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第四章 青紫色のアジサイ(後半)
②① 足りない言葉
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「今日だって、急にどうしたんだ?」
「夏希と三山も、コソコソ何話していたのか気になっただけだっ!」
「秋斗くん……それって」
わたしが秋斗くんも一緒にいたいのかと思った時だった。
けれど、冬馬くんは違う意味に受け取ったみたい。
「秋斗には関係のない話だ」
「……あ? なんだと?」
秋斗くんと冬馬くんのピリピリと雰囲気に、わたしもびっくりだった。
それと同時にアジサイの色がどんどんと別れていくのを見ていた。
白ユリから黒ユリに変わっていったのは悪口を言っていた時。
つまり今、このアジサイの色が別れているということは……。
「──もういいっ!」
「秋斗くん……!」
秋斗くんは部屋を飛び出すように出て行ってしまった。
階段を降りる音が小さくなっていく。
冬馬くんは頭を押さえながら小さなため息を吐く。
わたしは秋斗くんを追いかけようと思ったけど、冬馬くんを放ってはおけなかった。
表情はあまり変わっていないけど、今にも泣きそうになっているような気がした。
手のひらは固く握られて、かすかに震えている。
わたしは机に置いてあるアジサイを見た。
「冬馬くん、アジサイを見て」
「色が……変わってる?」
冬馬くんもアジサイの色が変わったことに気がついたみたい。
「もしかして冬馬くんの願いは秋斗くんと仲良くすること、なのかな?」
わたしがそう問いかけると、冬馬くんは俯きながら頷いた。
「色が別れたのは秋斗くんと冬馬くんの心が離れちゃったからなのかも……」
「そうかもしない」
「……やっぱり」
冬馬くんはテーブルに置いてある麦茶のボトルを傾けてコップに入れていく。
わたしも冬馬くんの隣に座る。
麦茶を飲んでホッと一息をつく。
冬馬くんもコップを傾けると薄茶色の液体がどんどんとなくなっていく。
コトリとテーブルにコップを置いた冬馬くんは秋斗くんとの関係を話してくれた。
「秋斗とは……五年生くらいから別々に過ごすようになった。今回、クラスが離れてから全然話さなくなったんだ」
「何かきっかけがあるのかな?」
「理由はわからないが、好きなことが違うから仕方がないと思う」
たしかに秋斗くんはいつも活発に遊んでいたし、冬馬くんは部屋の中で本を読んでいる。
そこから自然と距離が空くようになってしまったらしい。
「秋斗は楽しいなら、このままでいいと思っていた。でも、僕はやっぱり寂しいんだと思う」
「どうして秋斗くんにそれを伝えないの?」
「……僕にそう言われても秋斗は困るだけだろう?」
悲しそうに笑う冬馬くんは秋斗くんを気遣っているみたい。
わたしは二人がすれ違っているのだと思った。
それに秋斗くんはこちらを気にしていたからだ。
また冬馬くんと話すようになって、昔に戻ったみたい。
幼い頃から四人で一緒にいるのが当たり前だったし、もしかしたら秋斗くんも……。
「秋斗くんに、このことを話してもよかったんじゃないかな?」
「アジサイと花と花子さんのことをか?」
「うん、信じてくれるかはわからないけど……」
「やめておいたほうがいい」
「どうして?」
先ほど冬馬くんに断られた秋斗くんは悲しそうだったように見えたからだ。
冬馬くんの表情がわかりにくいけど、秋斗くんだけは冬馬くんの気持ちを全部わかっていたことを思い出す。
「だが、秋斗は怖いものが嫌いだろう?」
「え……? そうだったの? 知らなかったよ」
「ああ、だから花子さんがいるといっても怖がると思ったんだ」
冬馬くんは秋斗くんのことをよく理解しているようだ。
でも、さっきの言い方ではうまく伝わっていないだろう。
「ねぇ、冬馬くん」
「……小春?」
「冬馬くんは言葉が足りないような気がするっ!」
わたしがそう言うと、冬馬くんは驚いている。
思えば、今までは秋斗くんが冬馬くんの気持ちを伝えてくれたような気がした。
だから自分から説明する必要はなかったのかもしれない。
「伝えるのを諦めちゃダメだよ! じゃないと秋斗くんと仲直りできないと思う」
「だが……」
「秋斗くんと冬馬くんはすれ違っていると思う!」
わたしは冬馬くんに訴えかけるようにそう言った。
あまりのわたしの勢いに冬馬くんは背を仰け反らせている。
このままだと二人の仲は縮まらないような気がした。
わたしの気持ちが伝わったのか、冬馬くんは頷く。
「たしかに……小春の言う通りだ」
「……冬馬くん」
「この本にもそう書いてあった」
冬馬くんの勉強机の上。
フセンがたくさんついている本を持ってくる。
そのタイトルを見てハッとする。
『友だちの作り方』『友だち仲直りの方法』『もっと仲良くなるには』
冬馬くんの頬がほんのりと赤くなる。
どうやら冬馬くんは友だちを作りたかったらしい。
「今まで恥ずかしくて誰にも相談できなかったんだ」
「そうだったんだね」
「たしか、きっかけをくれるんだったな……」
冬馬くんはそう言ってアジサイを見た。
「花子さんがそう言っていたね」
「これからがんばって気持ちを伝えてみようと思う」
「うん! わたしも手伝うね」
「ありがとう、小春」
「夏希と三山も、コソコソ何話していたのか気になっただけだっ!」
「秋斗くん……それって」
わたしが秋斗くんも一緒にいたいのかと思った時だった。
けれど、冬馬くんは違う意味に受け取ったみたい。
「秋斗には関係のない話だ」
「……あ? なんだと?」
秋斗くんと冬馬くんのピリピリと雰囲気に、わたしもびっくりだった。
それと同時にアジサイの色がどんどんと別れていくのを見ていた。
白ユリから黒ユリに変わっていったのは悪口を言っていた時。
つまり今、このアジサイの色が別れているということは……。
「──もういいっ!」
「秋斗くん……!」
秋斗くんは部屋を飛び出すように出て行ってしまった。
階段を降りる音が小さくなっていく。
冬馬くんは頭を押さえながら小さなため息を吐く。
わたしは秋斗くんを追いかけようと思ったけど、冬馬くんを放ってはおけなかった。
表情はあまり変わっていないけど、今にも泣きそうになっているような気がした。
手のひらは固く握られて、かすかに震えている。
わたしは机に置いてあるアジサイを見た。
「冬馬くん、アジサイを見て」
「色が……変わってる?」
冬馬くんもアジサイの色が変わったことに気がついたみたい。
「もしかして冬馬くんの願いは秋斗くんと仲良くすること、なのかな?」
わたしがそう問いかけると、冬馬くんは俯きながら頷いた。
「色が別れたのは秋斗くんと冬馬くんの心が離れちゃったからなのかも……」
「そうかもしない」
「……やっぱり」
冬馬くんはテーブルに置いてある麦茶のボトルを傾けてコップに入れていく。
わたしも冬馬くんの隣に座る。
麦茶を飲んでホッと一息をつく。
冬馬くんもコップを傾けると薄茶色の液体がどんどんとなくなっていく。
コトリとテーブルにコップを置いた冬馬くんは秋斗くんとの関係を話してくれた。
「秋斗とは……五年生くらいから別々に過ごすようになった。今回、クラスが離れてから全然話さなくなったんだ」
「何かきっかけがあるのかな?」
「理由はわからないが、好きなことが違うから仕方がないと思う」
たしかに秋斗くんはいつも活発に遊んでいたし、冬馬くんは部屋の中で本を読んでいる。
そこから自然と距離が空くようになってしまったらしい。
「秋斗は楽しいなら、このままでいいと思っていた。でも、僕はやっぱり寂しいんだと思う」
「どうして秋斗くんにそれを伝えないの?」
「……僕にそう言われても秋斗は困るだけだろう?」
悲しそうに笑う冬馬くんは秋斗くんを気遣っているみたい。
わたしは二人がすれ違っているのだと思った。
それに秋斗くんはこちらを気にしていたからだ。
また冬馬くんと話すようになって、昔に戻ったみたい。
幼い頃から四人で一緒にいるのが当たり前だったし、もしかしたら秋斗くんも……。
「秋斗くんに、このことを話してもよかったんじゃないかな?」
「アジサイと花と花子さんのことをか?」
「うん、信じてくれるかはわからないけど……」
「やめておいたほうがいい」
「どうして?」
先ほど冬馬くんに断られた秋斗くんは悲しそうだったように見えたからだ。
冬馬くんの表情がわかりにくいけど、秋斗くんだけは冬馬くんの気持ちを全部わかっていたことを思い出す。
「だが、秋斗は怖いものが嫌いだろう?」
「え……? そうだったの? 知らなかったよ」
「ああ、だから花子さんがいるといっても怖がると思ったんだ」
冬馬くんは秋斗くんのことをよく理解しているようだ。
でも、さっきの言い方ではうまく伝わっていないだろう。
「ねぇ、冬馬くん」
「……小春?」
「冬馬くんは言葉が足りないような気がするっ!」
わたしがそう言うと、冬馬くんは驚いている。
思えば、今までは秋斗くんが冬馬くんの気持ちを伝えてくれたような気がした。
だから自分から説明する必要はなかったのかもしれない。
「伝えるのを諦めちゃダメだよ! じゃないと秋斗くんと仲直りできないと思う」
「だが……」
「秋斗くんと冬馬くんはすれ違っていると思う!」
わたしは冬馬くんに訴えかけるようにそう言った。
あまりのわたしの勢いに冬馬くんは背を仰け反らせている。
このままだと二人の仲は縮まらないような気がした。
わたしの気持ちが伝わったのか、冬馬くんは頷く。
「たしかに……小春の言う通りだ」
「……冬馬くん」
「この本にもそう書いてあった」
冬馬くんの勉強机の上。
フセンがたくさんついている本を持ってくる。
そのタイトルを見てハッとする。
『友だちの作り方』『友だち仲直りの方法』『もっと仲良くなるには』
冬馬くんの頬がほんのりと赤くなる。
どうやら冬馬くんは友だちを作りたかったらしい。
「今まで恥ずかしくて誰にも相談できなかったんだ」
「そうだったんだね」
「たしか、きっかけをくれるんだったな……」
冬馬くんはそう言ってアジサイを見た。
「花子さんがそう言っていたね」
「これからがんばって気持ちを伝えてみようと思う」
「うん! わたしも手伝うね」
「ありがとう、小春」
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