推しを味方に付けたら最強だって知ってましたか?

●やきいもほくほく●

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番外編(本編の内容とは少し異なります。時系列バラバラです)

新しい世界3

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そして"あーん"してからクーシャが一言も喋らなくなってしまい、リオノーラは和やかな笑顔を浮かべつつ内心では、かなり焦っていた。
何かフォローをしなくてはと、クーシャに話を振った。


「ク、クーシャはどんな事してる時が幸せなの?」

「幸せ……?」

「何をしてる時が一番嬉しかったり、楽しかったりするのかしら……って」

「……幸せって、何ですか」

「え……?」


リオノーラは愕然としていた。
こんな幼い少年に『幸せとは何か』を問われる事になろうとは……。
どう説明しようかと考えていると、クーシャが静かに口を開いた。

「姉上やスフレは、いつも幸せそうに笑うから……」

「……クーシャ」

「嬉しい、幸せ、楽しい……そんな気持ちは今までなかったから、分からないんです。誰も教えてくれないから」


クーシャは静かに答えた。
そういえば、ここに来る前は痩せ細り、暴行を受けて酷い有様だったと父に少しだけ聞いたことがあった。


「ねぇ……クーシャ、悲しいや辛い、苦しいの違いは分かる?」

「はい、それは分かります」

「……そう」


そうなれば、クーシャは嬉しい、楽しい、幸せを知らないだけなのかもしれない。
幼い頃に当たり前のように教わる事を、クーシャは経験しなかったのだろう。
自然と笑顔も出ない程に辛い事ばかりあればそうなってしまうのも納得できた。


「クーシャはユーリンと話していると、どんな気持ちになる?」

「ユーリン殿下は僕の知らない事を知っています。新しいことを教わると胸がドキドキします」

「そう、クーシャは楽しいのね」

「楽しい……?」

「クーシャはユーリンとまた話したいと思うでしょう?」

「……はい」

「好意がなければ、また話したいとは思わないもの。ユーリンと話すのが楽しいのよ」


どうやらユーリンには好意的なのは間違いないようだ。
考え込んでいるクーシャに次の質問を投げかける。


「ねぇ、クーシャ……わたくしと過ごしている時、どんな気持ちか説明できる?」

「説明……?」

「難しい?」

「姉上は美しいので側にいると緊張します」

「……え゛っ!?」


思わずガチャリとカップが音を立てた。
今まで緊張されていたかと思うと申し訳ない気持ちになり、家で一人反省会を開こうと心に決めた時だった。


「でも今日の姉上は、表情がたくさん変わって見ていると……ふわふわします」

「ふわふわ?」

「姉上がケーキを食べている顔を見て、僕もケーキが少し好きになりました」

「そうなのね、嬉しいわ」

「嬉しい……姉上が?何故ですか?」


クーシャが首を傾げてこちらを見ている。


「だって、クーシャがわたくしと同じものを食べて美味しいって思ってくれたんだもの」

「???」

「好きなものを食べてる時は、幸せな気持ちになるでしょう?」


クーシャはケーキをまじまじと見ている。


「また次もクーシャの"好き"を探しに行きましょうね」

「"好き"は探すものなのですか?」

「ふふっ、わたくしがたくさん教えてあげるわ」

「……」


時間は掛かるかもしれないが、頭のいいクーシャならすぐに理解するだろう。
今日は失敗続きだったが、クーシャに近づけた気がして嬉しくなった。


「あの、姉上……」

「……?」


突然、目の前に影が差す。
不思議に思い、上を向くと……。


「……クリーム、ついてますよ?」

「ッ!!!」


クーシャの綺麗な顔が目の前にあって、親指で口元についたクリームを拭われる。
いつも動くことのない唇が僅かに開くと、なんの戸惑いもなくクリームを舐めとった。
リオノーラはポカンと口を開いてクーシャを見ていた。


「……顔が赤いですよ?」

「っ、それはクーシャが、いきなり……!」


クーシャは静かに椅子に腰掛けた。
恥ずかしくて堪らない。
真っ赤になった顔を隠す事も出来ずに、困惑していた。


「ふっ……」

「ク、クーシャ……?」


少しだけ喉を鳴らすようにクーシャは笑った。
慌てた姿が面白かったのだろうか……そう思うと何とも言えない気持ちになる。
初めて笑顔を見るキッカケがコレだとは、流石に予想出来なかった。


「どうやら僕……今、楽しいみたいです」

「なっ……!」


(………なんて末恐ろしい子ッ!!!!)

それから何故か、クーシャとの距離は少し縮まり、自分からポツリポツリと気持ちを話してくれるようになった。
クーシャに次は何処に行きたいかと問えば「新しいインクが欲しいです」と静かに答えてくれた。

表情も僅かながら動くようになり、少しだけクーシャと打ち解けられた気がした。
クーシャと共にスフレへのお土産を選びながら、和やかな時間を過ごしたのだった。




end
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