1 / 10
第一話
しおりを挟む夜の九時前。
研究室の飲み会終わり、高橋直也は駅のホームのベンチに座っている。
ホームの中間付近、不自然に設置されている一人掛けのベンチ。
眼鏡姿でいかにも理系的な印象の直也は苦笑いを浮かべて今日の成果を振り返っていた。
慣れないスーツを身に着けて臨んだ研究室の発表会。出来は上々だったらしい。
正直緊張で記憶がないが…
研究発表会が終わると、教授と学生はそのまま居酒屋に移動して飲み会を始めた。
直也は二十歳の大学三年生。まだお酒の味には慣れていない。
だが、研究発表を終えた安堵感からなのか、お酒はいつもより美味しく感じた。
ここ数日の平均睡眠時間は数時間だったため、
いつもと同じくらいのお酒を飲んだのに酔っぱらってしまった。
(この状態で電車に乗って吐いてしまったら大変だ)
幸い明日の授業は午後から。直也はしばらくこのベンチでゆっくり休むことにした。
目の前に同じ世代―大学生―と思われる二人組が立っている。
茶髪の坊主と野球帽を被ったコンビ。
茶髪の坊主が話を切り出す
『後ろに一人掛けのベンチがあんじゃん?スーツ姿の人が座っているやつ』
「あるね。あのベンチがどうかしたの?」
『【呪いのベンチ】なんだよ。あれに座ると死ぬんだって。身体がバラバラになって』
「まじかよ…」
『昔イジメに遭っていた女子高生がこの駅で飛び込んでさ。あそこから』
坊主頭がホームの先頭付近を指で示す。
『駅を通過中の急行電車に轢かれたから、もちろん身体はバラバラ。だけど見つかったのは頭部だけで、それ以外は見つからなかったらしい』
「え?」
『以降、あのベンチに座った人間は彼女のようにバラバラになって死ぬんだとよ』
「うわぁ…まじかよ…てか、あの人やばいじゃん」
彼らの肩越しの視線が直也に向けられる
目が合うと若者たちは気まずそうにすぐ目を逸らし、そのまま学校生活の話題に移った。
「あほくさ…なにが【呪いのベンチ】だよ。非科学的な。
いいよ。持っていきたきゃ持っていってみろよ」
直也は、多少残っている酒の勢いを借りて、少し大きめの独り言を呟いた。
まもなく各駅電車が停まった。
電車は、大学生たちを乗せると、ゆっくりとスピードを上げた。
電光掲示板を確認する。
四分後に急行電車が通過。
その四分後に各駅電車がやってくる。
(気持ち悪さはほとんどないし、次の各駅電車に乗るか)
直也は喉の渇きを覚えたので、自販機に向かおうと立ち上がった。
その瞬間、身体がピタッと動かなくなった。
(え?)
シャンプーの甘い香りがした。
ゆっくりと直也の身体が勝手に動く。誰かに後ろから押されているような感じ。
(なんだよ…これ…)
状況を把握しようにも頭部以外のコントロールが効かない。
視線をキョロキョロ動かして、周囲を見渡す。
ホームには乗客がちらほらいるが誰も直也の異変に気付いていない。
助けを呼ぼうにも、喉に圧迫感があって声が出せない。
やがて身体はホームの先頭付近で止まった。
(ここ…女子高生が飛び込んだ場所だ…)
さっきの大学生達の会話を思い出す。
断末魔のような叫び声を上げながら急行電車が駅のホームを通過している。
その音はこちらにどんどん近づいてきている。
気が付いたら直也の身体は線路の上に浮かんでいた。
線路の上に制服姿の人間たちがいる。
警察と消防関係者がバラバラになったであろう肉片を探している。
ベテランの警察官が尋ねる。
『見つかったのはどこの部分だ?』
若手の警察官が答える。
『頭部だけです!!』
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
虫喰いの愛
ちづ
ホラー
邪気を食べる祟り神と、式神の器にされた娘の話。
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。
三万字程度の短編伝奇ホラーなのでよろしければお付き合いください。
蛆虫などの虫の表現、若干の残酷描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
『まぼろしの恋』終章で登場する蝕神さまの話です。『まぼろしの恋』を読まなくても全然問題ないです。
また、pixivスキイチ企画『神々の伴侶』https://dic.pixiv.net/a/%E7%A5%9E%E3%80%85%E3%81%AE%E4%BC%B4%E4%BE%B6(募集終了済み)の十月の神様の設定を使わせて頂いております。
表紙はかんたん表紙メーカーさんより使わせて頂いております。
僕の大好きなあの人
始動甘言
ホラー
少年には何もない。あるのは明確な親への反抗心。
それゆえに家を飛び出し、逃げた先はとある喫茶店。
彼はそこで一目ぼれをする。
この出会いは彼にとって素晴らしいものなのか、それとも・・・
ぬい【完結】
染西 乱
ホラー
家の近くの霊園は近隣住民の中ではただのショートカットルートになっている。
当然私もその道には慣れたものだった。
ある日バイトの帰りに、ぬいぐるみの素体(ぬいを作るためののっぺらぼう状態)の落とし物を見つける
次にそれが現れた場所はバイト先のゲームセンターだった。
アララギ兄妹の現代心霊事件簿【奨励賞大感謝】
鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
「令和のお化け退治って、そんな感じなの?」
2020年、春。世界中が感染症の危機に晒されていた。
日本の高校生の工藤(くどう)直歩(なほ)は、ある日、弟の歩望(あゆむ)と動画を見ていると怪異に取り憑かれてしまった。
『ぱぱぱぱぱぱ』と鳴き続ける怪異は、どうにかして直歩の家に入り込もうとする。
直歩は同級生、塔(あららぎ)桃吾(とうご)にビデオ通話で助けを求める。
彼は高校生でありながら、心霊現象を調査し、怪異と対峙・退治する〈拝み屋〉だった。
どうにか除霊をお願いするが、感染症のせいで外出できない。
そこで桃吾はなんと〈オンライン除霊〉なるものを提案するが――彼の妹、李夢(りゆ)が反対する。
もしかしてこの兄妹、仲が悪い?
黒髪眼鏡の真面目系男子の高校生兄と最強最恐な武士系ガールの小学生妹が
『現代』にアップグレードした怪異と戦う、テンション高めライトホラー!!!
✧
表紙使用イラスト……シルエットメーカーさま、シルエットメーカー2さま
Catastrophe
アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。
「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」
アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。
陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は
親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。
ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。
家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。
4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。
呪配
真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。
デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。
『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』
その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。
不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……?
「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!
黄泉小径 -ヨモツコミチ-
小曽根 委論(おぞね いろん)
ホラー
死後の世界に通ずると噂される、村はずれの細道……黄泉小径。立ち入れば帰って来れないとも言われる、その不気味な竹藪の道に、しかしながら足を踏み入れる者が時折現れる。この物語では、そんな者たちを時代ごとに紐解き、露わにしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる