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第一章 【第一星巡り部隊】
第二十四節 一つの要因
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「その話なんじゃがの、レナト」
一室の奥から顔を出した父さんは、いつもより険しい顔つきで俺に視線を向けてくる。
これは“父”としてではなく“司教”として接するときの表情だ。
ピリリとした厳かな雰囲気に思わず背筋を伸ばし、椅子から一歩引いて父さんに向き直った。兄さんも伴って一歩引いた位置で、俺と父さんとの間で立ち止まる。
「あぁ、今は私たち家族の時間なんじゃ。そんな固くならずとも良い」
俺たちの態度にいくらか表情を軟化させ、ゆったりと椅子に腰かけた父さんを真正面から見据る。
そっと兄さんと顔を見合わせた後、俺も椅子に座って父さんに声をかけた。
「これは私個人の疑問。星巡り部隊も教会も一切関係ない、私とレナトとステイだけの話じゃ。ほれ、ステイも座りなさい」
父さんの言葉に首を振っていた兄さんだったが、じっと見据えられ無言の圧力にあらがえなかったのか、渋々といった様子で椅子に座た。
「父さん…話っていうのは」
「ステイから聞いたぞ、レナト。ー禁忌の呪封じが施された書類を解呪する際、己の保有魔力を使ったとな」
兄さんが淹れてくれたお茶を飲みながら、父さんはじとりとした視線を俺に向けてくる。
事実が事実なために、何も言い返せないまま視線を泳がせてしまう。先ほど散々兄さんに説教を受けたのに、父さんから説教を受けるともなれば、申し訳なさで気落ちしてしまいそうだ。
「どれくらい、残っていた?」
「え?」
「属性魔力の力は、保有魔力のみの力よりもはるかに強大なものだ。一つの属性を肩代わりするだけでも十人ほどの保有魔力が必要になる。呪封じ解呪に必要な属性魔力量は普通の属性魔法よりも少ないといえど、強大な力を肩代わりするのにはそれ相応の危険が伴う。…レナト、お主の保有魔力はどれほど残っていた?」
ーどれくらいと言われても。
あの後何事もなく動けていたのだから、少なくとも生命活動に必要な魔力量は保有されていたはず。
保有魔力は、第二の血液だ。
少なければ身体に異常をきたし、枯渇すれば命に関わり、安静にしていればいずれ元の値にまで戻る。
逆に言うなれば、魔力の低下は身体の不調として表立って現れてくるものだ。不調の程度も人によるが、頭痛やめまい、悪寒、吐き気などが主なもの。
「解呪の後は、兄さんと一緒にいたけど何も不調はなかったよ」
俺の言葉を確かめるように、父さんはゆっくりと兄さんに視線を向ける。兄さんは無言のまま、俺に不調の兆しは見て取れなかったことを肯定するように小さく頷いた。
「ならば…ー真偽同調魔法。私がレナトに行った魔法を扱ったときは、いつの頃じゃった?」
「それは」
「呪封じ解呪の後、行いました」
俺の言葉にかぶせるようにして兄さんは言葉を連ねる。
そっと視線を向ければ、兄さんは何かに気が付いたように瞳を震わせていた。―何か分かったのだろうか。
「あぁ、ステイ。そんな不安そうな顔をするでない。お主の行動は間違っておらんし、咎めるつもりもない」
「父さん、結局一体何の話なんだ?」
「……。“同期性魔力消耗”名前だけならば、レナトも聞いたことがあるのではないですか?」
俺の疑問に一拍置いて、兄さんが答えてくれた。
“同期性魔力消耗”
名前だけならば何度も聞いたことはあるが、実際に体験したことは一度もない。
「…確か、魔法や魔力陣をその日のうちに複数同時に扱うことでおきる一時的な症例…だったよな」
「より正確にいうなら、己の保有魔力が低下している状態で短時間のうちに高度な魔力陣や、魔法をその身に浴びることによっておこるものです。疲れた体に追い打ちをかけるようなものですので、常であれば忌避すべきことなのですが…」
「レナトの心神喪失はおそらくはそれに起因するものではないかと思っておる」
兄さんと父さんの言葉に相槌をうちながら、俺はふと考える。
確かに解呪の後に行った一件では、“真偽同調魔法”ともう一つ“空間認知《除外》の魔力陣”が組まれていた。
どちらとも高度な魔法、魔力陣なため俺はあの後すぐ意識を失ってしまったのか。
(……?)
だけど少し引っかかることがある。
同期性魔力消耗。
これは保有魔力低下の際、高度な魔法をその身に浴び、体が耐え切れないためにおきる受動的要因だ。魔法を扱うわけじゃないために、保有魔力が枯渇寸前までなくなることは絶対にあり得ない。
けど、兄さんは俺の保有魔力が枯渇寸前だったと言っている。
―どうしても、何かが引っ掛かってもやもやが収まらない。
三分の一ほどの、普段通りに歩け会話できるくらいの魔力が残っていた。その魔力があの一件で意識を失ってしまうほどの値まで低下してしまった。
ならば、残っていたはずの俺の保有魔力は一体どこにいった?
「…―ペンダント」
ふ、っと一本の糸がつながった気がした。
「レナトどうしたのですか?」
兄さんの問いかけに何も答えず、俺は立ち上がり一室を後にする。
隊服の上衣に入れておいたペンダントを取り出し、足早に父さんたちの元まで戻ってきて机の上に置いた。真っ白な机の上に、黒々とした漆黒のペンダントが強く主張する。
一室の奥から顔を出した父さんは、いつもより険しい顔つきで俺に視線を向けてくる。
これは“父”としてではなく“司教”として接するときの表情だ。
ピリリとした厳かな雰囲気に思わず背筋を伸ばし、椅子から一歩引いて父さんに向き直った。兄さんも伴って一歩引いた位置で、俺と父さんとの間で立ち止まる。
「あぁ、今は私たち家族の時間なんじゃ。そんな固くならずとも良い」
俺たちの態度にいくらか表情を軟化させ、ゆったりと椅子に腰かけた父さんを真正面から見据る。
そっと兄さんと顔を見合わせた後、俺も椅子に座って父さんに声をかけた。
「これは私個人の疑問。星巡り部隊も教会も一切関係ない、私とレナトとステイだけの話じゃ。ほれ、ステイも座りなさい」
父さんの言葉に首を振っていた兄さんだったが、じっと見据えられ無言の圧力にあらがえなかったのか、渋々といった様子で椅子に座た。
「父さん…話っていうのは」
「ステイから聞いたぞ、レナト。ー禁忌の呪封じが施された書類を解呪する際、己の保有魔力を使ったとな」
兄さんが淹れてくれたお茶を飲みながら、父さんはじとりとした視線を俺に向けてくる。
事実が事実なために、何も言い返せないまま視線を泳がせてしまう。先ほど散々兄さんに説教を受けたのに、父さんから説教を受けるともなれば、申し訳なさで気落ちしてしまいそうだ。
「どれくらい、残っていた?」
「え?」
「属性魔力の力は、保有魔力のみの力よりもはるかに強大なものだ。一つの属性を肩代わりするだけでも十人ほどの保有魔力が必要になる。呪封じ解呪に必要な属性魔力量は普通の属性魔法よりも少ないといえど、強大な力を肩代わりするのにはそれ相応の危険が伴う。…レナト、お主の保有魔力はどれほど残っていた?」
ーどれくらいと言われても。
あの後何事もなく動けていたのだから、少なくとも生命活動に必要な魔力量は保有されていたはず。
保有魔力は、第二の血液だ。
少なければ身体に異常をきたし、枯渇すれば命に関わり、安静にしていればいずれ元の値にまで戻る。
逆に言うなれば、魔力の低下は身体の不調として表立って現れてくるものだ。不調の程度も人によるが、頭痛やめまい、悪寒、吐き気などが主なもの。
「解呪の後は、兄さんと一緒にいたけど何も不調はなかったよ」
俺の言葉を確かめるように、父さんはゆっくりと兄さんに視線を向ける。兄さんは無言のまま、俺に不調の兆しは見て取れなかったことを肯定するように小さく頷いた。
「ならば…ー真偽同調魔法。私がレナトに行った魔法を扱ったときは、いつの頃じゃった?」
「それは」
「呪封じ解呪の後、行いました」
俺の言葉にかぶせるようにして兄さんは言葉を連ねる。
そっと視線を向ければ、兄さんは何かに気が付いたように瞳を震わせていた。―何か分かったのだろうか。
「あぁ、ステイ。そんな不安そうな顔をするでない。お主の行動は間違っておらんし、咎めるつもりもない」
「父さん、結局一体何の話なんだ?」
「……。“同期性魔力消耗”名前だけならば、レナトも聞いたことがあるのではないですか?」
俺の疑問に一拍置いて、兄さんが答えてくれた。
“同期性魔力消耗”
名前だけならば何度も聞いたことはあるが、実際に体験したことは一度もない。
「…確か、魔法や魔力陣をその日のうちに複数同時に扱うことでおきる一時的な症例…だったよな」
「より正確にいうなら、己の保有魔力が低下している状態で短時間のうちに高度な魔力陣や、魔法をその身に浴びることによっておこるものです。疲れた体に追い打ちをかけるようなものですので、常であれば忌避すべきことなのですが…」
「レナトの心神喪失はおそらくはそれに起因するものではないかと思っておる」
兄さんと父さんの言葉に相槌をうちながら、俺はふと考える。
確かに解呪の後に行った一件では、“真偽同調魔法”ともう一つ“空間認知《除外》の魔力陣”が組まれていた。
どちらとも高度な魔法、魔力陣なため俺はあの後すぐ意識を失ってしまったのか。
(……?)
だけど少し引っかかることがある。
同期性魔力消耗。
これは保有魔力低下の際、高度な魔法をその身に浴び、体が耐え切れないためにおきる受動的要因だ。魔法を扱うわけじゃないために、保有魔力が枯渇寸前までなくなることは絶対にあり得ない。
けど、兄さんは俺の保有魔力が枯渇寸前だったと言っている。
―どうしても、何かが引っ掛かってもやもやが収まらない。
三分の一ほどの、普段通りに歩け会話できるくらいの魔力が残っていた。その魔力があの一件で意識を失ってしまうほどの値まで低下してしまった。
ならば、残っていたはずの俺の保有魔力は一体どこにいった?
「…―ペンダント」
ふ、っと一本の糸がつながった気がした。
「レナトどうしたのですか?」
兄さんの問いかけに何も答えず、俺は立ち上がり一室を後にする。
隊服の上衣に入れておいたペンダントを取り出し、足早に父さんたちの元まで戻ってきて机の上に置いた。真っ白な机の上に、黒々とした漆黒のペンダントが強く主張する。
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