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番外編(本編の内容とは少し異なります。時系列バラバラです)
苦い思い3
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そんな時、アーリンから手紙が送られてきた。
内容としては『リオノーラに会いにいく決心がついた』と言うものだった。
ゾイは本当にアーリンに手紙を送ったのだと思った。
でなければ、来年にでも公爵家に戻ろうと話していたのに辻褄が合わないからだ。
アーリンがリオノーラに対して、愛情を与えられなかった事を悔いているのを知っていた。
リオノーラは母親が会いにきてくれた事を素直に喜んでくれる、そう信じて疑わなかった。
「……お母様は、どうしてわたくしに会いに来て下さらなかったのですか?」
ストレートにぶつけられた言葉に、たじろいだのは此方の方だった。
喜びもせず、泣きもせず、瞳の奥に怒りを灯しながらリオノーラは真っ直ぐにアーリンを見ていた。
「わたしくしの事には、あまり興味がないようでしたので」
戸惑い涙するアーリンを庇うようにジョンテは前に出た。
それを見たリオノーラの瞳が、また冷たくなる。
自分達はリオノーラに喜ばれる事など、何一つしてやれていない事に、この時はまだ気づいていなかった。
自分の家族はシンシアだけだと言うリオノーラに、何も返す言葉が見つからなかった。
一人で過ごす毎日はどれだけ孤独だったのだろう…今になって気付く。
去ろうとするリオノーラを引き止めたのは己のプライドが許さなかったからだ。
そしてアーリンの気持ちを考えた結果だった。
「久しぶりに母親が会いに来たのだぞ……?」
そう言うとリオノーラは見透かしているようにこう言ったのだ。
「会いに来てやったから、泣いて喜べと?」
リオノーラの言葉に心臓が跳ねた。
まさに自分は無意識にリオノーラに求めていた事だった。
母親が会いにきたのだから喜ぶに違いないと。
謝ったとしてもリオノーラは態度を崩さなかった。
そんな事は意味が無いと言われているようで、だんだん腹が立ってきたのだ。
どうしてそんなに我儘なのか、と言ってはいけない言葉が口から漏れる。
お前は此方の事情など何も知らないのだと、アーリンがどれだけ苦しんできたのかを知らないから…と、どんどんと感情が昂っていく。
そしてリオノーラに何を質問されても、一つも答えられない事実に驚いていた。
リオノーラが我儘になった原因など考えたこともなかったのだ。
「どうして私は……こんな風に育ってしまったのでしょう?教えて下さいませ、お父様」
そして事実を突きつけられる。
お前は何も知らないのだと。
その言葉に頭に血が上り、小さな頬を思い切り叩いた。
アーリンの制止も聞こえずに、もう一度手を上げようとした時に、リオノーラが"家族"と言ったシンシアが震えながら前に立ち塞がった。
それでも怒りが収まらずに怒りの矛先はシンシアへと向いた。
すれば今度は小さな手を広げたリオノーラが立ち塞がる。
「……ッシンシアだけが私の家族よ!シンシアは私のたった一人の味方なのっ!」
血の繋がりでは無い、確かな絆を見せつけられた気がした。
「私は殴ってもいい!でもシンシアはダメよ!!」
その言葉で、初めて己の愚かさに気づいた。
気丈にも涙を堪えながら頬を腫らす娘に、何か言わなければと考えを巡らせど、何も言葉が出てこなかった。
*
やりすぎてしまった……痺れた掌を握りしめた。
アーリンに諭されて、リオノーラの元へ謝りに行こうと重たい足を進めていた。
「うわぁああっ……!!」
悲痛な叫び声に足を止めた。
泥だらけでシンシアに縋り付くリオノーラに息が止まった。
自然と涙がジョンテの頬を伝った。
アーリンは声を押し殺して涙を流していた。
気丈に振る舞っていたリオノーラの本当の心を見たような気がした。
自分達の行いがどれだけリオノーラを苦しめたのだろう。
小さな体で必死に助けを求めていたのに見て見ぬふりをしていた自分達は、もう親とは言えないだろう。
リオノーラが拒絶した理由や言葉の意味を理解せずに我儘だと決めつけたのは、己の浅慮な考えだ。
声が枯れるまで、喉が擦り切れるまで泣いたリオノーラはシンシアに連れられて部屋へと向かった。
その場から一歩も動けずに、ただ立ち尽くしていた。
end
内容としては『リオノーラに会いにいく決心がついた』と言うものだった。
ゾイは本当にアーリンに手紙を送ったのだと思った。
でなければ、来年にでも公爵家に戻ろうと話していたのに辻褄が合わないからだ。
アーリンがリオノーラに対して、愛情を与えられなかった事を悔いているのを知っていた。
リオノーラは母親が会いにきてくれた事を素直に喜んでくれる、そう信じて疑わなかった。
「……お母様は、どうしてわたくしに会いに来て下さらなかったのですか?」
ストレートにぶつけられた言葉に、たじろいだのは此方の方だった。
喜びもせず、泣きもせず、瞳の奥に怒りを灯しながらリオノーラは真っ直ぐにアーリンを見ていた。
「わたしくしの事には、あまり興味がないようでしたので」
戸惑い涙するアーリンを庇うようにジョンテは前に出た。
それを見たリオノーラの瞳が、また冷たくなる。
自分達はリオノーラに喜ばれる事など、何一つしてやれていない事に、この時はまだ気づいていなかった。
自分の家族はシンシアだけだと言うリオノーラに、何も返す言葉が見つからなかった。
一人で過ごす毎日はどれだけ孤独だったのだろう…今になって気付く。
去ろうとするリオノーラを引き止めたのは己のプライドが許さなかったからだ。
そしてアーリンの気持ちを考えた結果だった。
「久しぶりに母親が会いに来たのだぞ……?」
そう言うとリオノーラは見透かしているようにこう言ったのだ。
「会いに来てやったから、泣いて喜べと?」
リオノーラの言葉に心臓が跳ねた。
まさに自分は無意識にリオノーラに求めていた事だった。
母親が会いにきたのだから喜ぶに違いないと。
謝ったとしてもリオノーラは態度を崩さなかった。
そんな事は意味が無いと言われているようで、だんだん腹が立ってきたのだ。
どうしてそんなに我儘なのか、と言ってはいけない言葉が口から漏れる。
お前は此方の事情など何も知らないのだと、アーリンがどれだけ苦しんできたのかを知らないから…と、どんどんと感情が昂っていく。
そしてリオノーラに何を質問されても、一つも答えられない事実に驚いていた。
リオノーラが我儘になった原因など考えたこともなかったのだ。
「どうして私は……こんな風に育ってしまったのでしょう?教えて下さいませ、お父様」
そして事実を突きつけられる。
お前は何も知らないのだと。
その言葉に頭に血が上り、小さな頬を思い切り叩いた。
アーリンの制止も聞こえずに、もう一度手を上げようとした時に、リオノーラが"家族"と言ったシンシアが震えながら前に立ち塞がった。
それでも怒りが収まらずに怒りの矛先はシンシアへと向いた。
すれば今度は小さな手を広げたリオノーラが立ち塞がる。
「……ッシンシアだけが私の家族よ!シンシアは私のたった一人の味方なのっ!」
血の繋がりでは無い、確かな絆を見せつけられた気がした。
「私は殴ってもいい!でもシンシアはダメよ!!」
その言葉で、初めて己の愚かさに気づいた。
気丈にも涙を堪えながら頬を腫らす娘に、何か言わなければと考えを巡らせど、何も言葉が出てこなかった。
*
やりすぎてしまった……痺れた掌を握りしめた。
アーリンに諭されて、リオノーラの元へ謝りに行こうと重たい足を進めていた。
「うわぁああっ……!!」
悲痛な叫び声に足を止めた。
泥だらけでシンシアに縋り付くリオノーラに息が止まった。
自然と涙がジョンテの頬を伝った。
アーリンは声を押し殺して涙を流していた。
気丈に振る舞っていたリオノーラの本当の心を見たような気がした。
自分達の行いがどれだけリオノーラを苦しめたのだろう。
小さな体で必死に助けを求めていたのに見て見ぬふりをしていた自分達は、もう親とは言えないだろう。
リオノーラが拒絶した理由や言葉の意味を理解せずに我儘だと決めつけたのは、己の浅慮な考えだ。
声が枯れるまで、喉が擦り切れるまで泣いたリオノーラはシンシアに連れられて部屋へと向かった。
その場から一歩も動けずに、ただ立ち尽くしていた。
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