26 / 56
番外編(本編の内容とは少し異なります。時系列バラバラです)
⑤命の炎(料理長&モニカ)
しおりを挟む
(リオノーラが十六歳。公爵邸に通い、家族との関係も良くなった頃……)
公爵邸でのディナーはリオノーラの記憶が嘘のように賑やかになった。
五人で食べる食事は、とても美味しく感じた。
そして公爵邸に滞在している時には必ず、白いまん丸パンとオニオンスープとチョコレートケーキが出てくる。
「ん~!美味しい」
「リオノーラは本当にチョコレートケーキが好きね」
「ふふ、ダーカー家のチョコレートケーキは世界一です」
「スフレもチョコレートケーキ大好き!」
ふと、チョコレートケーキを作ってくれている料理長の怖い顔を思い出す。
そういえば、いつもディナーの後に顔を出してくれる料理長に、ここ最近会っていない。
明日、厨房に顔を出してみようと思いながら最後の一口を頬張った。
*
次の日の朝食の後、料理人達の休憩時間を狙って厨房に顔を出した。
すると丁度、ワルフがデザートの仕込みをしていた。
「あっ……ワルフ!」
「お嬢様……!?どうかしましたか?」
「いつも美味しいデザートをありがとね、ワルフ」
笑顔で言うと、ワルフは少し照れるように微笑んだ。
ワルフと談笑しながら気になっていた事を問いかけた。
「あのね、料理長の事なんだけど……」
「はい、料理長が何か……?」
「チョコレートケーキは今も料理長が作っているの?」
「あ……」
生地をこねていたワルフが、ふと手を止める。
「今月に入って、娘さんの具合が良くないみたいで……」
「え……?」
ワルフの話によれば、ずっと安定していた病状が、ここ数ヶ月で悪化してしまったのだという。
そこで料理長は休みをもらって王都にある診療所に居るのだという。
公爵家にずっと住み込みで働いているが、娘に会う為に隙を見ては家に帰っていたらしい。
「どんな病気なの……?」
「それが生まれつき体が弱かったらしくて……体調が安定しないそうです。それに風邪を拗らせたような症状がずっと続いているとも……」
「そう……」
ワルフは生地を寝かせながら心配そうに料理長の話をしていた。
二週間程前からは娘が心配で料理に身が入らない程だったのだという。
それでも自分の仕事を全うしようとする姿に、料理人全員でジョンテの元に頼み込みに行ったそうだ。
「俺達には何も出来なくて……」
「そんな事ないわ……きっと料理長は嬉しかったはずよ」
「……そうでしょうか」
「貴方は料理長の代わりに美味しいデザートを出してくれるじゃない?チョコレートケーキまでワルフが作っていたなんて、この私が気付けなかったのよ?」
「本当ですか……?あぁ、良かった!」
「でなければ、厨房を任せたりしないと思うわ」
ワルフは嬉しそうに手を合わせていた。
あの完璧主義で神経質そうな料理長を納得させる味を出せたのだ。
ワルフもここ数年で相当腕を上げたのだろう。
ワルフが次にティータイムに出すクッキーを作るというので「手伝わせて」と言えば、笑顔で承諾してくれた。
「料理長がお嬢様が帰ってくる時には必ず一度は白いパンとオニオンスープとチョコレートケーキを出すようにって言っていたんですよ」
「料理長が……?」
「好みが変わったかもしれませんよ?って言ったんですけど、良いんだって言って……ずっとお出ししてたんですよ」
「今でも大好きよ。懐かしい気持ちになるもの」
「それとデザートは俺が作るようにって言われて…………お嬢様、愛されてるなぁ……って思ったんですよ」
ワルフはそう言いながら、クッキー生地を冷蔵庫から取り出した。
リオノーラになってから料理長とちゃんと話したのは、クッキーを作りたいと言った一度だけだった。
それまでのリオノーラは料理に文句を言ったりと、酷いものだった。
それなのに『リオノーラ』の為にここまでしてくれているとは思わなかったのだ。
公爵邸でのディナーはリオノーラの記憶が嘘のように賑やかになった。
五人で食べる食事は、とても美味しく感じた。
そして公爵邸に滞在している時には必ず、白いまん丸パンとオニオンスープとチョコレートケーキが出てくる。
「ん~!美味しい」
「リオノーラは本当にチョコレートケーキが好きね」
「ふふ、ダーカー家のチョコレートケーキは世界一です」
「スフレもチョコレートケーキ大好き!」
ふと、チョコレートケーキを作ってくれている料理長の怖い顔を思い出す。
そういえば、いつもディナーの後に顔を出してくれる料理長に、ここ最近会っていない。
明日、厨房に顔を出してみようと思いながら最後の一口を頬張った。
*
次の日の朝食の後、料理人達の休憩時間を狙って厨房に顔を出した。
すると丁度、ワルフがデザートの仕込みをしていた。
「あっ……ワルフ!」
「お嬢様……!?どうかしましたか?」
「いつも美味しいデザートをありがとね、ワルフ」
笑顔で言うと、ワルフは少し照れるように微笑んだ。
ワルフと談笑しながら気になっていた事を問いかけた。
「あのね、料理長の事なんだけど……」
「はい、料理長が何か……?」
「チョコレートケーキは今も料理長が作っているの?」
「あ……」
生地をこねていたワルフが、ふと手を止める。
「今月に入って、娘さんの具合が良くないみたいで……」
「え……?」
ワルフの話によれば、ずっと安定していた病状が、ここ数ヶ月で悪化してしまったのだという。
そこで料理長は休みをもらって王都にある診療所に居るのだという。
公爵家にずっと住み込みで働いているが、娘に会う為に隙を見ては家に帰っていたらしい。
「どんな病気なの……?」
「それが生まれつき体が弱かったらしくて……体調が安定しないそうです。それに風邪を拗らせたような症状がずっと続いているとも……」
「そう……」
ワルフは生地を寝かせながら心配そうに料理長の話をしていた。
二週間程前からは娘が心配で料理に身が入らない程だったのだという。
それでも自分の仕事を全うしようとする姿に、料理人全員でジョンテの元に頼み込みに行ったそうだ。
「俺達には何も出来なくて……」
「そんな事ないわ……きっと料理長は嬉しかったはずよ」
「……そうでしょうか」
「貴方は料理長の代わりに美味しいデザートを出してくれるじゃない?チョコレートケーキまでワルフが作っていたなんて、この私が気付けなかったのよ?」
「本当ですか……?あぁ、良かった!」
「でなければ、厨房を任せたりしないと思うわ」
ワルフは嬉しそうに手を合わせていた。
あの完璧主義で神経質そうな料理長を納得させる味を出せたのだ。
ワルフもここ数年で相当腕を上げたのだろう。
ワルフが次にティータイムに出すクッキーを作るというので「手伝わせて」と言えば、笑顔で承諾してくれた。
「料理長がお嬢様が帰ってくる時には必ず一度は白いパンとオニオンスープとチョコレートケーキを出すようにって言っていたんですよ」
「料理長が……?」
「好みが変わったかもしれませんよ?って言ったんですけど、良いんだって言って……ずっとお出ししてたんですよ」
「今でも大好きよ。懐かしい気持ちになるもの」
「それとデザートは俺が作るようにって言われて…………お嬢様、愛されてるなぁ……って思ったんですよ」
ワルフはそう言いながら、クッキー生地を冷蔵庫から取り出した。
リオノーラになってから料理長とちゃんと話したのは、クッキーを作りたいと言った一度だけだった。
それまでのリオノーラは料理に文句を言ったりと、酷いものだった。
それなのに『リオノーラ』の為にここまでしてくれているとは思わなかったのだ。
11
お気に入りに追加
8,136
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。