52 / 56
番外編(その後のお話)
海のお姫さま(リゼット)
しおりを挟むリゼットには、兄が二人いる。
一番上の兄であるエヴァンは、リゼットに文字を教えてくれたり、いつも図鑑を一緒に読んでくれる。
金色の髪が母であるリオノーラと一緒で、瞳は父であるフェリクスと同じ藍青色である。
ケヴィンはいつもリゼットと一緒に水遊びをしてくれる。
そしてリオノーラと同じ金色の髪と紅い瞳の色を持っている。
リゼットは両方ともフェリクスと同じ色だ。
「……髪がだいぶ伸びましたね、リゼットお嬢様」
そんなリゼットの髪を梳かすのはシンシアの娘であり、リゼットのお姉さんのような存在であるリリシアだった。
リリシアの父はダーカー公爵家の料理長をしているワルフである。
リゼットはワルフが作るチョコレートケーキが世界で一番大好きだった。
そんな大好きなワルフ特製チョコレートケーキを、夜な夜なリオノーラが一人で幸せそうに食べているのを、リゼットは目撃した事があった。
けれど、それはリゼットとリオノーラだけの秘密である。
「ねぇ、リリシア」
「お嬢様、今日はメメちゃんはここには来ませんよ?」
「何でわかったの?」
「お嬢様のことですから」
「そう……残念だわ」
「でも、今日は王妃様の所にメーア様がいらっしゃってますよ」
「それは本当!?リリシア、今日はお勉強の後にお母様の元に行ってもいいかしら?」
「はい、早くお勉強が終わるといいですね」
「いつも色々教えてくれてありがとう、リリシア大好きよ」
「ふふ、私もお嬢様が大好きですよ」
* * *
「お母様、メーア様……!」
「リゼット、随分早いのね!お勉強は楽しかった?」
「はい!先生も優しくて、とても楽しかったです」
「そう……よかったわ!」
リオノーラはリゼットを愛おしそうに抱きしめた。
そんなリゼットはメーアと遊びたくて、うずうずとしている。
「メーア様、遊びましょう!」
『えーまた魚作るの?』
「お願いします……!メーア様」
キラキラと輝くリゼットの瞳……リゼットの可愛らしい姿に、リオノーラはキュンと胸をときめかせた。
「メーア、お願い。リゼットと遊んであげてくれないかしら?後でクッキー持ってくから」
『…………しょうがないな』
「お母様、ありがとうございますっ!」
リオノーラとリゼットは手を合わせて笑い合った。
そんな中、コツコツと軽快なヒールの音が聞こえてリゼットは振り向いた。
「ゾイさま!」
「あら、リゼット」
リゼットの祖母であるソフィーネである。
"おばあさま"と呼ぶと怒るので"ゾイさま"と呼んでいた。
「さて、リゼットはご挨拶が上手くできるかしら?」
「勿論です!ゾイさま、ご機嫌よう……!」
「ご機嫌ようリゼット、とても上手よ」
「ありがとうございます!」
ゾイがリゼットの頭を嬉しそうに撫でる。
そんなゾイの隣にいるアジャイルに気付いたリゼットは、アジャイルに飛びついた。
「ゾイ様、今日はどうされたんですか?」
「ドレスのデザインに行き詰まっちゃって……でもリゼットとリオノーラを見てたら可愛いデザインが浮かび上がったわ!」
「ふふ、そうなんですね」
「今回のテーマは、海よ!」
リオノーラとゾイの会話が弾みに弾んでいるので、リゼットはメーアとアジャイルと共に、先に中庭に向かうことにしたのだった。
噴水の縁に座ると、メーアもリゼットの隣に腰掛ける。
アジャイルは日が当たる場所でごろりと寝転び目を閉じている。
『今日はどんな魚?』
「海に住むお魚さんがいいです!」
メーアが水に触れると、次々に空に魚が泳ぎだす。
リゼットは自分が海の中にいるような、この時間が何よりも好きだった。
「きれい……!」
『……君は、めげずに今日も来たんだね』
メーアの視線の先、キュイっと鳴き声が聞こえた。
噴水を覗いてみると、肌がツルツルとした白い生き物が、まん丸い目でリゼットを見ていた。
「メーア様、その子はだれですか?」
『水の精霊だよ』
「精霊さん!」
『リゼットのことが気になるみたい、触ってみる?』
「はい!」
リゼットは恐る恐る手を伸ばす。
白イルカは大人しくリゼットを触るのを待っているようだった。
リゼットの小さな手がイルカのオデコを撫でる。
ふにふにした不思議な感触が癖になり、リゼットは何度も何度も撫でた。
「わぁ……きもちいい」
ピューと音を立て泳ぎ回る白イルカは興奮しているのかバシャバシャと水を飛ばす。
『嬉しいのは分かったから、少し落ち着きなよ』
「この子はお魚さんなのですか?」
『魚ではないかな……イルカだよ』
「イルカさん!かわいい」
それを聞いたイルカが嬉しそうにリゼットの周りを泳ぎ回る。
「でもお魚さんの方がもっと可愛いです」
そんなリゼットの言葉を聞いた白イルカはピタリと動かなくなった。
『あはは、毎日頑張ってるのに魚には勝てないね』
「メーア様……?」
『何でもないよ、リゼット』
「あっ、お母様!!シンシアとメメちゃんもっ」
リゼットはリオノーラに抱きついてから、メメをいつものように手のひらの上に乗せて頬擦りをする。
それを見て、涙目でしょんぼりしている白イルカの精霊の頭をメーアが撫でる。
『……頑張れ、きっとまだチャンスはあるよ』
白イルカは悲しげにキュイと鳴いた。
end
リゼットが大好きな白イルカの精霊と魚大好きなリゼット
11
お気に入りに追加
8,149
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。