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第一章 【第一星巡り部隊】

第二十八節 部隊の仲間 続

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一人は身長が高く、俺たちの国では見ない異国の顔立ち。
もう一人は首にスカーフを巻いて、跳ねた癖毛を帽子で覆い隠していた。

「―頭、お帰りなさいッス」

スカーフを巻いていた青年は、帽子を取り俺の近くまで来て、恭しく頭をたれる。

「ま、待った待った!何度も言うけど、それは止めろってば」
「それってどれのことっスか?」
「俺とスタアは同じ部隊の者だろ、俺に傅く必要なんてない。後、“頭”も止めてくれ…」

俺とスタアの一連の流れに、もう一人も不器用に床に膝をついていた。

「レナトサマ、お帰りなさイマセ」
「アストロまで……止めてくれってば」

二人の仰々しい行動に、俺は額を押さえる。

アストロ・ビアチェボーレ。
この星、ルベライドの遥か最南端に位置する国から俺たちの国に身一つでやってきた青年だ。俺たちの国の言語にはあまり慣れていないらしく、度々母国語で会話に参加してしまうところがあった。

暇を見つけては俺とスタアとの三人で言語のお勉強をしているため、喋れる言語は増えてきている。

…この国の礼儀作法も詳しく分かっていないため、度々スタアや部隊の誰かの行動を真似してしまうところもあり、そのたび俺は頭を抱えてしまう。

「頭は頭じゃないっスか。今さらどんな呼び方にしたらいいか分かんないっスよねえ~」

ゆっくりと体を起こしながら、困惑したようなあいまいな笑みを浮かべる。

スターリー・プレザン。
とあることから、俺の下で過ごすようになった。かなりの気分屋であり、興味がないことに関心がない。スタアが星巡り部隊員になったのはごく最近のことで、それまでは別の所で動いていたらしい。

アストロ、スタアは俺たちの部隊の“調”として動いてくれている。

「別にいいじゃナイ。レナトは何でも喜んでくれるワヨ?」

頭を抱える俺に、ステラが助け船を出してくれた。
その言葉に一瞬考えこむ仕草を見せ、ううんとわざとらしく声を上げたスタアは悪戯っ子のような表情を見せて言葉を紡ぐ。

「じゃあレナちゃんはどうっスか」
「却下」
「なら、レーくんとか。レナトゥースさんとか」
「レナトなら許すかもしれないけれど、私が許さないワ。却下ヨ」
「頭なら何でも喜んでくれるんじゃなかったっスか?」
「私を納得させてからレナトに聞きなサイ」

ステラとスタアの会話についていけない俺は、不思議そうな目で二人を見据えるアストロに目線を向け、その大きな肩に手をのせた。

「だだいま、アストロ。お前、ここに来た時より言葉上手くなったな」
「OH、レナトサマのトックン…のおかめ、デス。オカ、げ?デスヨ」

アストロは俺の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべ、言の葉を紡いでいくうちに困ったように眉間にしわを寄せていた。
ある程度会話に参加できるようになったとはいえ、さっきのように途中途中で間違った言葉遣いになってしまっていたりするのはご愛敬というところだろうか。

「あの、レナトさん。少しいいですか?」
「シュテルン、どうした?」

全員分のお茶を入れ終わったシュテルンは、おずおずといった様子で俺に声をかけてくる。俺とアストロを交互に見据え、困ったように眉を下げていた。

「アストロ、悪い。少し離れる」
「ハイ。…シュテルンサマ、レナトサマおねがいたマス」
「ありがとうございます。アストロさん」

アストロと離れ、俺の肩にいたステラもふわりと別の場所へと飛んでいく。部隊の皆とも離れた位置でシュテルンの言葉を待った。

「その、探してた書面のことなんですけど……」

言いづらいことでもあるのか、俺と視線を合わせず曖昧に言葉を濁すシュテルンを見据えながら、思考の端では今この場にいない二人の存在が気にかかっていた。

「見つかったのか?」
「ええと、見つかった…といえば見つかったんですが……今僕の手元になくて」
「……―どういうことだ?」

訝し気に眉間にしわを寄せた俺の表情に気が付いたのか、シュテルンは慌てたように目の前で手を振って言葉の続きを話す。

「あの、その。僕の手元にはなくて、―フレイさんが…持っていたようだったんです」
「フレイが?」

タイミングよく、一室の扉が開き話題に上がった人物が悠々と入ってくる。

ピンと伸びた背筋に、ツリ目がちの瞳。
ふわりと長い髪をハーフアップに結び、くるくると毛先は巻かれていた。綺麗な金色の髪を靡かせながら、翡翠の瞳を真っすぐ俺に向けて歩んできた。

「フレイさん。あの書面は…」
「ええ、きちんと持ってきていますわ。…―レナトゥス様、貴方宛ての書類を勝手に持ち出したことを謝罪いたします。けれど誤解しないでいただきたいの。これは、わたくしが直に確認しなければならない事だったのですわ」

言いながら、フレイは書面を俺に手渡してくる。
それを無言で受け取った俺は、綺麗に折りたたまれた書面を開けてみる。差出人の表記は一切ない。内容はと言えば無機質な文字で“要人の警護”とだけしか書かれていなかった。

シュテルンの言っていた通りだったが、直に触れて分かったことが一つだけあった。

この書面の肌触り。
都に出回る紙の材質とは遥かに違う、軽くきめ細やかな感触。つるりとした肌触りのこの材質は到底普通の家庭が入手することは出来ない代物だ。

高級紙といっても差支えがないほどの紙を、わざわざ悪戯に使うわけがない。

「……差出人は、位の高い家の者か」

ポツリと呟いた俺の言葉を、フレイはええ。っと同意する。

「間違いないですわ。そのためにわたくしが直接、お伺いしてきましたもの。書面の差出人は、わたくしの弟……―フレーデル家からの書面のようですわ」
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