推しを味方に付けたら最強だって知ってましたか?

●やきいもほくほく●

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番外編(本編の内容とは少し異なります。時系列バラバラです)

⑥ 奇跡(料理長side)

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「こんな不味い料理、食べられないわ……!!」


使用人達から『我儘お嬢様』と言われていたリオノーラ・ダーカー。
毎日、何かと難癖つけては作った料理を残していた。


「料理長……またお嬢様が話があると」

「お前達は出るな、お嬢様には何も言うなよ」

「はい……」


何を出しても文句ばかり言うリオノーラに、料理人達は不満が溜まっていくばかりだった。
いつものようにリオノーラの元へ行くと「この葉が苦い」「これが固い」「味が濃い」と文句を言っていた。

誰も咎める人が居ない広いダイニングテーブルで、たった一人で行儀良く食事をする小さな背中をいつも見ていた。


「ちょっと聞いてるの……!?」

「はい、お嬢様」

「コレは全てあなたの責任よ!」


自分の娘のモニカよりも年齢を重ねている筈のリオノーラは、精神的にはとても幼く感じた。

(……甘え方を知らない子供だ)

リオノーラが可哀想に思えて仕方なかった。
毎日一人で食事をしては料理人を困らせる。
それしか人と関わる方法を知らないのだ。

屋敷では恒例となった光景。

料理長といえど使用人のグランドには、一緒にご飯を食べる事も手を差し伸べる事も出来ない。
そんな歯痒さを感じながら、リオノーラの話を聞いていた。


そんなある日、厨房にもリオノーラが変だという噂が聞こえてきた。


確かに最近、料理に文句を言われる事が一切無くなった。
皿もピカピカになって返ってくる。

ご馳走様、と言って小さな背中は去っていく。
皆、不思議に思っていた。

そしてリオノーラ付き侍女が全部クビになった。
ドレスやアクセサリーを全て捨てた。
様々な噂が屋敷中を駆け巡る。

そして……。


「わたくし、クッキーが作りたいのです」


久しぶりに見たリオノーラは真っ直ぐに此方を見ていた。
まるで別人のようだと思った。


「クッキーを作って、どうするのですか?」

「お世話になった方にプレゼントしたいのです」

「……何故、クッキーを?」

「わたくしは、まだ自由に使えるお金を持っていないので何も買う事は出来ません」

「………」

「その方に、とても感謝をしています。御礼をしたくてもわたくしに出来る事は限られています。だからクッキーを作り、お花を摘んで行こうと思っています。それが今、わたくしに出来る精一杯のことなので」

「……!」


あの我儘で文句ばかり言っていたお嬢様が御礼をしたいからクッキーを作りたいと言ったのだ。
疑惑の目を向けられていたリオノーラは、焦ったように違う話題を振った。


「いっ、いつも美味しいご飯をありがとうございます!」
「わたくしは玉ねぎのスープが一番好きです。あとチョコレートケーキも」
「あと柔らかい白くてまん丸なパンが兎みたいで…可愛くて好きです」


それを聞いて、驚き過ぎて声が出なかった。
リオノーラが好きだと言ったモノが全て娘のモニカの好物と一致したからだ。
苦しそうに咳き込む娘の姿を思い出す。


「おい……だれかお嬢様と一緒にクッキー作ってやれ」


気付いた時には、そう言っていた。

そしてクッキーを持っていった後、リオノーラはリーベとして王城へ行ってしまった。
その代わりにリオノーラの妹と母親が公爵家へと帰ってきたのだ。
それから暫く経った後、親戚から引き取った子供も。

(……可哀想に)

グランドはそう思わずにはいられなかった。
リオノーラが居なくなってから、あの子がずっと望んでたであろうものが目の前にあった。
スフレもクーシャも特に文句も言う事もなく、料理を食べていた。
四人で囲むダイニングテーブルを見て、グランドは寂しそうに一人でご飯を食べる、小さな背中を思い出していた。


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