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第七話
しおりを挟む水曜日。
隆二は取材のため【呪いのベンチ】がある「〇✕駅」を訪れている。
現在午後二時過ぎ。
来客室に通され、相手が来るのを待っている状態だ。
少しして、ドアがノックされた。
返事をすると中年のぽっちゃり男性が入ってきた。
隆二は立ち上がり会釈をする。
名刺交換を済ませ、お互いソファーに腰掛けた。
正面のソファーにどっしりと座っている男性は広報担当の鹿島幸太郎。
鹿島はすぐに本題に入るタイプのようで、記憶をたどるようにしながら口を開いた。
『もう三十年前になりますか。その女子高生が飛び込んだ時、私この駅で係員として働いていたんですよ。
大学卒業したての入社一年目でした』
「では。事故は本当にあったんですね」
『えぇありました』
「間違いないですね?」
『間違いありません。あれは私が初めて対応した人身事故でしたから。間違えようがありませんよ』
当時の光景が今でも脳にこびりついているのだろうか。
鹿島の表情が険しくなる。
「見つかったのは頭部だけだったというのも本当ですか?」
『えぇ本当です。もちろん必死になって駅周辺を手当たり次第に探しましたよ。
でも見つけられたのは頭部だけ。先輩の駅員や警察、消防の方も首を傾げていましたよ』
「そんな話聞いたことありませんもんね…」
『えぇ。本当に不思議でした』
首を傾げる鹿島の視線は宙に浮いていた。
「ちなみに彼女が通っていた高校はどこかわかりますか?」
『さすがに三十年も前ですから当時の記録は破棄されています。
まぁ記録が残っていたとしても個人情報なので教えるわけにはいきませんが』
「そうですよね…困ったな…」
二人の間に沈黙が訪れる。
冷房の丁度いい風が隆二の身体を撫でる。
まるでどんまいと励ますようだった。
『これは一個人としての立場からの提案です』
隆二の表情を窺っていた鹿島が沈黙を破った。
「なんでしょう?」
『実は、私の妹が亡くなった女子高生と同級生だったんです。取材できるか聞いてみましょうか?』
「ぜひお願いします!」
取材を終えた隆二は電車に乗るため「〇✕駅」のホームに出た。
ホームの中間付近。乗客の乗り降りが一番激しい所。
ポツンと設置された一人掛けのベンチが目に入る。
(あれが【呪いのベンチ】か…)
亡くなった女子高生が座っている姿が浮かぶ。
その時「甘いシャンプーの香り」がした。
香りはどんどん強くなっていき、隆二は心の中に激しい怒りが湧いてくるのを感じた。
いじめた加害者は今何をしているのか。
奴らはなんの罪悪感もなく、今もどこかで悠々と暮らしているのだろうか。
家族を持って親になっているのかもしれない。
自分の親は卑怯な行為を平然と行える人間のクズ。
そんな穢れた血が自分の中にも流れている。
奴らの子供はこの事を知ったらどう思うだろう。
恐怖。絶望。嫌悪。
まず、どす黒い感情を抱く事は間違いない。
もしかしたら、罪悪感のあまり自ら死を選ぶかもしれない。
いじめが憎い。
俺の最愛の人を奪った、憎き敵。
(もし俺に穢れた血が流れていたら…)
想像しただけで隆二は視界が灰色になるのを感じた。
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