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三章
④② ユイナside4
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『両親はわたくしを金儲けの道具にしていたのよ……次々にエルネット公爵邸を訪れる人々にずっと休みなく治療をして、国のためにと結界を張り続けていたわ』
そして今、ユイナも数えきれないくらい色々な人たちの治療を行っている。
(アシュリー様は力を乱用したからダメになってしまったってことよね……?)
ユイナは自分の力が役に立つのならと自ら治療を望んだこともあったが、オースティンは「ユイナが大切だから」と、なかなか治療をさせなかった。
他の貴族たちを治療する時も国王や王妃はとても嫌そうに渋っていたことを思い出す。
もしもアシュリーの言ったことが本当で、そんな理由があるのだとしたら……。
ユイナはブルリと身震いをして、自らを抱きしめるように抱きしめた。
自分の命が脅かされていると感じたからだ。
『その後、一方的に婚約破棄された後にお父様とお母様からも罵られて暴力を……』
アシュリーは相当、つらい環境にいたに違いない。
けれどそれはユイナも同じだった。
知らない世界、知らない人、知らない文化。
懸命に頑張るけれど、今までと求められるものがあまりにも違い過ぎると感じていた。
いくらがんばっても追いつけない。
何故こんな簡単なこともできないのか……そんな視線や期待にユイナの心は追い詰められていく。
最近ではあんなに毎日詰め込まれていた王妃教育はなくなり、結界を張ることや治療ばかりを強要されている。
どんどん頻度も多くなり、人も増えていくばかりだった。
(私もアシュリー様のようになって、最後には……っ!)
ユイナはその場に呆然と立ち尽くしていた。
冷たい風が吹くと同時に背筋がゾッとする。
王宮の中とは違い真っ暗で明かりがない外の景色はとても恐ろしく感じた。
暗闇に飲み込まれてしまう。
その景色は自分の未来を示唆しているようだと思った。
そんな時、後ろから扉が開いて光が漏れた。
「ユイナ……!」
オースティンに名前を呼ばれて、ユイナは大袈裟なほどに体が跳ねた。
振り返ることもできずに、ただ前を見ながら唇を噛んだ。
「戻って来ないから何をしているかと思えば……!こんなに体が冷えているじゃないか」
オースティンは背後からユイナをそっと抱きしめた。
けれどアシュリーの話を聞いた後では、この行動もすべて違う意味に捉えてしまう。
(私の力が必要だから、こうやって優しくしていたのね!すぐに婚約者にした理由は私を逃さないためなんだわ)
何も喋らないことに違和感を感じたオースティンは、ユイナに再び問いかけてくる。
「ユイナ、まさかあの女に何か言われたのか?」
「……っ!」
「何を言われても気にすることはない。もう俺たちには関係ないんだ。ユイナはただ俺のそばにいてくれるだけでいい」
オースティンの言葉にユイナは激しい怒りを感じていた。
今まで味方だと思っていたが彼が、急に敵に思えた。
王宮の人たちとは違って、アシュリーはユイナの身を一番に案じてくれた。
自分がひどい目に遭っていたにもかかわらず、ユイナを心配して本当のことを教えてくれた。
そんな親切なアシュリーを悪く言うことが、ユイナは許せなかった。
「アシュリー様は悪くありませんから!」
「は……?」
「アシュリー様は素晴らしい方です!馬鹿にするようなことを言わないでくださいっ」
「ユ、ユイナ……!?いきなり何を言っているんだ!あの女に何を吹き込まれたんだ!?」
「…………」
「ユイナ、どういうことか説明してくれ!一体どうしたんだ?」
アシュリーの言葉が頭をよぎった。
『わたくしのようになりたくなければ何も言ってはダメよ』
(オースティン様は私に嘘をついているんだわ!何も知らない私を利用しようとしているのよ……!)
「ユイナ、とりあえず中に入ろう」
ユイナは涙を堪えながら振り返り、オースティンの手を打ち払った。
重たい音と共にジンとした痺れるような痛みを感じた。
オースティンは目を見開いている。
「ユイナ……?」
「私……っ、もう疲れたので部屋に戻ります!」
「まだ挨拶が残ってるんだ……!もう少しで終わるから会場に戻ってくれ!」
「嫌……!絶対に嫌よ」
「……なっ!?まだパーティーはっ」
「パーティーなんか出たくないわ!」
「お、おい……!ユイナッ」
そう言ってユイナは走り出した。
豪華な王宮も煌びやかなドレスも宝石も今のユイナには意味がない。
(元の世界に帰りたい……!)
そう強く願いながら、必死に足を動かしていた。
そして今、ユイナも数えきれないくらい色々な人たちの治療を行っている。
(アシュリー様は力を乱用したからダメになってしまったってことよね……?)
ユイナは自分の力が役に立つのならと自ら治療を望んだこともあったが、オースティンは「ユイナが大切だから」と、なかなか治療をさせなかった。
他の貴族たちを治療する時も国王や王妃はとても嫌そうに渋っていたことを思い出す。
もしもアシュリーの言ったことが本当で、そんな理由があるのだとしたら……。
ユイナはブルリと身震いをして、自らを抱きしめるように抱きしめた。
自分の命が脅かされていると感じたからだ。
『その後、一方的に婚約破棄された後にお父様とお母様からも罵られて暴力を……』
アシュリーは相当、つらい環境にいたに違いない。
けれどそれはユイナも同じだった。
知らない世界、知らない人、知らない文化。
懸命に頑張るけれど、今までと求められるものがあまりにも違い過ぎると感じていた。
いくらがんばっても追いつけない。
何故こんな簡単なこともできないのか……そんな視線や期待にユイナの心は追い詰められていく。
最近ではあんなに毎日詰め込まれていた王妃教育はなくなり、結界を張ることや治療ばかりを強要されている。
どんどん頻度も多くなり、人も増えていくばかりだった。
(私もアシュリー様のようになって、最後には……っ!)
ユイナはその場に呆然と立ち尽くしていた。
冷たい風が吹くと同時に背筋がゾッとする。
王宮の中とは違い真っ暗で明かりがない外の景色はとても恐ろしく感じた。
暗闇に飲み込まれてしまう。
その景色は自分の未来を示唆しているようだと思った。
そんな時、後ろから扉が開いて光が漏れた。
「ユイナ……!」
オースティンに名前を呼ばれて、ユイナは大袈裟なほどに体が跳ねた。
振り返ることもできずに、ただ前を見ながら唇を噛んだ。
「戻って来ないから何をしているかと思えば……!こんなに体が冷えているじゃないか」
オースティンは背後からユイナをそっと抱きしめた。
けれどアシュリーの話を聞いた後では、この行動もすべて違う意味に捉えてしまう。
(私の力が必要だから、こうやって優しくしていたのね!すぐに婚約者にした理由は私を逃さないためなんだわ)
何も喋らないことに違和感を感じたオースティンは、ユイナに再び問いかけてくる。
「ユイナ、まさかあの女に何か言われたのか?」
「……っ!」
「何を言われても気にすることはない。もう俺たちには関係ないんだ。ユイナはただ俺のそばにいてくれるだけでいい」
オースティンの言葉にユイナは激しい怒りを感じていた。
今まで味方だと思っていたが彼が、急に敵に思えた。
王宮の人たちとは違って、アシュリーはユイナの身を一番に案じてくれた。
自分がひどい目に遭っていたにもかかわらず、ユイナを心配して本当のことを教えてくれた。
そんな親切なアシュリーを悪く言うことが、ユイナは許せなかった。
「アシュリー様は悪くありませんから!」
「は……?」
「アシュリー様は素晴らしい方です!馬鹿にするようなことを言わないでくださいっ」
「ユ、ユイナ……!?いきなり何を言っているんだ!あの女に何を吹き込まれたんだ!?」
「…………」
「ユイナ、どういうことか説明してくれ!一体どうしたんだ?」
アシュリーの言葉が頭をよぎった。
『わたくしのようになりたくなければ何も言ってはダメよ』
(オースティン様は私に嘘をついているんだわ!何も知らない私を利用しようとしているのよ……!)
「ユイナ、とりあえず中に入ろう」
ユイナは涙を堪えながら振り返り、オースティンの手を打ち払った。
重たい音と共にジンとした痺れるような痛みを感じた。
オースティンは目を見開いている。
「ユイナ……?」
「私……っ、もう疲れたので部屋に戻ります!」
「まだ挨拶が残ってるんだ……!もう少しで終わるから会場に戻ってくれ!」
「嫌……!絶対に嫌よ」
「……なっ!?まだパーティーはっ」
「パーティーなんか出たくないわ!」
「お、おい……!ユイナッ」
そう言ってユイナは走り出した。
豪華な王宮も煌びやかなドレスも宝石も今のユイナには意味がない。
(元の世界に帰りたい……!)
そう強く願いながら、必死に足を動かしていた。
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