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1巻
1-3
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「コーネリアス殿下にお願いがあるのですが……」
その言葉を聞いたコーネリアスはピクリと肩を揺らして、思いきり顔をしかめた。
「…………オレを脅す気か?」
「脅す……?」
「この事を黙っている代わりに言う事を聞けと脅すつもりなんだろう……⁉」
今にも噛み付いてきそうな勢いだ。まだ何も言っていないのに、何故そういう風に解釈したのか……理由は想像出来るが、こちらが気遣う必要もないだろう。
(……この王子様は、一体何に怯えているのかしら)
「あぁ、そうね…………なら、今から貴方を脅すわ」
「は……⁉」
「バラされたくなかったら言う事を聞いてちょうだい……」
「――――っ⁉ ちょっと待てッ!」
「なんて言うと思ったの?」
冗談があまり通じない相手のようなので、早々にネタばらしをしておく。案の定額に手を当てて困惑するコーネリアスに、腕を組んで視線を向けた。
「クソ、何なんだよ……!」
「…………貴方に興味のある御令嬢ばかりではないのよ? 少し自意識過剰なのではないかしら?」
「っ‼」
「それに貴方が自分からペラペラ喋って、墓穴を掘っているだけでしょう……? わたくしは妹に置いていかれて、家まで帰れないから送ってくれないかと頼もうとしただけよ」
正確に言えばそれだけではないのだが、コーネリアスにとっては邸まで送っていくだけである。
「それだけ……?」
「えぇ、何を言われると思ったのよ」
「…………」
コーネリアスは気不味そうに視線を逸らした。
その表情から読み取れる事は恐らくジュディスの予想と同じだろう。
「フフッ、まさかとは思うけど『貴方の婚約者にしろ』とでも言うと思ったの?」
「……!」
「笑わせないでよ……貴方の婚約者なんて、こちらから願い下げだわ。いくら苛々していたからといって、よく知りもしない女性相手に当たり散らすような男なんて、王子だろうが何だろうが関係ない…………ゴミよ」
この際、王族だろうが何だろうが関係ない。こちらは大して何もしていないにもかかわらず、コーネリアスが一人で勘違いして暴露して暴走しているのだ。もし彼が何か言ってきたとしても、この状況下ならば、正論で言い負かせる。不敬かもしれないが留学中の王族は下手に動けないと聞いた覚えがあるし、これで平民に落とされるならむしろ望むところだ。
コーネリアスがどう出るか観察していると、ある事に気付く。
よく見れば、顔色も悪くゲッソリとしているではないか。そんな様子に、コーネリアスはいつも令嬢達に囲まれているというセレリアの話を思い出した。
いつもここで休んでいるという先程の台詞から推測するに、学園生活の中で気を抜く事が出来ず、逃げ場を求めてここに来ていたのだろう。
(可哀想にね……)
毎日毎日、令嬢達に追いかけ回されて躱すのに苦労しているのかもしれない。その気持ちは察するが、このままでいけば自分の首を絞める事に繋がってしまう。その意味でも、先程のろくに確認せずに決めつけるコーネリアスの態度を肯定するわけにはいかない。
「…………」
「…………」
コーネリアスの出方を窺う。
しばらくの沈黙の後、彼は、何か言い返してくるだろうというジュディスの予想に反して静かに頭を下げた。
「…………すまなかった」
「……」
「部外者だと勘違いしたんだ。それに気が立ってた……。とはいえ許される事ではない…………邸まで、送らせてもらう」
最初のイメージこそ最悪だったが、どうやらジュディスの話を噛み砕いて理解出来る頭はあるようだ。自分の非を認めず「不敬だ」「無礼だ」と騒がないあたり、ニクラウスよりは、ずっとまともだろう。
「助かりますわ」
可愛らしい令嬢に見えるよう笑みを浮かべる。
「改めまして、わたくしはジュディス・リーテトルテ……リーテトルテ侯爵邸までお願い致します」
「ま、まさか…………あの、セレリア嬢の⁉」
コーネリアスの顔が『リーテトルテ』と聞いた途端に激しく歪んでしまう。折角のイケメンもここまで顔をしかめてしまえば台無しである。
どうやらコーネリアスはセレリアと面識があるようだ。セレリアが一方的に憧れているだけではなかったらしい。彼の苦々しい顔を見る限り、良い関係ではないようだが……
「セレリアの姉のジュディスよ。その妹のセレリアに置いていかれたの」
「そうだったのか……」
「えぇ、家族に気付いてもらえるまで学園で待とうと思っていたのだけれど、丁度いいから送って下さると嬉しいわ」
「…………」
「コーネリアス殿下はベルゼン公爵のお屋敷にお泊まりだって、妹から聞いた事を思い出したの……うちはベルゼン公爵家からも近いし、通り道でしょう?」
「…………!」
ベルゼン公爵の姉がラヴェル王国の現王妃、つまりコーネリアスの母なので、コーネリアスにとってベルゼン公爵は叔父にあたる。
こちらが聞かなくとも、セレリアが馬車の中でコーネリアスの情報をよく喋っていた為、ジュディスもコーネリアスの事情をよく知っていた。
(無駄話もたまには役に立つものね)
「この時間なら残っている生徒も少ないわ。それに、わたくしと二人きりで馬車に乗るところを見られても、わたくしが困っていたからと言い訳も出来るでしょう?」
「あ、あぁ…………」
「なら、早く行きましょう」
コーネリアスも令嬢と二人きりでいるところを見られる事は望んでいないだろうが、コーネリアスと共にいる事を必要以上に知られたくないのはこちらも同じだった。
エスコートを受けながら、素早く馬車に乗り込む。何度も何度も念押しして「絶対に黙っていてくれ」と訴え掛けてくるコーネリアスに、「はいはい」「貴方に興味がないから大丈夫」と繰り返す。
「言ったところで、わたくしに何か利益があるとは思えないもの」
「それは…………そうだが」
「そもそも、誰が相手でも学園内で本性をバラすなんて迂闊過ぎないかしら?」
「…………うっ」
「侍女だろうが商人だろうが、隠すならば徹底的に隠した方がいいわよ」
「……分かっている。さっきは本当に色々と限界だったんだ」
グズグズと言い訳を繰り返すコーネリアスに、赤くなった手首を見せつけるように摩った。するとピタリと動きを止めたコーネリアスは「本当に……申し訳ない」と小さな声で呟く。
「わたくしは何も言いませんわ」
「……!」
「そもそも貴方に興味がないので」
「そう、何度も言わなくとも分かっている……!」
「…………それに、わたくしは平民になる予定ですので、ご安心を」
「え……?」
そのタイミングで馬車が止まる。通行人でもいたのだろうか。一時的な停車のようだが、リーテトルテ侯爵邸はここから目と鼻の先の距離だ。思わぬ形で面倒な人物と関わってしまったが、存分に名前だけは利用させて頂こうではないか。
「では殿下……自宅前ですと騒ぎになってしまうので、この辺で降ろして下さいまし」
「……ちょっと待て!」
「送って下さり、ありがとうございました。御者の方、出して下さいな」
「待て! 平民になるとはどういう事だ…………おいッ」
コーネリアスを乗せた馬車が走り去っていくのを手を振って見送った。そのまま歩いて家まで戻り、玄関の扉を開けば、屋敷内はバタバタと騒がしい。
「ただいま戻りましたわ」
その声に反応して、人が集まってくる。心配そうな侍女に大丈夫だと一言告げて鞄を預けていると、珍しく足音を立てて、慌てた様子で走ってきた母が、ジュディスの肩を掴んで揺さぶった。
「……ッ、ジュディス! 貴女、今までどこに行っていたの⁉」
母のこの様子を見るに、セレリアはジュディスを学園に置き去りにしてきた事を黙っているのだろう。
事情を説明しようとすると、母の後ろから現れたセレリアは「何で帰ってこられたの⁉」と言わんばかりに驚愕している。やはり自分からはアクションを起こせないジュディスの性格を分かった上の作戦だったようだ。
いつもならセレリアに置いていかれようとも、絶対に彼女を責めたり文句を言わなかったジュディスだが、それも今日で終わりだ。
(わたくしに手を出したら痛い目を見ると、今この瞬間から学んでもらわないと困るもの…………)
セレリアは自分の追い込まれた状況に気が付いていないのだろう。ジュディスはすぐに困惑した表情を作りながら静かに口を開いた。
「お母様…………わたくしはセレリアに学園に置いていかれてしまったのです」
「嘘でしょう……セレリア、それは本当なの⁉」
母は唖然としながら、セレリアを見ている。
「それは……っ、その」
「…………セレリアッ‼ どうしてジュディスを学園に置き去りにしたの⁉」
予想外の事態にどもってしまったセレリアの態度を、肯定と受け取ったのだろう。母の怒号は玄関に大きく響き、セレリアはビクリと肩を揺らした。
(ふーん……ジュディスが声を上げれば、こうして母親は動くのね)
これは予想外の展開であった。
少なくとも最初は、セレリアの味方をする、ジュディスの言葉を信じない……このあたりの反応をするだろうと思っていたからだ。
どうやらジュディスに完全に興味がないわけではなく、逆にセレリアを盲目的に可愛がっているわけでもないらしい。これまでの母の言動を振り返り、一つの仮説を立てる。母は、自分自身が設定したラインを子供達が超えなければ満足出来ず、そのラインを超えていれば満足するのかもしれない。
(なるほどね……)
だからジュディスではなく、常に基準を満たしているセレリアを選んだ。侯爵家を継げない理由は、思っていたよりずっと単純だったようだ。
(そうと分かれば、存分に動いてもらいましょう)
何も言わないセレリアの代わりに、少し俯いて答えた。
「…………きっと今朝、寝坊して遅刻ばかりするセレリアを置いていこうとしたから、怒っているのね」
「……⁉」
「だからこんな酷い嫌がらせを……」
困ったように首を振りながら今までの不満を吐き出した。
「でも、わたくしはもう耐えられなくて…………セレリアを待っていた為に、何度学園に遅刻した事か」
「ジュディス……それは本当なの?」
「…………えぇ、今まで黙っていてごめんなさい。わたくしはもう、遅れて教室に入るのは嫌なの……恥ずかしくて」
これは今までずっと思っていた事だ。教室に遅れて入れば注目を浴びてしまうので、あまり目立ちたくはないジュディスにとっては恥ずかしくて耐え難かった。教師も真面目なジュディスが遅刻してくるのを不思議に思っていたようだ。
セレリアは負けじと反論する。
「……っ、でも先に意地悪をしたのはお姉様だわ! 寝坊したからといって、わたくしを置いていこうとするなんて…………! いつもはちゃんと待っててくれるのに!」
また何とも見事な開き直りっぷりである
「――セレリアッ! ジュディスに甘えるのはやめなさい‼」
「…………!」
「学園に時間通りに向かうのは当然でしょう⁉ それなのに、こんな下らない理由でジュディスを学園に置き去りにするなんて……っ! もしジュディスが危険な目にあったら、どう責任を取るつもりッ⁉」
意外にも正論を言う母に、セレリアは反論しようと開いていた唇を閉じる。
(ここは任せた方が良さそうね)
母は久しぶりにジュディスを庇った。
その事に敏感に反応するのは、いつもジュディスよりも自分が優先されて大切にされていると思っているセレリアである。今の状況が気に入らないのか母に問いかける。
「お母様、どうして……⁉ 何でお姉様の味方をするのッ⁉」
「――お黙り‼ 当然よッ、少しは自分の行いを反省なさい‼」
「で、でもぉ…………」
納得いかないのだろうが、それもそのはずである……常にジュディスと比べられて、褒められる側だったセレリアは『反省』とは無縁だったのだ。
「ジュディス……無事に帰って来られて何よりだわ」
「えぇ、無事に邸に帰れて安心しておりますわ」
「でも一体誰に送って頂いたの……? まさかニクラウスが?」
その名前を聞いて、先程のニクラウスとのやり取りを思い出す。たとえジュディスがセレリアに置いていかれたと知ったとしても、彼はそのまま先に帰りそうだ。
「いいえ、ニクラウス様は全く関係ありません」
「なら、一体誰が……」
母のこの言葉をずっと待っていた……いつものように控えめに答える。
「コーネリアス殿下ですわ」
「え⁉」
「まっ、まさか、あのコーネリアス殿下が⁉」
コーネリアスの名前を聞いた母とセレリアは、これでもかと目を見開いたが、ジュディスは表情を崩す事なく微笑みながら答えた。
「えぇ……わたくしがセレリアに置いていかれて困っていたところに、コーネリアス殿下が優しく声を掛けて下さいましたの」
多少、事実をねじ曲げているが大まかには合っているので問題ないだろう。『コーネリアスに送ってもらった』という事実が、何よりも大切なのだ。予想が正しければ、事実よりもこちらの方がセレリアにとっては痛手になるのだから。
「まぁ……! まさかコーネリアス殿下からお声を掛けて頂けるなんて」
「えぇ、本当に…………とても驚きましたわ」
ラヴェル王国の第二王子であるコーネリアスが交換留学している事は母も知っている。
そして他の令嬢達と同じようにセレリアがコーネリアスに憧れているのだとするならば……
「――ちょっと待ちなさいよッ! どうしてそんな嘘をつくのよ‼」
予想通り、セレリアは勢いよく食いついた。
「嘘ですって……?」
「そうよ……! 有り得ないわっ」
「明日、コーネリアス殿下に確認しても構わないわ」
「……っ⁉」
(出来ればだけどね……)
コーネリアスに好意を持っているセレリアは、その質問から自分が置いていったと知られる可能性を思えば聞くに聞けないはずだ。仮に聞いたとしても、コーネリアスが送っていないと嘘をつく事は、まずないだろう。
「お姉様なんかに、コーネリアス殿下が声を掛けるわけないでしょう⁉」
「セレリア…………貴女、今日は一体どうしたの⁉」
母から見て、過剰にジュディスに突っかかるセレリアの言動がいつもと違って見えるのだろう。
「お気になさらないで、お母様…………いつもの事ですわ」
「……いつもの事ですって?」
「えぇ……」
「…………ジュディス、貴女」
いつもこんな会話に耐えていたのかと言いたげな母に頷き、何気なく会話に毒を織り交ぜていく。事実、母と父がいない時のセレリアとの会話なんてこんなものなのだ。
「本当にコーネリアス殿下がお姉様と……? 嘘だわ、嘘よ‼」
セレリアはジュディスとコーネリアスが同じ馬車に乗って帰ってきた事が、未だに信じられないといった様子でブツブツと呟いている。思っていた以上にコーネリアスの効果は絶大だ。余程ご執心だったらしい。
しかし、既にセレリアがコーネリアスにあまり良く思われていない事を、彼の反応を見て知ってしまっている。親切に教えてあげた方が面白いだろうかと迷っていると、ハッとしたセレリアがこちらに掴みかかりそうな勢いで体を寄せる。
「まさか……! まさかッ、わたくしがお姉様を置いていったって言ったんじゃないでしょうね⁉」
「えぇ、言ったわ。それが何か…………?」
「信じられない‼ コーネリアス殿下にそんな事を言うなんて……ッ‼ 最低よ、お姉様ッ‼」
コーネリアスにマイナスの印象を与えた事が余程ショックなのか、かなり焦っているように見えた。最低なのはジュディスを置き去りにしたセレリアではないだろうか……自分の事は棚に上げてこちらを責めるとは、酷い話である。
「だって、事実でしょう?」
「そうだけどッ、でも……っ、言わなくたっていいじゃない!」
「置いていかれたから言ったのよ? わたくしを置いていかなければ、こんな事にはならなかったわよね」
「…………そのくらい、分かってるわよッ‼」
理解して頂けたようで何よりである。『分かった』と言った以上、同じ事は繰り返させはしない。
果たしてこの会話が吉と出るか凶と出るか、それは分からないが、何もしないで受け身でいるよりはいいだろう。
「……っ、お姉様が思ってるよりも、コーネリアス殿下は特別な方なのよ⁉ みんな、コーネリアス殿下とお近付きになれるチャンスを狙ってるんだから!」
「――セレリア‼ 貴女はダラスと婚約しているでしょう⁉ 何を言ってるの!」
「だってダラスってば、わたくしをあんまり褒めてくれないんだもの」
「馬鹿な事を言わないでちょうだいッ!」
母は珍しくセレリアを激しく責め立てているが、セレリアは縮こまりながらも必死に抗議していた。長くなりそうなお説教に「疲れたので休みます」と一言伝えて玄関を後にする。
家族について整理しなければ。ジュディスが読んでいた小説の家族の印象とは少し違う。この違和感が気のせいではないならば、両親は味方に引き込めるはずだ。
次の日の朝、食後のお茶の席で、ジュディスは熱い紅茶にミルクを入れてコクリと飲み込んだ。セレリアは今日もまだ起きてきていない。母と父の視線は興味深そうにこちらに注がれている。
「お母様、お父様……わたくし、今日は古い馬車を使わせて頂きますわ」
「でも…………ジュディス」
「いいのです。また置いていかれたらたまりませんもの……」
朝食の際に、父と母の前でわざわざセレリアと別の馬車で向かいたいと頼んだ。先に準備が出来ているジュディスが古い馬車を使うと言ったのは、勿論わざとである。
(利用出来る部分は利用して、同情を引いておかないとね)
つまりジュディスの控えめな部分を利用しつつ、自分が優位に立てるように関係を変えていく……気付かない程度に徐々に変わるのが理想だが、それはセレリアの動き次第だろう。
母はすぐにジュディスが自分から古い馬車を選んだ事に反応を示した。セレリアを優先していると見せる事で昨日の『セレリアを優先したせいで遅刻していた』という言葉の信憑性が増す事だろう。
『また置いていかれたら』という言葉に不思議そうにしていた父に、昨日の出来事を話し始める。
「まさか、そんな事があったなんて……」
「はい…………それに、昨日は少し怖い思いをしましたの。コーネリアス殿下がいらっしゃらなかったら、わたくしは……」
そう言って昨日より青みが増した手首のアザを撫でる。
「ジュディス! その怪我は、まさか……!」
「まぁ、何て事なの! お医者様を呼ばなければ……」
「…………大した事はありませんわ。それよりも助けて下さったコーネリアス殿下に御礼をお願い致します」
危険な目に遭いそうになった時にコーネリアスが助けてくれた……これだけコーネリアスの株を上げて秘密を守れば、馬車で送ってもらった礼としては十分だろう。
「そ、そうだな! コーネリアス殿下に御礼を差し上げなければ」
「ジュディスの言う通りね……! すぐに用意しましょう」
コーネリアスの名前が出てきた途端に瞳を輝かせる両親は、娘がコーネリアスとの繋がりを持てた事による将来の恩恵を大きく見積もっているのだろう。今までジュディスに期待を寄せていなかったが、成果を挙げれば手のひらを返すのはあっという間だ。
(『ジュディス』……貴女がもし少しでも違う行動を取っていたら、こんなにも世界は変わったのよ?)
今、『ジュディス』が幼い頃からずっとほしがっていた両親の視線を独占している。
けれど、今の自分には必要ないものだ。
(…………申し訳ないけど、物語から退くという目的は譲れないわ)
席を立つと、慌てた様子で駆け込んできたセレリアとすれ違う。昨日の今日ではあるが、セレリアの寝坊は急には治らないようだ。部屋から出た後、セレリアと母がギャーギャーと言い争う声が響いていた。
古い馬車に乗り込んで学園に向かう。ギシギシと軋む木の音が耳障りではあるが、昨日のようにセレリアと相乗りして、うるさく文句を言われ続けるよりもずっとマシだろう。
その言葉を聞いたコーネリアスはピクリと肩を揺らして、思いきり顔をしかめた。
「…………オレを脅す気か?」
「脅す……?」
「この事を黙っている代わりに言う事を聞けと脅すつもりなんだろう……⁉」
今にも噛み付いてきそうな勢いだ。まだ何も言っていないのに、何故そういう風に解釈したのか……理由は想像出来るが、こちらが気遣う必要もないだろう。
(……この王子様は、一体何に怯えているのかしら)
「あぁ、そうね…………なら、今から貴方を脅すわ」
「は……⁉」
「バラされたくなかったら言う事を聞いてちょうだい……」
「――――っ⁉ ちょっと待てッ!」
「なんて言うと思ったの?」
冗談があまり通じない相手のようなので、早々にネタばらしをしておく。案の定額に手を当てて困惑するコーネリアスに、腕を組んで視線を向けた。
「クソ、何なんだよ……!」
「…………貴方に興味のある御令嬢ばかりではないのよ? 少し自意識過剰なのではないかしら?」
「っ‼」
「それに貴方が自分からペラペラ喋って、墓穴を掘っているだけでしょう……? わたくしは妹に置いていかれて、家まで帰れないから送ってくれないかと頼もうとしただけよ」
正確に言えばそれだけではないのだが、コーネリアスにとっては邸まで送っていくだけである。
「それだけ……?」
「えぇ、何を言われると思ったのよ」
「…………」
コーネリアスは気不味そうに視線を逸らした。
その表情から読み取れる事は恐らくジュディスの予想と同じだろう。
「フフッ、まさかとは思うけど『貴方の婚約者にしろ』とでも言うと思ったの?」
「……!」
「笑わせないでよ……貴方の婚約者なんて、こちらから願い下げだわ。いくら苛々していたからといって、よく知りもしない女性相手に当たり散らすような男なんて、王子だろうが何だろうが関係ない…………ゴミよ」
この際、王族だろうが何だろうが関係ない。こちらは大して何もしていないにもかかわらず、コーネリアスが一人で勘違いして暴露して暴走しているのだ。もし彼が何か言ってきたとしても、この状況下ならば、正論で言い負かせる。不敬かもしれないが留学中の王族は下手に動けないと聞いた覚えがあるし、これで平民に落とされるならむしろ望むところだ。
コーネリアスがどう出るか観察していると、ある事に気付く。
よく見れば、顔色も悪くゲッソリとしているではないか。そんな様子に、コーネリアスはいつも令嬢達に囲まれているというセレリアの話を思い出した。
いつもここで休んでいるという先程の台詞から推測するに、学園生活の中で気を抜く事が出来ず、逃げ場を求めてここに来ていたのだろう。
(可哀想にね……)
毎日毎日、令嬢達に追いかけ回されて躱すのに苦労しているのかもしれない。その気持ちは察するが、このままでいけば自分の首を絞める事に繋がってしまう。その意味でも、先程のろくに確認せずに決めつけるコーネリアスの態度を肯定するわけにはいかない。
「…………」
「…………」
コーネリアスの出方を窺う。
しばらくの沈黙の後、彼は、何か言い返してくるだろうというジュディスの予想に反して静かに頭を下げた。
「…………すまなかった」
「……」
「部外者だと勘違いしたんだ。それに気が立ってた……。とはいえ許される事ではない…………邸まで、送らせてもらう」
最初のイメージこそ最悪だったが、どうやらジュディスの話を噛み砕いて理解出来る頭はあるようだ。自分の非を認めず「不敬だ」「無礼だ」と騒がないあたり、ニクラウスよりは、ずっとまともだろう。
「助かりますわ」
可愛らしい令嬢に見えるよう笑みを浮かべる。
「改めまして、わたくしはジュディス・リーテトルテ……リーテトルテ侯爵邸までお願い致します」
「ま、まさか…………あの、セレリア嬢の⁉」
コーネリアスの顔が『リーテトルテ』と聞いた途端に激しく歪んでしまう。折角のイケメンもここまで顔をしかめてしまえば台無しである。
どうやらコーネリアスはセレリアと面識があるようだ。セレリアが一方的に憧れているだけではなかったらしい。彼の苦々しい顔を見る限り、良い関係ではないようだが……
「セレリアの姉のジュディスよ。その妹のセレリアに置いていかれたの」
「そうだったのか……」
「えぇ、家族に気付いてもらえるまで学園で待とうと思っていたのだけれど、丁度いいから送って下さると嬉しいわ」
「…………」
「コーネリアス殿下はベルゼン公爵のお屋敷にお泊まりだって、妹から聞いた事を思い出したの……うちはベルゼン公爵家からも近いし、通り道でしょう?」
「…………!」
ベルゼン公爵の姉がラヴェル王国の現王妃、つまりコーネリアスの母なので、コーネリアスにとってベルゼン公爵は叔父にあたる。
こちらが聞かなくとも、セレリアが馬車の中でコーネリアスの情報をよく喋っていた為、ジュディスもコーネリアスの事情をよく知っていた。
(無駄話もたまには役に立つものね)
「この時間なら残っている生徒も少ないわ。それに、わたくしと二人きりで馬車に乗るところを見られても、わたくしが困っていたからと言い訳も出来るでしょう?」
「あ、あぁ…………」
「なら、早く行きましょう」
コーネリアスも令嬢と二人きりでいるところを見られる事は望んでいないだろうが、コーネリアスと共にいる事を必要以上に知られたくないのはこちらも同じだった。
エスコートを受けながら、素早く馬車に乗り込む。何度も何度も念押しして「絶対に黙っていてくれ」と訴え掛けてくるコーネリアスに、「はいはい」「貴方に興味がないから大丈夫」と繰り返す。
「言ったところで、わたくしに何か利益があるとは思えないもの」
「それは…………そうだが」
「そもそも、誰が相手でも学園内で本性をバラすなんて迂闊過ぎないかしら?」
「…………うっ」
「侍女だろうが商人だろうが、隠すならば徹底的に隠した方がいいわよ」
「……分かっている。さっきは本当に色々と限界だったんだ」
グズグズと言い訳を繰り返すコーネリアスに、赤くなった手首を見せつけるように摩った。するとピタリと動きを止めたコーネリアスは「本当に……申し訳ない」と小さな声で呟く。
「わたくしは何も言いませんわ」
「……!」
「そもそも貴方に興味がないので」
「そう、何度も言わなくとも分かっている……!」
「…………それに、わたくしは平民になる予定ですので、ご安心を」
「え……?」
そのタイミングで馬車が止まる。通行人でもいたのだろうか。一時的な停車のようだが、リーテトルテ侯爵邸はここから目と鼻の先の距離だ。思わぬ形で面倒な人物と関わってしまったが、存分に名前だけは利用させて頂こうではないか。
「では殿下……自宅前ですと騒ぎになってしまうので、この辺で降ろして下さいまし」
「……ちょっと待て!」
「送って下さり、ありがとうございました。御者の方、出して下さいな」
「待て! 平民になるとはどういう事だ…………おいッ」
コーネリアスを乗せた馬車が走り去っていくのを手を振って見送った。そのまま歩いて家まで戻り、玄関の扉を開けば、屋敷内はバタバタと騒がしい。
「ただいま戻りましたわ」
その声に反応して、人が集まってくる。心配そうな侍女に大丈夫だと一言告げて鞄を預けていると、珍しく足音を立てて、慌てた様子で走ってきた母が、ジュディスの肩を掴んで揺さぶった。
「……ッ、ジュディス! 貴女、今までどこに行っていたの⁉」
母のこの様子を見るに、セレリアはジュディスを学園に置き去りにしてきた事を黙っているのだろう。
事情を説明しようとすると、母の後ろから現れたセレリアは「何で帰ってこられたの⁉」と言わんばかりに驚愕している。やはり自分からはアクションを起こせないジュディスの性格を分かった上の作戦だったようだ。
いつもならセレリアに置いていかれようとも、絶対に彼女を責めたり文句を言わなかったジュディスだが、それも今日で終わりだ。
(わたくしに手を出したら痛い目を見ると、今この瞬間から学んでもらわないと困るもの…………)
セレリアは自分の追い込まれた状況に気が付いていないのだろう。ジュディスはすぐに困惑した表情を作りながら静かに口を開いた。
「お母様…………わたくしはセレリアに学園に置いていかれてしまったのです」
「嘘でしょう……セレリア、それは本当なの⁉」
母は唖然としながら、セレリアを見ている。
「それは……っ、その」
「…………セレリアッ‼ どうしてジュディスを学園に置き去りにしたの⁉」
予想外の事態にどもってしまったセレリアの態度を、肯定と受け取ったのだろう。母の怒号は玄関に大きく響き、セレリアはビクリと肩を揺らした。
(ふーん……ジュディスが声を上げれば、こうして母親は動くのね)
これは予想外の展開であった。
少なくとも最初は、セレリアの味方をする、ジュディスの言葉を信じない……このあたりの反応をするだろうと思っていたからだ。
どうやらジュディスに完全に興味がないわけではなく、逆にセレリアを盲目的に可愛がっているわけでもないらしい。これまでの母の言動を振り返り、一つの仮説を立てる。母は、自分自身が設定したラインを子供達が超えなければ満足出来ず、そのラインを超えていれば満足するのかもしれない。
(なるほどね……)
だからジュディスではなく、常に基準を満たしているセレリアを選んだ。侯爵家を継げない理由は、思っていたよりずっと単純だったようだ。
(そうと分かれば、存分に動いてもらいましょう)
何も言わないセレリアの代わりに、少し俯いて答えた。
「…………きっと今朝、寝坊して遅刻ばかりするセレリアを置いていこうとしたから、怒っているのね」
「……⁉」
「だからこんな酷い嫌がらせを……」
困ったように首を振りながら今までの不満を吐き出した。
「でも、わたくしはもう耐えられなくて…………セレリアを待っていた為に、何度学園に遅刻した事か」
「ジュディス……それは本当なの?」
「…………えぇ、今まで黙っていてごめんなさい。わたくしはもう、遅れて教室に入るのは嫌なの……恥ずかしくて」
これは今までずっと思っていた事だ。教室に遅れて入れば注目を浴びてしまうので、あまり目立ちたくはないジュディスにとっては恥ずかしくて耐え難かった。教師も真面目なジュディスが遅刻してくるのを不思議に思っていたようだ。
セレリアは負けじと反論する。
「……っ、でも先に意地悪をしたのはお姉様だわ! 寝坊したからといって、わたくしを置いていこうとするなんて…………! いつもはちゃんと待っててくれるのに!」
また何とも見事な開き直りっぷりである
「――セレリアッ! ジュディスに甘えるのはやめなさい‼」
「…………!」
「学園に時間通りに向かうのは当然でしょう⁉ それなのに、こんな下らない理由でジュディスを学園に置き去りにするなんて……っ! もしジュディスが危険な目にあったら、どう責任を取るつもりッ⁉」
意外にも正論を言う母に、セレリアは反論しようと開いていた唇を閉じる。
(ここは任せた方が良さそうね)
母は久しぶりにジュディスを庇った。
その事に敏感に反応するのは、いつもジュディスよりも自分が優先されて大切にされていると思っているセレリアである。今の状況が気に入らないのか母に問いかける。
「お母様、どうして……⁉ 何でお姉様の味方をするのッ⁉」
「――お黙り‼ 当然よッ、少しは自分の行いを反省なさい‼」
「で、でもぉ…………」
納得いかないのだろうが、それもそのはずである……常にジュディスと比べられて、褒められる側だったセレリアは『反省』とは無縁だったのだ。
「ジュディス……無事に帰って来られて何よりだわ」
「えぇ、無事に邸に帰れて安心しておりますわ」
「でも一体誰に送って頂いたの……? まさかニクラウスが?」
その名前を聞いて、先程のニクラウスとのやり取りを思い出す。たとえジュディスがセレリアに置いていかれたと知ったとしても、彼はそのまま先に帰りそうだ。
「いいえ、ニクラウス様は全く関係ありません」
「なら、一体誰が……」
母のこの言葉をずっと待っていた……いつものように控えめに答える。
「コーネリアス殿下ですわ」
「え⁉」
「まっ、まさか、あのコーネリアス殿下が⁉」
コーネリアスの名前を聞いた母とセレリアは、これでもかと目を見開いたが、ジュディスは表情を崩す事なく微笑みながら答えた。
「えぇ……わたくしがセレリアに置いていかれて困っていたところに、コーネリアス殿下が優しく声を掛けて下さいましたの」
多少、事実をねじ曲げているが大まかには合っているので問題ないだろう。『コーネリアスに送ってもらった』という事実が、何よりも大切なのだ。予想が正しければ、事実よりもこちらの方がセレリアにとっては痛手になるのだから。
「まぁ……! まさかコーネリアス殿下からお声を掛けて頂けるなんて」
「えぇ、本当に…………とても驚きましたわ」
ラヴェル王国の第二王子であるコーネリアスが交換留学している事は母も知っている。
そして他の令嬢達と同じようにセレリアがコーネリアスに憧れているのだとするならば……
「――ちょっと待ちなさいよッ! どうしてそんな嘘をつくのよ‼」
予想通り、セレリアは勢いよく食いついた。
「嘘ですって……?」
「そうよ……! 有り得ないわっ」
「明日、コーネリアス殿下に確認しても構わないわ」
「……っ⁉」
(出来ればだけどね……)
コーネリアスに好意を持っているセレリアは、その質問から自分が置いていったと知られる可能性を思えば聞くに聞けないはずだ。仮に聞いたとしても、コーネリアスが送っていないと嘘をつく事は、まずないだろう。
「お姉様なんかに、コーネリアス殿下が声を掛けるわけないでしょう⁉」
「セレリア…………貴女、今日は一体どうしたの⁉」
母から見て、過剰にジュディスに突っかかるセレリアの言動がいつもと違って見えるのだろう。
「お気になさらないで、お母様…………いつもの事ですわ」
「……いつもの事ですって?」
「えぇ……」
「…………ジュディス、貴女」
いつもこんな会話に耐えていたのかと言いたげな母に頷き、何気なく会話に毒を織り交ぜていく。事実、母と父がいない時のセレリアとの会話なんてこんなものなのだ。
「本当にコーネリアス殿下がお姉様と……? 嘘だわ、嘘よ‼」
セレリアはジュディスとコーネリアスが同じ馬車に乗って帰ってきた事が、未だに信じられないといった様子でブツブツと呟いている。思っていた以上にコーネリアスの効果は絶大だ。余程ご執心だったらしい。
しかし、既にセレリアがコーネリアスにあまり良く思われていない事を、彼の反応を見て知ってしまっている。親切に教えてあげた方が面白いだろうかと迷っていると、ハッとしたセレリアがこちらに掴みかかりそうな勢いで体を寄せる。
「まさか……! まさかッ、わたくしがお姉様を置いていったって言ったんじゃないでしょうね⁉」
「えぇ、言ったわ。それが何か…………?」
「信じられない‼ コーネリアス殿下にそんな事を言うなんて……ッ‼ 最低よ、お姉様ッ‼」
コーネリアスにマイナスの印象を与えた事が余程ショックなのか、かなり焦っているように見えた。最低なのはジュディスを置き去りにしたセレリアではないだろうか……自分の事は棚に上げてこちらを責めるとは、酷い話である。
「だって、事実でしょう?」
「そうだけどッ、でも……っ、言わなくたっていいじゃない!」
「置いていかれたから言ったのよ? わたくしを置いていかなければ、こんな事にはならなかったわよね」
「…………そのくらい、分かってるわよッ‼」
理解して頂けたようで何よりである。『分かった』と言った以上、同じ事は繰り返させはしない。
果たしてこの会話が吉と出るか凶と出るか、それは分からないが、何もしないで受け身でいるよりはいいだろう。
「……っ、お姉様が思ってるよりも、コーネリアス殿下は特別な方なのよ⁉ みんな、コーネリアス殿下とお近付きになれるチャンスを狙ってるんだから!」
「――セレリア‼ 貴女はダラスと婚約しているでしょう⁉ 何を言ってるの!」
「だってダラスってば、わたくしをあんまり褒めてくれないんだもの」
「馬鹿な事を言わないでちょうだいッ!」
母は珍しくセレリアを激しく責め立てているが、セレリアは縮こまりながらも必死に抗議していた。長くなりそうなお説教に「疲れたので休みます」と一言伝えて玄関を後にする。
家族について整理しなければ。ジュディスが読んでいた小説の家族の印象とは少し違う。この違和感が気のせいではないならば、両親は味方に引き込めるはずだ。
次の日の朝、食後のお茶の席で、ジュディスは熱い紅茶にミルクを入れてコクリと飲み込んだ。セレリアは今日もまだ起きてきていない。母と父の視線は興味深そうにこちらに注がれている。
「お母様、お父様……わたくし、今日は古い馬車を使わせて頂きますわ」
「でも…………ジュディス」
「いいのです。また置いていかれたらたまりませんもの……」
朝食の際に、父と母の前でわざわざセレリアと別の馬車で向かいたいと頼んだ。先に準備が出来ているジュディスが古い馬車を使うと言ったのは、勿論わざとである。
(利用出来る部分は利用して、同情を引いておかないとね)
つまりジュディスの控えめな部分を利用しつつ、自分が優位に立てるように関係を変えていく……気付かない程度に徐々に変わるのが理想だが、それはセレリアの動き次第だろう。
母はすぐにジュディスが自分から古い馬車を選んだ事に反応を示した。セレリアを優先していると見せる事で昨日の『セレリアを優先したせいで遅刻していた』という言葉の信憑性が増す事だろう。
『また置いていかれたら』という言葉に不思議そうにしていた父に、昨日の出来事を話し始める。
「まさか、そんな事があったなんて……」
「はい…………それに、昨日は少し怖い思いをしましたの。コーネリアス殿下がいらっしゃらなかったら、わたくしは……」
そう言って昨日より青みが増した手首のアザを撫でる。
「ジュディス! その怪我は、まさか……!」
「まぁ、何て事なの! お医者様を呼ばなければ……」
「…………大した事はありませんわ。それよりも助けて下さったコーネリアス殿下に御礼をお願い致します」
危険な目に遭いそうになった時にコーネリアスが助けてくれた……これだけコーネリアスの株を上げて秘密を守れば、馬車で送ってもらった礼としては十分だろう。
「そ、そうだな! コーネリアス殿下に御礼を差し上げなければ」
「ジュディスの言う通りね……! すぐに用意しましょう」
コーネリアスの名前が出てきた途端に瞳を輝かせる両親は、娘がコーネリアスとの繋がりを持てた事による将来の恩恵を大きく見積もっているのだろう。今までジュディスに期待を寄せていなかったが、成果を挙げれば手のひらを返すのはあっという間だ。
(『ジュディス』……貴女がもし少しでも違う行動を取っていたら、こんなにも世界は変わったのよ?)
今、『ジュディス』が幼い頃からずっとほしがっていた両親の視線を独占している。
けれど、今の自分には必要ないものだ。
(…………申し訳ないけど、物語から退くという目的は譲れないわ)
席を立つと、慌てた様子で駆け込んできたセレリアとすれ違う。昨日の今日ではあるが、セレリアの寝坊は急には治らないようだ。部屋から出た後、セレリアと母がギャーギャーと言い争う声が響いていた。
古い馬車に乗り込んで学園に向かう。ギシギシと軋む木の音が耳障りではあるが、昨日のようにセレリアと相乗りして、うるさく文句を言われ続けるよりもずっとマシだろう。
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