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四章

④⑥ オースティンside13

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* * *


オースティンは走り去っていくユイナを追いかけるように指示を出す。
ここで彼女が会場から消えてしまえば、また恥を晒すことになる。

(ユイナはどれだけ俺に恥をかかせる気だ!何でこんなに手が掛かるんだよ……聖女の力さえなければあんな女ッ!)

恐らくユイナはアシュリーに何かを吹き込まれたに違いない。
でなければアシュリーを庇い、パーティーから逃げ出そうとするはずがないのだ。

オースティンは柱を思いきり殴り飛ばした。
じんじんと拳が痛んだが、今はそんなことはどうでもよかった。
自らを落ちつかせるように震える唇を噛む。
呼吸が苦しくなり、体と頭が一気に重くなったような気がした。
そして浮かべたくない笑顔を作ると、騒つく会場へと足を踏み入れた。
会場はダンスで周囲を魅力したギルバートとアシュリーの話題で持ちきりだった。
主役であるはずのユイナは途中で消えて、婚約披露パーティーは成功とは言い難い状況になっている。
サルバリー王家は大勢の前で、再び恥を晒すことになった。

婚約披露パーティーの次の日からユイナは以前にも増して部屋に籠るようになる。
扉の外から声をかけてみるものの反応は薄く、拒絶されているように思えた。
以前は喜んでいたドレスも宝石もお菓子もぬいぐるみも「いらない」と言うだけで顔も見せてくれない。

数ヶ月前まではユイナと婚約して幸せの絶頂にいたはずだった。
知らない間に、最悪の場所まで転がり落ちていた。

(……何故、こんなことになったんだ)

真っ赤な唇で笑うアシュリーの姿が脳内に焼き付いて離れない。
まるで呪いのようだと思った。
ユイナとうまくいっている時には気にもならなかったアシュリーの存在が、今ではオースティンの中でどんどんと大きくなっていく。

アシュリーはオースティンといた時よりも、ずっと幸せそうだった。
あまりの苛立ちに頭を掻きむしる。

(俺が、俺があの女を捨てたはずなのにっ……!)

ギルバートは、あんなにも幸せそうにアシュリーと共にいる。
互いを愛おしい存在だと見せつけるように、アシュリーと体を密着させて嬉しそうに笑みを浮かべていた。
それなのにオースティンはアシュリーを失ってから病は再発してユイナの力は一時的になり、彼女との関係もうまくいっていない。

理由を必死に聞き出そうとするものの、ユイナは何も言わないそうだ。
アシュリーがユイナに何かを吹き込んだことは確かだ。
あの時から彼女の言動は明らかにおかしくなったのだ。

(……最悪だ!クソッ、クソがっ!)

婚約披露パーティーから数日経ってもユイナと会うどころか部屋からも出てくる気配はなかった。
結界も張ることもないため、嫌がる騎士たちを辺境に派遣して魔獣の対応をさせて、なんとか凌いでいた。
混乱する民たちの声が毎日、王家に届いていく。
この現実を受け入れることしかできない。
治療を心待ちにしている貴族や大臣たちにも、ユイナの事情を説明して中断するしかなかった。

(これからサルバリー王国はどうなってしまうんだ……?)

いつの間にか日が落ちて暗くなりはじめていた。
先ほどから一向に進まない仕事。
オースティンは溜息を吐いて頭を抱えていた。

最近ではアシュリーを追い出す前に、オースティンの病が再発したのではないかと心配していたことを何度も何度も思い出す。

(……なんであの時、否定してしまったんだ!)

すると廊下が妙に騒がしいことに気づく。
部屋に慌てた様子で飛び込んできたのは、幼い頃に王宮でオースティンの治療をしていた医師のカルゴであった。


「──オースティン殿下ッ!」

「どうしたんだ、カルゴ。そんなに慌てて……」

「そ、それが!大変ですっ……ゴホッ、」

「大丈夫か?」


立ち上がり、息を切らしているカルゴの元へと向かい背を撫でる。
アシュリーに出会う前には、病に対してあらゆる治療法を試しながら、新しい薬の研究を行っていた。
カルゴのおかげで何とか命を繋げたと言っても過言ではない。

アシュリーから治療を受けるようになり、症状が消えて体調が安定したため薬も必要なくなり、カルゴと顔を合わせる機会も少なくなった。
しかしアシュリーが消えてユイナが婚約者となり発作を起こすようになってからは、彼を王宮に呼び戻して再び診察を頼むことも増えていたのだ。

カルゴはオースティンに意見が出来る数少ない人物である。
かなり歳を重ねているにもかかわらずに、何かを知らせるためにここまで走って来たようだ。


「申し訳、ありません。オースティンッ……殿下」

「落ち着いたか?」

「はいっ、お陰様で。オースティン殿下に急ぎお伝えすることがあるのです!」

「どうした?」


オースティンは胸騒ぎを感じていた。
カルゴがこんなに慌てた姿を見るのは初めてだったからだ。
それに執事や侍従が知らせに来ない理由が気になっていた。
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