捨てられた聖女の復讐〜みんな大っ嫌い、だからすべて壊してあげる〜

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
上 下
42 / 60
三章

④② ユイナside4

しおりを挟む
『両親はわたくしを金儲けの道具にしていたのよ……次々にエルネット公爵邸を訪れる人々にずっと休みなく治療をして、国のためにと結界を張り続けていたわ』

そして今、ユイナも数えきれないくらい色々な人たちの治療を行っている。

(アシュリー様は力を乱用したからダメになってしまったってことよね……?)

ユイナは自分の力が役に立つのならと自ら治療を望んだこともあったが、オースティンは「ユイナが大切だから」と、なかなか治療をさせなかった。
他の貴族たちを治療する時も国王や王妃はとても嫌そうに渋っていたことを思い出す。

もしもアシュリーの言ったことが本当で、そんな理由があるのだとしたら……。

ユイナはブルリと身震いをして、自らを抱きしめるように抱きしめた。
自分の命が脅かされていると感じたからだ。

『その後、一方的に婚約破棄された後にお父様とお母様からも罵られて暴力を……』

アシュリーは相当、つらい環境にいたに違いない。
けれどそれはユイナも同じだった。
知らない世界、知らない人、知らない文化。
懸命に頑張るけれど、今までと求められるものがあまりにも違い過ぎると感じていた。

いくらがんばっても追いつけない。
何故こんな簡単なこともできないのか……そんな視線や期待にユイナの心は追い詰められていく。

最近ではあんなに毎日詰め込まれていた王妃教育はなくなり、結界を張ることや治療ばかりを強要されている。
どんどん頻度も多くなり、人も増えていくばかりだった。

(私もアシュリー様のようになって、最後には……っ!)

ユイナはその場に呆然と立ち尽くしていた。

冷たい風が吹くと同時に背筋がゾッとする。
王宮の中とは違い真っ暗で明かりがない外の景色はとても恐ろしく感じた。
暗闇に飲み込まれてしまう。
その景色は自分の未来を示唆しているようだと思った。
そんな時、後ろから扉が開いて光が漏れた。


「ユイナ……!」


オースティンに名前を呼ばれて、ユイナは大袈裟なほどに体が跳ねた。
振り返ることもできずに、ただ前を見ながら唇を噛んだ。


「戻って来ないから何をしているかと思えば……!こんなに体が冷えているじゃないか」


オースティンは背後からユイナをそっと抱きしめた。
けれどアシュリーの話を聞いた後では、この行動もすべて違う意味に捉えてしまう。

(私の力が必要だから、こうやって優しくしていたのね!すぐに婚約者にした理由は私を逃さないためなんだわ)

何も喋らないことに違和感を感じたオースティンは、ユイナに再び問いかけてくる。


「ユイナ、まさかあの女に何か言われたのか?」

「……っ!」

「何を言われても気にすることはない。もう俺たちには関係ないんだ。ユイナはただ俺のそばにいてくれるだけでいい」


オースティンの言葉にユイナは激しい怒りを感じていた。
今まで味方だと思っていたが彼が、急に敵に思えた。

王宮の人たちとは違って、アシュリーはユイナの身を一番に案じてくれた。
自分がひどい目に遭っていたにもかかわらず、ユイナを心配して本当のことを教えてくれた。
そんな親切なアシュリーを悪く言うことが、ユイナは許せなかった。


「アシュリー様は悪くありませんから!」

「は……?」

「アシュリー様は素晴らしい方です!馬鹿にするようなことを言わないでくださいっ」

「ユ、ユイナ……!?いきなり何を言っているんだ!あの女に何を吹き込まれたんだ!?」

「…………」

「ユイナ、どういうことか説明してくれ!一体どうしたんだ?」


アシュリーの言葉が頭をよぎった。

『わたくしのようになりたくなければ何も言ってはダメよ』

(オースティン様は私に嘘をついているんだわ!何も知らない私を利用しようとしているのよ……!)


「ユイナ、とりあえず中に入ろう」


ユイナは涙を堪えながら振り返り、オースティンの手を打ち払った。
重たい音と共にジンとした痺れるような痛みを感じた。
オースティンは目を見開いている。


「ユイナ……?」

「私……っ、もう疲れたので部屋に戻ります!」

「まだ挨拶が残ってるんだ……!もう少しで終わるから会場に戻ってくれ!」

「嫌……!絶対に嫌よ」

「……なっ!?まだパーティーはっ」

「パーティーなんか出たくないわ!」

「お、おい……!ユイナッ」


そう言ってユイナは走り出した。
豪華な王宮も煌びやかなドレスも宝石も今のユイナには意味がない。

(元の世界に帰りたい……!)

そう強く願いながら、必死に足を動かしていた。
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

青の雀
恋愛
第1話 婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

聖女アマリア ~喜んで、婚約破棄を承ります。

青の雀
恋愛
公爵令嬢アマリアは、15歳の誕生日の翌日、前世の記憶を思い出す。 婚約者である王太子エドモンドから、18歳の学園の卒業パーティで王太子妃の座を狙った男爵令嬢リリカからの告発を真に受け、冤罪で断罪、婚約破棄され公開処刑されてしまう記憶であった。 王太子エドモンドと学園から逃げるため、留学することに。隣国へ留学したアマリアは、聖女に認定され、覚醒する。そこで隣国の皇太子から求婚されるが、アマリアには、エドモンドという婚約者がいるため、返事に窮す。

有能婚約者を捨てた王子は、幼馴染との真実の愛に目覚めたらしい

マルローネ
恋愛
サンマルト王国の王子殿下のフリックは公爵令嬢のエリザに婚約破棄を言い渡した。 理由は幼馴染との「真実の愛」に目覚めたからだ。 エリザの言い分は一切聞いてもらえず、彼に誠心誠意尽くしてきた彼女は悲しんでしまう。 フリックは幼馴染のシャーリーと婚約をすることになるが、彼は今まで、どれだけエリザにサポートしてもらっていたのかを思い知ることになってしまう。一人でなんでもこなせる自信を持っていたが、地の底に落ちてしまうのだった。 一方、エリザはフリックを完璧にサポートし、その態度に感銘を受けていた第一王子殿下に求婚されることになり……。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

処理中です...