5 / 24
第一章 花屋の花子さん
⑤ 花子さん……じゃない?
しおりを挟む
そう言いながらトイレから出てきたのは、肩まで切り揃えられた真っ黒な髪と赤い吊りスカートを履いた女の子……ではなかった。
「え……?」
「花子さん……じゃない?」
肩まで切り揃えられた真っ黒な髪は少し丸みがあって、頭には大きな赤いリボンがついている。
白いシャツは襟や袖にレースやフリルがついていて、ボタンもお花。
赤いリボンがワンポイントになっている。
赤いミニスカートはふんわりとしていて、フリルやレースが可愛らしい。
膝が隠れるまである白い靴下が足を長く見せている。
お人形のような格好をした女の子がそこにいた。
「めっちゃ可愛い……!」
「うん、お人形さんみたい。かわいいね」
『ほんと? うれしいわ。がんばったかいがあった』
女の子はスカートをヒラヒラさせながら喜んでいる。
わたしは夏希ちゃんと目を合わせた。
旧校舎のトイレから出てきたのは〝トイレの花子さん〟ではなく、お人形のような女の子だったからだ。
『現代風にアレンジに憧れていたのよ! いいでしょう?』
スカートの端を持って、クルリとその場で回った女の子は楽しそうだ。
すっかりと、この場の空気は和んでいく。
怖さはどこかに飛んでいってしまったようだ。
「ウチは水島夏希だよ!」
「わたし、桜田小春。よろしくね」
『二人ともいい名前ね』
「ありがとう! えっと、あなたは……?」
女の子の雰囲気が少し変わった気がした。
そしてスカートから手を離した後にこちらにグッと顔を近づける。
『ワタシは花子さん……一緒に遊びましょう?』
花子さんの口端が、だんだんとつり上がっていくのが見えた。
わたしはあまりの恐怖に顔が引き攣っていく。
彼女が〝トイレの花子さん〟だったと気づいてしまったからだ。
「は、花子さん……あなたが?」
「どっ、どうしよう。まだノックもしてないのに、勝手に花子さんが来ちゃったんですけど!」
『アナタたちは本当にいい顔するのねぇ』
夏希ちゃんと抱き合いながら、わたしは震えていた。
花子さんはこちらが怖がっているのを嬉しそうにして見ている。
しかしすぐに飽きてしまったのか体を離してしまった。
そして三番目のトイレへと戻って、体を半分出すとあることを口にする。
『今日は花屋はお休みなの。残念だったわね』
「え……?」
『アナタたちも噂を聞いて、旧校舎に花を買いにきたんじゃないの?』
わたしは改めて目的を思い出す。
凛々ちゃんが持っていた黒いユリのことだ。
そのことについて質問しようと思ったが、夏希ちゃんが先に花子さんに問いかける。
「どうしてこんなところで花屋さんをしているの?」
『ウフフ、内緒!』
「内緒って……」
どうしてここで花子さんが花屋をしているのか、教えてくれないようだ。
『ここにはワタシが育てたお花を必要としている人が来るのよ』
「……必要としている人?」
凛々ちゃんが黒いユリを持っているのは、その花が必要だったからなのだろうか。
「凛々ちゃんは必要だったってこと?」
『そうよ。あの子は大切なことに気がつくことができるかしら?』
「ウチらもそうなの?」
『アナタたちは、なんだかおもしろそうだったから入れてあげたの。いい悲鳴も聞けたしね』
花子さんは、わたしたちを見ながらニヤニヤしている。
おもしろそうというのは、怖がったり悲鳴をあげたりしたことだろうか。
わたしは凛々ちゃんのことが気になって、花子さんに質問する。
「昨日、となりのクラスの子が黒いユリを持っていたの……!」
『そう……ついに学校に持ってきたのね』
花子さんの声が少しだけ暗くなる。
「わたしのお家、お花屋さんで黒いユリを売っているのをあまり見たことないから」
『ふーん、アナタはお花屋さんの子なのね。なら、お花に詳しいのかしら?』
「少しは……」
わたしがそう言うと、花子さんはにっこりと笑ってから扉の外に出てくる。
一瞬でわたしの目の前まで移動してくる花子さんに息を止めた。
「え……?」
「花子さん……じゃない?」
肩まで切り揃えられた真っ黒な髪は少し丸みがあって、頭には大きな赤いリボンがついている。
白いシャツは襟や袖にレースやフリルがついていて、ボタンもお花。
赤いリボンがワンポイントになっている。
赤いミニスカートはふんわりとしていて、フリルやレースが可愛らしい。
膝が隠れるまである白い靴下が足を長く見せている。
お人形のような格好をした女の子がそこにいた。
「めっちゃ可愛い……!」
「うん、お人形さんみたい。かわいいね」
『ほんと? うれしいわ。がんばったかいがあった』
女の子はスカートをヒラヒラさせながら喜んでいる。
わたしは夏希ちゃんと目を合わせた。
旧校舎のトイレから出てきたのは〝トイレの花子さん〟ではなく、お人形のような女の子だったからだ。
『現代風にアレンジに憧れていたのよ! いいでしょう?』
スカートの端を持って、クルリとその場で回った女の子は楽しそうだ。
すっかりと、この場の空気は和んでいく。
怖さはどこかに飛んでいってしまったようだ。
「ウチは水島夏希だよ!」
「わたし、桜田小春。よろしくね」
『二人ともいい名前ね』
「ありがとう! えっと、あなたは……?」
女の子の雰囲気が少し変わった気がした。
そしてスカートから手を離した後にこちらにグッと顔を近づける。
『ワタシは花子さん……一緒に遊びましょう?』
花子さんの口端が、だんだんとつり上がっていくのが見えた。
わたしはあまりの恐怖に顔が引き攣っていく。
彼女が〝トイレの花子さん〟だったと気づいてしまったからだ。
「は、花子さん……あなたが?」
「どっ、どうしよう。まだノックもしてないのに、勝手に花子さんが来ちゃったんですけど!」
『アナタたちは本当にいい顔するのねぇ』
夏希ちゃんと抱き合いながら、わたしは震えていた。
花子さんはこちらが怖がっているのを嬉しそうにして見ている。
しかしすぐに飽きてしまったのか体を離してしまった。
そして三番目のトイレへと戻って、体を半分出すとあることを口にする。
『今日は花屋はお休みなの。残念だったわね』
「え……?」
『アナタたちも噂を聞いて、旧校舎に花を買いにきたんじゃないの?』
わたしは改めて目的を思い出す。
凛々ちゃんが持っていた黒いユリのことだ。
そのことについて質問しようと思ったが、夏希ちゃんが先に花子さんに問いかける。
「どうしてこんなところで花屋さんをしているの?」
『ウフフ、内緒!』
「内緒って……」
どうしてここで花子さんが花屋をしているのか、教えてくれないようだ。
『ここにはワタシが育てたお花を必要としている人が来るのよ』
「……必要としている人?」
凛々ちゃんが黒いユリを持っているのは、その花が必要だったからなのだろうか。
「凛々ちゃんは必要だったってこと?」
『そうよ。あの子は大切なことに気がつくことができるかしら?』
「ウチらもそうなの?」
『アナタたちは、なんだかおもしろそうだったから入れてあげたの。いい悲鳴も聞けたしね』
花子さんは、わたしたちを見ながらニヤニヤしている。
おもしろそうというのは、怖がったり悲鳴をあげたりしたことだろうか。
わたしは凛々ちゃんのことが気になって、花子さんに質問する。
「昨日、となりのクラスの子が黒いユリを持っていたの……!」
『そう……ついに学校に持ってきたのね』
花子さんの声が少しだけ暗くなる。
「わたしのお家、お花屋さんで黒いユリを売っているのをあまり見たことないから」
『ふーん、アナタはお花屋さんの子なのね。なら、お花に詳しいのかしら?』
「少しは……」
わたしがそう言うと、花子さんはにっこりと笑ってから扉の外に出てくる。
一瞬でわたしの目の前まで移動してくる花子さんに息を止めた。
22
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!

ぬらりひょんと私
四宮 あか
児童書・童話
私の部屋で私の漫画を私より先に読んでいるやつがいた。
俺こういうものです。
差し出されたタブレットに開かれていたのはwiki……
自己紹介、タブレットでwiki開くの?
私の部屋でくつろいでる変な奴は妖怪ぬらりひょんだったのだ。
ぬらりひょんの術を破った私は大変なことに巻き込まれた……

四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
わたしの婚約者は学園の王子さま!
久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
ちょっとだけマーメイド~暴走する魔法の力~
ことは
児童書・童話
星野桜、小学6年生。わたしには、ちょっとだけマーメイドの血が流れている。
むかしむかし、人魚の娘が人間の男の人と結婚して、わたしはずっとずっと後に生まれた子孫の一人だ。
わたしの足は水に濡れるとうろこが生え、魚の尾に変化してしまう。
――わたし、絶対にみんなの前でプールに入ることなんてできない。もしそんなことをしたら、きっと友達はみんな、わたしから離れていく。
だけど、おぼれた麻衣ちゃんを助けるため、わたしはあの日プールに飛び込んだ。
全14話 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる