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第三章 青紫色のアジサイ(前編)
①⑦ きっかけ
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花子さんは頬を押さえながらうっとりとしている。
くねくねと動く花子さんの動きに合わせて可愛らしいスカートがふわりと揺れていた。
わたしはハッとした後に花子さんに抱きついた。
「ずっと会えなかったから、心配したんだよ!」
『……小春』
「ずっと会いたかったのに……」
花子さんはわたしの名前を小さな声で呼んだ。
凛々ちゃんと何度も旧校舎に行ったのに花子さんに会うことはできなかった。
『小春はワタシに会いにきてくれていたのね』
「……うん」
わたしは頷きながら花子さんから離れた。
また花子さんに会えたことで安心したからか目にはじんわりと涙がにじむ。
「もう会えないかもって心配したんだからっ! だから今日も冬馬くんに……」
すると花子さんはにっこりと笑い、あっけらかんとこう言った。
『ワタシ、梅雨って苦手なのよ!』
「……え?」
『ムシムシしていて居心地悪いでしょう? 旧校舎にはエアコンもないし除湿機もない。匂いもキツイし居心地最悪なんだから』
「…………」
「……現代的な花子さんだな」
わたしが花子さんに会えなかった驚きの理由に言葉が出ない。
どうやら花子さんに会えなかったのには理由があったようだ。
冬馬くんが興味深そうに花子さんを観察している。
「小春は花子さんと知り合いだったのか」
「う、うん……黙っていてごめんね」
「いや、大丈夫だ。僕はこうして花子さんに会えたことがうれしい」
冬馬くんの言葉に花子さんはキョトンとしている。
その後に花子さんはニタリと笑った。
『この冬馬って子も小春も変よね……おもしろいけど』
「本にのっているトイレの花子さんの情報とだいぶ違うな」
『時代と共に変化するものなのよ!』
「なるほど……勉強になるな」
「冬馬くん!?」
冬馬くんは本と花子さんとを見比べている。
その手に握られている青紫色のアジサイを見て、わたしは声を上げた。
「冬馬くん、そのアジサイは……!」
「ああ、これは花子さんからもらったんだ」
「……もしかして花子さんの花屋に行っていたの?」
「ああ……不思議な空間が広がっていた」
「不思議な空間?」
「お金はいらないそうだが、僕は納得できない」
冬馬くんはそう言って眉を寄せた。
頑なに料金を支払うと言った冬馬くん。
けれど花子さんは『代わりのものをもらうから大丈夫』と、言って笑っている。
花子さん花屋さんはシンプルで、とても綺麗な花が並んでいたそうだ。
そこで引き寄せられるように冬馬くんはアジサイに向かった。
『その花がアナタの願いを叶えてくれるわ』
その言葉と共に花を手に取った冬馬くんは、気づいたらまたこの場所に戻ってきていたのだそうだ。
「この花は僕の願いを叶える手伝いをしてくれるそうだ」
「……冬馬くんの願い?」
わたしはすぐに凛々ちゃんのことを思い出していた。
凛々ちゃんも自分の願いを叶えるきっかけをくれた。
わたしは花子さんの花屋は願いを叶えるお手伝いをしてくれるのかもしれないと思った。
『ワタシがあげられるのはあくまできっかけだけ。その花をどうするかも本人次第なの』
「……!」
わたしは凛々ちゃんの一件を思い出していた。
たしかに花子さんは、ユリの花と共に凛々ちゃんに変わるきっかけをくれたことを思い出す。
もしかしたら花子さんは、冬馬くんに変わるきっかけをくれたのかもしれない。
『これから雨がひどくなるわ。早く帰った方がいい』
花子さんはそう言って空を見上げた。
確かに雨音がここにきた時よりも強くなったように聞こえた。
冬馬くんもそう思ったのだろう。
わたしの手を引いて女子トイレへと向かおうとする。
けれどわたしは足を止めて振り返る。
「花子さん、また会える……?」
『……小春』
わたしの問いかけに花子さんが目を大きく見開いている。
いつ会えるのかは花子さん次第だと気がついたらからだ。
しばらく花子さんは黙ったままだった。
けれどいつものようにニッコリと笑った後にこう言った。
『変な子ね』
「花子さん、わたしね……っ!」
──バタンッ
わたしが話している言葉の途中で、女子トイレから無理やり出されてしまう。
あまりにも突然の出来事に、わたしは動けないまま固まっていた。
「え……?」
「小春、行こう」
女子トイレに戻ろうとするわたしの手を引いた冬馬くんと、旧校舎の外へ。
雨音はどんどんと強くなっているような気がした。
旧校舎の外に出ると雨がたくさん降っていて、驚いてしまった。
「すごい雨だね」
「……早く帰ろう」
「うん!」
わたしは花柄の傘を開いてから、急いで旧校舎を後にする。
冬馬くんの手には傘とアジサイが握られていた。
商店街へ帰るまで、冬馬くんと花子さんの話をしていた。
冬馬くんは、珍しく興奮しているのか頬がほんなりと赤くなっているように見えた。
くねくねと動く花子さんの動きに合わせて可愛らしいスカートがふわりと揺れていた。
わたしはハッとした後に花子さんに抱きついた。
「ずっと会えなかったから、心配したんだよ!」
『……小春』
「ずっと会いたかったのに……」
花子さんはわたしの名前を小さな声で呼んだ。
凛々ちゃんと何度も旧校舎に行ったのに花子さんに会うことはできなかった。
『小春はワタシに会いにきてくれていたのね』
「……うん」
わたしは頷きながら花子さんから離れた。
また花子さんに会えたことで安心したからか目にはじんわりと涙がにじむ。
「もう会えないかもって心配したんだからっ! だから今日も冬馬くんに……」
すると花子さんはにっこりと笑い、あっけらかんとこう言った。
『ワタシ、梅雨って苦手なのよ!』
「……え?」
『ムシムシしていて居心地悪いでしょう? 旧校舎にはエアコンもないし除湿機もない。匂いもキツイし居心地最悪なんだから』
「…………」
「……現代的な花子さんだな」
わたしが花子さんに会えなかった驚きの理由に言葉が出ない。
どうやら花子さんに会えなかったのには理由があったようだ。
冬馬くんが興味深そうに花子さんを観察している。
「小春は花子さんと知り合いだったのか」
「う、うん……黙っていてごめんね」
「いや、大丈夫だ。僕はこうして花子さんに会えたことがうれしい」
冬馬くんの言葉に花子さんはキョトンとしている。
その後に花子さんはニタリと笑った。
『この冬馬って子も小春も変よね……おもしろいけど』
「本にのっているトイレの花子さんの情報とだいぶ違うな」
『時代と共に変化するものなのよ!』
「なるほど……勉強になるな」
「冬馬くん!?」
冬馬くんは本と花子さんとを見比べている。
その手に握られている青紫色のアジサイを見て、わたしは声を上げた。
「冬馬くん、そのアジサイは……!」
「ああ、これは花子さんからもらったんだ」
「……もしかして花子さんの花屋に行っていたの?」
「ああ……不思議な空間が広がっていた」
「不思議な空間?」
「お金はいらないそうだが、僕は納得できない」
冬馬くんはそう言って眉を寄せた。
頑なに料金を支払うと言った冬馬くん。
けれど花子さんは『代わりのものをもらうから大丈夫』と、言って笑っている。
花子さん花屋さんはシンプルで、とても綺麗な花が並んでいたそうだ。
そこで引き寄せられるように冬馬くんはアジサイに向かった。
『その花がアナタの願いを叶えてくれるわ』
その言葉と共に花を手に取った冬馬くんは、気づいたらまたこの場所に戻ってきていたのだそうだ。
「この花は僕の願いを叶える手伝いをしてくれるそうだ」
「……冬馬くんの願い?」
わたしはすぐに凛々ちゃんのことを思い出していた。
凛々ちゃんも自分の願いを叶えるきっかけをくれた。
わたしは花子さんの花屋は願いを叶えるお手伝いをしてくれるのかもしれないと思った。
『ワタシがあげられるのはあくまできっかけだけ。その花をどうするかも本人次第なの』
「……!」
わたしは凛々ちゃんの一件を思い出していた。
たしかに花子さんは、ユリの花と共に凛々ちゃんに変わるきっかけをくれたことを思い出す。
もしかしたら花子さんは、冬馬くんに変わるきっかけをくれたのかもしれない。
『これから雨がひどくなるわ。早く帰った方がいい』
花子さんはそう言って空を見上げた。
確かに雨音がここにきた時よりも強くなったように聞こえた。
冬馬くんもそう思ったのだろう。
わたしの手を引いて女子トイレへと向かおうとする。
けれどわたしは足を止めて振り返る。
「花子さん、また会える……?」
『……小春』
わたしの問いかけに花子さんが目を大きく見開いている。
いつ会えるのかは花子さん次第だと気がついたらからだ。
しばらく花子さんは黙ったままだった。
けれどいつものようにニッコリと笑った後にこう言った。
『変な子ね』
「花子さん、わたしね……っ!」
──バタンッ
わたしが話している言葉の途中で、女子トイレから無理やり出されてしまう。
あまりにも突然の出来事に、わたしは動けないまま固まっていた。
「え……?」
「小春、行こう」
女子トイレに戻ろうとするわたしの手を引いた冬馬くんと、旧校舎の外へ。
雨音はどんどんと強くなっているような気がした。
旧校舎の外に出ると雨がたくさん降っていて、驚いてしまった。
「すごい雨だね」
「……早く帰ろう」
「うん!」
わたしは花柄の傘を開いてから、急いで旧校舎を後にする。
冬馬くんの手には傘とアジサイが握られていた。
商店街へ帰るまで、冬馬くんと花子さんの話をしていた。
冬馬くんは、珍しく興奮しているのか頬がほんなりと赤くなっているように見えた。
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