上 下
214 / 286
第四章 ウージスパイン魔術大学校

2/魔術大学校 -12 明るく愉快な脳天気娘

しおりを挟む
「強者ほど、力を誇示しないんです。だって、誇示しなくても、自分に力があることを知っているから。わざわざ誇示して、他の人たちからの賞賛を浴び、再確認をする必要がないから。力を誇示する人は、逆に言えば、自分に自信がないんです」
「……ハッ」
 エイザンが、イオタを鼻で笑う。
「強そうな者の陰に隠れて、自分も強くなった気分でいるのかい。まったく、恥ずかしいな」
「──…………」
 握り込まれた拳は、震えている。
 イオタは恐怖と戦っている。
 自分をいじめてきた相手に、言葉だけでも立ち向かおうとしている。
「……は、恥ずかしいのは、今までのぼくの生き方だ。傷つくのに怯えて、傷つけるのに怯えて、怯えて、怯えて、怯えて──そして、何もしなかった」
 ああ、そうだ。
 口に出すだけで、世界は変わり始める。
 それが第一歩だ。
「──でも、ぼくは、今日から変わる。決めたんだ」
 エイザンが、小馬鹿にするように肩をすくめる。
「はいはい、虎の威を借る狐君。威を借りている相手が本当に虎であることを祈るよ。では、失礼。君たちの相手をしている暇はないんでね」
 皮肉げにそう告げて、扉を開いたときだった。

「カタナさーんッ!」

「ぐはッ!」
 剣術教室の際に話した覚えのある女生徒が俺に駆け寄り、その途中でエイザンを跳ね飛ばす。
「あ、ごめんごめん」
「……~~ッ!」
 エイザンが、顔を真っ赤にしながら、大股で教室を後にする。
 その様子を一瞥すらせず、女生徒がまくし立てた。
「カタナさん、カタナさん! あれもっかい見せてよ! みんな見たいって! えーと、燕なんとかの型!」
「え、嫌だ……」
「えー! なんでさ!」
「普通に嫌だ。見世物じゃねえし」
「授業では見せたじゃん!」
「……あれは、師範が手加減するなって言うから使ったんだよ。指導する身でもなければ、自分の技なんて人に見せるもんじゃない。種がわかれば対応されるかもしれないだろ」
「そこをなんとか!」
「嫌ですー」
「友達に言っちゃったの! 見せるって! だから、ね!」
 待った。
「……おい。その友達になんつった?」
「奇跡級のチョー強い編入生が、師範も生徒も必殺技でバッタバッタと薙ぎ倒したって、三十人くらいに!」
「──…………」
 思わず頭を抱える。
「シオニア。お前、まーたあることないこと……」
「今回はあることあることでしょ! ドズマだってボッコボコにされてたじゃん!」
「ぐ」 
 痛いところを突かれたのか、ドズマが言葉を詰まらせる。
「ほら来て! いいから早く来て! みんなが待ってますよー!」
 シオニアと呼ばれた少女が、俺の腕を引く。
「だから嫌だって」
 だが、動かない。
「んにーッ!」
「行きません」
「ぜ、ぜんぜん動かない……!」
「これでも鍛えてるんで」
 女の子の細腕に学生レベルの体操術を乗せたところで、負けはしないし負けられない。
「さ、さすが奇跡級……」
「……マジ、どーっすっかな。イオタの言う通り事情を説明しようかと思ってたけど、これじゃ見世物にされるだけだ」
「それは、たしかに……」
 シオニアに腕を引っ張られながら思案していると、

「──おい、貴様」

 怒気を孕んだその声に危機感を覚え、神眼を発動する。
 刹那、眉間に、とんでもない速度でペンが飛んできた。
 眉間に刺さるギリギリで、慌てて掴み取る。
「あッ……、ぶ!」
 人混みを掻き分け姿を現したのは、
 眉根に深々と皺を寄せたヘレジナと、
 目をまるくしてこちらを見ているプルと、
 そして、困り顔のヤーエルヘルだった。
「性懲りもなく、また女をたらし込んでおるのか!」
「おま」
 よりにもよって、オーディエンスの前で、誤解がさらに加速しそうな台詞を!
 だが、理由は明白だった。
 シオニアが絡みついている左腕だ。
「し、シオニア! いったん離れろいったん! えらいことになる!」
 慌てて引き剥がそうとする。
「む、抵抗する気か! 負けないぞー!」
 が、これが存外しぶとい。
 タコのように吸い付いて離れない。
「離れッ、て、くれえ……ッ!」
「か、……かたな」
 プルが、悲しげに微笑む。
「お、……お幸せに、ね?」
「違う違う違う! へ、ヘレジナ! こいつ剥がすの手伝ってくれ!」
「……む」
 誤解に気付いたのか、ヘレジナがシオニアを引き剥がしにかかる。
「そこな女人! いったんカタナから離れんか!」
「ヤダー! 絶対連れてくんだい!」
 喧々囂々。
「……なあ、イオタ」
「どうしたの、ドズマくん」
「明日、噂がどんくらいひどくなるか賭けねえ?」
「ぼくは、〈下半身も奇跡級の編入生、初日で二十人斬り達成!〉にしておこうかな」
「じゃ、オレは三十人で」
「そこ、聞こえてるからな!」
 結局、この騒動が鎮火したのは、それから五分後のことだった。
 つまり、この五分間の痴話喧嘩じみたやり取りが、多くの人々に目撃されたことになる。
 イオタとドズマの言うことも、あながち間違いではないかもしれない。
 正直、明日が来るのが怖いのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう

電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。 そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。 しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。 「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」 そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。 彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...