22 / 56
番外編(本編の内容とは少し異なります。時系列バラバラです)
③ 零れ落ちた水(フェリクスside)
しおりを挟む
(リオノーラに訳を話した後……フェリクスの回想)
母は淑やかで多くは語らない女性だった。
伯爵家出身で婚約者候補の中でも珍しい水の妖精のリーベという事で父と結婚した。
母の精霊は、光に反射すると羽が虹色に輝く、とても美しい精霊だった。
そんな母と精霊が本当に大好きだった。
対してソフィーネは妖艶でとても綺麗な女性だった。
黒豹の中型精霊、アジャイルのリーベで男爵の娘だった。
学園を卒業後、その若さで新しいリーベの教育係を勤めていた。
自分の意見をしっかりと持ち、リーベ達が幸せになれるようにと積極的に動いていた。
ソフィーネは快活で、誰にでも優しく人気者だった。
精霊を触らせてくれたり、一緒に遊んでくれるソフィーネがフェリクスは大好きだった。
けれど、フェリクスがソフィーネの話を嬉しそうにすると母は見た事が無いくらい怖い顔をした。
その時、母の前でソフィーネの話をしてはいけない…そう思った。
愛を育んだマルクスとソフィーネの関係は、幸せそのものだった。
側妃として迎え入れたいと父が言った時に、母は静かに頷いただけだった。
しかし母と父の関係に、何も変化は無かった。
それから暫く経って、双子の男児が生まれた。
父を取られたというモヤモヤとした気持ちをぶつけることもあった。
けれどそれは、母にとって屈辱的で残酷なことだったろう。
無知な自分が母を傷付けていた……そう気付いたのは、成長して母の死から大分経った後だった。
ソフィーネの存在が許せなかったのか、自分がマルクスと愛を育めなかった事が悔しかったのか、精霊が小型なのを気にしていたのか………今となっては知ることは出来ないが、母は静かに静かに憎悪を募らせていったのだろう。
母が唯一感情を見せたのは"第一王子の母親"として扱われる時だった。
それに応えるように必死で勉強して完璧な王子として振る舞った。
第一王子としての評判が良くなると母は必ず「愛してるわ…フェリクス」と嬉しそうに言ってくれた。
頑張れば、いつか元の母に戻ってくれる……そう信じて疑わなかった。
しかし母は、徐々に壊れていった。
早い段階でマルクスに訴えた。
けれど母は父が部屋に来ると、気丈に振る舞った。
何事もないように、いつも通りに…。
そんな母の姿を見て戸惑っていた。
どうして助けを求めないのだろう。
「私を見て…」そう父に言えば良いのに、と。
母を説得しようとしても、首を横に振るだけだった。
その後も父に必死に訴えても、母を助けてと懇願しても、聞き入れられることは無かった。
ただ、歯痒さを感じていた。
そして風邪を拗らせて寝ていた時だった。
顔を真っ青にした侍女が部屋に飛び込んできた。
いつも母の世話をしてくれる侍女だった。
侍女から、母が自分の精霊を殺めて契約違反で衰弱してしまったと涙ながらに伝えられたのだ。
熱に浮かされた体に鞭を打って、母の部屋まで走った。
「母上…ッ!!!」
母はベッドで静かに横になっていた。
激しく咳き込みながら、侍女に支えられながら母の元へ駆け寄った。
体を揺らしても、声を掛けても母は返事を返してはくれなかった。
いつもなら「どうしたの?」と、そう言って優しく頭を撫でてくれるのに…。
「母上…っ!起きて……!!」
「………」
「っ、お願い……目を開けてよ!僕を見て…ッ」
「………」
「いい子にするから…ッ勉強も、もっと、もっと頑張るからぁ……!!」
「………」
「ねぇ…母上、おねがいだから…起きて……?」
「………」
「っ、いやだ…!嫌だぁあぁ……ッ!!」
「…ッすまない、すまない!フェリクス」
父の重苦しい声が聞こえた気がした。
一番の親友と愛する母親を一度に失った。
胸が張り裂けそうな程に痛んだ。
「………ッ!!」
静かに涙を流す父と、隣で顔を伏せているソフィーネを鋭く睨みつけた。
全てが許せなかった。
怒りで頭がおかしくなりそうだった。
母は淑やかで多くは語らない女性だった。
伯爵家出身で婚約者候補の中でも珍しい水の妖精のリーベという事で父と結婚した。
母の精霊は、光に反射すると羽が虹色に輝く、とても美しい精霊だった。
そんな母と精霊が本当に大好きだった。
対してソフィーネは妖艶でとても綺麗な女性だった。
黒豹の中型精霊、アジャイルのリーベで男爵の娘だった。
学園を卒業後、その若さで新しいリーベの教育係を勤めていた。
自分の意見をしっかりと持ち、リーベ達が幸せになれるようにと積極的に動いていた。
ソフィーネは快活で、誰にでも優しく人気者だった。
精霊を触らせてくれたり、一緒に遊んでくれるソフィーネがフェリクスは大好きだった。
けれど、フェリクスがソフィーネの話を嬉しそうにすると母は見た事が無いくらい怖い顔をした。
その時、母の前でソフィーネの話をしてはいけない…そう思った。
愛を育んだマルクスとソフィーネの関係は、幸せそのものだった。
側妃として迎え入れたいと父が言った時に、母は静かに頷いただけだった。
しかし母と父の関係に、何も変化は無かった。
それから暫く経って、双子の男児が生まれた。
父を取られたというモヤモヤとした気持ちをぶつけることもあった。
けれどそれは、母にとって屈辱的で残酷なことだったろう。
無知な自分が母を傷付けていた……そう気付いたのは、成長して母の死から大分経った後だった。
ソフィーネの存在が許せなかったのか、自分がマルクスと愛を育めなかった事が悔しかったのか、精霊が小型なのを気にしていたのか………今となっては知ることは出来ないが、母は静かに静かに憎悪を募らせていったのだろう。
母が唯一感情を見せたのは"第一王子の母親"として扱われる時だった。
それに応えるように必死で勉強して完璧な王子として振る舞った。
第一王子としての評判が良くなると母は必ず「愛してるわ…フェリクス」と嬉しそうに言ってくれた。
頑張れば、いつか元の母に戻ってくれる……そう信じて疑わなかった。
しかし母は、徐々に壊れていった。
早い段階でマルクスに訴えた。
けれど母は父が部屋に来ると、気丈に振る舞った。
何事もないように、いつも通りに…。
そんな母の姿を見て戸惑っていた。
どうして助けを求めないのだろう。
「私を見て…」そう父に言えば良いのに、と。
母を説得しようとしても、首を横に振るだけだった。
その後も父に必死に訴えても、母を助けてと懇願しても、聞き入れられることは無かった。
ただ、歯痒さを感じていた。
そして風邪を拗らせて寝ていた時だった。
顔を真っ青にした侍女が部屋に飛び込んできた。
いつも母の世話をしてくれる侍女だった。
侍女から、母が自分の精霊を殺めて契約違反で衰弱してしまったと涙ながらに伝えられたのだ。
熱に浮かされた体に鞭を打って、母の部屋まで走った。
「母上…ッ!!!」
母はベッドで静かに横になっていた。
激しく咳き込みながら、侍女に支えられながら母の元へ駆け寄った。
体を揺らしても、声を掛けても母は返事を返してはくれなかった。
いつもなら「どうしたの?」と、そう言って優しく頭を撫でてくれるのに…。
「母上…っ!起きて……!!」
「………」
「っ、お願い……目を開けてよ!僕を見て…ッ」
「………」
「いい子にするから…ッ勉強も、もっと、もっと頑張るからぁ……!!」
「………」
「ねぇ…母上、おねがいだから…起きて……?」
「………」
「っ、いやだ…!嫌だぁあぁ……ッ!!」
「…ッすまない、すまない!フェリクス」
父の重苦しい声が聞こえた気がした。
一番の親友と愛する母親を一度に失った。
胸が張り裂けそうな程に痛んだ。
「………ッ!!」
静かに涙を流す父と、隣で顔を伏せているソフィーネを鋭く睨みつけた。
全てが許せなかった。
怒りで頭がおかしくなりそうだった。
15
お気に入りに追加
8,129
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。