【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
上 下
3 / 24
第一章 花屋の花子さん

③ 暗闇

しおりを挟む

──次の日

今日はクラブも委員会も夏希ちゃんの習い事もない。
学校が終わってから宿題をして、お店に立ってお花で花束を作っているお母さんに声をかけた。
お母さんは魔法使いみたいに、色とりどりの花束をまとめていく。

「お母さん、宿題おわったから夏希ちゃんといつもの公園で遊んでくるね」
「わかったわ! お店が閉まる五時までには帰ってくるのよ」
「は、はーい」

いつものように公園に遊びにいってくると言ったけど、本当は夏希ちゃんと今から旧校舎に向かう。
緊張しているからか胸がドキドキした。
でも怖くないから大丈夫だと言い聞かせて家を飛び出した。
すこし離れた場所には夏希ちゃんがにっこりと笑いながら手を振っている。
わたしは急いで夏希ちゃんの元に向かった。

「夏希ちゃん、おまたせ!」
「おそいよ、小春! はやくいこう」
「うん、ごめんね」
「間に合わなかったら大変だもん!」

夏希ちゃんはわたしの手をつかんで走り出した。
わたしは夏希ちゃんについていくのが大変で「ちょっと待って! 早すぎるよ~」と声をかけた。
空はすっかりとオレンジ色になっていて、太陽がかたむいていく。
毎朝通っているはずの通学路なのに、いつもとは違って見えた。
あっというまに旧校舎について裏口にむかった。
夏希ちゃんの言っていたとおり、旧校舎の裏門のカギは開いていた。

鎖を外してサビている真っ黒なフェンスを開ける。
キィ……と不気味な音。
簡単に旧校舎の中に入ることができた。
夏希ちゃんは草がわさわさと生えている道をどんどんと進んでいく。
わたしも追いかけようとした時だった。
すると左側で真っ赤な古い扉が自然とひらいている。
夏希ちゃんは「ラッキー」と言ったけれど、わたしは何かに導かれているようで怖かった。
足が動かなくなって、その場で立ち止まっていると夏希ちゃんがこちらを振り返る。

「小春? なにしてるの?」
「夏希ちゃん、こんなところに赤い扉なんてあったっけ?」
「私たちが知るわけないじゃん! 旧校舎なんだから」
「そうだけど、やっぱり変だよ!」

わたしは夏希ちゃんに手を掴まれたれて、一緒に開いている真っ赤な扉から入った。

──バタンッ!

触っていないのに勝手に真っ赤な扉が閉まったことに驚いていた。
夏希ちゃんは気にならないのか、赤い扉からどんどんと前に進んでいく。
わたしは慌てて夏希ちゃんを追いかけていく。
建物の中は真っ暗で、窓から少しだけ光がはいってくる。
一歩足をふみだすと、こげ茶色の床がギシと不気味な音をたてた。

「うわぁ……めちゃくちゃボロボロだね」
「う、うん」
「今にも壊れちゃいそう」

わたしはこんなに怖いのに、夏希ちゃんは平気な顔だ。
今すぐにここから逃げだしたいほどに。
けど、夏希ちゃんに手を引かれるまま震えそうになる足を動かしていた。
階段を一段、また一段と上がっていく。
目的地は三階の女子トイレだ。
ミシ、ミシと音を立てる階段は、今通っている学校の校舎とは全然違う。
ホコリっぽい匂いと、二人の足音だけが耳に聞こえた。

「なんだかワクワクするね!」
「えっ……あ、うん」

夏希ちゃんの言葉に首をタテに動かしてうなずいた。
でも、ワクワクというよりはドキドキして心臓が飛び出してしまいそう。
三階までついて、わたしは乱れた息を整えていた。
運動が得意な夏希ちゃんとちがって、わたしは体を動かすことが少しだけ苦手。
わたしは足も遅いから、いつも秋斗くんにからかわれている。
わたしは怖い気持ちを押さえて、深呼吸してから顔を上げた。
廊下の向こう側は見えなくて、なんだか暗闇に吸い込まれてしまいそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぬらりひょんと私

四宮 あか
児童書・童話
私の部屋で私の漫画を私より先に読んでいるやつがいた。 俺こういうものです。 差し出されたタブレットに開かれていたのはwiki…… 自己紹介、タブレットでwiki開くの? 私の部屋でくつろいでる変な奴は妖怪ぬらりひょんだったのだ。 ぬらりひょんの術を破った私は大変なことに巻き込まれた……

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

わたしの婚約者は学園の王子さま!

久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

とじこめラビリンス

トキワオレンジ
児童書・童話
【東宝×アルファポリス第10回絵本・児童書大賞 優秀賞受賞】 太郎、麻衣子、章純、希未の仲良し4人組。 いつものように公園で遊んでいたら、飼い犬のロロが逃げてしまった。 ロロが迷い込んだのは、使われなくなった古い美術館の建物。ロロを追って、半開きの搬入口から侵入したら、シャッターが締まり閉じ込められてしまった。 ここから外に出るためには、ゲームをクリアしなければならない――

処理中です...