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1巻

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 次の日、顔が風船のように真っ赤に腫れていた。頬もそうだが、泣き腫らした目蓋はもっとひどかった。涙と共に心につっかえていたモノが取れて、妙にスッキリとした気分だった。父におもねる気持ちも綺麗さっぱり消えたため、顔の腫れを理由に部屋に引きこもる。
 けれど二日ほど部屋にいると流石に飽きてくる。ふと、ゾイに会いたくてたまらなくなり、シンシアに声を掛けた。

「シンシア、ゾイ様にこの間、ドレスを選んでいただいたお礼をしたいのだけど何がいいかしら」

 お礼をしたくても、今の状態では何かを買う事も出来ないだろう。父と顔を合わせないのであれば、リオノーラの出来る事は限られてくる。

「そうですね……お花やお手紙、お菓子などはいかがでしょうか?」
「シンシア、さすがだわ! さぁ行きましょう」
「今から行くのですか⁉」
「もちろんよ」
「あっ……! お嬢様、待ってください」

 庭師と共に花を摘んで手作りのクッキーを持って馬車に乗り込み、メゾン・ヴィーナスへと向かった。今すぐに行かなければいけない、誰かに呼ばれているようなそんな気がした。

「あら、珍しいお客様ね。いらっしゃい……通して頂戴」

 二階で優雅に紅茶を飲んでいたゾイは、店員に目配せする。店員に案内されるがまま、向かい側の椅子を引いた。手を借りながら少し高い椅子に腰掛ける。

「ドレス、とっても似合ってるわ」
「ありがとうございます! ゾイ様、急に押し掛けて申し訳ありません。どうしてもゾイ様に会いたくなってしまって……」
「ふふっ、いいのよ。たまたまここにいてよかったわ。今日はジョンテと一緒ではないのね」
「えぇ、お父様は……」

 わたくしの顔は見たくないでしょうから……そう続けようとしたが口をキュッと閉じる。避けているので当たり前だが顔を合わせる事はない。あのあと話をする機会もその気もなかった。話をらすように、持ってきたクッキーと花をゾイに渡した。

「これ……この間ドレスを選んでいただいたお礼です」
「まぁ……!」
「ダーカー家の料理人に手伝ってもらって一生懸命作りました。お口に合うかは分かりませんが食べてください。それと花を……」
「いただくわ。とても素敵ね」

 ゾイの側にいる侍女達が、持ってきたクッキーを綺麗にお皿に並べ、花瓶に花を飾ってテーブルに置く。色とりどりの花とクッキーが置かれた白いテーブルは一気に華やかになる。

「リオノーラ、アーリンとは……母親とは会えた?」
「え……?」

 ゾイはなごやかに笑っていた。何故ここで母の名前が出るのか疑問に思ったが、以前この店に来た時に母の名前を口に出していた事を思い出す。急に母がリオノーラを訪ねてきた理由は、もしかするとゾイが何かを伝えてくれたからかもしれない。しかしそんな気遣いも、あんな形で終わってしまった。暗い表情を浮かべていると、ゾイはカップを置いて心配そうに見ていた。

「リオノーラ……?」
「お母様とは顔も忘れてしまうほどに、久しぶりに顔を合わせたのですが、妹の話を楽しそうにしておりました。わたくしの事は、あまり好きではないのでしょうね……怯えているように見えました」
「……!」
「今まで手紙の返事も来なかったし、一度も会いに来てくれませんでしたから。何か理由があったのだとは思いますが、話してはくれませんでした」
「……リオノーラ」
「それを聞こうとしてみたのに、お父様にも怒られてしまいました」
「リオノーラ、それは……」
「よくよく考えてみたら、お父様とのお出掛けは、この店でお買い物した時が初めてだったんです。妹は……わたくしと違って、お母様やお父様と楽しく過ごしていたのかと思うと、少し羨ましいです」

 ゾイは何かを言いかけたが、静かに話に耳を傾けてくれた。この気持ちはリオノーラのものなのか、莉子のものなのかはよく分からない。ここ数日で、莉子とリオノーラは別の存在ではなく、一緒になって混じり合ったような気がしていた。

「お父様とお母様には内緒にしておいてください」
「……。えぇ、約束するわ」
「申し訳ありません。こんな話を……」
「いいのよ。それよりもリオノーラは大丈夫?」
「はい。シンシアが側にいてくれますので……」
「シンシア……?」
「ずっと我儘だったわたくしを見捨てないで側にいてくれた侍女です。わたくしの、たった一人の家族なんです。そんなシンシアのためにも心を入れ替えようと思いました」

 ゾイは紅茶を置き、そっと立ち上がって側まで歩くと、視線を合わすようにしてゆっくりとかがんだ。

「ゾイ様……?」
「…………ごめんなさい。余計な事をして、あなたの心を乱してしまったわ」
「いいえ、遅かれ早かれ同じ事です……いつかはこうなってました」

 結果、上手くはいかなかったが、これ以上、家族に振り回されずに生きていく事が出来るかもしれない。たとえ家族から距離を置かれたとしても、愛情を求め続けて苦悩しながら生きていくよりマシだろう。

(今日ここに来る事が出来て、本当によかった……)

 ゾイに優しく抱き締められて、温かな体温を感じながら目を閉じた。

「お母様に抱き締められたら、こんな気持ちになるのかもしれません。ゾイ様、ありがとうございます」

 ゾイは黙ってリオノーラを抱きしめていたが、しばらくしてふと呟く。

「私も最近、あの子達を抱きしめてないわ」
「ゾイ様には、お子様が?」
「えぇ、みんな男の子なの。三人もいるのよ?」
「賑やかですね」

 ゾイは嬉しそうに微笑んでいる。きっと、とても素敵な子供達なのだろう。

「えぇ……でもドレスを着せられなくて残念だわ」
「こんなに素敵なドレスを作れるのにもったいない気がしますね」

 ゾイは頭を優しく撫でてくれた。安心感に笑みがあふる。その瞬間、ゾイが何かに気づいた顔で手を止めた。そのまま目をみはるゾイに首を傾げる。

「……ゾイ様?」
「やっぱりそうだわ。リオノーラ、あなたまさか……!」
「え……?」

 真剣な顔をしてこちらを見ているゾイに首を傾げた。リオノーラに問いかけようと立ち上がった瞬間、バタンッと大きな音が一階からした。ゾイがそちらに向かう。

「――リオノーラッ! ここにリオノーラはいるか⁉」
「ジョンテ……店で大声を出さないで」
「リオノーラが邸からいなくなってしまったんだ……! 何か知らないか!?」

 焦る父の姿を見て気がついたことがある。思いつきと勢いだけでここまで来たので、誰にも行き先を伝えていなかったのだ。唯一、居場所を知るシンシアも、リオノーラにずっと付き添っていたため、行き先を知る人物は屋敷にはいなかった。

「お、お父様……」

 二階から恐る恐る顔を出した。目を見開いた父が、怒鳴りながら階段を上がってくる。

「お前は何をしているんだ! どれだけ周りに迷惑を掛けたと思ってるんだ‼ いい加減にしろッ」
「……申し訳、ございません」
「無断で出掛けるなど……! 何かあったらどうするんだ。護衛も付けずに!」

 素直に謝罪の言葉を口にして頭を下げる事しか出来なかった。無断で出掛けたのは明らかに非があったからだ。執事や侍女に一言でも声を掛けていたら、こんな事にはならなかったかもしれない。

「そんなにドレスがほしいのかっ⁉ もうたくさん買ってやっただろう」
「違います。わたくしは……」
「いつも我儘を言って私を困らせてばかり! スフレは……スフレは、あんなにも良い子だというのにお前はっ!!」

 その言葉を聞いて目を見開いた。視界がにじむ。しかし頭に血が上り、怒っている今の父が気づく事はないだろう。それに今はゾイの前だ。父の気が収まるまで、ただひたすら耐えるしかない。そう思って黙っていると、横からヒールの音が聞こえた。ゆっくりと顔を上げる。

「もうやめて頂戴。これ以上、リオノーラを傷つけないで」

 ゾイがリオノーラを庇うように前に立っていた。怒りのこもった声に驚く。

「……ゾイ」
「あなたがリオノーラを心配している事は分かったわ。でも、少し言い過ぎじゃないのかしら?」
「しかし……!」

 ゾイは綺麗な刺繍がほどこされたハンカチを差し出してくれた。軽く頭を下げて会釈してからハンカチを受け取った。その気遣いが、今は有り難い。

「リオノーラの話を、どうして聞こうとしないの?」
「……だがっ!」
「確かに行き先を言わずに出掛けたリオノーラに非があるのかもしれない。けれど、間違いやあやまちなんて誰にでもある事。子供ならば尚更よ」
「……!」
「それにドレスがほしい子供が親も連れずに、一人で店に来るかしら?」
「……そ、れは」
「話も聞かずに、我儘だと決めつけるのは早計すぎるのではなくて?」
「…………⁉」
「心配だったのなら、そう伝えればいい。次から気をつけるように諭してあげたらいい。けれど妹と比べてリオノーラをとがめるのは違うのではないかしら?」

 ゾイの言葉に喉の奥から熱いものが込み上げてくる。そして気持ちを理解してくれた事が、何よりも嬉しかったのかもしれない。下を向きながら誰にもバレないように、そっとハンカチで涙をぬぐった。

「すまない……」
「謝るのは私にではないはずよ。あとリオノーラのために言っておくけど、私にこの間のお礼をしたいとわざわざ尋ねてきてくれたのよ」
「……本当か、リオノーラ」
「……。はい」

 小さく頷くと、気まずそうに逸らされる視線。

「リオノーラは、ちゃんと否定をしていたわ。謝罪もね。あなたは聞いていなかったようだけど……」
「…………」
「……それから、リオノーラは、しばらく私達が預かりたいのだけれど、いいかしら?」
「なっ……!? どういう事だ」

 ゾイは急遽、書類を用意するように従者に頼んでいた。突然の事にどうすればいいか分からずにリオノーラは成り行きを見守っていた。

「申し訳ないけれど、今のダーカー家にリオノーラをこれ以上置いておけないわ。危険だもの」
「ゾイ、勝手に決めるな!」
「いいえ、これは義務よ。リオノーラはリーベなの」
「リオノーラがリーベだと⁉ そんなわけないだろう……!」
「確認したのよ。リオノーラは間違いなくリーベだわ」

『リーベ』という聞き覚えのない言葉に首を傾げた。
 ゾイはどうしてリオノーラを預かると言ったのだろうか。それにダーカー家にいると危険というのはなぜだろうか。混乱するリオノーラにゾイは優しく言った。

「精霊に愛された者を『リーベ』と、そう呼ぶのよ」

 正確には、『リーベ』とは精霊と契約した人間を指す言葉だった。
 この国には不思議な力があって、それは全て精霊によるものだという事は知っていた。リーベの意味は分かったが、なぜリオノーラがリーベであると判断されたのだろうか……謎は深まるばかりである。

「リオノーラには、強い力が宿っているわ」
「……!」

 父の焦ったような視線を感じていた。リオノーラがリーベだと何か都合が悪いのだろうか。そう考えていると……

「……リオノーラは、どうしたいんだ」
「え……?」

 突然、父に問われて戸惑ってしまう。

「リオノーラのためにアーリンとスフレが本邸に戻って来るんだ。これから四人で仲良く暮らせる。今年からリオノーラの誕生日も一緒にお祝い出来るぞ!」
「…………」
「ちょっと、ジョンテ! 今、リオノーラにいい感情を持たれていないあなた達が一緒に暮らせば、どうなるか分かるでしょう⁉ それにリーベだと分かった時点でしばらく一緒に暮らすのは無理よ……!」
「まだリーベかどうかは分からないだろう……!? 現にリオノーラは精霊を認識していないじゃないか」
「……分かるのよ、同じリーベには。それに精霊の力が強ければ強いほどリーベが傷付くと怒ったり、嫌だと思うものを壊したり……感情に引きられて暴れ出す事だってあるわ! 適切な環境で正しい力を身につけるために訓練しなければならないのよ」

 精霊は強くなるほど力を制御する事が難しいらしく、リーベになった時点で訓練を受けなければならない。早ければすぐに家に帰る事も出来るし、精霊との関係性によっては家から通う事も出来るそうだ。
 悲しい事故が起こるのを防ぐため、また、精霊とより良い関係を築くためには必要なことらしい。子供にはリーベの存在を、なるべく教えないようにしているのだという。

「リオノーラの場合は早めに手を打った方がいいと思うの。とても強い力を感じるから」
「だが、このままじゃいけないとアーリンと話し合って決めたんだ! それに屋敷からでも通える距離だろう?」
「一緒に暮らしながら通う事も出来なくはないけれど……相当危険よ? あなたが思ってるよりも。その覚悟が貴方にあるの? アーリンやリオノーラの妹が傷付いたら、あなたは今みたいにリオノーラを責めないと言いきれるの?」
「……っ」
「今までのやり取りを見ている限りだと、とても無理そうね。少し離れてリオノーラの気持ちをキチンと考えてあげたらどうかしら?」
「そんな事、分かってるっ!」
「……ジョンテ」
「リオノーラ、聞いてくれ。これからはもう一人じゃないんだ! 家族として、もう一度やり直そう」

 仲良く暮らせる。誕生日をお祝いしてくれる。もう一人じゃない。すべて以前のリオノーラが欲していたものだ。そして手に入れられなかったもの。それが今、目の前にあるというのに心から喜べないのは何故だろう。
 父がこの間の事をどう思ったのかは分からない。
 もしかしたら、リオノーラの事を考えて家族で過ごす時間を作ろうとしてくれているのかもしれない。父なりに考えて、必死に道を模索してくれたのかもしれない。
 けれど、不思議と嬉しい気持ちはなかった。それがリオノーラを想って言ってくれた言葉だとしてもだ。今更、母とスフレが戻ってきたとして、二人の幸せな姿を見て恨まずにいられるだろうか。
 スッと心が冷えていくのを感じていた。

「……もう、何もいらないわ」

 冷たい声が口から漏れ出た。新しい道が示された今、あれだけ欲していた愛情に、なんの魅力も感じなくなってしまった。

「ゾイ様の元に行けば、もうお父様を困らせる事もないでしょう。今までわたくしのせいで色々とご迷惑を掛けて申し訳ありませんでした」
「リオノーラ、違うんだ! そういう事を言いたいんじゃない」
「お父様とお母様は、良い子なスフレを可愛がってください……わたくしの事はもういいですから」

 そう言って、にっこりと笑ってみせた。少しくらい嫌味を言っても許されるだろうか。今、家族への期待は残っていない。涙と共に流れ出て行ってしまった。
 それに、もう期待する事に疲れてしまった。アーリンとスフレは血の繋がりはあるが、ほとんど赤の他人状態である。
 今の家族と無理をして心を殺して過ごすより、家族と離れた方が楽しく暮らせるような気がした。

「私はゾイ様の元へ行きたいです!」

 疑問はたくさんあるし、不安がないかといえば嘘になる。けれど、ゾイと共に行く事を選びたい。
 この先、公爵家に帰れるかどうかは、リオノーラ自身と契約した精霊次第だと書類と共に説明を受けた。ゾイにうながされながら父は震える手で書類にサインした。

「ゾイ様……シンシアは一緒に連れて行ってもいいのでしょうか?」
「えぇ、侍女は一人だけ連れて行っても大丈夫よ」
「……シンシア、いいかしら?」
「もちろんですよ、お嬢様」

 ホッと胸を撫で下ろした。シンシアが側にいてくれるならば安心である。
 ゾイに深々と頭を下げて、公爵家の馬車に乗り込んだ。帰る際も父とは一言も言葉を交わす事はなかった。
 なぜか暗い顔をしていたが、我儘なリオノーラが去るのを喜ばなかったのは意外だった。リオノーラがいなくなれば三人で仲良く過ごせる筈なのに。

(まさか本当に家族として、やり直そうと思っていたとかかしら……)

 何も言わない父の胸の内を知る事は出来なかった。重苦しい空気に窓の外をずっと見ていた。馬車を降りる時、その場から動こうとしない父に声を掛ける。

「お父様、スフレとお母様と幸せに暮らしてくださいね」
「…………ッ」
「では、行って参ります」

 今から一度家に戻るが、父とは今を別れとするつもりでそう言った。一度も後ろを振り返らなかった。この先の事を考えると心が躍った。
 シンシアと共に荷物をまとめる。リオノーラにとって大事なものなど、この屋敷にはほとんどない。

(ヴィーナスのドレスと靴、それだけを持って行こう……!)

 心はとても晴れやかだった。カバンを持って立ち上がった。


 ――次の日の朝、迎えの馬車に揺られて辿たどりついた場所に二人であんぐりと口を開いていた。

(王城……⁉ ここ王城よね?)

 何度見ても王城である。城を見上げて唖然としていると、馬車は走り出してしまった。どうやら行き先を間違えたわけではないようだ。すぐさま城仕えの従者がリオノーラに気づいて荷物を持ち、門の中へと入れてくれた。もしかしてゾイは王族の関係者なのだろうかと、考えを巡らせる。何かが起こりそうな期待からかドキドキと心臓が音を立てる。
 緊張した面持ちで歩いているリオノーラを、シンシアは心配そうに見つめていた。
 まず、案内されたのはこれから暮らす部屋だった。シンプルだが可愛らしい家具が置かれている。少ない荷物を置いた従者が去っていく。シンシアが荷物を片付けている間、見慣れない天井を見上げた。

(ゾイ様に、お礼を言わなくちゃ……)

 ノックと共に、王城の侍女達が入ってくる。シンシアは王城で生活をしていく上で必要な説明を受けるために席を外していた。
 なぜ着飾られているのだろうかと不思議に思いつつも侍女達に身を任せていた。ドレスはミントグリーンで裾に見事な刺繍がほどこされている。キラキラとした生地に光が反射して、とても綺麗だった。髪留めには同じ刺繍が縫い込まれていた。もちろん、ヴィーナスのドレスである。

(もしかして、ゾイ様は王妃様お抱えのデザイナーなのかしら……)

 そういえば、この国の王妃であるソフィーネもヴィーナスのドレスを愛用しているのだと、侍女が話しているのを聞いた事があった。
 準備が整い、紅茶を飲みながら一息ついているとノックと共に燕尾服を着た男性がやってきた。「こちらへ」と言われて、案内されるがまま高級感あふれる広い廊下を進んでいく。
 そして足を止めた男性は綺麗にお辞儀をして去っていく。今、リオノーラは大きくて豪華な扉の前に立っている。

(もしかしなくても、もしかする……?)

 ドアが開くと、思った通り、国王と王妃が立派な椅子に腰掛けて、その周囲には三人の王子が立っていた。
 相変わらず天使のような見た目で微笑んでいるデリックと、面倒くさそうにボーっとしているユーリン、あの時、気になって仕方がなかった第一王子のフェリクスが優しげな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
 リオノーラもにこやかに微笑むと、足を進めてカーテシーをしてから国王の言葉をじっと待っていた。

「楽にしなさい。今から大切な事を話すからよく聞くように……」
「はい、陛下」

 顔を上げ体勢を整えてから国王の方へ向き直る。そして、国王の隣に見覚えのある顔を見て思わず固まってしまった。

「――ゾ、ゾイ様ッ⁉」
「リオノーラ、そのドレスも私の思った通り、やっぱり似合うわ! 素敵よ……!」
「ソフィーネのブティックでの名前か。懐かしいな」
「うふふ、息抜きは必要だもの。それに街ではいろんな精霊に会えるから、やめられないのよねぇ……」

 王妃であるゾイ……ソフィーネは悪戯が成功した子供のように無邪気に笑いながらリオノーラに手を振っている。口をぽかんと開けたままゾイを見ていた。開いた口が塞がらないとはこの事である。

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