捨てられた聖女の復讐〜みんな大っ嫌い、だからすべて壊してあげる〜

●やきいもほくほく●

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四章

④⑧ オースティンside15

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ユイナの言葉に周囲の空気は凍りついていた。
普通ならば、不敬罪ですぐに打首になっていることだろう。
だが何も知らないが故に容赦なく言葉をぶつけている。
ここまで王家に楯突いたことがある者は、エルネット公爵くらいだった。


「私にだって、本当は色々知ってから選びたかった!何も知らないのに婚約者って言われて、国を守るためだけに気持ちを利用されて……!もう、うんざりよ」


サルバリー国王は苦虫を噛み潰したような表情をしながらユイナを見ていた。


「……ユイナ、一体何が望みなんだ」

「今すぐオースティン様との婚約を破棄してくださいっ!」

「え……?」

「私のことを好きでもない人との結婚なんて絶対に嫌よ!」

「オースティンは、ユイナを心から愛しているわ……!」

「……嘘よ!」

「嘘じゃないわ。オースティンは本当にあなたがっ」


すかさず王妃がフォローを入れるがユイナは首を横に振る。
そして鋭い視線を二人に向けた。


「本当、嘘ばっかり……!私、侍女の人たちが話しているのを聞いたんだからっ」

「な、何の話を聞いたというんだ」

「私以外の人を側妃として迎えるんですよね!?」

「……っ!」

「何故それを……」


ユイナは二人の反応を見てオースティンはグッと拳に力を込める。


「やっぱり本当なんだ!しかも私に内緒でこんなことを計画するなんて信じられない。裏切りだわ!」

「だがユイナ、それは仕方のないことなんだ……!オースティンは王太子としてたくさんの仕事をこなさねばならない」

「だったら初めから私じゃない人と結婚すればいいじゃない!私は何人も妻がいる人となんて絶対に結婚したくないっ」


サルバリー国王は痛む頭を押さえている。
この王国では当然のことが、ユイナには理解されずに食い違ってしまう。
やはりユイナの世界との文化の違いは大きいようだ。
しかしユイナに聖女の力がある以上、彼女を切り捨てることは絶対にできはしない。

結界を張らなければサルバリー王国を魔獣から守れない。
魔獣と戦う術はアシュリーの力が発覚した十年間ですっかりとなくなってしまった。
魔獣への膨大な対策費は王家の懐に入っていた。
すっかりと腑抜けたお飾りの騎士たちを派遣したところで、魔獣に喰われて終わりだ。

それに王家以外の場所にユイナが嫁げば、エルネット公爵家と同様に様々なトラブルが起こる可能性がある。
また以前と同じような状況になってしまった。
〝大金〟が〝ユイナの機嫌〟に変わっただけだった。

けれどサルバリー国王と王妃、オースティンの頭に過るのはアシュリーの方がまだマシだったという考えだ。
金が掛かり、腹も立ったが明らかに楽だった。
エルネット公爵は厄介だったとしてもよくよく考えたらアシュリーは従順だった。

もし王家がエルネット公爵たちの暴挙に早くに気づいて、ギルバートのようにアシュリーを手に入れさえしてしまえば、待っていたのは安寧だったかもしれない。

邪魔なエルネット公爵がいない今ならば、安定して聖女の力を使うアシュリーを連れ戻すことが一番の解決方法だった。
しかしペイスリーブ王国の王太子、ギルバートと結婚したためそれも叶わなくなってしまった。

アシュリーの力を借りたいと願っても、ペイスリーブ国王の許可を取らなければならない。
それに自分たちがアシュリーにした仕打ちを考えれば、アシュリーがサルバリー王国に手を差し伸べるとは思えなかった。
あのパーティーで壇上に上がったアシュリーから向けられたのは深い深い憎悪だった。

(何も知らないユイナに言いたい放題にされるなんて……腹立たしい)

しかし父はユイナの言葉に頷いた。


「わかった。オースティンとの婚約は破棄しよう」

「……!」

「だが、今すぐにオースティンの治療をしてくれ!」


それを聞いたユイナは頷くこともなく、更に言葉を続けた。


「わかりました。ですが他の人たちにしていた治療も毎日結界を張る作業もすべて止めさせてもらいますから」

「おいっ、それは話が違うぞ!」

「ユイナ……お願いだから、そんなわがままばかり言わないでちょうだい」

「なら私は治療しませんから!」


オースティンはユイナの態度に憤激して殴りかかりそうになるのを何とか抑えていた。
生意気な態度に殺意すら覚えるが、オースティンを治療してもらうことが今は何よりも優先だった。
それにユイナに罰を与えたところで、反発は大きくなるだけだろう。

(アシュリーはこんなことを一度も言ったことはないっ!扱い辛い異世界人め……!)
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