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番外編(その後のお話)

海のお姫さま(リゼット)

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リゼットには、兄が二人いる。

一番上の兄であるエヴァンは、リゼットに文字を教えてくれたり、いつも図鑑を一緒に読んでくれる。
金色の髪が母であるリオノーラと一緒で、瞳は父であるフェリクスと同じ藍青色である。
ケヴィンはいつもリゼットと一緒に水遊びをしてくれる。
そしてリオノーラと同じ金色の髪と紅い瞳の色を持っている。

リゼットは両方ともフェリクスと同じ色だ。


「……髪がだいぶ伸びましたね、リゼットお嬢様」


そんなリゼットの髪を梳かすのはシンシアの娘であり、リゼットのお姉さんのような存在であるリリシアだった。
リリシアの父はダーカー公爵家の料理長をしているワルフである。

リゼットはワルフが作るチョコレートケーキが世界で一番大好きだった。
そんな大好きなワルフ特製チョコレートケーキを、夜な夜なリオノーラが一人で幸せそうに食べているのを、リゼットは目撃した事があった。
けれど、それはリゼットとリオノーラだけの秘密である。


「ねぇ、リリシア」

「お嬢様、今日はメメちゃんはここには来ませんよ?」

「何でわかったの?」

「お嬢様のことですから」

「そう……残念だわ」

「でも、今日は王妃様の所にメーア様がいらっしゃってますよ」

「それは本当!?リリシア、今日はお勉強の後にお母様の元に行ってもいいかしら?」

「はい、早くお勉強が終わるといいですね」

「いつも色々教えてくれてありがとう、リリシア大好きよ」

「ふふ、私もお嬢様が大好きですよ」




* * *




「お母様、メーア様……!」

「リゼット、随分早いのね!お勉強は楽しかった?」

「はい!先生も優しくて、とても楽しかったです」

「そう……よかったわ!」


リオノーラはリゼットを愛おしそうに抱きしめた。
そんなリゼットはメーアと遊びたくて、うずうずとしている。


「メーア様、遊びましょう!」

『えーまた魚作るの?』

「お願いします……!メーア様」


キラキラと輝くリゼットの瞳……リゼットの可愛らしい姿に、リオノーラはキュンと胸をときめかせた。


「メーア、お願い。リゼットと遊んであげてくれないかしら?後でクッキー持ってくから」

『…………しょうがないな』

「お母様、ありがとうございますっ!」


リオノーラとリゼットは手を合わせて笑い合った。
そんな中、コツコツと軽快なヒールの音が聞こえてリゼットは振り向いた。


「ゾイさま!」

「あら、リゼット」


リゼットの祖母であるソフィーネである。
"おばあさま"と呼ぶと怒るので"ゾイさま"と呼んでいた。


「さて、リゼットはご挨拶が上手くできるかしら?」

「勿論です!ゾイさま、ご機嫌よう……!」

「ご機嫌ようリゼット、とても上手よ」

「ありがとうございます!」


ゾイがリゼットの頭を嬉しそうに撫でる。
そんなゾイの隣にいるアジャイルに気付いたリゼットは、アジャイルに飛びついた。


「ゾイ様、今日はどうされたんですか?」

「ドレスのデザインに行き詰まっちゃって……でもリゼットとリオノーラを見てたら可愛いデザインが浮かび上がったわ!」

「ふふ、そうなんですね」

「今回のテーマは、海よ!」


リオノーラとゾイの会話が弾みに弾んでいるので、リゼットはメーアとアジャイルと共に、先に中庭に向かうことにしたのだった。


噴水の縁に座ると、メーアもリゼットの隣に腰掛ける。
アジャイルは日が当たる場所でごろりと寝転び目を閉じている。


『今日はどんな魚?』

「海に住むお魚さんがいいです!」


メーアが水に触れると、次々に空に魚が泳ぎだす。
リゼットは自分が海の中にいるような、この時間が何よりも好きだった。


「きれい……!」

『……君は、めげずに今日も来たんだね』


メーアの視線の先、キュイっと鳴き声が聞こえた。
噴水を覗いてみると、肌がツルツルとした白い生き物が、まん丸い目でリゼットを見ていた。


「メーア様、その子はだれですか?」

『水の精霊だよ』

「精霊さん!」

『リゼットのことが気になるみたい、触ってみる?』

「はい!」


リゼットは恐る恐る手を伸ばす。
白イルカは大人しくリゼットを触るのを待っているようだった。
リゼットの小さな手がイルカのオデコを撫でる。
ふにふにした不思議な感触が癖になり、リゼットは何度も何度も撫でた。


「わぁ……きもちいい」


ピューと音を立て泳ぎ回る白イルカは興奮しているのかバシャバシャと水を飛ばす。


『嬉しいのは分かったから、少し落ち着きなよ』

「この子はお魚さんなのですか?」

『魚ではないかな……イルカだよ』

「イルカさん!かわいい」


それを聞いたイルカが嬉しそうにリゼットの周りを泳ぎ回る。


「でもお魚さんの方がもっと可愛いです」


そんなリゼットの言葉を聞いた白イルカはピタリと動かなくなった。


『あはは、毎日頑張ってるのに魚には勝てないね』

「メーア様……?」

『何でもないよ、リゼット』

「あっ、お母様!!シンシアとメメちゃんもっ」


リゼットはリオノーラに抱きついてから、メメをいつものように手のひらの上に乗せて頬擦りをする。
それを見て、涙目でしょんぼりしている白イルカの精霊の頭をメーアが撫でる。


『……頑張れ、きっとまだチャンスはあるよ』


白イルカは悲しげにキュイと鳴いた。








end
リゼットが大好きな白イルカの精霊と魚大好きなリゼット
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