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番外編(本編の内容とは少し異なります。時系列バラバラです)
命の炎4
しおりを挟む『はぁ……!?』
突然大声を出したメメは、一度起き上がり何かを考え込んでから再度モニカの胸元に耳を当てる。
『どうしてそこまで……?そうか、分かった……お前の最期を見届けよう』
メメは胸元から離れると此方に向き直る。
表情はどこか固く声も暗い。
『姫、この子はリーベじゃないです』
「え……?」
精霊が先に朽ちれば、契約違反としてリーベが命を落としてしまうのではないだろうか?
『火の精霊が己の命を散らす代わりに、この子供を生かすと言っています……』
「……っ、そんな事をしたら!」
『この火の精霊がやりたくて、している事だと……』
つまりモニカは契約していない精霊に生かされて、守られているという事になる。
それには驚きに言葉が出なかった。
「こんなイレギュラーって……」
隣にいるユーリンが呟いた。
どうやらリオノーラと同じ気持ちのようだ。
精霊は自由奔放で人間よりも、ずっと長く生きている。
それにリーベでもない人間を愛して、ましてや自分の命を犠牲にして子供を救いたいなんて信じられない気持ちだった。
『その代わりに……グランドに自分が居たことを知って欲しいと言っています』
「グランド……?それってまさか」
「……お、とうさ…っ」
モニカの小さな声が耳に届く。
モニカの父は料理長……という事はグランドは料理長を指すのだろう。
メメに確認すると「あの人間のことです」と頷いた。
『自分は小さく力がないから姿を見せる事は出来ない……だけどグランドの大切なものを守れるのなら消えても良い、と』
この精霊は料理長が大好きでリーベになりたいと願ったが、料理長にも火の精霊にもその力はなかった。
だから料理長が最も大切にしているモニカの命を繋ぎ止める事で役に立とうとしたのだろう。
「メメちゃん、この精霊は料理長の家にいたの?どんな姿……?」
『……釜?焼き釜の近くに居たと。小さな精霊みたいです』
「料理長には分かるかしら。メメちゃん、ありがとう!もう戻っていいわ。火の精霊さん、少し待ってて……わたくしは料理長を呼んでくるわね」
メメが金魚に戻ったのを確認してから、皆を部屋に呼び戻した。
「お嬢様……何の精霊か分かったのですか?」
「えぇ……結果から言うとモニカはリーベではなかったの」
「そうなのですか……?」
「でも、料理長……貴方を愛する火の精霊が、ずっとモニカの命を繋いでいたようなの」
「まさか……そ、そんな事が!?」
「だから、モニカはこんな状況でも……」
驚きに声を上げる奥さんと料理長に向けて言葉を続けた。
「その精霊が自分の命を使って、モニカを助けると言っているわ……!」
料理長は唖然とその場に佇んでいる。
信じられない……そんな表情を浮かべていた。
そして涙を流す奥さんは、料理長に寄り添うように話を聞いていた。
「最後に料理長……あなたに自分の存在を認識して欲しい、と」
「……っ!その精霊はどんな精霊なのですか!?」
「焼き釜にいる、小さな精霊だそうです」
「あなた、まさか……っ!」
「ほんとに、なんて言ったらいいのか……!」
「……っ」
「いつもモニカと一緒に料理をする時に使っている焼き釜に、精霊が……!」
二人はそう言うと、涙を流しながらモニカの側に駆け寄った。
料理長と奥さんはモニカの手を握りながら、必死に声を絞り出す。
「本当にっ、ありがとうございます!」
「ッ、ありがとうございます。娘をずっと支え続けてくれて……!」
「……ずっとあなたを忘れない!」
モニカの手を握りしめ、料理長と奥さんは泣きながら何度も何度も火の妖精に向けて語りかけていた。
すると胸元が蛍の光のように僅かに点滅しながら赤く光り出した。
その少し後、モニカの胸元が強く発光してから光がどんどんと弱くなっていく。
「……ぁ」
「───!」
光が完全に消えると、モニカの呼吸が落ち着いていく。
ヒューヒューと苦しげに鳴っていた喉が静かになり表情も穏やかなものになった。
料理長が汗ばんで張り付いた髪を指で拭うと、モニカの目蓋がゆっくりと開いた。
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