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第一章 パラキストリ連邦
1/流転の森 -12 あの子みたいに
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「影の魔獣は夜を渡ってきた。なら、どうして魔法で光を出すまで襲ってこなかったんだと思う?」
「え、な、なんでだろ……」
「推測だが、夜じゃ駄目なんだ。あいつ、影が濃いほど力を増すんじゃないか。だから、光の魔法によって濃い影ができた瞬間、嬉々として襲ってきた」
「あ、なるほど」
「確認するけど、狙われてるのはプルで間違いないんだな」
「う、うん。そのはず、です」
なら、まだヘレジナは無事だろう。
ぬか喜びになる可能性もあるから、言葉にはしないけれど。
「プル。あの魔法の光、ここから消せるか?」
「ご、ごめんなさい! 触れば消せるんだけど、る、ルインラインを呼ぶために、めいっぱい高く投げちゃったから……」
「いや、いい。大丈夫だ。なら、光の球を同時に作ることは?」
「同時に?」
「ああ」
「わ、わたしの魔力の続く限りなら、いくつでも。あれって、あらかじめ維持に必要な魔力を封じ込めて、魔力を使い切れば消えるだけのものだから……」
「好都合、だ」
ふらりと立ち上がる。
興奮で一時的に麻痺していた痛みがぶり返していた。
「──俺、が、ヘレジナのところへ行ったら、光の球をたくさん作ってほしい。多ければ多い、ほど、いい」
「ど、どうする、です?」
「影の魔獣を、全方位から照らす」
「!」
プルの瞳に理解の光が灯る。
「やる価値──は、ある。……だろ?」
プルが、こくんと頷く。
「俺が魔獣の気を引く。プルは、気付かれないように後か──づッ!」
「か、かたな。もしかして怪我──」
「プル」
言葉を遮る。
今は、それどころじゃない。
「……後から、来い」
「──…………」
悲しげに目を伏せたあと、プルが答える。
「わかった」
いい子だ。
ふらりと立ち上がり、高台へと足を向ける。
短剣が刺さったままの肩が、じくじくと痛む。
血の気が引いて、視界が遠くなる。
最初に黄枠の選択肢を選んだときは、魔獣がヘレジナの影へと潜り込んだ。
ヘレジナは、俺たち三人の中で最も身体能力が高く、武芸にも秀でている。
飛車角を取られたようなものだ。
「ふッ、は、ふう……」
なるべく右肩を動かさないように努力しながら、整備されていない坂道を登っていく。
二度目の黄枠が導いたものは、言うまでもない。
この、右肩に刺さった短剣だ。
命に別状はないものとしても、痛いものは痛い。
黄枠の選択肢でこのありさまなのだから、赤枠ともなれば、致命傷を覚悟する必要があるだろう。
なんとか高台の頂上付近まで辿り着く。
影の魔獣に囚われたままのヘレジナが、目をまるくした。
「──カタ、ナ……! 何故、戻ってきた……!」
思った通りだ。
影の魔獣は、易々とはヘレジナを殺せない。
ヘレジナの肉体を操り、戻ってきたプルを殺すのがいちばん手っ取り早いからだ。
魔獣のくせに随分と頭が回るじゃないか。
だが、その明晰さは、俺たちにとって都合が良かった。
「な、……──に。そんな気分だったんだよ」
「ばか……ッ!」
ヘレジナの体に触手のように絡みついた影が、触れた場所を黒化していく。
否。
黒く染め上げているのではない。
ヘレジナから色を吸い上げ、彼女自身に成り代わろうとしているのだと直感する。
「怪我──してるの、に、どうして来る……! プルさまを置いてまで、どうして……!」
「──…………」
どうしてだろうなあ。
思わず月を見上げる。
エル=タナエルの姿を。
「……憧れたから、かな」
肩に突き刺さった短剣の柄に、手探りで触れる。
そして、
「ぐッ、う、あああああああああああああああああああッ!」
つぷ。
激痛を叫び声で誤魔化しながら、短剣を抜き放った。
「──はッ、はあッ、はあッ、はァ……」
血に濡れた短剣を左手で構え、自分自身に発破をかける。
「お前のご主人さま、強い子だったからさ! 俺もそうなりたいって思っただけだッ!」
そう言い捨て、ヘレジナへ向けて吶喊する。
狙うは足元、影の本体だ。
なかば転がるようにして、ヘレジナの足元へと短剣を振りかぶる。
次の瞬間、
「──ぐぶッ」
潰れたカエルのような声を漏らしながら、俺は宙を舞っていた。
どこか冷静な自分が状況を分析する。
短剣が影に刺さる直前、ヘレジナの爪先が俺のあごにめり込んだ。
そのまま蹴り上げられた俺は、空中で綺麗に一回転し、受け身を取ることもできず地面に倒れ伏したのだ。
「え、な、なんでだろ……」
「推測だが、夜じゃ駄目なんだ。あいつ、影が濃いほど力を増すんじゃないか。だから、光の魔法によって濃い影ができた瞬間、嬉々として襲ってきた」
「あ、なるほど」
「確認するけど、狙われてるのはプルで間違いないんだな」
「う、うん。そのはず、です」
なら、まだヘレジナは無事だろう。
ぬか喜びになる可能性もあるから、言葉にはしないけれど。
「プル。あの魔法の光、ここから消せるか?」
「ご、ごめんなさい! 触れば消せるんだけど、る、ルインラインを呼ぶために、めいっぱい高く投げちゃったから……」
「いや、いい。大丈夫だ。なら、光の球を同時に作ることは?」
「同時に?」
「ああ」
「わ、わたしの魔力の続く限りなら、いくつでも。あれって、あらかじめ維持に必要な魔力を封じ込めて、魔力を使い切れば消えるだけのものだから……」
「好都合、だ」
ふらりと立ち上がる。
興奮で一時的に麻痺していた痛みがぶり返していた。
「──俺、が、ヘレジナのところへ行ったら、光の球をたくさん作ってほしい。多ければ多い、ほど、いい」
「ど、どうする、です?」
「影の魔獣を、全方位から照らす」
「!」
プルの瞳に理解の光が灯る。
「やる価値──は、ある。……だろ?」
プルが、こくんと頷く。
「俺が魔獣の気を引く。プルは、気付かれないように後か──づッ!」
「か、かたな。もしかして怪我──」
「プル」
言葉を遮る。
今は、それどころじゃない。
「……後から、来い」
「──…………」
悲しげに目を伏せたあと、プルが答える。
「わかった」
いい子だ。
ふらりと立ち上がり、高台へと足を向ける。
短剣が刺さったままの肩が、じくじくと痛む。
血の気が引いて、視界が遠くなる。
最初に黄枠の選択肢を選んだときは、魔獣がヘレジナの影へと潜り込んだ。
ヘレジナは、俺たち三人の中で最も身体能力が高く、武芸にも秀でている。
飛車角を取られたようなものだ。
「ふッ、は、ふう……」
なるべく右肩を動かさないように努力しながら、整備されていない坂道を登っていく。
二度目の黄枠が導いたものは、言うまでもない。
この、右肩に刺さった短剣だ。
命に別状はないものとしても、痛いものは痛い。
黄枠の選択肢でこのありさまなのだから、赤枠ともなれば、致命傷を覚悟する必要があるだろう。
なんとか高台の頂上付近まで辿り着く。
影の魔獣に囚われたままのヘレジナが、目をまるくした。
「──カタ、ナ……! 何故、戻ってきた……!」
思った通りだ。
影の魔獣は、易々とはヘレジナを殺せない。
ヘレジナの肉体を操り、戻ってきたプルを殺すのがいちばん手っ取り早いからだ。
魔獣のくせに随分と頭が回るじゃないか。
だが、その明晰さは、俺たちにとって都合が良かった。
「な、……──に。そんな気分だったんだよ」
「ばか……ッ!」
ヘレジナの体に触手のように絡みついた影が、触れた場所を黒化していく。
否。
黒く染め上げているのではない。
ヘレジナから色を吸い上げ、彼女自身に成り代わろうとしているのだと直感する。
「怪我──してるの、に、どうして来る……! プルさまを置いてまで、どうして……!」
「──…………」
どうしてだろうなあ。
思わず月を見上げる。
エル=タナエルの姿を。
「……憧れたから、かな」
肩に突き刺さった短剣の柄に、手探りで触れる。
そして、
「ぐッ、う、あああああああああああああああああああッ!」
つぷ。
激痛を叫び声で誤魔化しながら、短剣を抜き放った。
「──はッ、はあッ、はあッ、はァ……」
血に濡れた短剣を左手で構え、自分自身に発破をかける。
「お前のご主人さま、強い子だったからさ! 俺もそうなりたいって思っただけだッ!」
そう言い捨て、ヘレジナへ向けて吶喊する。
狙うは足元、影の本体だ。
なかば転がるようにして、ヘレジナの足元へと短剣を振りかぶる。
次の瞬間、
「──ぐぶッ」
潰れたカエルのような声を漏らしながら、俺は宙を舞っていた。
どこか冷静な自分が状況を分析する。
短剣が影に刺さる直前、ヘレジナの爪先が俺のあごにめり込んだ。
そのまま蹴り上げられた俺は、空中で綺麗に一回転し、受け身を取ることもできず地面に倒れ伏したのだ。
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