ぎに巻き込まれるのだがー。 果たして彼等はこの不可思議な事件に秘められた謎を解き明かすことができるのか? 恐怖と伝説に彩られた妖魔の夏が今始まる!! 真夏の夜の幽霊物語(ゴーストストーリー)。 是非、御一読下さい!

声にならない声の主

山村京二
ホラー
『Elote』に隠された哀しみと狂気の物語 アメリカ・ルイジアナ州の農場に一人の少女の姿。トウモロコシを盗んだのは、飢えを凌ぐためのほんの出来心だった。里子を含めた子供たちと暮らす農場経営者のベビーシッターとなったマリアは、夜な夜な不気味な声が聞こえた気がした。 その声に導かれて経営者夫妻の秘密が明らかになった時、気づいてしまった真実とは。 狂気と哀しみが入り混じった展開に、驚愕のラストが待ち受ける。

梟(フクロウ)の山

玉城真紀
ホラー
人を愛するという事は、とても素晴らしい事。 兄妹愛、親の愛、夫への愛、子供への愛。人は、様々な愛情を知っている。しかし、その「愛」を間違った使い方をしてしまうとそれは「憎しみ」へと変わる。 話をしてはいけないという奇妙な祭りの禁忌を犯してしまった事から始まる物語。 愛した男の裏切りから女の死、村の全滅。 それは、死んだ女の怨念がなしたものなのか、それともそれ以前からの呪詛のせいなのか・・・

コ・ワ・レ・ル

本多 真弥子
ホラー
平穏な日常。 ある日の放課後、『時友晃』は幼馴染の『琴村香織』と談笑していた。 その時、屋上から人が落ちて来て…。 それは平和な日常が壊れる序章だった。 全7話 表紙イラスト irise様 PIXIV:https://www.pixiv.net/users/22685757  Twitter:https://twitter.com/irise310 挿絵イラスト チガサキ ユウ様 X(Twitter) https://twitter.com/cgsk_3 pixiv: https://www.pixiv.net/users/17981561

処理中です...