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三章

③⑦ オースティンside11

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ユイナの言動に、オースティンはさすがに息が止まった。
アシュリーの隣で微笑みつつも感情を見せないギルバートがどう動くかがわからないからだ。
アシュリーはユイナの言葉に返事を返すことはなく、ただニコリと微笑んでいる。

そんな反応を見てユイナはハッとした後に以前のことを思い出したようだ。
嬉しそうな顔は一転、気不味そうにパタパタと手を横に動かした。


「以前は、その……ごめんなさい」

「お気になさらないでください、ユイナ様」

「でも、私のせいで……っ」

「わたくし、サルバリー王国を出てギルバート殿下と結婚できたことをとても幸せに思っています」

「──ッ!」


オースティンの指先がピクリと動く。
ユイナの力が一時的だと気づいた今では、同じ力を持つアシュリーだったらと考えてしまう。


「ギルバート殿下と結婚してからは毎日が楽しくて自由で……わたくしはこれで良かったのだとそう思いますわ」

「アシュリー様……」

「むしろユイナ様には感謝しているくらいです。わたくしはギルバート殿下に愛され、大切にされて……こんなにも心穏やかな日々を過ごせるなんて、思いもしませんでしたから」


後ろに控える父や母、そしてオースティン自身もアシュリーの言葉を聞いて視線を逸らした。
愛される、幸せ、大切、これで良かった……お前たちは必要ないのだとアシュリーに言われていると気づいたからだ。


「今日のドレス、ユイナ様によく似合っていますわ。とても可愛らしくてまるで妖精のよう」

「ありがとうございます!アシュリー様はお人形さんみたいに怖いくらいに綺麗だから!その、美しすぎるって意味で……!」

「ウフフ……」

「愛する妻を褒めてくれてありがとう」


ギルバートはオースティンの前でアシュリーを妻と繰り返す。
まるでアシュリーは絶対に渡さない、自分のものだと牽制しているように聞こえた。


「ギルバート様もとても素敵ですね!」

「ありがとう、嬉しいよ」


ユイナはギルバートに褒められて嬉しいのか、顔を真っ赤にしている。


「ユイナ様、このような場でお疲れでしょうが最後までがんばってくださいね」

「は、はい!アシュリー様、ありがとうございます」


アシュリーは微笑みながらユイナに優しく声を掛けている。
その姿はまるで聖母のようだ。


「では、ユイナ様……ごきげんよう」

「おめでとう、オースティン」

「…………あぁ」

「アシュリー様、ギルバート様……!待ってくださいっ」


軽く頭を下げて下がろうとする二人を引き止めるように、ユイナは大きな声を出す。


「私、もっとお二人のことを知りたいんです!」

「……」

「それは光栄だな。けれどまたの機会の方がいいかもしれないね。今日は君たち二人を祝福しようとたくさんの人たちが控えているようだから」

「で、でも……」

「皆、順番を譲ってくれてありがとう……助かったよ」


ギルバートはチラリと後ろに視線を送る。
貴族たちがユイナとオースティンを祝福するために行列を作っていた。
並んでいた貴族たちはギルバートに声を掛けられると深々と頭を下げる。
それだけでもギルバートの影響力の大きさが窺える。


「でも、私……っ」

「気遣いありがとう、ギルバート」

「オースティン、あまり無理はしないようにね。顔色が悪いようだ」

「……っ」


ギルバートはオースティンの肩に手を置いた。
そして耳元で呟くように言った。


「僕はアシュリーのおかげで毎日とても有意義に過ごせているよ……オースティン、ありがとう」


オースティンはギルバートの笑みを見て固まっていた。
その言葉には色んな意味が込められているように思えた。
ギルバートの恐ろしいほどに冷ややかな視線は背筋が凍るほどだった。


「ユイナ様……初めて人前で踊るのは緊張すると思いますが楽しみにしていますね」

「……踊る?」

「ユイナ様とオースティン殿下がお二人だけで踊る、はじまりのダンスのことですわ」

「え……?」


余計なことを言うなとオースティンはアシュリーを鋭く睨みつけた。
しかしそんな視線を軽々と流した後、ユイナの事情を知ってか知らずか言葉を続けた。


「皆、お二人の晴れ舞台を楽しみにしておりますわ」

「…………」

「そのドレスがヒラヒラとフロアを舞うのは、とても美しいでしょうね」


アシュリーの言葉を聞いたユイナは、目を見開きながらオースティンを見ている。
オースティンは眉を寄せてから視線を逸らす。


「ユイナは、まだダンスを踊れないんだ」

「あら……わたくしったら余計なことを申し上げてしまいましたね。ユイナ様、申し訳ございません」


オースティンは手のひらをグッと握る。


「……それでは二人の初々しいダンスを見ることはできないのか。残念だね」


ギルバートの言葉にユイナは不満げに俯いて唇を噛んだ。
そして顔を上げると、こちらを責めるような口調で訴えかける。


「どうして……っ、どうして教えてくれなかったのッ!?」

「ユイナは、ずっと部屋にいただろう?」

「でも言ってくれたらダンスを踊れるようにがんばったのにっ!私、オースティン様と踊りたかったわ」

「ユイナ……」

「一生懸命練習すれば今日まで間に合ったかもしれないのに何も教えてくれないなんてひどいわっ!」

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