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第二章 白いユリ

⑦ 黒いユリ

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次の日、朝ごはんを食べてから歯磨きをする。
自分で髪を結んでからランドセルを背負った。
玄関の扉を開けるとわ夏希ちゃんが立っていた。

「小春~! おはよ」
「おはよう、夏希ちゃん。なんだか顔色が悪いみたいだけど大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ~! 怖すぎて寝不足だよ」

夏希ちゃんは勢いよくわたしに抱きついた。
水色のランドセルには、なぜか大量のお守りがついている。
どうやら昨日の花子さんと会ったことがとても怖かったみたい。
学校に向かう通学路を歩きながら、昨日の旧校舎で起こったことを話していた。
夏希ちゃんは腕を擦りながら怯えている。
わたしは夏希ちゃんにユリの花言葉が色によって違うことを話す。

「へぇ~、黒ユリの花言葉って呪いなんだ。はじめて知った。怖すぎ!」
「うん。凛々ちゃん、大丈夫かな?」
「小春は優しいね」
「あのね……なんだかこのままだと嫌な予感がするの」

わたしが凛々ちゃんの心配をしていると、夏希ちゃんは考えるように腕を組んでいる。

「でも凛々って、六年生になってから、いつも誰かの悪口ばっかり言ってる気がする」
「悪口……?」
「前のクラスの時はそんなことなかったのに、なんでだろうね」

どうやら凛々ちゃんは友だちの悪口を言うこともあるみたい。
わたしも凛々ちゃんに「ダサいハンカチ」と言われた時のことを思い出す。

「それって呪いって言葉となんの関係があるのかな?」
「さぁ……それはわからないけど」

いつの間にか花咲小学校に着いた。
新校舎の隣に建っている旧校舎を見ながら考えていた。

「花子さんは今、何をしているのかな」
「花をもらったってことはさ、ウチらと同じで凛々も花子さんに会ったってことだよね?」
「うん、たぶん……! そういうことだよね?」
「休み時間、一緒に凛々のところに行ってみない? たしかめてみようよ!」

午前の授業を受けたあと、昼休みになって夏希ちゃんと隣のクラスに向かう。
すると、サッカーボールを持って走ってくる秋斗と肩をぶつかってしまう。
わたしがフラリとよろめいたのを夏希ちゃんが支えてくれた。

「いたた……!」
「ちょっと秋斗っ! 謝りなさいよ」

目の前には秋斗くんの姿。
最近、秋斗くんとはあまり話していない。
目が合うと秋斗くんは気まづそうに頬を指でかいている。

「わりぃ……小春」
「邪魔してごめんね、秋斗くん」
「おう……」
「どうして小春が謝るのよ!」
「……っ」
「大丈夫だよ。夏希ちゃん、ありがとう」

秋斗くんはチラリとわたしを見ると、友だちに呼ばれて外に行ってしまった。
幼い頃は一緒に色々なところに連れ回してくれたり、毎日一緒に遊んでいた。
それが最近では、距離が遠くなってしまった気がして寂しい気持ちになる。
夏希ちゃんは秋斗くんと男子たちにベーッと舌を出している。

「行こう、小春」
「……うん」

そして窓際の席に座っている凛々ちゃんに声をかける。

「凛々ちゃん、ちょっといいかな?」
「……なに?」

凛々ちゃんは機嫌が悪そうに髪を耳にかけた。
腰までの長い髪の毛はサラサラだ。
白いブラウスとグレーのチェック柄のスカート。
膝上まであるハイソックスは上品に見える。
夏希ちゃんが前に出て、凛々ちゃんに話しかけた。

「凛々がもらった黒いユリが見たいんだけど……昨日のどうなったの?」

こんな時、誰とでも仲良くできる夏希ちゃんがすごいと思う。
凛々ちゃんは教室の白い花瓶に生けてある黒いユリを手に取って、こちらに持ってきてくれた。

「黒いユリ、昨日より黒くなってない?」
「ほんとうだ。どうして……?」

ユリは明らかに昨日より黒くなっているような気がした。

「凛々ちゃん、これって誰にもらったの?」
「その花、旧校舎でもらったんだよね?」
「そうよ……花屋があるって噂で聞いたから、旧校舎に行ったの。そこにいた女の子からもらったのよ。もう何回も説明したんだけど」

わたしと夏希ちゃんと視線を合わせてから大きく頷いた。

「その時、女の子はなにか言ってなかった?」
「……まさかあなたたちも旧校舎に?」

凛々ちゃんは驚いているように見えた。
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